転職は必ずしもうまくいくとは限りません。残念ながら「こんなはずではなかった」と転職後にギャップを感じたり、後悔したりするケースもあります。そこで、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に、転職時に起こりがちな失敗例とその原因や、「失敗した!」と思ったときの対処法・挽回策を解説いただきました。
転職で起こりがちな失敗例とその原因
転職後に後悔している人に見られるケースとして、主に次の4つが挙げられます。それぞれに原因があるため、あてはまるケースがあればそれを参考にして原因を振り返り、再び転職活動を行う場合の参考にしましょう。
1. 業務内容が思っていたものと異なる
「想定していたよりも上司の指示に従わなければならない場面が多く、マネジャーとして裁量を発揮できない」「新プロダクトの開発を担当すると聞いていたが、会社都合で既存プロダクトの開発担当にアサインされた」「フィールドセールスで入社したつもりが、最初の数カ月間はインサイドセールス担当だった」など、入社前に認識していた業務内容と実際の業務内容が異なっていたり、担当や権限の範囲が想定と異なっていたりするケースです。
このケースでは、企業側の説明不足や企業都合での業務変更など、企業に原因がある場合と、選考時点での確認不足や思い込みなど、求職者に原因がある場合があります。いずれにしても、選考中などに担当予定の業務の範囲や詳細、変更の可能性などについて丁寧に確認することで、認識間違いや企業の説明漏れを防ぐことができる場合があります。とくに選考中は、自分に都合が良い話だけ耳に残ったり、都合のいいように解釈してしまったりすることがあるので注意したいところです。
2. 労働条件(給与・待遇、勤務時間、休日など)が、聞いていたものと異なる
「残業時間の全社平均は○時間だが、配属部署はその1.2倍だった」「年収は賞与込みで1000万円とのことだったが、入社して最初の賞与は支給対象外だったため年収は1000万円に満たなかった」などのケースです。
この場合、原因の一つとして、内定後に企業から提示される「労働条件通知書」の確認不足が挙げられます。書面で渡された場合も、メールなどで送付された場合も、内容を読み込み、疑問点があれば、企業から説明を受けたり、自分から質問したりする機会として条件面談の場を設定してもらえるよう依頼しましょう。転職エージェントを利用していた場合、転職エージェントを介して質問するのも一案です。
また、「前職でリモートワーク手当が支給されていたので、転職先でも支給されるものだと思っていた」など、前職にあった制度は当然転職先にもあるだろうと思い込んでいたというケースもあります。これも、労働条件通知書の確認を丁寧に行うことで防ぐことができます。
3. 思ったよりも活躍できない
「社風や組織の成長フェーズが前職とは異なるため、前職でのマネジメント手法が通用しない」「担当業務の範囲が前職よりも広くて対処できない」といったことから「想定と異なっていた」と感じるケースです。
この場合、業務内容の理解が不十分だったために、その企業で働くイメージを具体的に持てなかったことが原因の一つであると考えられます。募集要項などの説明だけでは分からない日々の具体的な業務や、入社から3カ月後など少し先に期待されている姿・役割などについて面接などで確認し、働くイメージをできるだけ具体的にした上で入社するかどうかを決めることが重要です。
ただ、期待される役割に適応していくことも、新しい環境で働いていく上で必要なことなので、短期的な視野で「思っていたことと違う」と決めつけるのではなく、成長の機会と捉える姿勢も大事です。
4. 社風や価値観が合わない
「顧客志向ではなく売上重視の価値観が自分には合わなかった」「何事も申請が必要で、スピード感を持って進められないのがもどかしい」「生え抜き社員の発言権が強く、中途社員の意見がなかなか聞き入れられないのがつらい」など、社風や価値観が自分と合わず、転職に後悔しているケースです。
