転職で年収アップする人の割合とは?相場や給与交渉のポイント、後悔するパターンを解説

オフィスにて電卓を打つ人の手元

転職の際、「年収」は重視される条件の一つと言え、現職(前職)からの年収アップを図る方も少なくありません。しかし、「交渉の切り出し方がわからない」「給与や年収の条件交渉をした場合、評価に悪い影響を及ぼすのでは?」などと悩む方もいるようです。今回は、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が転職で年収アップする人の特徴や、年収アップを実現しやすい業界・企業の選び方、年収交渉のポイントなどを解説します。パターンなどもご紹介するので、今後の参考にしてみましょう。

転職で年収(給与)アップした人の割合

まずは、調査データを基に「転職で年収や給与をアップした人がどのくらいいるのか」を解説します。

転職によって賃金増を実現した人は3割超

厚生労働省が発表した統計データ「令和4年雇用動向調査結果の概況」(※1)によれば、令和4年(2022年)1年間の転職入職者の賃金変動状況は、前職の賃金に比べ「増加」した割合が34.9%、「減少」した割合は33.9%、「変わらない」の割合は29.1%となっています。 転職によって賃金が増加した人は3割を超えているものの、減少した人や変わらない人も割合はほぼ変わらないため、一概には言えないことがわかります。 

(※1)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf) 

転職エージェント利用者のうち、3割超は「1割以上」の賃金増に

株式会社リクルートは、転職支援サービス『リクルートエージェント』における「転職時の賃金変動状況」(※2)の経験変化を発表しています。「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職者数の割合」は、2024年4~6月期において全体の36.0%という結果になっています。 

以下のグラフを見ると、2020年にはコロナ禍の影響で数値が落ち込んだものの、2021年1〜3月期にはコロナ禍以前とほぼ同等の水準に回復し、その後、先に紹介した2024年4〜6月期の数値で過去最高数値を記録しました。 

「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職者数の割合」の推移

(※2)出典:株式会社リクルート「2024年4-6月期 転職時の賃金変動状況」(https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2024/0806_14622.html

転職で年収アップする人によく見られる特徴

筆者の経験を基に、転職で年収アップを実現している方によく見られる特徴の一例を解説します。 

応募企業が求めているマネジメント経験がある

応募企業が求めている領域のマネジメント経験がある場合は、高く評価される傾向があります。さらに、マネジメント経験を通じて「業務改善によりコストを大幅に削減した」「新事業を立ち上げて拡大させた」「管理職として会社の上場に貢献した」など、目に見える実績を挙げていると年収もアップしやすくなるでしょう。

高い専門性を有している

特定の業種・職種における専門性の高い経験・スキルを持っている場合も、転職の際の強みになるでしょう。スペシャリストとして活躍できる経験・スキルがある人材や、既存の組織にはない「+α」の知見や発想力を活かして貢献できる人材であれば、企業の評価は上がり、年収アップの可能性も高まりやすいと言えます。 

書類選考や面接で的確なアピールができている

書類選考や面接において、自身の専門性・経験・スキル・実績を明確にし、それらが応募企業で再現可能であることを的確に伝えているかどうかもポイントになります。企業が最初に目を通す応募書類に、自身の強みを具体的に落とし込むことができれば、採用担当者の期待値が上がり、面接を通じてさらに評価を上げることもできるでしょう。

経験・スキルがマッチしたポジションに応募している

上述した理由で年収がアップするには、自身の経験・スキルを必要としている企業に応募することが大前提となります。企業の募集背景、求めているスキルレベル、自身の市場価値を理解した上で、より高く評価されるポジションを選ぶことが大切です。

年収アップ・給与アップの金額はどのくらい?事例から見る相場観

転職で年収アップ・給与アップできる金額は、ケースバイケースと言えます。経験・スキルが豊富な方の場合は、50万円〜100万円程度の年収アップや、200万円などの大幅アップを実現できるケースもあります。 

筆者がこれまで支援した事例を基に、年収100万円アップ、200万円アップをした事例とその要因について解説するので、相場観の参考にしてみましょう。 

年収100万円アップを実現した事例

<候補者のプロフィール>

・30代後半・男性
・年収1000万円→1100万円を実現
・前職:IT企業の財務経理部長→転職後:会計コンサルティング会社のシニアマネジャー

<年収アップの要因>

これまでコンサルティング会社とIT関連の事業会社でマネジメントを経験してきたことから、双方での経験値が評価された。また、過去には従業員規模100名程度の企業にてCFOの経験をしたこともあり、経営スキルやマネジメントスキルがある点も高評価につながった。

