
20代後半での転職を実現させるには、どのようなことに留意して転職活動を進めるとよいでしょうか?転職市場の現状や企業の期待、転職を実現させるためのポイントなどを組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
20代後半の転職市場の現状
まずは、20代後半の転職市場の状況を、転職率、転職先の業種・職種、年収の変化の3つの観点から紹介します。
20代後半の転職状況
厚生労働省「雇用動向調査」によると、2023年の一般労働者の転職入職率(※1)は8.5%。性別・年齢別に見ると、25〜29歳においては男性が13.4%、女性が14.5%で、20代前半によりは低く、30代前半よりは高い状況です(図1)。
図1 年齢別転職入職率(一般労働者、2023年)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf
また、2024年7月~12月の間にリクルートエージェントを利用して転職が決まった登録者の年齢分布を見ると、25~29歳は35.38%と最も高い割合でした(※2)。これらから、20代後半は他年代と比較すると相対的に転職を実現する人が多い年代であることが分かります。
(※1)出典:「令和5年 雇用動向調査結果(入職と離職の推移)表3 性・就業形態、職歴別入職者数及び入職率」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-01.pdf
(※2)出典:「リクルートエージェント 転職データライブラリ(転職者の平均年齢)」(株式会社リクルート(現:インディードリクルートパートナーズ))
https://www.r-agent.com/data/market/age/
転職先の業種・職種
次に、どのような業種・職種に転職しているか見てみましょう。『リクルートエージェント』の転職者分析(2013年度~2022年度)(※3)によると、2022 年度にリクルートエージェントを利用して転職が決まった登録者の業種・職種の異同パターンは、25〜29歳においては、「異業種×異職種」が42.8%と最も多く、次いで「異業種×同職種」(30.1%)、「同業種×同職種」(16.1%)、「同業種×異職種」(11.0%)の順でした(図2)。8割を超える人が、業種または職種、あるいはその両方を変えての転職を実現しています。
図2 【年齢別】転職時の業種・職種異同のパターン別割合(2022年度)

https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20231129_hr_01.pdf
年収の変動状況
次に、転職前と転職後の年収の変化について見ます。厚生労働省「雇用動向調査」によると2023年1年間の転職入職者(パートタイム労働者等も含む)のうち、25〜29歳の賃金変動状況は、前職の賃金に比べて「増加」した割合が44.4%、「減少」した割合が22.3%、「変わらない」が32.4%となっています(※4)。約77%が、年収を維持または増加させる形で転職を実現していました。なお、「増加」のうち「1割以上の増加」は29.7%でした。
(※4)出典:「令和5年雇用動向調査」転職入職者の賃金変動状況別割合(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf
企業が20代後半に期待するもの
他年代と比較して異業種や異職種への転職、年収アップなどを実現しやすいと考えられる20代後半。採用方針や求人内容によって、企業が期待するものも異なります。一例を紹介します。
成長可能性
20代後半は、「ビジネスの基本が身に付いており、かつ、新しい仕事や組織に適応できる柔軟性もある」と考えられている年代であることから、「ポテンシャルに期待して、これから育成する」という方針の採用においてもターゲットとなるでしょう。
この場合、ポテンシャル(基礎学力や素養)やスタンス(仕事に対する価値観や考え方)が自社の業務に適しているかという点が注目される傾向にあります。そして、スキルに関しても、テクニカルスキルよりもポータブルスキルが求められる傾向があります。例えば、課題を明らかにして考え抜く力、計画を立てて実行する力、上司からの指示への対応力、提案力など、自身の業務を遂行する上で必要な基本的な能力が求められるでしょう。
即戦力としてのスキル・経験
他方で、「即戦力としての活躍を期待する」という方針の採用においても、20代後半はターゲットとなります。この場合、募集職種に関する一定のスキルや経験、実績が求められる傾向にあります。
リーダー経験
「成長可能性」や「即戦力」への期待のほかにも、リーダーやマネジャー候補として期待する求人も多数あります。この場合、後輩を指導・育成した経験やチームマネジメント経験、小規模でもプロジェクトマネジメントを行った経験などを確認される傾向にあります。
20代後半の転職を実現させるためのポイント
