一人ひとりがイキイキと働く社会の実現を目的に、プロ意識に基づいて企業や求職者の本質的課題をとらえ、マッチングを行う転職エージェント。そのなかでも、「人」が介在しなければ決して生み出されることのなかった、特に高いレベルのマッチングを成し遂げた転職エージェントに贈られるのが、「GOOD AGENT AWARD」です。一つの事例に込められた「ナレッジ」と「スピリット」を企業の枠を超えて共有し合い、人材紹介事業全体を盛り上げる一助となることを願って開催しています。2022年1月20日、オンラインによる生配信で「GOOD AGENT AWARD 2021」を開催しました。コロナ禍にもかかわらず、多数のマッチング事例のエントリーがあり、事前審査から盛り上がりました。AWARDでは、事前審査で選ばれた金賞受賞者4組がプレゼンテーションを行い、オーディエンスによる大賞を決定。特別賞6組とあわせて表彰を行いました。
目次
エージェントは求職者が“Digる”ときに役立つ「カガミ」
GOOD AGENT AWARD 2021は、株式会社リクルート HR統括編集長 藤井薫のオープニングコンテンツで幕を開けました。タイトルは「コロナ禍が“働く”にもたらしたもの」です。さまざまな調査データをひもときながら、コロナ禍の“働く”の現実を紹介していきました。内容を簡単に紹介します。
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働く時間や場所の自由を重視する人が増え、テレワーク経験者の多くが継続を望んでいます。「やりがい」と「やりたい」を重視し、将来のキャリアを見つめ直す人は顕著に増加しています。もう少し大きな視点で見れば、生き方と働き方の両方を見直す機運も高まっているといえるでしょう。インターネット環境が、この動きを後押ししていることは間違いありません。
また、企業側も、DX・デジタル化の流れにのって、異領域に参画する企業が増えています。個人も同様で、リクルートエージェントの転職決定者分析(2020年度)では、異業種・異職種への転職が最多パターンとなりました。「越境転職」が増えているのです。
以上を踏まえて、私たちリクルートは、新たな仕事の出会いのトレンドとして「ディグるキャリア」というコンセプトを発表しました。自らの経験をDigる(深く掘り起こす)ことで、新たな業界・職種、新たなキャリアに挑戦する、という意味です。これまでの経験やスキル、感情を深くDigることで、心から夢中になれる異領域へ挑戦する人が増加しています。合わせて、社会人インターンシップ領域では、越境転職を促すために「お試し機会」を提供する企業も増加しています。
私は、エージェントは、求職者が自らをDigるときに非常に役立つ「カガミ」のような存在なのではないか、と考えています。求職者に問いかけ、対話しながら思考の整理を進めることで、求職者のブラインドセルフ(見えない自己)、ヒドゥンセルフ(隠れた自己)、コーリング(天職)を、まさに鏡のように映し出す、貴重な役割を果たす存在であると思います。
キャリアを企業任せにせず、自分で決めたい人が増えている
オープニングコンテンツに続いて、「Q&Aタイム」に入りました。特別賞を獲得した清水潤次氏(株式会社エリメントHRC)と松本和晃氏(株式会社プロフェッショナルバンク)に、藤井からの問いに答えていただきました。
Q1:コロナ禍は続いていますが、転職する求職者の意思決定について、重視項目の変化はありましたか?
清水:私は医療機関・医療業界が専門ですが、趣味や家庭を大事にしたいと答える方が確かに増えました。リモートワークやハイブリッド勤務に関する質問が当たり前になり、実際に間接部門やコマーシャル部門などでは、完全リモートワークの事例も出てきています。ただ、医療現場で働く方々はリモートワークが難しい。医療業界も変化してきているものの、変化の速度はまだ、それほどではありません。
松本:企業任せにせず、自らキャリアを決めたい方が増えています。大企業にキャリアを任せていても、自分が思い描くようなキャリア形成が難しい時代になったのでしょう。やりたいことや、そのために必要な力について、しっかりと考えている人が多くなりました。
Q2:エージェントの役割の変化を感じていますか?
