社会人の給与を表す言葉には、「月給」「月収」「基本給」「年収」など色々ありますが、正確に使い分けている人は意外に少ないかもしれません。しかし、これらの用語の意味を理解していないと、転職で応募企業の給与形態を比較したり、給与交渉をしたりする際に誤解が生じる可能性も。ここでは、給与に関する用語の正しい知識と、転職活動でのポイントについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
「月給」とは
転職活動に限らず、日頃から耳にすることの多い「月給」「月収」「給料」「給与」の、それぞれの意味と違いについて知っておきましょう。
「月給」とは「基本給」+「固定手当」
「月給」とは、毎月固定で支給される給与のこと。「基本給」と「固定手当」を合計したもので、税金(所得税や住民税など)や社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料など)を差し引く前の金額となります。
その中でも「基本給」は、会社から受け取る賃金の土台となる部分であり、一般的には年齢や勤続年数、職種、技能などを基準に決められるものです。多くの場合、その会社の基準となる「基本給表」があります。
「固定手当」とは、役職手当や資格手当、住宅手当など、社員ごとに毎月固定で支給される手当のことです。
「月収」とは1カ月の総支給額
一方、「月収」とは、上述した月給(基本給+固定手当)に「変動手当」を加えた、月々の総支給額のこと。給与明細に記載されている「総支給金額」が該当します。
「変動手当」とは、月の残業時間に応じて金額が決まる残業手当や、通勤手当、インセンティブなど、その月ごとの勤務内容や成績などによって金額が変動する手当です。
「給料」は基本給、「給与」はすべての報酬
さらに、似ている言葉として「給料」と「給与」があります。これらは意味を混同して使われる事が多いようです。「給料」とは、企業から支払われる給与から各種手当てを引いたもので、「基本給」と同じ意味です。一方「給与」とは、基本給に加えて、各種手当、インセンティブ、賞与、さらに住宅貸与や自社製品など、金銭以外の形で与えられるものも含めた、会社から受け取るすべての報酬を意味します。
「額面」「手取り」「年収」について
転職活動では、募集要項に「想定年収」と記載があったり、給与交渉においても年収で言及したりすることが多いと思います。ここでは「額面」「手取り」「年収」という言葉についても確認しておきましょう。
「額面」は総支給額、「手取り」は手元に入る額
一般にいわれる「額面」とは、税金や社会保険料が差し引かれる前の総支給額=「額面給与」のことです。月々の額面給与は「基本給」+「固定手当」+「変動手当」であり、上述した月収のことを指します。
それに対して「手取り」とは、その名の通り「手元に入るお金」のこと。額面給与から税金や社会保険料などを差し引いて、実際に支払われる金額を指します。従って、手取りの金額は月収よりも少なくなります。
「年収」は年間を通じて会社が支給する総額
一般的に「年収」は、1年間を通じて会社から支給される給与の総額。通常は「12カ月分の月収」+「賞与」で算出され、税金や社会保険料が天引きされる前の金額を指します。また、「年収」ではなく「額面年収」と呼ばれることもあります。
転職活動で給与を比較する際のポイント
転職活動において給与は重要な条件の一つですが、求人や募集要項に記載される金額は、手取りではなく額面給与であるケースが一般的です。また、求人情報の給与欄の記載方法は、企業や転職エージェント、転職サイトなどによって異なります。転職活動で給与を比較するためのポイントをお伝えします。
「月給」や「月収」は内訳を見る
「月給」とは、毎月固定で支払われる賃金を指し、一般的には「基本給」と「固定給」が含まれます。
「月収」とは、基本給と固定手当が含まれている月給に、「時間外手当(残業手当)」「通勤手当」などの変動手当が付け加えられたものです。
「月給」や「月収」の記載がある場合は、固定部分と変動部分の内訳をチェックしましょう。
基本給の割合が極端に低いと、手当がカットされた場合に給与が大きく下がることもあります。また月収表記の場合は、固定残業代や各種手当(住宅、資格、地域、在宅、通信など)が含まれていることがあります。残業時間や手当の詳細(金額、対象要件など)は記載されていないことが多いので、該当要件などを選考過程で応募企業に質問するといいでしょう。転職エージェントを利用している場合は、転職エージェント経由で確認しておくと安心です。
「年収」や「年俸」は支払い方法に注意
「年収」とは、1年間で会社から支払われた給与や各種手当、時間外手当などの税金が引かれる前の金額を指します。
求人や募集要項に記載されている「年収」は、あくまでモデル年収と捉えておくといいでしょう。なぜなら、同じくらいの年齢層や役職でも、賞与や手当で変わってくる可能性があるからです。また、現職と年収が同等の金額であっても、賞与の割合が高い企業の場合、月収が現職よりも下がってしまうケースがあります。そのため、年収だけではなく、月収がどのくらいになるかも確認しておくといいでしょう。
「年俸制」は企業により、例えば総支給額を16分割して4カ月分を賞与のように支払うケースもあれば、均等に12分割して毎月支払う場合もあります。月々の生活費やローン返済にもかかわりますので、年俸制の場合もどのように給与が支払われるか、支払金額も含めて事前に確認しておくといいでしょう。
なお、年俸制とは1年単位で給与総額の合意・更改を行う給与形態のことです。年俸制と対で語られることの多い「月給制」とは、支給額が1カ月単位で決められた給与形態のことを指します。
管理職として転職するなら残業代について確認を
労働基準法では、所定の労働時間を超えて労働をさせた場合、超過分の賃金(時間外手当)を支払うことを定めており、年俸制においてもこれは変わりません。また、みなし残業時間を超えた場合も、残業代は支給されます。ただし、月給制でも年俸制でも、労働基準法では、管理監督者等について労働時間に関する規制がないため、労働時間が法定時間を超えても割増賃金を支払う必要はないとされています(深夜手当に関しては支払い義務がある)。
管理職としての転職を検討している場合は、応募先企業の就業規則などを事前に確認しておくといいでしょう。
転職活動で給与交渉をする際のポイント
転職活動で応募企業と給与交渉をする際のポイントをお伝えします。
交渉は必ず額面給与で行う
応募企業と給与交渉をする際も、額面給与での話し合いとなります。採用担当者から希望する金額を聞かれた場合、残業代やインセンティブなども含めた、天引き前の額面給与であることが一般的です。そのときに、もし手取りの希望を伝えてしまうと、相手は額面給与と解釈して低い金額でオファーされてしまうことも考えられます。基本的に、必ず額面給与で答えるようにしましょう。
内定時に提示されるのは理論年収
内定時に提示されるのは、あくまで「理論年収」、つまり応募者がその企業で1年間働いたときに得られるであろう「標準的な年収」となります。企業によって、理論年収に各種手当を含むかどうかは異なります。
また、入社時期によっては、賞与の支給対象外となるケースもあるので、提示された年収と実際の年収は異なる可能性もあることも知っておきましょう。
できるだけ上の年収を目指したい人は、入社後昇格した場合に、どの程度の上がり幅が考えられるか、また、ストックオプションなどでどのくらいの利益が見込めるかなども確認しておくといいかもしれません。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。