外資系企業は、グローバルに活躍できる、比較的年収が高い傾向があるなどの点から、転職の際に人気があります。今回は外資系企業の特徴や働く場合のメリット・デメリット、外資系企業への転職方法などについてご紹介します。
外資系企業とは
外資系企業とは、一般的に海外の企業もしくは外国の投資家が一定の水準以上で出資している日系企業のことです。経済産業省の調査などで用いられる定義では、「外国投資家が株式又は持ち株の3分の1超を所有している企業」となっていますので、これが外資系企業の定義としてひとつの目安になるでしょう。
続いて、外資系企業の動向や種類を解説します。
外資系企業の動向
日本における外資系企業数は約3千社、従業員数は約50万人です。日本全体からすると企業数で0.1%未満、従業員数でも1%弱に過ぎず、外資系企業は数の上ではまだ小さな存在です。
企業数で最も多いのは欧州系企業(約43%)で、アジア系企業(約29%)、米国系企業(約22%)と続きます。近年アジア系企業が少しずつ増加している傾向がみられます。
出展:経済産業省「第 54 回外資系企業動向調査(2020 年調査)の概況」
外資系企業の種類
外資系企業は、出資の形態によって次のような3つの種類に分類できます。
(1)海外企業が日本で設立した子会社(日本法人)
日本にある外資系企業のうち、大半は海外のグローバル企業が100%出資している子会社の日本法人です。海外の本社で世界規模のサービスや製造を行い、日本法人は日本市場を中心にローカルなビジネスを展開する役割を担います。
海外の本社の方針や意向が日本での事業にも反映されやすいため、日本法人の企業文化もいわゆる「外資系企業」色が強いケースが一般的です。一方で、日本市場へのローカリゼーションを重視し、日系企業的な企業文化を持つケースも一定数あります。外資系企業とはいえ社員の大多数は日本人であり、社長も日本人という企業も少なくありません。
(2)日系企業と海外企業が共同出資して設立した会社(合弁企業)
海外企業が日本市場に進出する際に、既存の日系企業と共同出資の形をとる企業です。
双方の企業が持つブランド力、技術力、市場に関する情報力などの強みを求めて設立します。双方の企業の力関係が拮抗している場合は、設立後に新しい企業文化が定着するまで経営の方向性などを巡って混乱が起きることもあるので注意が必要です。
(3)海外企業が日系企業に出資、または買収した企業(資本参加・提携企業)
既存の日系企業に対して企業提携という形態で、あるいはM&Aなどの企業買収で海外企業が一定の経営権を持つケースです。既存の日系企業が競争力を強化するために外国資本を導入するケースもあれば、経営の立て直しのために外国資本を導入するケースもあり、出資の理由はさまざまです。出資理由を調べておくとその企業の特性や置かれた状況を理解することに役立ちます。
外資系企業の特徴(日系企業との違い)
日系企業と比べたときの外資系企業の特徴を、ここでは4つにまとめてみます。
株主の意向が反映されやすい
外資系企業には、日系企業と比べると会社の方針に株主の意向が反映されやすいです。株主重視の姿勢が見られる外資系企業では、日系企業と比べて四半期単位など短期スパンでの業績志向が強く、経営の効率化や透明性についての意識が高い傾向にあります。
収益性が高い
外資系企業は概して収益性が高く、特に欧米系の外資系企業の利益率(経常利益率)は日系企業の平均を上回っています。一部の製造業を除いてみると、外資系企業の方が日系企業よりも合理的で効率的な経営ができていると言えます。
個人主義が強い
組織力を強みとする日系企業に対して、外資系企業の強みは個人の力を活かすという点に特徴があります。ビジネスライクでクールな反面、社員には自己裁量や必要な権限が十分与えられるので、自由に仕事をすることができます。組織に依存するのでなく、自分の能力を発揮して組織に貢献していく姿勢が外資系企業では求められるのです。
専門能力志向
複数の部署で経験を積む総合職(ジェネラリスト)志向の日系企業に対し、外資系企業ではある特定の専門職(スペシャリスト)志向です。外資系企業では、特定の専門分野でキャリアアップを目指していくのが一般的です。専門能力が向上し業績や貢献度が高まれば、報酬に反映される仕組みになっています。
