もっとワクワクする仕事がしたい――60歳の熱い想いに応え、ベンチャーCFOへの転身をサポート
60歳という節目に、「人生のラストチャレンジとして、自身がワクワクできるような仕事がしたい」と、大企業からの転職を希望する求職者Aさん。(株)エグゼクティブリンクの鈴木大輔氏による伴走のもと、その希望を叶え、「上場を見据えたベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)」としてのスタートを切った。シニア層の転職支援のキーポイントは何だったのか?
人との出会いを大切にする姿勢が支持され、稀少な求人相談が集まる
鈴木氏は、かねてより人との出会い・付き合いを大事にし、相手の人生に寄り添うことを心がけている。例えば、転職を一度でも支援した方に対しては、成約の有無を問わず、相手の誕生日、あるいは何かの記念日などにメールを送ったり、食事に誘ったりといったコミュニケーションを取り続けている。
それは、転職エージェントだからやっている、というわけではない。鈴木氏は、過去に2度の転職を経験しているが、前職や前々職でお世話になった人たちとの縁も絶やさず、いずれも大事にし続けている。この仕事に就く際も、縁のあった様々な人に対して、「何か困り事があれば、いつでもご連絡ください」と伝えていた。
そんな鈴木氏に、「特命案件」を依頼したのがZ社だった。Z社は、主に歯科技工物の製作を行うベンチャー企業。大手企業との資本提携や投資ファンドからの資金調達を行って、事業をさらに加速しようと、上場に伴うCFOの募集を行っていた。もともとは媒体を使わず、独自ルートで候補者を集めようとしていたZ社。しかし、鈴木氏の前職の会社代表とつながりがあり、鈴木氏とも面識があったため、彼を信頼して依頼することにした。
こうして鈴木氏は、本来外に出てくることのなかった貴重な求人依頼案件を引き受けることとなった。とはいえ、それは簡単な案件ではない。F社が最初に提示した採用条件は、「財務、経理、監査の経験を持つ40代くらいの方」。鈴木氏は、「その条件に当てはまるのは、マーケットから見ると『ハイクラス』に当たる人材です。450万円くらいの限られた年収で集めるのは、かなりの難題であると感じました」と振り返る。
エージェントの価値とは、レジュメ以外の部分を伝える力
しかし、鈴木氏の不安は杞憂に終わった。経験豊富なシニア層の求職者が、多数集まったのだ。「大企業で活躍してきたシニア層の方が、ベンチャー企業へ飛び込むという例は今まであまりありませんでした。しかし、近年は、ベンチャー企業の躍進を見て、『こういう会社で一肌脱ぎたい!』と思う方は少しずついらっしゃるようです。大企業とは違い、裁量権をもって様々なことにチャレンジできるところが魅力なのでしょう」と鈴木氏。そういうタイプのシニア層にとって、Z社のようなベンチャー企業は確かに最適なフィールドといえる。
候補者の一人である60歳のAさんは、新卒で入った大企業の経営企画部、総務部、監査部で様々な功績を残してきたという人物。60歳までの年収は1500万円。前年にグループ会社に異動され、以後も65歳まで約750万円を受け取れることが約束されていたが、日々の仕事内容は定型業務ばかりになっていた。そこで、一念発起したAさんは、「人生のチャレンジとして、自身がワクワクできるような仕事がしたい」と、転職を希望したのだという。
ところが、Aさんの希望はなかなか叶わなかった。なぜなら、60歳という年齢が、転職活動において仇となってしまうからだ。そもそも、この年齢を対象とする募集案件自体がほとんどない。そんななか、Aさんからのエントリーを受け、実際に会った鈴木氏は、「この方であれば、希望に沿う転職先があるはず」と感じ、一緒に伴走していくこととなった。
60歳という年齢は、当初F社が提示していた採用条件から大きく外れる。そのため、鈴木氏はAさんの経歴や具体的なスキル、人柄も含め、年齢を度外視してでも薦める理由を説明し、Z社への根回しを抜かりなく行った。その結果、Z社もAさんのやる気や謙虚さを大いに評価し、年齢を度外視しての採用を決めた。
「レジュメを横に流すだけでは、転職エージェントの介在価値はありません。自分が間に入ることで、双方の明文化されていない部分を見つけ出し、代弁し、可能性を広げることが大事なのです。」
本人に代わって年収、業務内容を細かく詰め、長く働ける環境づくりに尽力