松本:藤井さんの「カガミ」という言葉に共感しました。弊社では、同じ意味のことを「壁打ち役」と表現しています。たとえば企業側の壁打ちについて言えば、人事の皆さんは、経営戦略、組織体制上の課題、競合他社の求人動向、転職市場の状況など、採用を行う上で考慮すべきことがいくつもあります。人事の皆さんはエージェントと対話することで、そうしたことを考慮しながら、どのような採用戦略を実行すればよいかが見えてくる、と感じています。つまり、私たちと話すと、採用が成功しやすくなるはずなのです。
清水:私は第三者視点、俯瞰視点を大事にしています。個人にも企業にも、第三者視点から意見を述べて、彼らに可能性と気づきを与える存在でありたいと思います。ただそれだけでなく、私たち自身も人間らしくありたい。また、私たち自身も成長を続け、共存共栄できる存在でありつづけたいとも願っています。
4組の金賞受賞者がマッチング事例をプレゼンテーション
続いて、金賞受賞者4組のプレゼンテーションが行われました。
●【30代・首都圏の活躍人材→起業して地域企業の新規事業開発を受託】全く新しい「マッチングのかたち」を創出
株式会社Tryfunds 中村隆之氏
首都圏在住の活躍人材と地域企業のマッチングでは、「待遇が合わない」「これまでの社風や慣習から、異能の人材を活かせない」という問題が発生しがちだ。中村氏は、その難問をクリアする新しいマッチングのかたちを創出した。活躍人材が起業し、地域企業の案件を受託するのだ。今回の事例では、地銀も投資をしている地域優良企業D社に対して、大企業での新規事業開発経験が豊かなCさんを紹介した。中村氏はCさん・D社と議論を重ね、「Cさんが起業して、D社の新規事業開発案件を受託する」というスキームでD社と関わることに決まった。中村氏自身もD社と事業開発アドバイザリーの契約を結び、CさんとD社を継続的に支援するスキームとした。経営者の顔も持つ中村氏だからこその動きだ。CさんとD社のパートナーシップは順調に進んでいる。ステークホルダーからの信頼も厚く、現在は新規事業案の実証実験中だ。D社との協働成功の暁には、Cさんは首都圏企業の先進技術や豊富なアセットと、地域企業のユニークネスを結ぶ事業を、本格的に事業展開していく意向だ。
●【30代前半・大都市圏から福井県へ】未知の地域へのIターン転職を丹念な追求で成就させた
株式会社ヒルストン 鍛治紗千氏
U・Iターン転職の難点の1つは、「求職者が地域の現実を知らないケースが多い」ことだ。大都市圏で働く求職者が、地域で前職を活かせる職に就ける可能性は決して高くない。鍛治氏はEさんの「出会いの可能性」を丹念に追求し、前職での経験が活かせるF社への転職を決めた。鍛冶氏自身が具体的なシーンをイメージできるようになるまで、Eさんに根掘り葉掘り質問し、F社求人との共通点を見つけて、両者を結びつけたのだ。鍛治氏の見立てどおり、2回のWeb面接でF社の採用意向は高まり、内定が決まった。ところが、Eさんの気持ちがなかなか固まらなかった。そこでWeb三者面談を設け、人事担当者がタブレットを持って本社内を移動する「オンライン職場見学」を実施した。ネットを介して、職場の方々から「入社を楽しみにしています」と声をかけられたEさんの心が動き、翌日に意思を固めた。家庭の事情でさらに入社時期が延びたが、鍛治氏が間に入りEさん・F社の間で丁寧にコミュニケーションを紡いだ結果、入社時期の調整がつき、無事入社が決まった。鍛冶氏が「あたりまえ」を一つひとつ丁寧にやった結果、成就した案件だ。
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●【50代・経営人材・地方UIターン】潜在的な課題を見立ててポジション創出。求職者の地域活性化への想いと企業の事業成長へ徹底伴走
株式会社リージェント 吉津雅之氏
リージェントは、「四国ならではの『働く』価値を創造する」ことをミッションに掲げる転職コンサルティング企業だ。地域には、こうして地域活性を目標とするコンサルタントが少なくない。吉津氏は今回、求人が出ていなかったにもかかわらず、四国で地域活性化に取り組みたいという求職者と企業をマッチングした。Gさんは、過去に経営層として四国のあるホテルの経営を見事に再生させた実績をもつ。「Gさんには、これからも四国で活躍してもらいたい」と考えた吉津氏は、H社とのマッチングを探る。GさんとH社の経営者が一緒に仕事をしたら、四国に何か良いことが起こる予感がしたからだ。H社の新規事業に潜在的な課題を感じた吉津氏の奔走が実を結び、H社はGさんの必要性を深く理解し、Gさんのさまざまな想いを受け入れた上での採用が決まった。入社以降のGさんの活躍は目覚ましく、短期間で新規事業を軌道に乗せることに成功した。
【40代大手広告会社幹部→有名スタートアップ】高難易度の転職を「志マッチング」で成功に導く
フォースタートアップス株式会社 林佳奈氏
