【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
転職における給与の変化
厚生労働省が発表した統計データから、令和2年(2020年)の転職者の賃金変動状況を見てみると、前職の賃金に比べて「増加」した割合は34.9%。その中でも1割以上増加した割合は24.7%となっています。
転職入職者の賃金変動状況
増加 | 1割以上の増加 | 1割未満の増加 | 変わらない | 減少 | |
---|---|---|---|---|---|
令和2年 | 34.9% | 24.7% | 10.2% | 28.4% | 35.9% |
令和元年 | 34.2% | 22.7% | 11.5% | 27.9% | 35.9% |
厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果」表7 転職入職者の賃金変動状況別割合より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/kekka_gaiyo-04.pdf
令和元年(2019年)と比べると、増加した割合は0.7ポイント上昇し、減少した割合は変化がありませんでした。統計データからは、転職時に年収がアップするケースよりも、減少するケースの方が若干多いことが分かります。
年収アップ転職を目指す場合の求人の選び方
では、年収アップを実現するためには、どのような観点で転職先を選べばよいのでしょうか。転職をきっかけに年収アップを目指す場合の、転職先の選び方について解説します。
給与水準の高い業界に転職する
同じ職種でも、業界によって給与水準が異なります。例えば、大手商社、コンサルティングファーム、金融機関、医薬メーカーなどは、他の業界に比べて給与水準が高めの傾向があります。給与水準が高い業界を目指すことで、年収アップする可能性が高まるでしょう。
できるだけ元請けに近い企業に転職する
IT・Web系、メーカー、建築などの業界は、下請け構造が起こりやすくなっています。下請け構造とは、発注企業から案件を受注した元請け企業が、業務の一部を二次請け、三次請け企業に委託していくという階層構造を指します。間に企業が入るごとにマージンが発生するため、発注企業、または元請けに近い企業に所属した方が、年収は高くなる傾向があります。
外資系企業に転職する
外資系企業は、国内の企業よりも給与水準が高い傾向にあります。成果主義で、シビアに結果が求められますが、年収アップを目指しているのであれば、有力な選択肢のひとつと言えるでしょう。
年収アップ交渉のポイント
年収アップを実現するために、どのような交渉をすればいいのでしょうか。年収交渉を行うために知っておきたいことと、交渉を切り出すタイミングについて解説します。
希望額の根拠を伝えられるようにする
年収交渉をする場合、「現在の年収」や「昇給額」などを用いて、希望額の根拠を明確に伝えることが重要です。企業の多くは給与テーブルが設定されているため、あらかじめ志望先の業界や企業の相場を調べておき、応募先企業の想定を大きく逸脱しないように注意しましょう。他の企業からすでにオファーが届いている場合は、そこで提示された給与額を引き合いに出すのも有効な方法のひとつです。
タイミングと伝え方に気をつける
年収の希望額を伝える際は、タイミングにも注意しましょう。基本的に、内定時は給与額が決定しているケースが大半であるため、交渉は「内定前」に行うことになります。
1次面接から最終面接までの間で、採用担当者から給与額の希望について聞かれた時に、希望年収を切り出すのがベストです。または、応募企業から条件面談が設定された、面接の最後に「質問はありますか?」と聞かれた場合も、年収の希望を伝えやすいでしょう。ただし、年収を伝える際は、一方的な姿勢を見せるのではなく、「希望額」「どうしても譲れない最低ラインの額」を提示するなど、企業側が調整しやすい伝え方を心掛けることが大切です。
年収ダウン転職の傾向とは?
年収アップとは逆に、転職時に年収がダウンするのは、どのようなケースが考えられるでしょうか。年収ダウンにつながりやすい転職の傾向について紹介します。
キャリアチェンジ
年収がダウンする典型的なパターンは、業界・職種未経験の転職です。中途採用の多くは即戦力を求めていますが、キャリアチェンジはこれまでの経験・スキルを活かせる部分が少なく、入社後にほぼ一から仕事を覚えることになります。教育コストと即戦力になるまでに時間がかかるため、経験者よりも低い年収を提示されます。また、給与水準が低い業界へ転職した場合も、前職に比べて年収がダウンする可能性が高いといえるでしょう。
大手からベンチャーなど規模の小さい企業への転職
大手企業の多くは、業務が細分化されているため生産性が高くなります。また、スケールメリットを活かした仕入れの効率化や、高い知名度による営業力があるため、利益率も高い傾向があります。一方で、中小企業やベンチャー企業などの場合は大手企業よりも売り上げや利益率が低いことが多いため、年収も比例して少ない傾向があります。もちろん、入社後の事業成長によって、将来的に年収が大幅にアップする可能性もありますが、規模の小さい企業に転職した場合は給与ダウンとなる傾向があります。
地方に本社がある企業への転職
給与水準は、地域によっても差があります。地方に本社を置く企業の場合、大都市に比べて生活コストが安いなどという理由から、都市部に比べて給与水準が低めに設定されているケースがあります。東京などの大都市から地場の企業に転職した場合、年収ダウンの可能性があるでしょう。
転職における年収の考え方
現職よりも低い年収を提示されて、「自身への評価が下がった」「自分の市場価値は低い」と幻滅する方もいるかもしれませんが、現職の年収は、これまでに積み上げた現職での実績や信用による報酬です。「転職先で一から信用を積み上げて昇給する」という考え方もあるため、年収ダウン自体を必要以上にネガティブに捉える必要はありません。
転職において年収はとても大きな判断材料のひとつですが、年収だけにこだわりすぎると、応募できる求人が少なくなり、キャリアの可能性が狭くなってしまいます。仕事のやりがい、勤務地、休日・休暇、福利厚生など、年収以外に譲れない希望があるのであれば、「年収ダウンはいったん受け入れる」という選択肢も検討してみましょう。