年収とは?手取りや所得との違いや計算方法を解説 

転職活動では、前職や現職の「年収」を聞かれることがよくあります。このとき、自分の年収を把握していなかったために、誤った金額を伝えてしまうと、内定後にトラブルになる可能性もあります。そこで今回は、社会保険労務士の岡佳伸氏と、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が、「年収」に含まれるものの内容や、混同しやすい「手取り」「所得」との違いなどを解説します。また、年収から手取り額を計算する方法も紹介します。

年収とは?

「年収」とは、年間の収入の総額のこと。一般的には、所得税や住民税といった税金や、健康保険料・介護保険料、厚生年金保険料や雇用保険料などの社会保険料が差し引かれる前の「年間の総支給額」を指します。「税込年収」「額面年収」と呼ぶこともあり、この場合も「年収」と同義となります。転職活動において、前職・現職の年収や、希望年収を尋ねられたときは、この「年間の総支給額」を伝えます。 

また、応募先の企業が提示する年収を検討する際には、残業代や住宅手当など、どのようなものが含まれているかを把握しておくことも重要です。企業が提示する「年収」に含まれるものと含まれないものは、下記の通りになっています。 

年収に含まれるもの

「月20時間分」などあらかじめ決められている固定残業代、あらかじめ決められている休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当などは、年収に含まれます。 

年収に含まれないもの

基本的に、従業員が一時的に立て替える性質のもの、あらかじめ想定されていない手当は含まれません。したがって、固定されていない残業代や休日出勤手当、通勤手当や転勤・出張の旅費として支給されるもの、宿直や日直手当、社内規定に準じて支払われる慶弔金などは、含まれません。 

年収と手取りの違い

収入に関して、年収とともに「手取り」という言葉もよく耳にします。それぞれの違いについてご紹介します。 

手取りとは手元に入ってくる金額

「手取り」とは、手元に入ってくる金額のこと。所得税・住民税といった税金や、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料といった社会保険料などが差し引かれた後、実際に銀行口座などに振り込まれる金額と考えればよいでしょう。さらに会社が独自に規定した積立金や親睦会費なども差し引かれた額となっているケースもあります。つまり、「手取り」は「年収」よりも低い額となるのです。 

したがって、応募先の企業が提示する年収を検討する際には、実際に自分が受け取る「手取り」の金額も、想定しておくことが大切です。 

手取りは年収×0.81~0.75で概算できる

「年収」から「手取り」の金額をおおまかに把握したい人は、下記の計算方法を参考に、概算するとよいでしょう。 

<計算方法>

「年収」×0.81〜0.75÷12(カ月)=「手取り」の金額 

(※ボーナスを考慮しない場合)

扶養家族がいない場合、「手取り」として手元に残る金額は、一般的に「年収の約8割」となっています。扶養家族がいる場合は、扶養控除が適用されるのでこの限りではありません。 

さらに、日本の課税制度は、年収が高くなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みとなっているため、年収が上がるほど手取り額の割合が少なくなるのが一般的です(地域によって異なる場合もある)。したがって、年収に応じた割合で計算することで、より現実的な手取り金額を算出できるでしょう。下記を参考に計算してみましょう。なお、下記は勤務先が東京都の場合ですが、他の都道府県の場合も、割合は1%程度の違いにとどまります。 

<計算に使う“年収別”の数字の目安>

・年収600万円まで「8.1割(×0.81)」
・600万~800万円「8~7.9割(×0.8~0.79)」
・800万~1000万円「7.8割(×0.78)」
・1000万~1500万円「7.7~7.6割(×0.77~0.76)」
・1500万円「7.5割(×0.75)」

※東京都内(健康保険は協会けんぽ東京支部に加入)勤務、40歳(40歳以上のため、介護保険料負担分を含む)、扶養家族なしの場合

※上記計算に住民税は考慮していません。住民税を給与から天引き(特別徴収)される場合は前年の所得によりますが上記計算よりも4%~6%低い数字になります。

年収と所得の違い

収入に関しては「所得」もよく聞く言葉です。「年収」と「所得」とは、どのように違うのでしょうか。 

所得とは収入から給与所得控除額を引いた金額 

「所得」は、「年収」から、必要経費を引いた金額を指します。ただし、会社員の場合は、必要経費などの控除が受けられないため、代わりに「給与所得控除」という制度が設けられています。給与所得控除の額は、年収に応じて定められており、年収から給与所得控除額を引いたものが、「所得」になります。 