<解説>

応募職種やポジションで活かせるような経験・スキルが豊富な場合、年収50万円〜100万円アップを実現できるケースは少なくありません。この方の場合は、異なるビジネス・組織規模でマネジメントを経験してきたことに加え、経営視点が必要なポジションも経験している点、税務経理に関連する専門性を持っている点などが評価されたと言えるでしょう。

年収200万円アップを実現した事例

<候補者のプロフィール>

・20代後半・女性
・年収500万円→700万円を実現
・前職:日系SIerのIT営業職→転職後:外資系IT企業の営業職

<年収アップの要因>

官公庁向けの営業を前職で経験。応募企業の注力領域に合致していることから、これまでの経験・スキル・実績が評価された。また、応募企業が外資系だったため、語学力(英語力)がある点も評価された。

<解説>

大幅な年収アップの要因は、応募企業の給与水準が高いことにあります。応募先の外資系企業では、20代後半の社員の平均年収は700万円前後であり、前職の給与水準よりかなり高めの設定となっていました。また、事業拡大に伴う積極的な人材採用を行っていた背景もあり、高待遇でオファーを受けることができたと言えるでしょう。

転職で年収アップを望むことが難しいケースとは?

ここでは、筆者の経験を基に、年収アップを叶えることが難しいケースについて、その一例を解説していきます。

キャリアチェンジを伴う転職

転職で年収ダウンするパターンとして、よく見かけるものが「業界・職種未経験の転職」です。教育コストと戦力になるまでの時間などを踏まえ、即戦力として期待できる経験者より低い年収を提示する企業は少なくないでしょう。また、給与水準が低い業界・職種などに転職した場合も、前職に比べて年収がダウンする傾向があります。 

大手からベンチャーなど規模の小さい企業への転職

厚生労働省による「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(※3)によれば、企業規模別の月額賃金の実態は、大企業が34万6000円、中企業は31万1400円、小企業は29万4000円となっており、規模が大きいほど賃金が高い傾向にあることがわかります。 

大企業の多くは、スケールメリットを活かした仕入れの効率化や、高い知名度による営業力があるため、中小企業やベンチャー企業と比較して利益率も高い傾向があります。前職よりも規模の小さい企業に転職した場合、将来的に年収がアップする可能性もありますが、転職当初は年収が下がるケースが多いようです。 

(※3)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/04.pdf 

都市圏から地方企業への転職

給与水準は、地域によっても差があります。最低賃金が勤務地都道府県別に決められているため、東京などの都市圏から地場の企業に転職した場合、年収ダウンの可能性があるでしょう。

転職後に年収アップを実現するための業界・企業の選び方【業界別の想定年収相場データあり】

転職後に年収アップを実現するための業界・企業の選び方についてご紹介します。

想定年収で相場を知り、給与水準の高い業界を選ぶ

先の事例でもご紹介した通り、業界によって給与水準は異なるので、年収相場を基に給与水準の高い業界を選ぶのも一案です。 

リクルートエージェントに掲載されている求人から想定年収データを業界別にまとめたランキング(※4)を紹介するので、業界別の年収相場を把握することに役立ててみてください。 

順位業界想定年収
1監査法人852万円
2リスクコンサルティング850万円
3シンクタンク830万円
4投資信託・投資顧問827万円
5ベンチャーキャピタル(VC)・PE・投資ファンド800万円
6銀行(都市銀行・地方銀行など)・信託銀行・政府系金融機関790万円
7ITコンサルティング775万円
8クレジットカード・信販・不動産金融750万円
9戦略・経営コンサルティング740万円
10石油・石炭・鉱業・天然ガス725万円

想定年収が高い業界のトップ3は、いずれも「コンサルティング業界」に分類される業界で、10位以内には5つの業界がランクインしていました。また、「金融・保険業界」に分類される業界も10位以内に3つランクインしています。「コンサルティング業界」「金融・保険業界」は、給与水準が高い傾向があると言えるでしょう。

