転職して海外で働くためには?方法や流れ、注意点を解説

転職して海外で働きたいと考えた場合、「どのようにして転職したらいいの?」「語学力はどのくらいあったらいいの?」など、様々な疑問が浮かぶことでしょう。今回は、初めて海外で働きたいと考えている方向けに、海外で働く方法、目安となる語学力や経験・スキルなどについて解説します。

転職して海外で働く場合のメリット・デメリット

転職して海外で働く際に得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。また、反対にどのようなデメリットが考えられるのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

メリット

まずは、転職して海外で働く場合のメリットをご紹介します。

「グローバル人材」に成長できる

海外で働くということは、母国を離れて「外国人」として仕事をすることになります。企業によっては日本語以外の言語で仕事をすることはもちろん、様々な価値観や文化に触れることになります。日本では経験することがない大変なことも多々ありますが、「グローバル人材(※)」に成長することができるでしょう。

※グローバル人材とは…文部科学省の定義によると、世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間のこと。

コミュニケーションスキルが向上する

日本では当たり前だと思っていたことが、海外では通用しないことは多々あります。例えば、仕事の進め方一つとっても、人種・国籍が異なれば、意見が食い違うこともあるでしょう。また、日本人は「物事を明確に説明しなくても相手に伝わるだろう」と無意識に考えがちなのですが、海外ではなかなかそれではコミュニケーションが取れません。海外で仕事をすると、相手に伝わるように会話をする、そして自分の意見を程よく主張するといったコミュニケーションスキルを身に着けることができるでしょう。

デメリット

続いて、転職して海外で働く際のデメリットをご紹介します。
(今回解説するデメリットは、後述する「日系企業に転職し、駐在員として海外に赴任する」ケースは当てはまりません)

プレッシャーが大きい

現地の人材を採用せずに外国人を雇う場合、会社側は就労ビザのスポンサーになるなど時間やコストを余計に費やすことになり、入社した人材への成果に対する期待値は上がります。プレッシャーに負けず、仕事を遂行する意思の強さが必要です。

医療システムに注意

国によっては、医療費が非常に高額な場合があります。先に自分が立て替えることもありますので、事前に確認しておきたいです。日系企業の駐在員として海外に赴任する場合は、会社が医療費を負担してくれます。

転職して海外で働く方法

海外で働きたいと考えた場合、選択肢は下記の3つになります。

  • 日系企業に転職し、駐在員として海外に赴任する
  •  日系企業の現地法人に転職する
  •  海外企業の現地法人に転職する

日系企業に転職し、駐在員として海外に赴任する

日系企業の中途採用に応募し、海外支社に赴任するケースです。
企業からの人事発令を受けて海外に赴任することとなり、3年や5年など期間が決まっている場合がほとんどです。企業が手配してくれるので就労ビザの心配がない他、海外赴任者の給与や福利厚生(住宅費や引っ越し代は会社が支払うなど)は手厚いことが多いため、海外で暮らすにあたっての金銭的な負担が少ないでしょう。
ただし、どの社員を赴任させるかを決めるのは企業なので、必ず駐在員に選ばれるとは限りません。また、駐在先の国も企業が決定するため、希望の国や地域に赴任できるわけではありません。

日系企業の現地法人に転職する

海外に進出している日系企業の海外支社や現地法人に転職するケースです。
希望の国や期間、仕事内容などを自分で選ぶことができる一方で、現地の水準で給与が決まるので、駐在員よりも低くなることが多いです。また、福利厚生に関しても駐在員のように住宅費や引っ越し代などは会社が負担してくれない場合も多く、自己負担の金額は増えるでしょう。

海外企業の現地法人に転職する

日系企業ではない海外企業の現地法人に転職するケースです。
このケースも、希望の国や期間、仕事内容などは自分で選ぶことができます。社員に日本人がいない場合も多いため、英語をはじめとした語学力が必要とされます。しかしその一方で、グローバル人材としての価値が高まり、将来、日本を含めて世界のどこでも働ける実力をつけることができるでしょう。ただし、その分働き方や仕事の進め方など、日系企業とは違う環境で柔軟に対応していく必要があります。

