出戻り転職はできる?メリット・デメリットと実現方法、注意点を解説

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「前の職場の方が働きやすかった」「他社での経験を前の職場で活かしてみたい」「以前はなかった新事業領域に参画したい」など、一度辞めた企業にまた戻りたいと考える方もいるようです。また、最近では「即戦力人材」として、出戻り転職を歓迎する企業も増えています。「出戻り」に代わり「カムバック採用」「アルムナイ採用」とも呼ばれ、企業が強化する動きも活発です。出戻り転職が注目されている背景、出戻り転職のメリット・デメリット、歓迎される人、実現のポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

出戻り転職と「アルムナイ採用」

出戻り転職とは、一度辞めた企業に再入社して働くことを意味します。ただし、昨今は「出戻り」という表現はあまり使われず、同様の意味を持つ「カムバック採用」「アルムナイ採用」といった言葉が使われています。

「アルムナイ(alumni)」とは、英語で「学校の同窓生や卒業生」の意。企業においては「退職した人」を指し、一般的には退職した元社員を再度雇用することを「アルムナイ採用」、退職した元社員と接点を持てる場やプラットフォームを「アルムナイネットワーク」と呼んでいます。

「出戻り社員」を受け入れる企業は半数以上

株式会社リクルートが2023年3月、企業の人事担当者を対象に行ったアンケート調査(※1)によると、「出戻り社員を受け入れているか」という質問に対して、「受け入れている」と回答した企業は半数以上(55.5%)に達しました。退職者に対し、再雇用の門戸を開いている企業が多いことが見てとれます。

ただし、採用手法として、明確に「アルムナイネットワークを活用している」と答えた企業は1割強(12.3%)にとどまっており、まだ制度化は進んでいないようです。しかしながら、「アルムナイネットワーク構築に取り組んでいる」と答えた企業は3割を超えました(31.0%)。

また、アルムナイネットワークの構築に取り組んでいる企業は取り組んでいない企業と比較し、採用において「人員数」「人材レベル」の両軸で「採用ができている」と答えた割合が高くなっています。アルムナイ採用の効果が認識されつつあり、今後も出戻り社員の受け入れを積極的に行う企業が増える可能性があるでしょう。

(※1)出典:株式会社リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査2023」(2023年9月)

出戻り転職が注目されている背景

「出戻り転職」「アルムナイ採用」が注目されている背景には、次のような事情があると考えられます。

雇用に対する意識変化

近年、働く人にとって「転職」が身近なものとなっています。終身雇用制が崩れつつあるなか、1社でずっと働き続けるのではなく、複数企業を経験することでキャリア形成を図る人が増えています。

総務省が発表した「労働力調査(詳細集計)の2023年平均結果(※2)」によると、2023年の転職者数は328万人と、前年に比べ25万人増加しました。また、転職等希望者数は1007万人と、39万人の増加。こちらは7年連続の増加となっています。

転職者数の推移と転職等希望者数の推移グラフ

転職者および転職希望者が増加し、人材を継続して確保しておくことが難しくなっているため、退職した人とも中長期的に関係性を維持し、再雇用につなげるアルムナイネットワークに注目が集まっています。

(※2)出典:総務省統計局ホームページ(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/youyaku.pdf

労働人口減少にともなう採用難

労働人口が減少に向かうなか、企業は採用に苦戦しています。リクルートワークス研究所が行った「中途採用実態調査(※3)」によると、2023年度上半期の中途採用において、「必要な人数を確保できなかった」と回答した企業は約6割に達しました(58.5%)。 採用難が深刻化するなか、企業は人材獲得のため、多様な採用手段を取り入れています。人材確保の手段の一つとして、「アルムナイ採用」も活用していると言えるでしょう。

従業員規模別 2023年度上半期 中途採用における必要な人数の確保状況のデータ

(※3)出典:リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2023年度上半期実績、2024年度見通し 正規社員)」P3(2024年1月)

従業員のエンゲージメント向上

先に紹介した「企業の人材マネジメントに関する調査2023(※1)」によると、アルムナイネットワークの構築に取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業と比較し、従業員エンゲージメントが高い傾向にあることも分かりました。

従業員エンゲージメント項目とアルムナイネットワーク構築取り組みの関係のグラフ

退職すればその企業との縁は切れてしまうこともありますが、アルムナイネットワークの存在は、会社や仲間とつながり続けられる安心感があります。その安心感は、在籍社員にもポジティブに捉えられ、エンゲージメントの向上が期待できそうです。

