スタートアップ企業への転職を実現させるには?働くメリットと活躍できる人の特徴も解説

最近は、「新たな環境でさらなるチャレンジを」と考え、スタートアップ企業への転職を選択肢に入れている方もいるようです。ここでは、スタートアップ企業のステージごとの採用傾向と、スタートアップ企業で働くメリット、活躍できる方の特徴、転職を実現させるための方法や注意点について、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説していただきました。

スタートアップ企業の定義

「スタートアップ企業」とは、今までにない全く新しい技術やビジネスモデルによって、社会や人々の生活にイノベーションを起こそうとする、創業間もない企業のことを指します。似ている名称として、和製英語の「ベンチャー企業」がありますが、実は両者の違いは曖昧で、明確な定義はありません。ただ、一般的にベンチャー企業には、安定的な収益と長期成長を目指したスモールビジネスも含まれるのに対し、スタートアップ企業は、明確なEXIT(出口)戦略を持ちながら、短期での急激な成長を目指す企業が多いのが特徴です。

上場前の成長ステージによる分類

上場前のスタートアップ・ベンチャー企業は、成長段階に応じて「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」という4つのステージに分類されることが一般的です。

シード

創業前や、まだサービスをリリースする前の期間を指します。市場調査などを実施してビジネスプランを策定したり、研究や開発、試作品を製作したりして、サービスの開始に向けて準備を進める段階です。組織もごく少人数であるケースが多いでしょう。

アーリー

創業直後や、サービスをリリースした後しばらくの期間を指します。顧客からの認知度が低いため、売上の規模が小さい一方、今後の成長のための設備投資や販売促進などに多くの資金を必要とします。

ミドル

ビジネスが軌道に乗り始めた段階です。今後のさらなる成長に向け、追加の設備投資や人材の確保などが必要となる一方で、売上が急激に拡大し、少しずつ利益が出始めます。

レイター

売上・利益ともに順調に拡大し、創業時からの累積の損失を一掃。経営が安定する時期です。さらなる成長を見据え、IPOを目標に掲げることも多いでしょう。

スタートアップ企業で働くメリット

スタートアップ企業で働くことの一般的なメリットについてご紹介します。

スピード感を持って価値を発信できる

スタートアップ企業の存在意義は、他の会社がまだ提供できていない新しい価値や、革新性を世の中に提供できること。従って「暮らしをより便利に・効率的にしていきたい」「大きな社会課題を解決したい」といったことにやりがいや意義を感じる方には、大きな魅力があると言えます。大企業に比べて意思決定のスピードが速く、機を逃さずにビジネスを展開していくため、新規事業の立ち上げを経験するチャンスが多いでしょう。

裁量権を持って働ける

従業員数の少ないスタートアップ企業では、複数の役割や業務を1人で兼務することが多いため、短期間で幅広い経験を積むことができます。また、1人ひとりに与えられる裁量権が大きく、自身のアイデアや提案が会社の戦略に反映されやすいのもメリット。携わった事業の実績がそのまま自身の実績になることに、やりがいや成長を感じる方も多いでしょう。

一般的に昇進が早い傾向がある

成長中のスタートアップ企業では、入社時にほぼ全員を将来のマネジャーや幹部候補とみることもあります。例えば「転職して1ヶ月で事業部長になった」という例も珍しくありません。組織の拡大・新設がされると、新しいポストがどんどん生まれます。大企業よりも昇進のチャンスが多い傾向があり、若くしてマネジメントポジションに就くチャンスもあるでしょう。

経営層と近い距離で仕事ができる

社長などの経営層と一般社員との距離が近いのも、スタートアップ企業の特徴です。大企業では役員と話す機会すらないことも多いですが、多くのスタートアップ企業では、毎日のように経営層とのコミュニケーションが発生します。経営者の視点やノウハウを学ぶことができるので、昇進を考えている場合や、将来的に独立・起業を考えている方のメリットも大きいでしょう。