転職して海外で働く場合の流れ

転職して海外で働くためには、どのような流れで進めたらいいのでしょうか。詳しく解説していきます。

1. 転職したい国、スケジュールを決める

前述の通り「日系企業へ転職し、駐在員として赴任する」場合は、駐在する国は会社が決めることなので、この項目は該当しません。
「日系企業の現地法人に転職する」「海外企業の現地法人に転職する」場合は、どの国で仕事をしたいのかよく考えましょう。治安・経済の成長予測・物価・給与水準などが検討したい主な項目ですが、日本に帰りやすいかどうかを項目に含める方もいます。
現地に実際に足を運べると、生活するイメージが沸くのですが、コロナ禍の今はなかなかそうはいきません。インターネットでできる限り調べてみる他、身近にその国で働いたことがある人がいたら、気になることを聞いてみるといいでしょう。

続いて、働きたい国が決まったら、転職スケジュールを考えます。日本国内での転職同様に、引継ぎ期間や有休消化などを考えて、退職時期を検討しましょう。海外転職の場合は、引っ越しが必ず伴いますので、心づもりをしておくと安心です。

2. 希望条件を選ぶ

海外転職に限らず、全ての希望が実現することはなかなか難しいです。どうしても外せない「必須条件」と「あれば良いの「十分条件」に分けてみて、「必須条件」だけは最低限満たす転職を目指すと良いでしょう。条件を決める際の目安をご紹介します。

  • 仕事内容:分野・役職などを具体的に考えます。自分が興味を持っているのはどのような仕事なのか、どのような業務に携わりたいのかなど、検討してみましょう。また、海外で仕事をすることは想像以上に大変なものです。どのような仕事ならやりがいを感じられるかも、合わせて考えてみるといいでしょう。
  • 給与と生活水準:生活に直結するので非常に大切です。表面的な給与の額だけでなく、その国の物価と家賃も考慮に入れましょう。
  • 英語などの語学を使う機会 : 海外に住んでいるだけではなかなか語学力は上がりません。日本語以外の言語をどのくらい仕事で使いたいのか考えましょう。
  • 外国人の割合 : 社内の外国人の割合は、使われる言語や働き方、仕事の進め方に関わってきます。転職先で自身がどのように働きたいか、成長していきたいかなどを考えてみるといいでしょう。例えば、海外企業の現地法人に転職する場合は、唯一の日本人になる可能性もゼロではありません。最初は今までと違う環境で戸惑うことも多いかもしれませんが、成長できる大きな機会を転職で得られることになります。

3. 求人情報を探す

転職して海外で働きたい場合、求人情報を探すには以下の3つの方法があります。自身がどのような企業を求めているのか、どのように働きたいのかを考え、自身に合う探し方を見つけてください。

日本の転職サイトや転職エージェント、スカウトサービスから求人から探す

日本の転職サイトや転職エージェントサービス、スカウトサービスでは、海外向けの求人を掲載している場合があります。転職サイトの場合は、海外向けの求人を自分で検索して探します。転職エージェントの場合はキャリアアドバイザーに、スカウトサービスの場合はスカウトを送ってくれた転職エージェントに希望を伝えると、海外向けの求人を紹介してくれます。どの場合も日系企業をメインに取り扱っているため、「日系企業に転職し、駐在員として海外に赴任する」「日系企業の現地法人に転職する」場合の求人情報が多く、基本的日本語で書かれています。

日本の転職サイトの海外支部が運営しているサイトから求人を探す

日本の転職サイトの中には、海外向けの求人情報は、自社の海外支部のサイトで取り扱っていることがあります。日系企業の現地法人の情報が多いですが、求人情報が英語などの日本語以外で書かれていたり、日本のサイトよりも現地に密着した情報が書かれていたりします。

