金融業界のトレンドとは?求人ニーズと働く魅力も紹介 

金融業界

金融業界のトレンドと現在の採用動向について、金融業界に詳しい日本総合研究所の郷原陸氏が解説します。金融業界に興味があり業界動向を知っておきたい人や、どんな分野で求人ニーズが高いのかつかんでおきたい人は、ぜひご一読ください。

金融業界は変革期の真っ只中。「フィービジネス」へのシフトがカギに

金融業界とひと口に言っても業態は非常に幅広く、メガバンクを含む都市銀行や地方銀行、生命保険・損害保険、証券、フィンテックなどさまざまです。

業態ごとに業務内容や役割は異なりますが、共通しているのは、いわゆる「貸金業」など伝統的な金融事業からの脱却を目指しているということ。

日本では、長らく超低金利が続いています。足元では上昇の兆しがあるものの、特に銀行では「預金や融資で利ザヤを稼ぐ」という従来型のビジネスモデルでは十分な利益が確保できないとの危機感が強まっています。そのため銀行をはじめ金融業界全体が、いわゆる「お金がお金を生む」ビジネスモデルからの脱却を目指しています。

現在、各社が注力していることの一つが「フィービジネス」。フィービジネスとは、金融関連のサービスへの対価として手数料を得る業務のことを指します。例えば、メガバンクでは決済用のインフラ提供に力を入れ、地銀では事業継承などのコンサルティング業務を強化するなど、サービス提供で手数料収入を伸ばそうとしています。つまり、「お金がお金を生む」ビジネスの比重を下げ、「人が稼ぐ」「仕組みが稼ぐ」という方向にシフトしつつあるのが、金融業界ならではの特徴的な動きです。

金融業界の今後を示すキーワード

今後の金融業界を予測するうえで重要なキーワードをいくつかご紹介します。いずれも求人需要が高まると予想されるキーワードなので、金融業界に興味のある方はぜひ参考にしてみてください。 

エンベデッド・ファイナンス

Embedded Finance(エンベデッド・ファイナンス)とは、私たちが日々利用している非金融事業者のサービスの中に、決済サービスを埋め込むこと。 

例えばタクシー配車アプリでは、事前にクレジットカード番号などを設定しておくことで、アプリ内で決済することが可能ですが、これは金融機関がAPI(ソフトウェアを共有するインターフェース)を通じて決済サービスを提供することで成り立っています。そして利用者が決裁するたびに、金融機関にも手数料が入る仕組みになっています。 

近年、小売りやITサービスなどさまざまな分野で、このような「お財布不要」の決済サービス導入が進んでいるため、特にメガバンクではエンベデッド・ファイナンスの基盤やAPI提供に力を入れています。 

このようなビジネスがさらに拡大すれば、利用者の支払いデータが蓄積されるため、そのデータをフィンテック(金融サービスと技術を結び付けた商品やサービス)ビジネスにつなげる動きも出始めています。 

AI・業務自動化によるコンサルティングシフト

かつての金融業界は、事務作業が多いのが特徴でした。例えば銀行では窓口での口座開設、入出金・送金業務、保険であれば顧客への商品紹介や見積もり・契約書などの作成、保険の支払い対応など、あらゆる業務で事務作業が発生していました。 

しかし、これらの事務作業をIT化することで効率化し、人材を営業職に再配置する動きが本格化しています。そして既存の営業担当者は、財務分析能力などのスキルをさらに磨き、法人顧客の経営全般に対する支援や、個人の人生設計全般に関する支援を行うなど、コンサルタント化を進めています。 

例えば、地銀では中小企業の事業承継やM&Aなどの案件獲得を積極化しています。前述のエンベデッド・ファイナンスなどの金融インフラは、規模と資金力の勝負になるため、これまで各店舗に所属していた行員を再配置することで、「人の力で手数料を稼ぐ」ビジネスモデルへのシフトを図っています。 

サステナブル対応 

企業のサステナブル経営や、サステナビリティに関する取り組みを支援する「サステナビリティビジネス」に力を入れる金融機関が増えています。 

脱炭素化などサステナビリティに対応しなければならないが、具体的な方法がわからないという企業は少なくありません。例えばメガバンクでは、企業のデータを分析・診断したり、助言を行ったりしながら、社会・環境課題の解決につながる取り組みに対してグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンといった融資を行っています。 

また、預かった資金を環境分野のプロジェクトに融資する「グリーン預金」にも注力しており、サステナブルに関する知識や経験を持つ人を採用する動きが年々拡大しています。 

海外進出 

銀行や証券などにおいては、顧客である企業のビジネスが拡大しないことには、投資需要も生まれずビジネスチャンスも広がりません。しかし、マクロで見れば国内での収益拡大は早晩頭打ちになることが見えています。 

そこで各社とも、海外展開を成長戦略の1つに据えています。特に成長が期待されるアジア圏において、現地の金融機関と提携するなどして基盤の強化を図り、新たな収益柱を模索する企業が増えています。 

金融業界で今拡大している求人ニーズとは?

