IT通信業界の2023年度上半期の転職市場の求⼈・求職者の動きを、業界に精通した株式会社リクルートの人材領域で活躍するキャリアアドバイザーがレポートします。「2023年度上半期の転職市場や業界トレンドを知りたい」「納得感のある転職活動のために、採用動向を知っておきたい」という方はぜひ参考にしてください。
IT通信業界の2023年度上半期の転職市場の展望を一言でいうと
求人抑制の動きもあるが、即戦力のニーズは引き続き高い。「生成系AI」の求人も発生。
働き方の柔軟性は前提条件。その上で「賃金」「労働条件」を重視して企業を選ぶ傾向。
1.【IT通信業界】業界・企業側の動き
IT業界全体では引き続き採用は活発です。しかし、領域やスキルによっては、ニーズにグラデーションがあります。SIerでは顧客の状況によって大規模案件の停滞、予算凍結などが生じているケースもあります。米国の景気や為替などの動向をうかがいながら見通しを立てている状況であり、企業のIT投資とそれに伴い適宜人材採用の見直しを行っています。
一方、即戦力へのニーズは依然として高い傾向にあります。業務アプリ分野では小売・流通系（EC）や「2024年問題（時間外労働の上限規制）」が迫る物流系、金融系では決済関連のニーズが増加しています。インフラ分野では引き続きAWS、Azure、GCPなどクラウドエンジニアの求人が多いです。新たな動きとしては、ChatGPTに代表される生成系AIを手がける「プロンプトエンジニア」の求人が一部の外資系企業から出てきました。今後は他社も追随し、求人数は増えていくことが予想されます。経験者が少ない領域であるため、現時点では機械学習の経験やPythonのスキルを持つ未経験者も採用対象となっています。情報処理推進機構（IPA）のデータによると、一般的なITエンジニアの年収相場が500万～600万円が中心であるのに対し、AI・データサイエンス・IoTなど最先端領域に携わる人材は1000万～1500万円が中心です。コスト面でも外部からの採用が困難な中、既存社員のリスキリング、新卒採用によって最先端領域人材の社内育成を図る動きは、今後活発化していくことでしょう。
一方、中途採用は一般層のエンジニアやプロジェクトリーダー／マネジャークラスに集中するほか、「IT知識はないが業務知見を持つ」人材を異業界から迎える方針で進んでいきそうです。最近、比較的採用に成功している企業の特徴として、「現場（配属予定部署）の関与」が挙げられます。転職エージェントでは、現場の担当者から直接アプローチがあり、人材要件や訴求ポイントについて詳細な情報提供を受けることがあります。ダイレクトリクルーティングへの取り組みも含め、現場が「人事任せ」にしないことも、採用成功のカギと言えそうです。
2.【IT通信業界】求職者側の動き
転職先選びにおいて、働き方の柔軟性は前提に、仕事内容よりも「賃金」「労働条件」を優先する人が多くなってきました。ITエンジニアは転職市場において、同職（ITエンジニア）のニーズが高まっていることを踏まえ、より理想の報酬や働き方を実現できないか、と考えている人もいます。企業は自社の報酬水準が他社と比較してどのレベルにあるかをウォッチし、見直しを図ることが重要です。リモートワーク希望者も多いですが、ほとんどのIT企業が制度導入済みのため、差別化につなげることが難しいようです。企業は「フルリモートワーク」のニーズに応えるべく制度整備を進めています。
50代での転職も増えてきました。シニア層の人材獲得に向け、いち早く「70歳定年制」を導入している企業も出てきています。スキルのある人材の動向に合わせ、素早く制度改革を打ち出せる企業が採用成功に結びつきやすいと言えるでしょう。
2023年度上半期のそのほかの業界の動向について知りたい方は、こちらを参考にしてください。
【2023年度上半期】転職市場の動向｜17業界コロナ禍後の中途採用・転職活動の最新状況を解説
小林雄介
新卒にてリクルートキャリア（現リクルート）に入社。IT通信領域の従業員数名のベンチャーから大手企業まで幅広い顧客のリクルーティングアドバイザーに従事。現在は同領域の大手企業を担当する組織にてチームのリーダーを務める。
銀行系証券会社を経て、リクルートキャリア（現リクルート）に入社。IT/Web系人材の転職支援、企業の採用支援を中心に、面接力向上セミナーの講師や拠点長など幅広く担当。現在はコンサルタントとして事業会社IT領域の採用支援とITコンサルタントやエンジニアの転職支援を担当。