企業が成長することによって経済的メリットが得られる

短期的に急成長するスタートアップ企業では、会社の業績が賞与に大きく反映される場合があります。また、自身への期待値などによって企業から付与されるストックオプションは、大きな魅力の1つ。付与されてから行使できるまで一定の時間がかかりますが、株価の成長によっては莫大な配当が得られる可能性があります。なお最近は、勤務条件等を達成した後、事後的に株式を付与する「RSU(譲渡制限付株式ユニット)」を導入する企業も増えてきました。

スタートアップ企業で活躍できる方の特徴

スタートアップ企業に転職して活躍できる方の特徴についてお伝えします。

不確実なことへの耐性がある

スタートアップ企業では不確実なことが多く、事業も業務もはっきりと先が見通せません。その代わり、事業の成長を信じて前進し続ければ、市場が大きくなり大きな利益が得られる可能性があります。困難に直面したときも、「あらゆる手段を使ってやりきる」という姿勢で臨むことができる方は、スタートアップ企業に向いていると言えるでしょう。

スピード感・行動力がある

会社設立の初期段階では、行動量がすべてになる状況や場面もあります。わからないこと、納得がいかないことが多数あると思いますが、答えのない問いに対して、スピード感を持って挑戦を続けられる方、「走りながら考える」タイプの方は、スタートアップ企業で活躍できる可能性が高いでしょう。

環境適応力がある

スタートアップ企業は、外部環境が凄まじいスピードで変化します。クライアントやユーザーからの要望も常に変化するので、既存のサービス内容や提案方法に固執していると淘汰されてしまいます。いい意味でプライドは捨てて、柔軟に自分を変えていける柔軟性は、スタートアップ企業で働くために必要不可欠なマインドになります。

スタートアップ企業に転職する方法

シード期は、社員紹介による採用(リファラル採用)が中心となるため、知人を当たる、あるいはSNSなどでつながりのある人がいないかチェックしてみましょう。つながりがない場合は、SNSや企業のホームページなどで人材を募集していないか直接問い合わせるという方法もあります。

成長ステージが上がっていくと、転職エージェントが求人を保有するケースも増えていきます。SNSや人脈を活用しながら、転職エージェントにも相談し、積極的にスタートアップ企業との出会いの機会を増やしましょう。

スタートアップ企業に転職する際のチェックポイント

優良なスタートアップ企業かどうかを見極めるためには、どのような点に注目すればいいのでしょうか。会社選びをする際に押さえておきたいチェックポイントを紹介します。

成長性があるかどうか

注目するスタートアップ企業が、製品・サービスをすでにリリースしているのであれば、市場での評価をチェックしてみましょう。BtoCの企業であればユーザー数の伸びや口コミを、BtoBの企業であれば導入社数や導入企業の顔ぶれ・導入事例などを確認してみてください。

売上や利益の伸び、組織拡大の推移などからも、会社の成長度合いを測ることができます。企業ホームページ、採用向けの会社情報、プレスリリースなどを確認してみると、その企業の実績から実像が見えてくるでしょう。

資金調達ができているか

さらなる規模拡大を図るために欠かせないのが「資金」です。プレスリリースなどを確認し、「○億円の資金調達」といった情報が発信されていないか確認してみましょう。資金調達を定期的に実現できているのであれば、成長のための積極的な投資を行っている可能性が高くなります。また、出資企業を説得できるだけの実績や、今後の成長性が見込めるということでもあります。もちろん、資金調達を行っているからといって、必ずしも経営が安泰だと判断できるわけではありませんが、ひとつの指標としてチェックしておきましょう。

経営層のバックグラウンド

経営層のこれまでの職歴や実績も注目するポイントです。どのような企業で経験を積み、実績を上げてきたのかを見れば、得意分野を判断することができます。

例えば、法人向けのSaaSサービスを提供している企業が、ホームページでは「技術力」をアピールしているにも関わらず、営業や財務出身の経営層が多く、CTO・CIOもSaaSの経験が少ないといったケースでは、実際は技術力よりも営業力や資金調達力に長けているのかもしれません。応募する企業の強みを正確に掴むために、このケースでは、本当に技術力に長けた組織なのか面接で確認する必要があるでしょう。