海外の転職サイトに掲載している求人から探す

行きたい国に住む現地の人たちが使う転職サイトです。サイトに載っている求人情報は現地の言語で書かれているため、相応の語学力が必要になります。日系企業以外の求人を求めている場合は活用するといいでしょう。

4. 求人に応募する・書類を作成する

日系企業に応募する場合は、日本語で作成した履歴書や職務経歴書を提出するのが一般的ですが、海外の企業では、英語で作成するレジュメとカバーレターの提出を求められます。レジュメとは、これまでの職務やスキル、学歴などの詳細を簡潔にまとめた短めの文書を指します。志望動機や自己PRなどは、カバーレターに記載します。
レジュメやカバーレターは日本語の履歴書や職務経歴書と形式や書き方が異なるので、初めて作成する方は、転職エージェントのキャリアアドバイザーなどに相談するといいでしょう。

海外の企業にとっては、外国人を雇い入れるということは、就労ビザのスポンサーになる必要があることを意味します。どのくらい真剣な応募者なのかをカバーレターから読み取りたいため、採用担当者は自国の候補者よりも書類をよく読んで判断をします。その際、誤字脱字や文法ミスなどが多いようでは、マイナスのイメージを与えかねません。入念にチェックをしてから提出するようにしましょう。

5. 面接を受ける

海外転職の場合、面接の形式は大きく以下の3つのパターンがあります。

  • 日本で面接をする
  • 現地の担当者とオンラインや電話面接をする
  • 現地で面接をする

「日系企業に転職し、駐在員として海外に赴任する」ケースは、ほとんど日本で面接することになるでしょう。対面、オンライン、電話のいずれかの方法になります。面接時点では海外赴任することは決まっていないことが多いため、現地の担当者との面接は入りません。

「日系企業の現地法人に転職する」「海外企業の現地法人に転職する」ケースは、現地の担当者とオンラインや電話面接をするか、現地で面接をすることになります。昨今では、オンランや電話面接をすることが増えています。

現地で面接をする場合は、仕事をしている方は現職のスケジュール調整や飛行機やホテルの手配などが必要になります。また、交通費や滞在費は自費の場合もありますので、事前に確認をしておきましょう。
面接で聞かれる内容は、外資系・海外の企業でも大きく変わりはありません。「転職理由」「志望動機」「自己PR」の3つの質問は最低でも押さえておきましょう。
ただし、海外企業の面接を受ける際に、応募者が外国人の場合に必ずと言っていいほど聞かれるのが、「就労ビザは持っていますか?」「どうして○○○○(国名)で働きたいのですか?」の質問です。回答を頭に入れておくと、当日聞かれたときにスムーズでしょう。

6. 内定をもらう

内定をもらい、入社を決めたらすぐに就労ビザの手続きを始めます。応募企業が手助けしてくれるのか、全て自分でやらないといけないのかによって作業量が変わります。採用担当者に確認をしましょう。また、引っ越しなどの準備も一緒に進めるようにします。

転職して海外で働く場合の注意点

文化の違いは想像以上に大きいものです。海外で働く際に注意したいことをみていきましょう。

1. カルチャーショックに備える

海外で暮らすことを自ら希望した場合でも、実際に異文化の中で暮らし始めると半年程でカルチャーショックを感じ、母国が恋しくなると言われています。母国語で話せる友人・知人を作っておくことは、海外では大事なセーフティ・ネットです。

2. アサーティブなコミュニケーションを心がける

アサーティブネスとは、相手も尊重した上で、「誠実に」「率直に」「対等に」自分の要望や意見を相手に伝えるコミュニケーションの方法論を言います。
特に英語圏の場合、自分のことをほどよくPRする自己主張力が重要です。日本人は苦手な方も多いですが、「相手に何をして欲しいのか」などを率直に伝えられるコミュニケーション力を持ちましょう。自己主張をしないと、意見がない人だと誤解されることもあるので、職場で損をするかもしれません。

