今の会社で活躍したり評価されている人の中には、「いつかは転職」と思いながらも、ついタイミングを逃してしまうケースが少なくないようです。ベテランヘッドハンターとして多くのマッチングを成功させてきたプロフェッショナルバンクの鶴谷宣幸氏に、転職のタイミングに対する考え方や、タイミングを見極める方法などについて伺いました。
目次
転職のベストタイミングがわかる「2つの兆し」
――「転職にベストなタイミング」はどんなときでしょうか?
私が考えるベストな転職タイミングは「現職に対して違和感を覚えたり、疑問を抱いたりした」とき、もしくは「転職サービスのCMなどを見たときにふと興味を覚えた」とき。いずれも、ご本人が気づかないうちに転職意向が芽生え始めていると推察されるので、転職“活動”を開始するベストタイミングだと思われます。
転職には多少なりともリスクが伴いますが、「転職活動」自体にリスクはありません。自分にとってのベストなタイミングを見逃さないためにも、実際に転職するかどうかは別にして、まず一歩踏み出してみてほしいですね。
――具体的にはどんなことから始めればいいのでしょう?
仕事やキャリアに対する自分の思いに向き合ってみましょう。現職に違和感を覚えたのであれば、どんなところに違和感を覚えたのか深掘りしてみたり、CMが気になったのであれば、なぜ気になったのか自問自答してみたりするといいでしょう。
そのうえで現職の満足度は10点満点中何点なのか、点数を付けてみるのがお勧め。もし6点だと思ったら、足りない4点は何なのか具体的に理由を挙げてみることや、仕事において「一番重視したい項目」は何かを考えることで、仕事やキャリアに求めているものが明確になります。
同時に、これまでの自分の経験を振り返り、キャリアの棚卸しをするのも重要です。自身の強みを理解した上で、できること・できないこと、目指したい方向性、今後と仕事人生をどう過ごしたいのかなどをじっくり考えてみましょう。
そのうえで、我々のような転職エージェントをうまく活用してもらえればと思います。
自身に向き合うことで洗い出した仕事やキャリアに対する思いや考え、今後の目標、強みなどをお話しいただければ、転職市場での市況感を踏まえつつ、さまざまな可能性をご提示することができます。もちろん、ともにキャリアを振り返り、棚卸しをサポートすることも可能です。
そして、ご紹介した求人の中からもし気になる企業に出会えたら、試しに選考を受けてみて現職と応募企業とを比較してみることをお勧めします。例えば年収、ポジション、仕事のやりがい、会社の将来性など、転職の際に重視する項目をいくつか挙げてそれぞれの点数を付け、「総合点」と「一番重視したい項目」の点数を比較するといいでしょう。その結果、応募企業の点数のほうが高ければ、そのときが転職のベストタイミングと言えます。
「年齢」や「時期」だけではタイミングは測れない
――ビジネスパーソンの中には「年齢」や「時期」でタイミングを計る人もいるようです。
年齢や時期的要因は、あまり関係がないと思います。
「ボーナスをもらった直後にやめるのがベストタイミングではないか」という方は多いですが、例えばボーナス直後を重視するあまり、自分に合った求人を見送ってしまうのはもったいない話。長い目で見れば、「1回のボーナスを満額もらうか否か」の影響は軽微ですし、新しい会社に早く移ったほうが給与アップや賞与増が期待できるかもしれませんので、中長期的な視点で判断されたほうが良いと思います。
「20代のうちに転職しなければ」「35歳までに転職しなければ」など、年齢の節目で転職を考える方も非常に多いですが、年齢によって求められる役割が変わってくるので「若ければいい」というわけでもありません。35歳を過ぎても、40代、50代になっても、その年代ならではのニーズがあります。
私のこれまでの経験では、「35歳転職限界説」を信じているのは、特にメーカーの技術職の方に多いという印象です。確かに35歳を過ぎると「現場の若手技術者」としての働きは求められなくなるかもしれませんが、逆に「現場を良く知るマネジメント層」としての活躍が期待されるようになるので、求人ニーズ自体がなくなるわけではありません。我々のような転職エージェントを活用しつつ、転職市場の動きと自身の意向を考えながら、今動くべきか、中長期的に動くべきか、自分にとってのベストタイミングを計ることが大切だと考えています。
差し迫った状況になってからの転職はお勧めできない
――逆に、ヘッドハンターとして「お勧めできない転職タイミング」というものはありますか?