出戻り転職のメリット

出戻り転職は求職者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。識者の経験をもとにご紹介します。

即戦力として活躍できる

1つ目のメリットは、出戻りをする企業の業務知識があり、企業文化も理解していることから、即戦力として活躍できることです。多くの転職者が苦労する業界や企業独自の業務知識・専門用語などを理解している点も、即戦力として期待されるポイントとなります。

選考を短縮できる可能性がある

書類選考が免除になり、応募したら一次面接が行われるなど、出戻り転職の場合は、選考プロセスが短縮されるケースがあります。通常の中途採用よりも少ない面接回数で内定が出るケースもあるようです。ただし、企業によって制度は異なるので、選考プロセスを必ず確認するようにしましょう。

社内になじみやすい

企業文化や社風を理解していることで、職場にすぐに溶け込みやすいのもメリットの一つです。一般的に、転職時に苦労するケースとして、「入社した企業特有のルールや慣習がわからない」「困ったとき、悩んだときの相談相手がわからない」などが挙げられます。

社内に顔なじみの社員がいる場合は、相互理解ができているため社内コミュニケーションを図りやすくなります。特に、様々な部署と連携することの多い管理職やプロジェクト責任者などの場合は、相互理解ができていることは大きなメリット。相手の人柄や価値観、判断基準を理解していることで、交渉や協働をスムーズに行うことができるでしょう。

他社での経験を活かせる

転職して離れたことで、これまで気づいていなかった自分の強みや課題などを客観的に認識することもあるでしょう。また、転職先で得た経験やスキルを活かし、これまで社内にはなかった視点や発想で、解決策や新たな戦略やサービスの提案につなげるなどの新たな活躍も期待できます。

出戻り転職のデメリット

出戻り転職にはもちろんプラスの面もあれば、マイナス面もあります。続いては、デメリットについてご紹介します。

雇用条件が同じとは限らない

出戻り転職の場合、以前と同じ待遇・環境で迎え入れられるとは限りません。給与が下がる可能性や、過去に所属していたチームやポジションで働けないことも十分に考えられます。

「私が以前に働いていたときはこうだった」などと、かつての働き方に固執してしまうと、出戻り転職を実現することができなくなるかもしれません。「過去の条件と同等とは限らない」というスタンスで柔軟に対応することが大事です。

前回と同じ理由で退職する可能性がある

何らかの理由で一度は退職した企業で再び働くということは、退職を考えたくなるような状況が再現される可能性があります。「人間関係が悪い」「残業が多い」「休みが取れない」といった不満を抱いて退職した場合、こうした状況が改善されていなければ、再び退職を検討せざるを得なくなることも考えられます。

選考を辞退しにくい

前職での人脈を活かして出戻り転職をしようとする場合、途中で辞退をしたいと思っても紹介者に気兼ねして言いだしにくくなります。また、最初に聞いていた条件や仕事内容が、選考が進むうちに変わってしまった場合も、交渉しにくいことがあるかもしれません。こうした制約があることも認識しておきましょう。

出戻り転職で歓迎される人の特徴

一度は退職した企業への出戻り転職で歓迎される人には、どのような特徴があるのでしょうか。職場で歓迎される出戻り転職のよくあるケースをご紹介します。

在籍時に信頼と実績を残していた人

出戻り社員として歓迎されるのは、以前在籍していたときにきちんと実績を上げ、一定の評価をされていた人です。誰もが納得するような確かな実績を上げていれば、以前に働いていた部署でなくても、即戦力として喜んで迎え入れてもらえる可能性が高いでしょう。

円満退社した人

出戻り転職の前提条件となるのが「円満退職していること」です。個人的な都合を優先し、きちんと引継ぎを行わなかったなど、勤務先に迷惑をかけるような後味の悪い辞め方をした場合は、当時のことを覚えている関係者が出戻りにいい反応をしない可能性があります。円満に退職し、退職してからも良好な人間関係を保っていることが理想的です。

在籍時の人間関係が良好でつながりがある人

退職後も前職時代の同僚と友好な関係がある人も、うまくいくケースが多いようです。選考にあたって、採用担当者が以前の同僚にヒアリングを行うことがあります。友好な関係がある場合は、ヒアリングでもポジティブな反応が返ってくるため、人間関係やコミュニケーションに関して問題がないと判断され、選考がスムーズに進むことが多いようです。