この場合は、選考途中で違和感を覚えたにもかかわらず、「成長性のある企業だから」「経営陣が優秀だから」「社会的意義のある事業をしているから」など、日常的な働き方にかかわる要素とはレイヤーの異なる要素を優先して入社を決めた場合に起こりがちです。
そうならないためには、入社を決める前に、できるだけ多くの社員から話を聞くなどして、自分が働く場面を具体的にイメージして違和感がないかどうかを確認することをおすすめします。もし違和感があれば、辞退することも選択肢の一つです。
退職後の転職活動は可能な限り避ける
このほか、すべてのケースの原因になりうるのが、「退職してから転職活動をする」ことです。退職してから転職活動をする場合、空白期間の長期化や金銭面の不安から焦りが生じ、妥協して転職先を決めてしまうことがあります。その結果、「転職しなければよかった」と感じてしまうことがあるので、退職せずに転職活動を進めるか、退職するにしても、退職後すぐに応募・選考に動けるよう、応募書類の準備や応募先企業の選定・情報収集などは在職中に進めておくことなどをおすすめします。
「転職に失敗した」と思った後に、できることとは
転職後に後悔している場合に取り得る選択肢は、「現職で頑張る」「再度、転職する」のどちらかが考えられます。それぞれの選択において、自身にとってより良いキャリアを積んでいくためにできることを解説します。
「現職で頑張る」場合
現職で頑張る場合、まずは新しい環境に適応できるよう、行動していきましょう。例えば、今いる環境でギャップを埋めるためにできることを探す、新しい仕事のやり方を覚える、話し合える仲間をつくるなどです。また、様子を見ながら、入社前に想定していた仕事や働き方ができる道筋を探るなどして、自ら環境を変えていくようなアクションをすることもできるかもしれません。
ゆくゆくは転職することも視野に入れておきたいという場合は、数年後の転職に備えて現職の環境を利用して実績を挙げたり、スキルを磨いたりすることに努めましょう。入社前の想定とは異なる状況であっても、新しいスキルセットを身につけられる環境にいることは事実なので、1〜2年かけて知識・スキルの習得に取り組んでみることも大事です。
「再度、転職する」場合
再度転職する場合、まずやるべきことは、「今回の転職活動の振り返りと反省」です。「今回の転職活動で確認を怠ったことは何か?」「改めて転職によって実現したいことは何か?」などを振り返り、反省をふまえて、転職先を選ぶ際の判断基準やその優先順位を整理し直すなどして活動の方針を見直しましょう。
加えて、企業研究などを改めて行い、転職先の企業を探しましょう。例えば、現職の会社に転職する際に転職エージェントを利用したなら、状況を説明して、改めて整理した自身の応募条件に合う企業を紹介してもらったり、現職と並行して応募していた企業に再挑戦できるか確認してもらったりする方法もあります。
なお、短期間の在籍で再転職することは、その人次第ですが可能です。ただし、応募先から「定着してくれるのか?」との懸念を持たれる可能性や、直近の転職活動で希望する求人に応募済である場合は希望に合った求人が出てくるのに時間がかかる可能性、「また転職後に後悔したらどうしよう」「早く転職しないと」といった不安や焦りを抱きながら活動を進めることになる可能性も、念頭に置いておきましょう。
再度、転職する場合の時期・タイミングの判断基準
再度、転職する場合、すぐに転職活動を始めるのか、少し時間を置くのかは、「転職の緊急度」と「転職の難易度」の2つ観点から考えるとよいでしょう。
具体的には、「違和感が強すぎて仕事に身が入らない/心身のバランスが崩れてしまう/長く働くイメージが全く持てない」「仮に1〜2年働いても得られるものがない」など、緊急度が高く、かつ、直近の転職活動の手応えや転職市場の状況をふまえた転職の難易度がそれほど高くないようであれば、すぐに転職活動を始めても良い状況にあると言えます。
他方で、緊急度は高いけれど、「直近に勤務した3社は1年ごとに退職しているので定着しない人材だと思われそう」など転職の難易度が高そうな場合は、現職でしばらく経験を積みながら、並行して転職準備を進め、タイミングを見て応募・選考に動くといった選択も一案です。