金融業界は、あらゆる業界の企業を顧客に持ち、事業のすそ野も広いのが特徴。1つの分野でなんらかの専門性を磨いた人であれば、それをフックに活躍できるフィールドを見つけることができるでしょう。そのため、業界未経験者にも広く門戸を開いているのが特徴で、実際さまざまな業界出身者が活躍しています。 

その中、いま金融業界で特に高まっている採用ニーズをご紹介します。 

IT技術者 

まず挙げられるのは、IT業界出身の技術者。特にメガバンクにおいては、前述のエンベデッド・ファイナンスや業務自動化など、IT知識が求められる場面が多いのが特徴。エンベデッド・ファイナンスに必要なAPIやプラットフォームでいえば、上流工程でシステム戦略を描ける人はもちろん、実際に手を動かしてアプリやインフラを開発する人や、社内でAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)化を進める人材も必要とされています。 

生・損保も同様で、例えば自動車保険ではドライブレコーダーのデータを解析して保険料率に反映するなど、IT・デジタルに関する知識が求められる場面が増えています。 

そのため知識と経験が豊富な技術者は取り合いになっており、各社とも社内で育成しつつ、中途採用にも力を入れています。 

フィンテック系は当然、IT知識がある人が中心になりますが、データサイエンス系、AI系の経験者は採用ニーズが高い状態にあります。 

幅広い知識を持つゼネラリスト

一方で、幅広い知識を保有するいわゆるゼネラリストも、ニーズが高い傾向にあります。顧客に対するコンサルティングでは、金融や財務に関する知識をもとに顧客とコミュニケーションを取りながら、ニーズを引き出しさまざまなサービスを提案することが求められます。したがって、大手企業の総合職として複数業務を経験した人や、顧客の経営課題にコミットしてきた営業経験者などは、活躍しやすい土壌があります。 

フィンテック企業でも、技術者以外のゼネラリスト採用に注力する動きが出ています。急成長中のスタートアップ企業が多いので、中堅以上の企業で社内の仕組みを整えた経験がある人や、新たなビジネス開発に関われる事業開発・事業企画経験者は求められる傾向にあります。 

専門知識を保有するスペシャリスト 

海外進出の強化に伴い、海外M&Aやグローバルコンプライアンスなどの知見を持つ人や、サステナブルビジネス強化に伴う脱炭素化やサステナビリティ推進に関わった経験のある人など、注力テーマに沿った専門知識を持つ超スペシャリストのニーズは引き続き旺盛です。経験者が少ない分野だけに、「高い報酬を用意してでも採用したい」と考えるメガバンクや生損保は多いようです。

金融業界で働く魅力・メリット 

事業変革期にある金融業界では、若手の登用や賃上げにも積極的。メガバンクでは、ここ数年で各社とも初任給を引き上げ、地銀でも30代で支店長に抜擢するなど、重要ポストでの若手登用の動きが活発化しています。したがって、特に意欲ある若手には活躍の場が広がっていますし、給与面も充実しているのがメリット。そして資金が潤沢なので、変革期に大きなチャレンジがしやすい点も魅力と言えます。 

IT技術者にとっても、魅力的な環境が広がっています。世界的な最先端技術が真っ先に導入されるのが金融システム。資金力をベースに最新技術を駆使しながら大きなプロジェクトに関われるのは、金融業界ならではだと思われます。 

そもそも、日本経済の根幹を担う金融業界には、意識の高い優秀な人材が集まりやすい傾向にあります。そういう人材に揉まれ、刺激を受けることで、仕事へのモチベーションも高まるでしょう。 

もしも将来、再び事業会社に転職する場合も、金融業界で得たスキルや経験、ファイナンスに関する知識は役に立つ場面があるはず。総合的に見て、異業界からの転身がしやすく、事業変革でチャレンジの場が広がっている金融業界は、働くメリットが大きいと考えられます。 

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監修

郷原 陸氏

中小企業診断士。一橋大学商学部経営学科卒業・同大学院商学研究科経営学修士課程修了後、現職。メガバンクや地銀、生損保などの金融業界、および産業機械・電子機器や部品等の製造業を中心に、経営戦略・事業計画策定や新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。