出戻り転職の理由に説得力がある人

「なぜ出戻り転職を希望するのか」を明確にしておくことも大切です。「転職先企業の仕事や社風が合わなかったので、元の職場に戻りたい」といった理由では、安直な印象を与える可能性があります。

また、「転職先で活躍できなかったのかもしれない」と、ネガティブに受けとめられてしまうかもしれません。転職理由によっては、出戻りに難色を示される可能性もあるため、「転職で得た経験やスキルを活かしたい」「異なる企業文化で得た知見をフィードバックしたい」といった前向きな理由を考えておきましょう。

出戻り転職のポイント

出戻り転職を図るにあたって、心がけておきたいポイントをお伝えします。

退職理由を振り返る

なぜ、以前に退職を決めたのか、理由やきっかけを振り返りましょう。当時抱いた不満点が現在は解消されているか、面接時などに確認する必要があります。解消に至っていない場合、「今の自分なら許容できるのか」についても考えてみてください。

出戻りしたい理由を明らかにする

一度辞めた企業になぜ戻りたいのか、出戻りの理由も注目されるポイントです。他社を経験したことで、出戻りしたい企業の強みや良さに気づいたこと、再入社して目指したいことなど、採用担当者が納得できる理由を整理しておきましょう。

以前の待遇にこだわらない

出戻り後も退職前と同じ雇用条件が約束されているとは限りません。また、退職前の部署に戻ることを希望しても、配属が叶わない可能性もあるでしょう。以前の待遇にこだわり過ぎず、柔軟に対応する姿勢も重要です。

歓迎されるとは限らないことを覚悟する

出戻り後に一緒に働く同僚は、必ずしも歓迎モードで迎え入れてくれるとは限りません。高い成果を期待されている可能性もあるので、プレッシャーも覚悟したうえで、コミュニケーションをしっかりとることを意識しましょう。

前職の状況を複数名に聞く

退職後、会社の方針や環境に変化があるかもしれません。以前と同じ感覚で戻ると、再入社後にギャップを感じる可能性もあります。以前一緒に働いていて今も在籍している上司や同僚、自分より後に退職した同僚、人事担当者、取引先の担当者など、今までのつながりやアルムナイネットワーク、SNSなどを活かし、多面的に情報を収集するといいでしょう。

雇用条件を書面で確認する

以前の上司や同僚などを通じて出戻りをする場合でも、細かい雇用条件を確認しないまま入社を決めてしまったり、「口約束」で終わらせてしまったりするのではなく、書面で確認することが重要です。

他企業と比較検討する

出戻り転職は職場環境のイメージが掴めているため安心感が高く、複数の選択肢のなかでも優先順位が高くなる傾向があります。しかし、フラットな状態で選択肢を並べてみると、他に経験・スキルを活かすことができて、将来のキャリアの可能性が広がる企業があるかもしれません。前職へのバイアスを取り除き、客観的視点で他の候補企業と比較してみましょう。

出戻り転職を実現する方法

企業の制度やネットワークの有無によって出戻り転職の方法は異なります。出戻り転職を実現するための代表的な方法をご紹介します。

以前の上司や同僚に相談する

在籍していたときの上司や同僚などにアプローチし、自分が受け入れられる可能性はありそうかなど相談してみるといいでしょう。可能性があるのであれば、人事部門につないでもらいます。リファラル採用(社員が友人・知人を自社の人事に紹介する採用手法)の制度があれば、スムーズに出戻り転職を進めることが期待できます。

アルムナイネットワークを活用する

アルムナイネットワークの構築やアルムナイ採用を行っているかどうかを確認し、制度があればそれを活用しましょう。アルムナイに関する制度がなかったとしてもあきらめず、元上司・同僚のネットワークを辿って可能性を探ってみてください。自分に合致する職種の求人が出ていなくても、対話の場を設けることで受け入れられるポジションを見出せるかもしれません。

すぐに出戻り転職することが難しくても、業務委託や顧問などの外部パートナーとして関わることで、タイミングや希望が合えば正社員としての出戻りが実現する可能性もあります。

通常の転職活動をする

企業の採用ページや求人サイトから通常応募する、あるいは転職エージェントを通じて応募する方法もあります。一般の応募者と同じように選考を受ける方法です。

この場合、出戻り転職をしたい理由、再入社後の貢献意欲などをよりしっかりとアピールしましょう。在籍時の知識・経験に加え、転職先で得た異分野の知識・経験を活かせることをより具体的に伝え、再雇用する価値を感じてもらうことが大切です。

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粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。