先述したように、20代後半の求職者に対して企業が期待するものは、求人内容によって異なります。この点をふまえると、20代後半の転職を実現させる上でのポイントや留意点として次のようなものが挙げられます。
働く上で大事にしたいことを改めて整理する
今後、30代、40代、それ以降とキャリアを重ねていくことをふまえると、20代後半からは、将来目指したいキャリアを明確にし、その実現に向けてさらに経験・スキルを積んでいくことが重要と言えます。そのために、まずは自己分析をして、自分が仕事を通じてどのようなことを実現したいのか、何を大切にして働きたいのかをあらためて考えてみましょう。それが、10年後、20年後にも納得できる働き方を実現させることにつながります。
自身の「キャリアアップの軸」を明確にする
働く上で大事にしたいことを整理するとともに、今後どのようにキャリアアップしていきたいのか、その「軸」も整理した上で中長期的なキャリアビジョンを描きましょう。キャリアアップの軸の例としては、「専門スキルやビジネススキルを磨き、人材市場での価値を高める」「仕事の幅や裁量範囲を広げる」「収入やポジションを上げる」などが挙げられます。
軸を考える際には、「今の仕事への不満を解消したい」「興味がある業界で働いてみたい」などの短期的な視点ではなく、3年後、5年後にどのようなポジションでどのような仕事をしていたいかを考え、さらに、10年、20年の長期視点でも目標を描くことがポイントです。これらをもとに、必要とされる経験・スキルが身に付く転職先を探してみましょう。
不満だけを転職理由にしない
「今の仕事が不満だから辞めたい」「もっといい仕事に転職したい」などの不満や漠然とした理由で転職する場合であっても、上述した働く上で大事にしたいことやキャリアアップの軸を整理した上で転職活動を進めましょう。不満だけを動機に転職活動を進めても、転職後に実現したいことを伝えられずに選考に苦戦したり、ミスマッチな転職先を選んだりして後悔する可能性があります。
募集内容をふまえたアピールをする
上述した通り、募集内容によって企業が応募者に期待するものは異なります。応募する企業・職種が求めるのは成長可能性なのか、即戦力としてのスキルなのか、リーダー経験なのか等、募集内容をふまえ、その内容に応じた「入社後、どのような経験・スキル・強みを活かして活躍・貢献ができるのか」をアピールしましょう。
未経験の業種・職種への転職を実現させるためのポイント
上述した20代後半の転職市場の状況等から、20代後半は、未経験の業種や職種にも挑戦しやすい年代と考えられます。未経験の業種や職種に挑戦する場合、上述したポイントに加え、次の点に留意して転職活動を進めるとよいでしょう。
自身のポータブルスキルを明確にする
未経験の業種・職種を目指す場合、これまでの仕事で身に付けた専門性に加えて、強みとするポータブルスキルを明確にしておくとよいでしょう。ポータブルスキルには、「仕事の進め方」(対課題)、「人との関わり方」(対人)に関するものがあり、「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「交渉力」などが一例です。特に、未経験の職種への転職を希望する場合、ポータブルスキルをしっかりとアピールすることが転職実現の鍵の一つとなります。
向上心や学習意欲をアピールする
株式会社リクルート(現:インディードリクルートパートナーズ)が企業の中途採用担当者を対象に行った調査によると、選考時に重視することは同業種からの応募者と異業種からの応募者でおおむね同じ傾向ですが、「前職での成果・実績」「向上心」「学習意欲」「志望理由」などの項目は、異業種からの応募者に対する選択率の方がやや高い結果が出ています(※5)。未経験の業種・職種に適応できるかどうかといった観点から、向上心や学習意欲を見られる場合があることがうかがえることから、これらが伝わるよう面接でコミュニケーションをとることもポイントの一つになるでしょう。
(※5)出典:「採用担当の本音調査/社員の就業・転職意向実態調査」(株式会社リクルート(現:インディードリクルートパートナーズ))
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20240424_work_02.pdf
転職エージェントやスカウトサービスを活用するのも一案
転職実現に向けて迷いや不安を覚える場合、転職エージェントに相談するのも一案です。これまでの経験や培ってきたスキル、今後のキャリアの意向などをふまえた助言や、企業の選択肢の提示を受けることができるでしょう。
また、スカウトサービスに経歴や希望条件を登録しておくと、自身のキャリアに興味を持った企業や転職エージェントからスカウトメールが届きます。意外な業種・職種・ポジションからのスカウトが届く可能性もあり、選択肢をより広く・多く持つための一助となるでしょう。
粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。