所得額は源泉徴収票などで確認する

年間の所得額は、勤務先から受け取った源泉徴収票に記載された「給与所得控除後の金額」で確認できます。国税庁のサイトの給与所得控除ページには、年収(給与収入)を入力することで、所得(給与所得)が計算できるツールもあります。 

年収の確認方法

応募先企業から前職や現職の年収を尋ねられた際は、どのようにすれば、年収の額を正確に把握することができるでしょうか。 

源泉徴収票を確認する 

前職・現職の会社から交付された源泉徴収票の「支給額」欄に書かれた金額が、「総支給額=年収」となります。源泉徴収票は一般的に、その年の12月〜翌年1月に交付されます。紛失した場合は、前職の会社、現在の勤務先に再発行の手続きを依頼するとよいでしょう。給与明細などをシステム上で確認できる会社の場合は、源泉徴収票をダウンロードできる可能性もあります。 

給与明細を確認する

毎月の給与明細から年収額を算出するためには、各月の「総支給額」や「支給額合計」の欄に記載されている金額を合算します。1年分の総支給額が年収となります。 

確認できないときの年収の計算方法

応募先企業に年収を尋ねられた際、前職や前々職など、過去にさかのぼって答えなければならない場合、源泉徴収票や給与明細を紛失するなどして手元になく、退職した会社には再発行を請求しづらいケースもあるでしょう。そのような場合は、市役所や区役所など、市区町村の役場から「所得証明書」「課税証明書」を取り寄せることも可能です。 

なお、応募先企業から、前職・現職の年収を証明する書類の提出を求められるケースも少なからずあります。そのようなケースでは、各年の源泉徴収票や、一定期間分の給与明細、市区町村の「所得証明書」「課税証明書」のいずれか、あるいはすべてを提出することもあります。そのため、年収を尋ねられた際は、こうした記録と齟齬が生じないよう、きちんと確認しておく必要があるでしょう。 

また、源泉徴収票が渡される前に現職の年収を知りたい場合は、下記の要領で給与明細から概算することも可能です。 

賞与なしのときは、月給×12カ月

賞与が支給されていない場合は、月給のみから年収額を計算します。給与明細にある「支給額」の合計が月給に相当します。所得税・住民税などの税金、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などの「控除分」を差し引く前の額となるので、注意しましょう。12カ月分の給与明細がそろわなければ、手元にある分の平均支給額を12倍するという方法もあるでしょう。 

賞与ありのときは、月給×12カ月+賞与

賞与が支給されている場合は、月給の総支給額にすべての賞与額も加えた合計が、年収となります。賞与も同様に、税金や社会保険料などの「控除分」を差し引く前の額となります。 

年収に関するQ&A 

年収にはインセンティブや歩合給なども含まれている?

インセンティブや歩合給は、実績に応じて支給されるものなので、応募先企業が提示している年収には基本的に含まれていません。インセンティブや歩合給の金額が示されていたとしても、あくまでも概算額でしかないので、実際には、入社後の実績次第となるでしょう。一方、企業に前職・現職の年収を尋ねられた際には、インセンティブや歩合給を含めた実績の金額を答えましょう。 

「年俸」とはどう違う?

「年俸」とは、雇用契約によって1年単位で支払われる「給与形態」であり、1年間に支給される給与の総額である年収とは、そもそもの概念からして異なります。したがって、企業が「年俸」を提示する場合は、向こう1年間の給与を定めるという年俸の性質上、事前に見積もることが不可能な残業代や、前年実績や勤務成績などに応じて額が定められる賞与は含まれていないのが一般的です。ただし、固定残業代など時間外の手当があらかじめ示されているケースにおいては、これらも年俸に含まれていると考えてよいでしょう。 

募集要項に書かれた年収額は必ず支給される?

募集要項の情報は、求人に記載されている業務内容や給与、勤務時間などに基づいており、「想定年収1000万円」「給与例/1000万円」「40歳Aさんのモデルケース/800万~1000万円」などと提示されている年収額は、あくまでも想定上のものとなります。一方、入社後、実際に支給される額は、労働条件通知書によって通知され、雇用契約書で交わした契約に基づくため、必ずしも募集要項に呈示された額が支給されるとは限りません。 
 
募集要項に提示された年収額と、労働条件通知に示された年収額が大きくかけ離れているなど、疑問が生じた場合は、その理由を先方の人事担当者に確認したうえで、提示された年収額を承諾するかどうかを検討するとよいでしょう。入社後の年収については、選考を通じて伝えられることもあります。転職エージェントやスカウトサービスを利用している場合は、担当者を通じて交渉するという方法もあるでしょう。 

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監修

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

アドバイザー

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。