もちろん、文化によって程度は異なります。例えば、アメリカ人に対するアサーティブネスを、アジアのタイ人相手に発揮したら、先方は驚いてしまいますし、敬遠される可能性もあります。文化の違いを考慮に入れた上でのサジ加減が重要です。

3. 多様性へのリスペクト

日本で仕事をしている時は、日本のやり方が唯一無二だと思ってしまいがちです。しかし一歩海外に出たら、世界に存在する国の数だけ、仕事のやり方・価値観・考え方があることを理解することが大切です。日本流を押しつけようとしても、先方は違う価値観・文化を背負っているので衝突が起こってしまいます。うまく折り合える中間地点を探すように、心がけてください。

求められる語学力の目安

語学力=英語とは限りませんが、海外で働く際にはビジネス共通語である英語を職場で使うことが多いので、目安をお伝えします。

駐在員として日系企業の現地法人に赴任する、日系企業の現地法人に転職する場合

通常は、駐在先の現地法人に英語を話す社員がどの程度いるのかによって必要な英語力のレベルが異なります。例えば、現地採用の社員に対して日本語力を重視して採用している場合、現地法人の職場で日本語が飛び交うこともあります。一方、自分だけが日本人でアメリカ人に囲まれている、というような環境に赴任することもあり、この場合はかなりの英語力が求められます。

海外企業の現地法人に転職する場合

海外企業の現地法人に転職する場合は、現地の社員と対等の語学力が求められます。
例えば英語圏の国への転職を考えている場合、日本のビジネス界では英語のレベルについてTOEICを指標にすることが多いですが、海外ではTOEICの認知度が低いので、英文のレジュメにスコアは書かなくても問題ありません。ただし、TOEICを受験済みの場合は、自分が行きたい国で使われている英語テスト(例えばIETLS、TOEFL)に換算すると何点になるのかは押さえておきましょう。
英語圏でない国に応募する場合、現地公用語をどのくらい必要とされているかを事前に確認しないと、入社してから苦労する可能性がありますので注意しましょう。

海外転職の面接で経験やスキルをアピールするポイント

最後に、海外転職の面接で経験やスキルをアピールするポイントをご紹介します。

1. 専門性

海外で仕事をする場合、ジェネラリスト(汎用性)ではなくスペシャリスト(専門性)を求められていることが多いです(※駐在員を除く)。応募ポジションに必要なスキルと自分の専門性を重ね合わせて、短くロジカルに説明できることが大事です。
特に英語の面接で、同じことを何回も言ったり、話が長がったりすることは敬遠されますので注意しましょう。専門性がまだ確立されていない人材の場合は、このポジションにどうしても就きたいという情熱を見せることでカバーします。

2. 適応力

異文化に対応できるかどうか、多様性をリスペクトして行動できるかどうかは、海外でうまく仕事をする上で重要なポイントです。これまでの体験を思い出して、具体例を交えながらアピールしましょう。
知らない場所で関係を構築したり、新たなプロジェクトで初めてのメンバーと協働して成果を出したりしたエピソードは、海外転職で自分をアピールする材料の一つになります。なぜなら、自分のコンフォート・ゾーン(安全圏)から出る必要があった経験は、「海外で働く=コンフォート・ゾーンから出ること」と繋がるからです。

【執筆者】

鈴木 美加子(すずき みかこ)

グローバル・キャリア・カウンセラー
GE, モルガン・スタンレーなど外資系人事をキャリアアップ転職して、日本DHLの人事本部長を経て2014年に独立。10,000人を面接した経験、オーストラリア居住経験をもとに国内外の転職のすべての悩みに対応できる。著書「やっぱり外資系がいい人の必勝転職AtoZ」青春出版、「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」日本実業出版。NY生まれ。英検1級。TOEIC960点。お茶の水女子大学卒業。