エバンジェリストは昨今のIT業界における注目職種であり、企業にとって重要な役割を担う仕事です。エバンジェリストは具体的にどのような活動を行っているのか、仕事内容や役割、求められるスキルなどについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説していただきました。
エバンジェリストとは
エバンジェリスト(evangelist)とは、ITの最新トレンドや製品・サービスなどを世の中に発信し、啓蒙する役割を担う職種、もしくは専門人材を意味します。
もともとエバンジェリストはキリスト教の「伝道師」という意味を持っています。IT業界でのエバンジェリストは、自社の開発担当者と密接に連携し、テクニカルな情報や最新の動向を社外に発信・啓蒙することで、企業のイメージを向上させることを目指しています。これにより、顧客やパートナーからの信頼を獲得し、自社の競争力を強化します。
さらに、エバンジェリストは、自社の製品・サービスなどを的確にわかりやすく発信し、ユーザーや顧客など、多くの人々に理解してもらうことも目標としています。社会に対する影響力も高いため、市場拡大やイノベーションの推進に貢献しています。
エバンジェリストが注目される背景
IT業界は急速に進化しており、新しい製品や技術が頻繁に登場しています。中には、複雑で高度な技術が用いられていることもあり、一般のユーザーや顧客にとっては理解が難しい場合があります。このようなとき、豊富な知識を持っている、かつユーザーや顧客の視点に立って話すことができるエバンジェリストが必要とされます。
特に世の中にあまり知られていない技術やプロダクトは、市場における信頼性や説得力の向上が重要です。自社製品・サービスを持つIT企業や、先端技術や革新性のあるビジネスモデルを開発する創業期のベンチャー企業が、その存在を多くの人々に知ってもらうべく、エバンジェリストの活動を強化するケースが増えています。
営業やマーケティング、広報との違い
企業に所属し、自社製品・サービスの魅力を社外に伝えるという点では、エバンジェリストも営業や広報、マーケティングの仕事に近いのですが、それぞれ明確な違いがあります。
営業との違い
営業もエバンジェリスト同様に自社製品やサービスの魅力を顧客に伝えますが、営業がこれらを伝える目的は製品やサービスなどの販売や契約です。営業にとって伝えることは、あくまでも販売や契約のための手段の一つであるため、「伝えること」を目的とするエバンジェリストとは異なります。
広報との違い
社外に発信するという面では広報の仕事にも近い部分もありますが、広報にはITの技術やトレンドを啓蒙するという役割はありません。エバンジェリストはそれらを客観性や社会性を持って発信することが広報との違いと言えます。
マーケティングとの違い
マーケティングとの違いは、伝える対象の範囲です。エバンジェリストは、特定の製品・サービスなどに対する専門知識を活かしながら啓蒙活動を行います。一方、マーケティングは、製品・サービスなどのマーケット全体を対象に、製品やサービスの魅力や利点を伝えることで需要を喚起し、市場シェアを拡大します。
エバンジェリストの具体的な仕事内容
エバンジェリストはどのような仕事をしているのでしょうか。企業によって違いはありますが、エバンジェリストの主な仕事内容について解説します。
イベントでのプレゼンテーション
自社が開催する製品・サービスなどに関連するイベントやセミナー、製品のローンチイベント、ユーザーカンファレンスなどに登壇し、製品や技術の価値、メリットなどについてプレゼンテーションを行います。
他社と合同開催のイベントや業界イベントなどにパネリストとして登壇し、注目すべき最新テクノロジーやITトレンドについてわかりやすく解説するプレゼンを行うこともあります。実例などを交えながら、イベントのテーマや対象者に合わせて自社が伝えたいメッセージを発信します。
イベント後は参加者と交流し、自社製品・サービスなどの価値や利点についての情報を提供することもあります。さらに、参加者との交流を通じてフィードバックを収集し、製品や技術の改善に役立てます。
イベント以外にも、雑誌やWebサイトなどの情報メディアの取材を受けたり、記事の寄稿を行ったりすることもあります。
個別デモンストレーション(プリセールス)
自社の製品・サービスなどの導入を検討している企業に対して、特徴や魅力を示すプレゼンテーションを行います。製品の機能やサービスの使い方などをデモンストレーションし、その魅力を視覚的に伝えます。これにより、製品や技術に対する理解を深め、関心を引き付けます。
インナーマーケティング
自社で開発した製品・サービスの強み、訴求ポイント、販売に結び付けるためのブランディング方法など、社内の担当者がユーザーや顧客、社外に「何をどう説明したら効果的であるか」を説明する勉強会を開催して伝えます。
自社の担当者が製品・サービスを正しく理解し、顧客へのセールストークや社外対応を統一することで、情報の統一化・高品質化を目指します。
最新情報の収集、製品やサービスの事例研究
先端テクノロジーやITトレンドなどの情報収集、製品やサービスに関する事例の情報収集・研究も日々欠かせません。俯瞰的な観点で最新テクノロジーや事例研究を行うことでより知識を深め、その価値や魅力を客観的に伝えるために役立てます。