外資系企業で働くメリット
外資系企業で働くメリットを紹介していきます。
すべての外資系企業に当てはまるわけではなく、あくまでも外資系企業一般の傾向としてご理解ください。
風通しがいい
年功序列ではなく能力主義を掲げる外資系企業は、自由で風通しがよく感じられるはずです。社内の人間関係は共同体的というよりも機能的であり、日系企業ほど上下関係に囚われる必要はありません。またダイバーシティ(多様性)を掲げる外資系企業では、国籍や性別、年齢など様々な属性を持つ社員たち人の多様な働き方を受入れる傾向がみられます。概して女性管理職の比率も日系企業よりも高い傾向があり、女性の活躍の場も多いと言えるでしょう。
年収が高い傾向にある
一般社員の年収は、日系企業と比べて外資系企業が特に高いわけではありません。しかし上級職になると外資系企業に勤める人の年収は、日系企業よりも高い傾向があります。その大きな理由は、外資系企業の場合は成果連動型のインセンティブ報酬を与えられるからです。上級のポストでは目標達成度によって、あるいは顕著な貢献があった場合、多額のインセンティブ賞与や昇給などを得られることもあります。
休暇が取りやすい
欧米系の外資系企業では一般的にワークライフバランスの文化が浸透しており、有給休暇の取得率は日系企業と比べると高いです。プライベートな時間を大切にするので勤務時間は集中して働き、残業はあまりしません。しかし一部の外資系企業では、日系企業的な就業慣行を適用しているケースもあり、休暇も含めた福利厚生や実際の働き方については個別企業の慣行や制度をよく調べる必要があります。
グローバルな仕事環境
日本にある外資系企業では国外と日常的に仕事をするケースも多く、また職場で多国籍の社員たちと一緒に仕事をすることもあります。そのため海外の異なった価値観や最先端の技術情報などに接する機会も多く、国際的な視野が広がる魅力があります。
外資系企業で働くデメリット
外資系企業で働くデメリットについて代表的なものをご紹介しましょう。
こちらもすべての外資系企業にあてはまるわけではなく、外資系企業の一般的な傾向です。
雇用の不安定性
基本的に終身雇用の考え方がないので、キャリアアップのために転職していくケースも多く、平均雇用期間は日系企業より短い傾向にあります。外資系企業では、業績不振などを理由に一方的に解雇されるイメージがあるかもしれませんが、実際には日本の法律で労働者は守られており、通常の業務を遂行する限り解雇リスクが高いわけではありません。ただし、成果が強く求められる職種では、成績不振が続くと降格や配置換えの可能性もあります。
退職金制度がない
外資系企業には一般的に退職金制度がありません。なぜなら、報酬は年俸制で完結しているためです。一方で、企業や個人が積み立てる確定拠出年金や企業年金などの制度を持つ外資系企業があります。
経営目標が短期的
株主への利益最大化を目標とするため、外資系企業の経営目標は短期的になりがちです。景気後退期にはグローバル企業でもリストラに舵を切ることを躊躇しません。ただし欧州系の企業の一部にみられるように、日系企業ほどではないにせよ一定の安定雇用の文化を持ち、中長期的な経営視点を持つ外資系企業もあります。
言語の壁
日本にある外資系企業は国内向けのビジネスに携わっているので、通常業務ではあまり英語などの日本語以外の言語を使わない場合も多いです。しかし上級の管理職や専門職などのポジションによっては、本社や海外の拠点と頻繁にコミュニケーションをとる必要があります。英語など日本語以外で書かれた書類を読み、メールや報告書を作成し、電話で海外の同僚や上司と話す、などの語学力は求められるでしょう。転職後も、継続的に語学力をブラッシュアップしていくことが大切です。
外資系企業に向いている人
ここでは仕事能力以外の特性で、どのような人が外資系企業に向くのかについてポイントをまとめました。
自律心が旺盛な人
「自律心」が旺盛な人は外資系企業に向いているでしょう。他人や組織への依存性が高い人、自己コントロールに自信がない人はあまり向きません。外資系企業では、自分の考えや意見を持ち、相手にしっかり伝えるスキルを持った人材が求められます。自分の能力開発やキャリアデザインを自発的に進めていける人は、外資系企業でその能力を発揮できるでしょう。