(※4)出典:株式会社リクルートエージェント「想定年収ランキング 業界別の想定年収ランキング」(https://www.r-agent.com/data/ranking/industry/) 

実力・実績を評価する企業に転職する

年功序列の要素が強い評価制度を導入している企業では、年齢や在籍期間を基準として給与を決定する傾向も見られます。そのため、高度な専門性やスキルを持っていても、社歴が浅いという理由で年収が上がらない可能性もあるでしょう。 

 年収アップを目指すなら、実力や実績をフラットに評価した上で給与が決まる企業や、実績に応じたインセンティブを導入している企業なども視野に入れることも有効です。また、外資系は実力主義の会社が多いので、年収アップの実現が可能な転職先として検討してみるのも一案です。

成長性のある企業・業界に転職する

事業を拡大している企業や成長産業の業界は人材採用に積極的であり、優秀な人材を確保するために、競合他社よりも高めの給与を提示する可能性があります。また、業績が伸びた場合、賞与額にも反映されやすい傾向もあります。組織を拡大させる過程にある場合は、昇進・昇給のタイミングも早めに来るかもしれません。

転職の際に年収アップ交渉を行っても良いのか?

「転職活動を進める中で、年収アップの交渉を行っても良いのか?」「交渉することが選考結果や内定獲得などに影響する可能性はあるのか?」と考える方もいるでしょう。 筆者の経験を基に、転職の際の年収アップ交渉やその影響について解説します。

転職活動において給与交渉をすることに問題はない 

転職活動の中で給与交渉を行うこと自体には、問題はないと言えるでしょう。むしろ、提示された給与に違和感があるのなら、交渉をしないことで年収アップの機会を損失することになるかもしれません。 

ただし、必ずしも交渉が成立するわけではないことを踏まえておきましょう。また、交渉するタイミングや交渉の仕方によっては、選考結果などに影響が出るケースもあるので、留意しておくことが重要です。

給与交渉をする場合、どのような影響がある?

給与交渉が聞き入れてもらえるかどうかについては、人によって異なるので、ケースバイケースと言えます。例えば、応募者の評価が高く、希望する年収が妥当だと判断される場合もあれば、評価は高くても自社の給与テーブルと合わなかったために、年収アップを聞き入れてもらえない場合も考えられます。 

給与交渉を行う際のポイントや伝え方は、以降を参考にしてみてください。 

年収をアップさせるための交渉のポイント

ここでは、転職先で年収をアップさせるための交渉のポイントを解説していきます。

そもそも中途採用の給与の決め方とは?

中途採用の給与の決め方においては、多くの企業が、以下の4つの観点を判断基準としているようです。

  1. 現職・前職の給与と比較する。
  2. 過去の成果や業績に応じる。
  3. 自社の給与の相場と比較する。 
  4. 競合他社の給与と比較する。 

これらの観点から検討を行った上で、採用候補者に支払える給与の金額や譲歩できる幅などを決定しているでしょう。年収アップ・給与アップの交渉を行う際には、以下の2つのポイントを意識してみてください。 

希望額の根拠を伝える

年収交渉をする場合、「現在(直近)の年収」や「昇給額」などを用いて、希望額の根拠を明確に伝えることが重要です。企業の多くは給与テーブルが設定されているため、あらかじめ志望先の業界や企業の相場を調べておき、応募先企業の想定を大きく逸脱しないように注意しましょう。 

他の企業からすでにオファーが届いている場合は、そこで提示された給与額を伝えてみるのも一つの方法ですが、先にも述べた通り、「入社を期待できない」と判断されるケースもあります。また、「駆け引きされている」と捉えられ、マイナス印象につながる可能性もあるので、伝え方にも注意したほうが良いでしょう。 

給与交渉は内定が出る前に行う

年収の希望額を伝える際は、タイミングにも注意しましょう。一般的には、内定を出すタイミングで給与額が決定しているケースが大半であるため、交渉は「内定前」に行うことがポイントです。 

1次面接から最終面接までの間で、採用担当者から給与額の希望について聞かれた時に、希望年収を切り出すのがベストです。または、応募企業から条件面談が設定された場合や、面接の最後に「質問はありますか?」と聞かれた場合も、年収の希望を伝えやすいでしょう。 

ただし、一方的に希望の金額だけを伝えるのではなく、「どうしても譲れない最低ラインの金額」もセットで提示するなど、企業側が調整しやすい伝え方を心掛けることも大事です。 