日本では、大手企業の幹部クラスがスタートアップに転職する事例はまだ決して多くない。すべてのスタートアップが成功するわけではなく、確実な未来が見えないためキャリアダウンにつながりかねない。それ故に勇気を持って飛び込む転職者が少ないのだ。林氏はこの稀有な事例を、数々の工夫を重ねて見事成功に導いた。林氏は、いまや数百名規模となった有名スタートアップB社で何年もの間、採用に苦戦していた広報・PRのトップ人材のポジションに、大手広告会社幹部からスタートアップへの「大挑戦」を望んだAさんを紹介した。Aさんは書類選考の条件には当てはまっていなかったが、林氏には勝算があった。AさんとB社の創業者や経営陣は、言葉こそ違うが、ほとんど同じ考えを持っているように思えたのだ。そこで、AさんとB社経営陣に一度会ってもらったところ、すぐに意気投合し、B社の採用意向はあっという間に高まった。最後は、Aさんが得意としている領域での強みを発揮できる肩書きを正式に設け、無事にB社入社が決まった。Aさんはいま、B社の顔として大活躍している。
金賞への講評と特別賞紹介
プレゼンテーション終了後は、休憩中に大賞のオーディエンス投票が行われて、表彰式へ。まずは、事前審査で選ばれた特別賞6組が表彰されました。各受賞者は次の通りです。
【特別賞】
・株式会社アルバイトタイムス 杉山芳規氏・奥山明弘氏
【20代未経験者→ITエンジニアとして就業】2カ月間みっちりの研修受講に伴走して成長を支援、希少な「静岡×IT業界未経験者採用」を勝ち取る
・株式会社エリメントHRC 清水潤次氏
【若手優秀人材を外資系ヘルスケア企業ダイレクター候補に抜擢】求職者の想いに踏み込むヒアリングで、理想のキャリアを叶えるポジションを紹介
・株式会社CXOサーチ 芹澤佳子氏
【40代スタートアップ執行役員→ファンド投資先企業の事業パートナーへ】年収大幅減にもかかわらず、希望ポジションを選択して大きなチャンスを獲得した
・株式会社ファイブセンス 小濵豊弘氏
【47歳専務の初転職】埋もれていたミドル世代に「僕を見つけてくれてありがとう」と言わしめた運命の出会いを創出
・株式会社プロコミット 石居美穂子氏
【30代後半・業界未経験・個人事業主→医療系ベンチャーでフルリモート勤務】未知の医療業界に飛び込みたいという願いを実現した
・株式会社プロフェッショナルバンク 松本和晃氏
【50代経営層人材←キャリア集大成のポストを紹介】最後まで可能性を消さずに待ちつづけて「相性最高のマッチング」を実現
続いて、金賞4組の表彰が行われ、審査員の名波秀哲(株式会社リクルート HRエージェントDivision ビジネスグロース部 部長)からアワード全体と各プレゼンテーションについての講評がありました。内容をご紹介します。
たくさんのエントリー、ありがとうございました。皆さんのエントリー内容を1つひとつ拝見しながら、私はスティーブ・ジョブズの「connecting the dots(点と点をつなぐ)」という言葉を思い出しました。ジョブズは、目の前のことに一生懸命になれば、あとでそれが他の何かと結びつくことがある、と言いました。過去の経験が当時は思いもよらなかったことに活かせる、その結びつけをするのが、人材紹介のコンサルタントの醍醐味なのだとあらためて認識しました。
Tryfunds中村さんの事例はすべてが新しく、私も驚きました。地域企業にとって、副業で起業してビジネスに参画するというあり方はまったくの想定外でしょう。他の地域にもこのあり方を増やせていけたらよいと思います。どうすれば増やせるか、ディスカッションさせてください。
ヒルストン鍛冶さんの事例は、withコロナ時代の新しい様式です。入社をためらう転職者のために、お昼休みにZOOMを介して職場見学を生配信したら、翌日に意思決定いただくことができたという効果が印象的でした。この方法はぜひ普及させましょう。
リージェント吉津さんの事例は、吉津さんの持論に着目しました。潜在ポジション×潜在転職人材のマッチングを実現したわけですが、それにはコンサルタントの持論が必要なのだとよくわかりました。気持ちの良い仕事でした。
フォースタートアップス林さんの事例は、たった1人の入社で企業価値がものすごく上がっている点に注目しました。広告会社のクリエイターが事業会社に転職する事例がだんだん増えていますが、その効果を感じました。求職者の果敢な挑戦を全力で後押しした点も素晴らしいと思います。
大賞受賞者のコメント「エージェントをポジティブな存在にしたい!」
最後に大賞の発表です。大賞は、イベント当日、会場ならびにオンライン視聴による参加者の投票によって選ばれます。今年、見事大賞に輝いたのは、フォースタートアップス・林佳奈氏でした。林さんの受賞コメントをご紹介します。
大賞/フォースタートアップス 林佳奈氏
大賞、ありがとうございます。今回のAさんのように、これから生きざまを仕事に直結する人が増えていくでしょう。そのときに求職者の夢を真に理解し、それを叶えるマッチングができるのは、AIには無理で、人間にしかできないことだと信じています。だからこそ、私は、エージェントとして人と人の間に介在し、ヒューマンキャピタリストとして働いていることを誇りに思っています。
一方、世の中ではまだまだ転職エージェントという仕事に対してネガティブな印象を持たれている方もいらっしゃいます。私はこの現状を変えたい。エージェントを、沢山の方々に必要とされるポジティブな存在にしたいのです。ぜひ皆さんも一緒に、エージェントの存在価値を高めていきましょう!