柔軟性がある人
外資系企業では日系企業と比べて意思決定が早く、業務がスピーディに遂行される傾向があります。そのため、事業再編などにより組織が大きく変化することもあり、日系企業以上に臨機応変に対応していく柔軟性が求められます。
ポジティブで常に新しいことに挑戦する人
失敗の先に初めて成功がある、とポジティブに思える人は外資系に向いていると言えます。自分自身の能力を把握し、成長意欲が高い人、困難な課題にも果敢に挑戦する人はまさに外資系企業に求められる人材です。
外資系企業に転職するには
外資系企業への転職をするためには、どのような準備をしておけば良いのか見ていきましょう。
転職は仕事人生にとって大きな転機となります。まずは、自分のキャリアについてしっかりした方針を持つことが大切です。現在の自分の立ち位置はどこか、どのようなキャリアを歩んできたかなど、現在と過去を振り返り、そこから5年後、10年後になりたい自分の未来のキャリアを展望します。一人で考えるのは大変なので、信頼できる知人や経験豊かなキャリアアドバイザーなどに相談してサポートしてもらうといいでしょう。
ステップ1:応募企業を探す
まずは、応募先の企業を探します。
転職先として外資系企業を検討している場合、企業の探し方は大きく以下の4つがあります。日系企業の探し方とあまり大きな違いはありませんが、転職エージェントに登録する場合は、外資系企業に強いところに登録することをおすすめします。外資系企業への転職サポートの経験が多いため、適したアドバイスをしてくれるためです。
- 求人サイトで検索する
- 知人に相談する
- SNSで調べる
- 転職エージェントに登録する
ステップ2:英文レジュメ・カバーレターの作成
外資系企業の中途採用に応募する場合、日本語の履歴書・職務経歴書以外に英文のレジュメとカバーレターの提出を求められることが一般的です。職歴、成果、スキルなどはレジュメ(英語で履歴書のことをResume と呼びます)に記載しますが、志望動機はカバーレターに書きます。レジュメやカバーレターの形式や内容は、日本の履歴書とは異なりますので、初めての作成で不安な場合は、転職エージェントのキャリアアドバイザーなどに相談してみるといいでしょう。
面接への準備
外資系企業の面接の事前準備は、日系企業と大きな違いはありません。自分の強みはどのような所か、またそれを応募企業でどのように活かせるかを最大限伝えらえるようにしておきましょう。ただし、「面接で日本語以外の言語を使うかどうか」が日系企業と異なるので、日本語以外の言語で面接が行われるかどうかは事前に確認しておくと安心です。
外資系企業でも、一次面接は採用担当の日本人スタッフが対応することが多いですが、二次面接以降は、外国人役員などを交えて英語や日本語以外での面接が設定されるケースが一般的です。また上級の管理職の場合は、最終面接で日本法人の社長等の経営陣に加えて、海外から上席者が来日して面接に参加することもあります。英語などの面接に不慣れな場合は難しく感じるかもしれませんが、質問を想定した上で十分に準備しておくといいでしょう。面接についても、転職エージェントのキャリアアドバイザーから適切なアドバイスやサポートを受けられますので、ぜひ相談してみてください。
大事なことは、どのような場合でもどっしりと構えて堂々としていることです。相手が本当に知りたいのはあなたの語学力ではありません。あなたの持つ能力の確かさと人間としての誠実さ、そしてやる気なのです。自信を持って面接に臨みましょう。
【執筆者】リソース・コーチング代表 / プロフェッショナル・コーチ(マネジメント専門)
税所 彰(さいしょ あきら)
一橋大学社会学部卒。日系輸出企業の駐在員として米国に滞在。マンハッタンカレッジ経営大学院でMBA修了。帰国後ユニシス・ジャパン(米国系)コントローラーを経て、北欧系精密機器企業でCFO(最高財務責任者)。執行役員として経営改革や人材育成に取り組んだ。2009年リソース・コーチングを設立。管理職のマネジメント能力開発コーチ、コーチング講師として活動中。