複数の事象から論理的に結論を導き出す推論法のひとつに「帰納法」があります。帰納法とは何か、帰納法をビジネスシーンで活用する方法やメリットのほか、対で語られることが多い「演繹(えんえき)法」との違いも併せて解組織人事コンサルティングSeguros代表の 粟野友樹氏が解説します。
「帰納法」とは?
「帰納法」は、観察した結果や過去の経験・データなど複数の事象から共通点や法則を見出し、それを根拠にして仮説や結論を導き出すという推論法です。論理的思考(ロジカルシンキング)の具体的な手法の一つでもあります。
鳥類の特性を例にして考えてみましょう。
(事象1)鶏は卵生である
(事象2)鳩は卵生である
(事象3)カラスは卵生である
(共通項)鶏も鳩もカラスも鳥類である
(結論・仮説)鳥類は卵生である
「鶏は卵生である」「鳩は卵生である」「カラスは卵生である」という3つの事実があった場合、「鶏も鳩もカラスも卵生で鳥類である」という共通項が見出されます。この事実をもとに、「鳥類は卵生である」という仮説を立てることができます。このように一定のパターンを見つけ、仮説・結論を見つけるのが帰納法です。
「帰納法」を活用するメリット
帰納法で導き出された仮説や結論には、前提となっている事象が明確にあるため、それが根拠となり説得力が高まるというメリットがあります。また、事象から共通点を探っていく過程で、新たなアイディアやビジネスのヒントが見つかることもあります。
日常的に帰納法を実践して論理的思考を習慣化することは、分析力、問題解決能力、生産性などビジネススキルの向上にもつながっていく可能性があります。
「帰納法」以外の推論法
論理的思考(ロジカルシンキング)による推論法は、帰納法のほかにも複数あります。帰納法と対で語られることが多いのは「演繹法」です。演繹法とは、前提となるルールや法則に事象を当てはめて、結論を導く方法です(帰納法と演繹法の違いについては後述)。
鳥類の特徴を例にして考えてみましょう。
(一般論・仮説)鳥類は卵生である
(事実)鶏は鳥類だ
(結論)鶏は卵生である
「鳥類は卵生である」という一般論に対して、「鶏は鳥類だ」という事実は、「鳥類」である鶏が「卵生」という条件に当てはまることから、「鶏は卵生である」という結論が導き出されます。このように、あるルールや事実に基づいて、結論を見つけるのが演繹法です。
汎用性の高い推論法として注目されているのは「アブダクション」です。事象に対して法則を当てはめ、事象を説明できる仮説や結論を導き出す推論法で、「仮説形成法」「仮説的推論」とも言われています。法則部分を入れ替えると別の仮説が導き出され、さまざまな仮説を検証していくことで、問題の特定や解決につなげることができます。
「帰納法」と「演繹法」の違いは?
「帰納法」は複数の個別の事象を前提とし、そこから法則を見出して仮説や結論にたどり着きます。対して、「演繹法」は普遍的な法則やルールを大前提とし、そこに個別の事象(小前提)を重ね、大前提に当てはまる事象から仮説や結論を導き出します。帰納法は抽象度を上げていき、演繹法は抽象度を下げていく流れになります。帰納法と演繹法とでは、推論へのアプローチが真逆になると考えていいでしょう。
帰納法は、企画や依頼業務などのビジネスシーンで「方針や戦略を決めたい時」に向いている推論法です。一方、演繹法は、「方針や戦略に基づいた企画立案」「市場動向の予測」など、未来予測と今やるべきことの明確化に向いています。
「帰納法」を実践するための3ステップ
帰納法を実践するための3つのステップを紹介します。
ステップ1:収集
前提となる事象(観察した結果や過去の経験・データ)を複数集めます。このとき、信頼性の高い情報を集めることが大切です。また、検証内容にもよりますが、帰納法を適切に実践するためには十分な量も必要です。さまざまな角度から検証に必要な情報を集めるようにしましょう。
ステップ2:抽出
集めた事象をいろいろな角度から観察し、整理分類して、共通点や法則を見出します。一見して共通点がないように思える事象でも、視点を変えて「何か類似している点はないか」「読み取れることはないか」と観察していくと、共通点や法則が見えてくることがあります。
ステップ3:結論付け
見出した共通点や法則を基にして、「こういう共通点があるならば○○だろう」と仮説や結論を導き出します。また、仮説や結論はひとつとは限りませんので、他の可能性を模索することも大切です。最後に、その論理展開が破綻していないかどうか、ロジックチェックも行いましょう。
「帰納法」を活用する際の注意点
帰納法は活用方法を間違えると誤った仮説や結論を導き出してしまう可能性があるため、注意が必要です。精度の高い推論を導くためには、信頼性のある十分な量の個別事象を確保することが大切です。集めたデータに誤りや偏りがあったり、サンプル数が少なかったりすると、そこから見出した共通点や法則の確実性が低くなり、導き出す仮説や結論にも影響してしまいます。また、共通点や法則を抽出する時や結論に至る道筋においても、論理が飛躍しすぎないよう注意しましょう。
「帰納法」のビジネスシーンでの活用例
帰納法は、「プレゼンで説得力のある論理を展開したい」「顧客満足度をあげたい」「商品開発で仮説を立てたい」「強い組織づくりをしたい」などビジネスのさまざまな場面で活用することができると考えます。
事例紹介1:電化製品の商品企画
例えば、お客様アンケートで、「新機能の良さがよくわからない」「機能が多すぎてどれを選んだらいいかよくわからない」「いろいろな機能があっても、結局は基本的な機能しか使わない」といった回答があったとします。
これらの共通点を探すと、「多くの機能が装備されていても、それを使いこなせていない人が多く存在する」ということが挙げられます。
ここから導き出される仮説は、「基本的な機能のみを装備した商品のニーズがあるのではないか」「お客様目線での取り扱い説明書の改訂が必要なのではないか」などです。これらの仮説を使うことで、商品企画の方針決めに役立てることができます。
事例紹介2:組織づくり
「この業務で成果を出している人」「このポジションで評価を得ている人」など、うまくいっている人材の行動特性から共通項を抽出し、人事の戦略を立てて強い組織づくりや人事評価制度に役立てることもできます。
例えば、営業部門で過去5年間に社内表彰を受けている人に「スポーツが好き」「よく本を読む」「食べ歩きが趣味」などの行動特性があったとします。共通点は「仕事以外の楽しみを持っている」ことであり、導き出される仮説は「仕事以外の楽しみを持ちやすい環境をつくることが、業務にいい影響を与える」ということが考えられます。
この仮説を基にした場合、業績アップを支える人事戦略として、福利厚生の充実や休暇取得制度の検討などがあるでしょう。
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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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