中途採用でも、企業の採用選考プロセスに、「適性検査」が組み込まれていることがあります。適性検査とはどのような目的で実施され、評価にどのように影響するのでしょうか。今回は、代表的な適性検査「SPI」にフォーカスし、開発元であるリクルートマネジメントソリューションズの測定技術研究所 研究員 新井一寿さんにお話を伺いました。
適性検査(SPI)とは?
企業が採用選考を行うにあたり、「応募者の能力」や「人物特性」を理解する目的で、中途採用でも適性検査を実施することがあります。適性検査にはさまざまな種類がありますが、もっとも多く利用されている検査の一つが「SPI」です。年間1万3600社に利用され、年間207万人が受検しています(2021年度実績)。
SPIの検査は、多くの場合「能力検査」「性格検査」がセットで実施されます。企業や採用ポジションによっては「英語能力検査」が追加されることもあります。
能力検査
業務を遂行するうえで必要となる、基本的な知的能力を測る検査です。言葉の意味や話の要旨を的確に捉えて理解する力を測る「言語分野」、数的な処理や論理的な思考力を測る「非言語分野」の2種類の問題があります。コミュニケーション力、思考力、新しい知識・技能を習得するベースとなる能力などを測定します。
性格検査
日ごろの行動や考え方に関する質問を通じ、どのような人物なのか、どのような仕事に向いていそうか、自社の組織風土になじめそうか…などを検討するための材料とする検査です。日常の行動や考え方について複数の質問項目が提示され、「どの程度自分にあてはまるか」を選びます。
SPIは新卒採用で実施されるイメージを持たれていますが、中途採用にも導入されています。執行役員や本部長クラスの採用、あるいは経営トップの人脈を通じた採用などの場合は、実施されないこともありますが、採用プロセスにSPI実施を組み込んでいる企業の場合、マネジャークラスやミドルシニア層であっても、企業の選考ルールにのっとって検査を行うケースが多数見られます。
適性検査の実施方法とタイミング
SPIの実施方法は、企業によって異なります。適性検査の種類とタイミングについて解説します。
適性検査の種類と実施方法
SPIの受検方法には以下の4種類があります。
(1)Webテスト
インターネット環境に接続できるパソコンから受検する形式。企業から指定された期間内に、自分の都合のよいタイミングで、自宅などのパソコンから受検する。
(2)ペーパーテスト
応募企業が用意した会場で、紙のテスト用紙を使い、マークシートで受検する形式。
(3)応募先企業内のパソコンで実施
応募先企業内のパソコンで受検する形式。一次面接と同日に実施する企業も多い。その場で結果が出て面接に使うことができるので、企業にも応募者にも効率的である。
(4)テストセンターで実施
リクルートマネジメントソリューションズが準備する専用会場のパソコンで受検する形式。指定された受検期間内で、自分の都合に合わせて日程・会場を予約。自宅のパソコンかスマートフォンで性格検査を済ませた後、会場に足を運んで能力検査を受検する。
なお、基本的なSPIの回答時間は、パソコン受検は能力検査と性格検査を合わせて約65分、マークシート受検は110分です。
適性検査を実施するタイミング
中途採用選考にSPIを組み込んでいる企業の場合、一次面接の前、あるいは一次面接と同日に実施することが多いようです。Web上で受検する場合は一次面接前、応募企業でペーパーテストの形式で受検する場合は一次面接と同日――といったように、受検方法によっても実施タイミングが異なります。
転職で適性検査(SPI)を実施する理由・企業側のメリット
中途採用の選考で適性検査を実施する理由、あるいは活用する企業側のメリットとして、次のようなことが挙げられます。
評価のばらつきを抑え、入社後のミスマッチを防ぐ
中途採用においては、これまでの仕事の経験、身につけたスキルを重視して選考を行います。しかし、新卒採用と比較すると選考期間が短く、限られた時間の中で応募者の「人となり」まで深く理解することは困難と言えます。人物像をつかみきれなかった結果、入社後に組織風土になじめず、早々に辞めてしまうケースも多々あります。また、面接担当者の主観が影響したり、応募者自身のプレゼンテーション力に差があったりすることも、評価にばらつきを生じさせます。
そこで、応募者の能力・性格の特性を客観的指標で把握し、採用ポジションや社風にマッチしているかどうかを判断するための材料として、SPIなどの適性検査を選考に取り入れているのです。
面接時間を有効に活用できる
1時間程度の面接時間を有効に使うため、SPIの結果を踏まえ、応募者への質問内容を事前に準備する面接担当者もいます。SPIの結果は、数値化された情報をベースに、面接で確認しておきたいポイントや具体的な質問例も提供されています。面接担当者はそれを活用し、気になるポイントを面接の場で深掘りしているのです。また、検査結果に表れた人物像と、実際に会って対話した印象にギャップはないかを確認しているケースもあります。
入社後のフォローに活用できる
選考にかぎらず、入社後のフォローのためにSPIを活用する企業もあります。即戦力となり得る能力を評価されて入社した人であっても、新たな組織のルール、仕事の進め方、文化などになじむには、一定の期間がかかるものです。そこで、入社者と一緒に働く上長やメンバーにもSPI結果を共有しておくことで、その人への理解が深まり、質の高いコミュニケーションが可能になるというわけです。
合否にはどのように影響する?