経営層の経歴の「バランス」も重要です。例えば、営業出身の経営層が多い場合、営業の知見や人脈に偏ってしまい、管理部門や開発部門、マーケティング機能などが弱くなってしまう可能性があります。また、営業職以外の専門職人材の心を掴むことができず、優秀な人材の採用に苦戦したり、離職率が高まったりするケースがあるかもしれません。さらに、経営層の多くが特定企業の出身である場合、その出身企業の社風が随所に表れている可能性もあります。経営層のバックグラウンドのバランスが取れているかにも注目してみましょう。

なお、IPOを目標として掲げる企業であれば、「上場企業」になるのに適した管理部門体制が整っていることがとても大切です。CFO(最高財務責任者)をはじめとした高度な専門性を持つ人材がいるのかどうかも、確認すべきイントのひとつといえるでしょう。

スタートアップ企業に転職する場合の注意点

スタートアップ企業に転職することは、どのようなところに気を付けたらいいのでしょうか。転職を考える際に認識しておきたい注意点について解説します。

年収ダウンの可能性がある

スタートアップ企業に転職する場合、前職に比べて年収がダウンする可能性があることは十分理解しておきましょう。特に、まだ十分に売上が立たず、しばらく赤字経営が続いている企業の場合は、当初から高い給与を期待することは難しいでしょう。シード期やアーリー期では、福利厚生や待遇が整っていないケースも多く、生活水準を落とさなければならない可能性もあります。

人事制度を確認する

面接の際に確認しておきたいのが、現在の人事制度や今後の人事制度の方向性です。入社時はたとえ年収がダウンしても、成果を出すことでどのくらいまで年収を上げていけるのか。ストックオプションの計画も含めて確認しておくといいでしょう。ただ、ストックオプションなどについての説明は「現状に基づいた見通し」であることが多く、入社後に制度が変わったり、株価が上がらなかったりすれば、報酬額にも影響する能性があります。選考が進み、内定が確定的になった時点で、それも含めて詳細を確認しておくことをおすすめします。

また、スタートアップ企業は、事業を大きく方向転換したり、事業が失敗に終わったりするリスクもあります。最悪の場合は、企業が解散となることも。仮にそうなった場合でも、その企業で培った経験が、今後のキャリアにプラスになるかどうかを意識して企業を選ぶことが大切です。

変化に対して素早い姿勢を求められる

スタートアップ企業は、成長のために常に「スピード」が要求されます。「朝令暮改」のような突然の方向転換が頻繁に起こる可能性もあるため、急激な変化にも素早く対応していく姿勢が大切です。

また、少人数の組織のため、得意分野以外の仕事を振られることもあります。例えば、責任者として入社したにも関わらず、汎用的な書類も整備されておらず、ゼロから作成しなくてはならないかもしれません。「専門分野以外の業務はやらない」といった発想は捨て、幅広い業務に自ら率先して取り組むなど、何事にも柔軟に対応する心構えが必要です。

経営陣や上司との相性を見る

スタートアップ企業は大きな組織ではないため、経営陣や上司との相性が、入社後のパフォーマンスに直接影響しがちです。転職の際は事業内容や条件だけでなく、「自分がここで活躍できるか」という視点で、経営者や社員の人柄・雰囲気をよく見ることも大切です。できれば事前に面談などで、経営陣や管理職と顔を合わせた上で、入社するかどうかを判断すると良いでしょう。

スタートアップ企業への転職は大きく成長できる選択肢のひとつ

業績の安定した企業でキャリアを積んできた方にとって、スタートアップ企業への転職は、環境の大きな変化に戸惑うことばかりかもしれません。しかし、スタートアップ企業では、ビジネスモデルをゼロから生み出し、事業の立ち上げをリードするなど、他の企業ではなかなかない凝縮された経験を、短期間で積むことができます。その結果、ビジネスパーソンとしての大きな成長を実感できるでしょう。その意味では、スタートアップ企業への転職は魅力的な選択肢のひとつです。メリット、デメリット双方を理解したうえで、転職を検討してはいかがでしょうか?

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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