面接で年収アップ交渉をする際の伝え方の例

「年収アップ交渉の切り出し方がわからない」「スムーズに交渉を進められる伝え方が知りたい」という方のために、伝え方の例をご紹介します。

希望年収を聞かれた場合

「選考過程でお話を伺い、御社の○○に大きな魅力を感じております。年収については、御社の募集要項に記載がありました○○万円を希望しています。その理由は、現職の○○において収めた実績を持って、御社の事業拡大に十分貢献できると考えているからです。難しい場合は、最低でも現年収と同額の○○万円は頂戴できると幸いです」

給与テーブルに基づいた金額が提示された場合

「御社の○○に大変魅力を感じ、前向きに入社を検討しております。想定年収ラインの○○万円という金額についても理解しました。ただ、現職で○○万円の年収があり、住宅の購入も予定しているため、生活の安定と仕事に集中するためにも年収○○万円を希望しておりますが、ご検討いただくことは可能でしょうか」

年収の話が出ず、自身で切り出す場合

「業務内容について詳しくお話を聞けたことで、御社で働くイメージが明確になり、前向きに入社を検討しております。つきましては、今後磨くべきスキルと、御社の給与体系について確認させていただけないでしょうか。今後、子どもが大学に進学する予定があるため、○○万円ほどの収入が必要であると考えております。私の経験・スキルの場合、どこを伸ばすことによってどの程度の昇給が可能でしょうか」

年収アップ・給与アップ交渉で後悔したケースとは?

筆者の経験を基に、年収アップや給与アップの交渉で後悔したケースについてご紹介します。 

内定が欲しくて希望年収を低く言ってしまった

・年収700万円→600万円にダウン
・前職:大手人材会社・営業→転職後:スタートアップ人材会社・営業マネジャー

30代半ばを迎えた時点で、なかなかマネジャーに昇進することができないことに問題を感じ、今後のキャリアを見据えて転職を決意。マネジメント経験を得られる環境を目指したが、転職活動に苦戦することに。転職先が決まる前に会社に退職を申し出ていたために「早く内定が欲しい」と考え、最終面接で希望の給与を聞かれた時、希望年収より100万円程度低い金額を伝えてしまった。転職後、「以前のような生活水準を保てない」と感じて後悔し、前職に出戻りすることに。

提示された年収に妥協した結果、年収アップが難しくなった

・年収1200万円→1000万円にダウン
・前職:大手コンサルティング会社・コンサルタント→転職後:IT企業・経営企画

コンサルタントとしてキャリアを積んだ後、「事業会社で経営企画の経験を積みたい」と考えて転職。前職から200万円もダウンする年収条件を提示されたが、希望に沿う経験・スキルを身につけられることを優先し、年収交渉をせず妥協することに。

しかし、入社後に前職の同僚から昇進・昇格などの話を聞き、「自分自身の市場価値が下がったのではないか」と感じて後悔。将来のキャリアの選択肢を広げるための転職として、納得の上で入社したものの、割り切れなさを感じている。

年収が上がりすぎて、入社後にプレッシャーが大きくなった

・年収650万円→750万円にアップ
・前職:大手外食チェーン・人事マネジャー→転職後:大手外食チェーン・人事マネジャー(部長候補)

年収アップを目指し、同業界・同職種に転職。同業界での人事マネジャー経験を評価され、年収100万円アップの転職を実現。入社後、前職の担当領域とは異なる採用領域(新卒・中途)を任され、抜本的な改革で早期に成果を出すことを求められた。これまで経験していなかった領域のため、知見もないままプレイングマネジャーとして動いたものの、うまく機能せずに苦戦。なかなか成果につながらない中、年収の高さがむしろプレッシャーになってしまい、後悔することに。

転職エージェントを活用することで年収交渉のアドバイスをもらえるケースもある

転職エージェントを活用した場合、年収交渉についてのアドバイスを行っているケースがあります。切り出すタイミングや伝え方などを教えてもらえることもあるでしょう。 

また、スカウトサービスは、企業や転職エージェントから直接スカウトが届く転職支援サービスです。転職エージェントからスカウトが届いた場合は、転職エージェントの利用と同様の支援を受けることができます。ぜひ活用してみてください。 

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アドバイザー

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。