現職への不安や不満がピークに達した段階で、転職活動を始めることですね。差し迫った状況に陥ってから転職活動を始めると、焦って判断を誤る恐れがあるからです。
先日、大手企業にお勤めの50代の方が、「勤務先の業績が悪化し投資ファンドに事業譲渡されることになり、早期退職することになった」ことを機に相談に来られました。ご本人は「大手で経験を積んできたのだから、どこでも行けるだろう」と楽観視されていましたが、大手ならではの縦割りの組織の中、担当されていた業務の範囲が非常に狭い一方で、給与水準は高いため、多くの選択肢を提示することができませんでした。
結局、ほかのエージェント経由で転職されたそうですが、年収は大幅に下げざるを得なかったとのこと。「退職日が迫っていたので、少ない選択肢から消去法で決めるしかなかった。もっと早く、転職市場や自分の市場価値について調べておけばよかった」とおっしゃっていました。
「今は特に転職を考えていない」という方も、日常の中で感じたちょっとした違和感や疑問を軽視しないでほしいですね。まずは情報収集だけでもいいので、気負わず転職活動を始めてもらえたらと思います。
タイミングをつかむには、プロを活用した「定期的な棚卸し」が有効
――これまで鶴谷さんが関わった中で、「ベストタイミングな転職だった」と思える転職事例を教えてください。
先日お手伝いさせていただいた50代の方の事例が心に残っています。
その方は40代の時に6年間、機械メーカーの海外拠点統括責任者として中国に赴任されていました。海外赴任を終えて日本に帰任したものの、また海外で働きたいとの思いが強く、「転職市場の市況感を教えてほしい」とアプローチしてくれました。
ご本人は「60歳になって定年した後に、再び海外赴任に挑戦できれば」と思っておられましたが、60歳ということは今から5年以上先。「60歳で転職活動をするとなると、海外赴任経験では10年近くブランクが空くことになる。ブランクが空くことにより即戦力としてのニーズが減ってしまうので、動くならば定年後ではなく今すぐのほうがいい」とお伝えしました。それならば…とすぐに転職活動を始めてくださり、先日とあるメーカーとご縁をつなぐことができ、中国事業責任者として着任されました。転職エージェントをうまく活用いただいたことで、いいタイミングを提供できたのではないかと嬉しく思っています。
――ベストなタイミングで転職するために、普段からやっておいたほうがいいことがあれば教えてください。
転職意向に関係なく、定期的なキャリアの棚卸しはしたほうがいいと思います。現状に満足していて今はまだ転職を考えていなかったとしても、現在何ができて何ができていないのか、今後どんな仕事がしたいのか、この先のキャリア人生をどう考えているのか、自分に向き合い考えてみてほしいですね。
自分ができることを改めて認識することで、強みをさらに強化するべく努力できるようになりますし、できないことを認識することで「足りないところを伸ばそう」と意識できるようになります。そして今後どんな仕事がしたいのか、キャリア人生をどう歩んでいきたいのかを考えることで、次のステップが明確に見えてくると思います。
定期的に棚卸しを行っておけば、いざ転職活動を始めることになったとき、応募書類の作成や面接での自己アピールなどに即役立ちます。
将来を見据えて転職エージェントとつながっておくのもお勧めです。定期的にコミュニケーションを取ることで、転職市場の動向や自身の市場価値を定点観測することができます。お会いするたびに、プロからみた「転職市場で高く評価されるスキルセット」をタイムリーにアドバイスすることもできるので、将来に備えて摘むべき経験、鍛えるべきスキルがつかめるのもメリットだと思います。
株式会社プロフェッショナルバンク
鶴谷宣幸 氏
大学卒業後、自動車部品メーカーに入社。製造・生産技術・購買と様々な視点から、ものづくりに携わる。その後、電子部品メーカーに移籍。営業職として自動車業界を中心に、建機、産機、電機、医療機器、住設業界のクライアントを幅広く担当。
プロフェッショナルバンク参画後は、メーカー技術職、専門職、営業職のミドルマネジメント層を中心としたヘッドハンティング案件を担当。現在は業種・職種を問わず西日本エリア(関西・中国・四国・九州)の案件を担当。
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