とくに、直近の転職活動で現職に決まるまで時間がかかった場合、すぐに転職活動をするのは難しい可能性が高いため、現職で耐えられそうであれば経験・スキルを積んだり、実績を挙げたりしてから転職活動を再度行うことも検討してもいいかもしれません。
納得のいく再転職を実現するための注意点
タイミングを見て再度、転職に挑戦する際に、納得のいく転職を実現するための注意点としては、冒頭に紹介した失敗例と併せて紹介した対応策も含めて、次の6つが挙げられます。
1. 直近の転職活動をできるだけ客観的に振り返り、反省材料にする
多くの場合、転職後に後悔する原因は直近の転職活動での判断や情報収集不足・確認不足などにあります。繰り返しになりますが、今一度、「確認を怠ったことは何か?」「改めて転職によって実現したいことは何なのか?」などを振り返りましょう。例えば「仕事のやりがいを重視して活動していたのに、最終的には年収を優先して決めてしまった/経営者が語る理念に魅せられて決めてしまった」など、判断基準にブレが生じていたという場合もあるでしょう。これらの反省をふまえて、同じ轍を踏まないように進めていきましょう。
2. 反省点を踏まえて、選考でのアピール内容を見直す
応募した企業から評価された点と評価されなかった点(面接で触れられなかった点)をふまえて、転職エージェントやスカウトサービスなどの登録情報や、履歴書・職務経歴書の記入内容を見直しましょう。アピール内容そのものや、盛り込む内容のバランスや強弱を変更したり、評価された点に関するキーワードを盛り込んだりすることで、企業からの評価が変わる可能性があります。
3. 希望条件や転職先選びの基準の優先順位を整理しておく
さまざまな希望条件や転職先選びの基準がある中で、何を優先するのかを決めておきましょう。そのためには、自身の状況を見つめ直し、自己分析をしておくことが重要です。優先すべきは「収入」なのか、あるいは「仕事のやりがい」なのか、それとも「働き方」なのかなど、判断軸と優先順位を定めたうえで転職先を選ぶことができれば、入社後にミスマッチを感じる可能性は少なくなるでしょう。
4. 経験・スキルの市場価値を把握しておく
自身の経験、スキル、実績の「転職市場価値」を正しく把握しておくことが重要です。自身を過大評価し、転職市場とのミスマッチが生じていると、「転職先がなかなか決まらない」という悪循環に陥る可能性があります。
5. 労働条件の確認とすり合わせを企業と行う
条件面に希望がある場合は、内定前に条件面談を設定してもらうなどして交渉する、内定後に受け取る「労働条件通知書」を漏れなく確認して、疑問点があれば企業に問い合わせるなどして、実際に働き始めてから「こんなはずではなかった」と後悔することがないように、自身の希望と企業の意向とをしっかりすり合わせましょう。
6. 家族・パートナーには事前に相談しておく
家族やパートナーの理解を得ないまま独断で転職活動をスタートさせた結果、意中の企業から内定が出たにも関わらず、思わぬ反対を受けるケースは少なくありません。特に収入が減る場合や、勤務時間・休みなどの労働条件が変わる場合は、暮らしぶりにも変化が起こるため、家族やパートナーの理解を十分に得ておくことが大切です。
理想のキャリアを実現するために、転職エージェントやスカウトサービスの活用を
転職の失敗を未然に防ぐために、「転職エージェントやスカウトサービスをうまく活用する」という方法があります。転職エージェントは、数多くの転職支援実績を持っているため、転職市場価値や雇用条件などについて客観的にアドバイスしてもらえるでしょう。また、スカウト型サービスも、スカウトを通じて自身の市場価値を知ることができます。
転職エージェントやスカウトサービスは、それぞれ特長や強みがあり、取り扱う求人にも違いがあります。自分に合うエージェント・スカウトサービスを見つけるために、複数のサービスを利用してみるのも良いでしょう。
粟野友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
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