エバンジェリストに求められるスキル
エバンジェリストにはさまざまなスキルが求められます。企業や担当分野によって異なることもありますが、共通して求められるスキルをいくつかご紹介します。
ITに関する専門知識
ITに関する専門知識は必須となります。エバンジェリストとして担当する技術に関わる領域の高い知識はもちろんのこと、製品の機能や作動原理、技術の導入背景やアーキテクチャなどの技術的な側面を理解・発信するために必要な専門知識は、主に以下が挙げられます。
- ソフトウェアやハードウェアに関連する技術トレンド、最新の開発事例
- プログラミング言語や開発ツールの理解
- クラウドコンピューティングとインフラストラクチャの知識、開発手法
- セキュリティとプライバシーに関する理解
- データ分析とビジネスインテリジェンス
プレゼンテーションスキル
前述の通り、エバンジェリストの重要な役割の一つが、製品・サービスや技術に関する情報をわかりやすく、効果的に伝えることです。プレゼンテーションスキルを駆使して、聴衆を引き付け、彼らの関心や好奇心を刺激することが求められます。
魅力的なストーリーテリングや説得力のある論理展開でユーザーや顧客を納得させ、自社製品やサービスの認知を高めることができるプレゼンテーションスキルに加えて、専門的な技術を一般の人にもわかりやすくかみ砕いて伝えられるようなスキルもあるといいでしょう。
情報収集や資料作成スキル
最新の業界トレンドや市場動向、競合情報などを把握するために情報収集能力が求められます。収集した情報やデータを分析し、データの整理や要約、パターンの発見などを行い、それを製品や技術のエバンジェリズムに活かすことが重要です。データ分析ツールやスプレッドシートソフトウェアの作成スキルなども必要となります。
さらに、分析・整理した情報を資料にまとめ、わかりやすく伝えることが重要です。資料作成には、プレゼンテーションスライド、発表用のスクリプト、デモンストレーションビデオなどが含まれます。デザインの基礎知識やグラフィックスソフトウェアの使用能力も役立ちます。
コミュニケーションスキル
収集した情報や作成した資料を効果的に伝えるために、エバンジェリストにはコミュニケーションスキルも求められます。明確で適切な表現、ストーリーテリングスキル、説得力のある伝え方などのスキルが必要です。
経営者の視点
エバンジェリストには、経営者の視点でビジネスの目標や市場の需要を理解し、製品や技術の価値提案を開発する戦略的な思考が求められます。また、競争環境や業界のトレンドを把握し、投資対効果(ROI)の視点や戦略を適応させる能力なども重要です。
好奇心
エバンジェリストは、常に新しい情報や最新のトレンドに対して好奇心を持ち、積極的に学び続ける姿勢が求められます。顧客のニーズや要求に対しても好奇心を持ち、顧客が抱える問題やニーズについて深く探究する必要があります。
一方で、既存の枠組みや思考パターンにとらわれず、新たな可能性を探る好奇心を持つことも重要です。常に改善や革新の余地を探り、新たな可能性を探求するために欠かせないスキルと言えるでしょう。
エバンジェリストになるための方法
今後さらにITが進化し、製品・サービスや技術の複雑化・多様化が進んでいけば、エバンジェリストの必要性は高まっていくでしょう。高い専門知識・スキルや学び続ける意欲が求められる仕事ですが、エバンジェリストを目指すための手段を最後にご紹介します。
社内でエバンジェリストを目指す
大手IT企業では、何らかの専門領域に強みを持ち、かつプレゼンテーションやプリセールス、マーケティングなどの高い素養と実績を持つ社員をエバンジェリストに登用するケースがあります。
常に最新技術のトレンドを収集し、SNSやエンジニア向けの勉強会などで発信しながら知名度や人脈を広げ、自社の最新技術や製品・サービスの知見を高めておくことでエバンジェリストへの道が拓けるかもしれません。
転職してエバンジェリストを目指す
エバンジェリストにキャリアチェンジしやすい職種としては、専門領域の技術に関するエキスパートとして活躍しているエンジニア、プリセールスエンジニア、ITコンサルタント、AI・IoT・クラウド・セキュリティなどの先端技術に関わるエンジニアが挙げられます。
さらに、IT領域のマーケターとして実績を積んできた方、エンジニア向けにSNSやメディアでの発信、イベントなどで情報発信や講義・発表を行っている方にもエバンジェリストとしての転職できる可能性はあるでしょう。
数はあまり多くありませんが、転職サイトなどの求人サービス上で「エバンジェリスト」を募集するケースも見られます。求人サービス内で、「エバンジェリスト」とフリーワードで検索してみるのもいいでしょう。
転職エージェントやスカウトサービスを活用することもお勧めです。応募可能なエバンジェリストの求人紹介を受けられたり、エバンジェリストを募集している企業からの声がかかったりするかもしれません。ぜひ、活用してみて下さい。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。