中途採用において、SPIは、面接の場で応募者を理解するための「参考資料」として利用されることが多いようです。SPIの結果そのものを評価するというより、それをベースに面接で質疑応答を行い、その結果の総合判断によって合否が決定されます。
ただし、最終的な採用候補者が複数いて迷った場合、「同じ基準で客観的に比較できる指標」としてSPIの結果が考慮されることもあるかもしれません。
適性検査(SPI)の準備方法
応募先企業でSPIが実施される場合、どのような準備をすれば良いのでしょうか。次の方法を参考にしてください。
能力検査の準備
能力検査は、付け焼刃で準備を行っても、得点結果はほとんど変わらないことが実証されています。問題を正しく理解し、処理することが求められるテストだからです。重要なのは、本番で実力をしっかりと発揮できることです。そのためには、本番の緊張をやわらげるため、テストの進め方に慣れておくといいでしょう。
パソコンでの受検では、「手元で計算して画面上で答える」「次に進むと前の画面には戻れない」など、進め方にルールがあります。「説明画面」や「練習画面」が用意されていますので、本番前に体験しておくと、当日スムーズに進めやすくなります。また、出題内容を全く知らないと、本番で焦ってしまう可能性があります。どのような問題が出るのか、どのような感覚で解いていくのかを事前に確認しておいてはいかがでしょうか。
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性格検査の準備
性格検査に関しては、準備は特に必要ありません。あまり考え過ぎず、正直に回答することが大切です。類似の質問が何度も出てくるため、「答えが矛盾すると、不信感を抱かれるのでは?」と思う方もいるようですが、心配はいりません。一つの性格特性について、表現を変えながら多角的に質問することで、その特徴の強さを精度高く測定するため、こうした手法がとられているのです。回答がぶれるのはよくあることなので、気にしすぎず、直感的に答えていってください。
仮に、応募企業が求める人材像に合うように回答をとりつくろったとしても、面接の場で、回答内容と実際の人物像とのギャップが表れてしまいます。そうなると、むしろ面接担当者に疑念を抱かれてしまうかもしれません。採用に至っても、職務内容や組織風土になじめず、苦労することになる可能性もあります。
等身大で回答しよう
SPIの目的は、学歴などの属性にとらわれず、一人ひとりの人物特性が理解され、「個を活かす」採用選考を実現するところにあります。性格検査で、自分を良く見せたいあまり、日頃の考え方や行動とは異なる回答をすると、本来ならマッチしている業務や組織に対して、「適応しにくい」という検査結果が出てしまう可能性もあります。逆に、本来は苦手とするような業務や組織が「適応しやすい」と判定されるかもしれません。事実を曲げた検査結果を参考にして採用・配属が行われた結果、入社後に成果を出せず、本人にとっても企業側にとっても不幸な結果となってしまう恐れがあります。
応募先の企業に入社して長く活躍していくためには、SPIに対して「ありのまま」のスタンスで向き合いましょう。「SPI」について、さらにくわしく知りたい方は、下記サイトを参照ください。新卒向けの情報サイトですが、SPIをより深く理解できる情報が紹介されています。
新井 一寿(HRアセスメントソリューション統括部 測定技術研究所 研究員)
2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。採用領域のアセスメントや従業員向けサーベイの研究・開発に携わる。その後SPIのコールセンターやテストセンター運営・採点物流のマネジメントを経験し、2017年より現職。SPIをはじめとする適性検査の開発・品質管理や心理測定技術に関する研究を担う。
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