採用に際しては、もう1つ、鈴木氏が特に注力したことがある。それは、入社後の役割や諸条件などの細かな調整だ。例えば、AさんはCFOとして、どこからどこまでの役割を担うのか。これを事前に取り決めておかないと、あとから歪みが生じてしまう。
「今回の場合は、大企業からベンチャー企業への転職なので、特に気をつけなくてはなりません。社員数十万人規模の大企業と、100人規模のベンチャー企業とでは、業務オペレーションや、それに対する社員一人ひとりの意識がまったく異なります。ベンチャー企業がこれから上場を目指すなら、監査に耐えうる状態にまでそれらを調整していかなくてはなりません。これは、かなり大変なことなのですが、Aさんはどこまで踏み込むべきなのか。私がAさんとZ社との間に立って、取り決めをさせていただきました。」
また、Z社に対しては、年収や業務内容に関する細かな詰めも先回りして行った。年収については、明文化されている「年収450万」以外に、業務目標を達成したら昇給額はどれくらいか、残業代の支給はあるのか、福利厚生面はどうなっているのかなど、細かなところまで確認。また、業務内容についても、役回りやミッション、日々の業務など、社長や役員の方としっかりと詰めを行って、双方に納得いくように対応をした。
このように、鈴木氏が最後の“詰め”を徹底するのには理由があった。
「過去、私が転職を支援した方のなかに、1人だけ早期離職してしまった方がいました。転職先が決まる際、『この条件面・業務内容で大丈夫です』とご本人がおっしゃったのを信じてしまったのが原因です。候補者の方がたとえ『大丈夫です。問題ありません』と言っても、その『大丈夫』が曖昧にならず、候補者と転職エージェントとの間で、具体的に把握されている状態であることが重要です。そのときの反省を活かし、現在のやり方で進めさせていただいています。60歳を超えたAさんを早期離職させるわけにはいきませんから。』
人生100年時代が到来!マルチステージの人生をより豊かに
AさんがZ社に入社して、4カ月の月日が経った。現在、Z社はいくつかのベンチャーキャピタルから出資を受け、事業を加速し始めている。また、AさんはCFOとして、会計士や他の執行役員と連携しながら、上場準備に着手し始めている。大企業出身のAさんの丁寧な業務の進め方は、Z社社員の良い手本となっているそうだ。Aさん自身も、「鈴木さんに出会うまでは、60歳という年齢でチャレンジするのはやはり無謀なのだと、半ば諦めていました。Z社に入社させていただいたこと、とても感謝しています」と語っており、充実した様子がうかがえる。
このマッチング成功を経て、鈴木氏はあらためてシニア層の転職について考えた。
「先日の日経新聞の記事にもありましたが、現在、ミドル層・シニア層の転職市場は全体の3分の1を占めています。今後、ミドル層・シニア層の方を積極的に採用する企業はますます増えていくでしょう。ですから、これまで尽力されてきた60歳以上の方にも、やりたいことにチャレンジしていただきたいなと思います。そうでないと、人生が100歳まであるとしたら、残りの40年間がもったいないと思います。Aさんのように、大企業からベンチャー企業に転職し、若い方々と楽しく仕事をする例が、もっと増えることを願っています。また、転職エージェントとして、そのご支援ができたら幸いです。」
【転職者の方へ】
「もう年齢が年齢だから無理」というようなバイアスをかけないようにしてください。可能性のある企業には、まず会って話を聞いてみる。そうすることで、選択肢は必ず広がるはずです。
【企業様へ】
人材を採用する際、掲げている採用条件から少し外した方もぜひお会いしていただければと思います。想定していた条件から、あえて外してみることで、新しい視点が生まれると思います。
鈴木大輔さん
株式会社エグゼクティブリンク コンサルタント
大手SIer企業で法人営業を経験後、経営コンサルティングファームにて多くの人材育成、新規事業開発プロジェクトに従事。「大企業の経営幹部らと、“企業のあるべき姿”について議論するのはとても面白かった。しかし、今後は個人の人生の起点となる“転職”を応援したい」という理由で、(株)エグゼクティブリンクに転職。これまでの経験を活かし、コンサルティングファーム、システムエンジニア、大手企業の幹部職への転職を得意とする。趣味はテニス。