「インセンティブ」とは?意味と転職先選びに役立てる方法を解説

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求人に記載されている「インセンティブ」とは、どのようなことを意味しているのでしょうか。その種類や「歩合制」との違い、ビジネスパーソンに与えるメリット・デメリットなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。「インセンティブ支給」をうたう企業に転職する際の注意点についても説明します。また、企業によってはストックオプションによるインセンティブ制を導入しているケースもあり、ストックオプションについては社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

「インセンティブ」ってどういう意味?

そもそも、「インセンティブ」とは、どのようなことを意味しているのでしょうか。

インセンティブとは?

インセンティブとは、英語の「incentive」に由来しており、「(人の行動を促すために)外部から与える刺激」を意味しています。求人に記載されている場合は、成果型の報奨金を示すことが一般的であり、具体的には、社員の意欲を引き出すことなどを目的とし、成果に応じて支給される基本給以外の報酬を指しています。

インセンティブとボーナス、賞与との違い

インセンティブと間違いやすいものに「ボーナス」「賞与」が挙げられます。それぞれ以下の表のような違いがあります。

インセンティブボーナス・賞与
支給の形態金銭、表彰、副賞などさまざま金銭のみ
支給の時期・回数1カ月、四半期、半年ごと、
1年ごとなどさまざま
夏・冬の年2回が一般的だが、
ボーナス・賞与の制度がない場合や、
3回以上の場合もある
支給の基準本人の業績、チームの業績など企業全体の業績、所属部門・部署の業績、
チームの業績、本人の業績や能力・意欲など

インセンティブ制と歩合制との違い

歩合制とは、実績や売り上げに応じて給与が支給される、成果型の給与形態であり、インセンティブ制と似ていますが、インセンティブ制の支給基準が「目標の達成状況」であるのに対して、歩合制では、契約件数などの実績が基準とされるケースがほとんどです。
また、「固定給プラス歩合制」などと表記されている場合は、インセンティブ制に近いケースもありますが、企業によって運用の仕方は異なるので、選考の段階で詳細を確認すると良いでしょう。

なお、実績をあげられない場合は給与がゼロとなる「完全歩合制」は、労働基準法によって正社員や契約社員には適用できないことになっています(少なくとも労働時間に応じて最低賃金以上の支払いが必要)。求人に完全歩合制と表記があった場合は、社員としての採用ではなく、個人事業主として業務委託契約となる可能性があるため、注意が必要です。

「インセンティブ」にはどのような種類がある?

インセンティブには大きく分けて、金銭的なインセンティブと、金銭以外のインセンティブとがあります。

金銭的なインセンティブ

給与や賞与・ボーナスの金額を増やす報奨金タイプのインセンティブです。毎月の給与に上乗せされるパターン、賞与やボーナスが支給されるタイミングに併せて上乗せされるパターンに加えて、四半期ごと、年間など、支給のタイミングはさまざま。支給の基準、支給額などの設定も、ケース・バイ・ケースです。

また、自社株を定められた価格で得ることができる権利「ストックオプション」をインセンティブとして支給する企業もあり、この場合は、株価が上がったタイミングで権利を行使することで、差額が実質的な報酬となります。

金銭以外のインセンティブ

高い実績をあげた社員を表彰する「社内表彰」、金銭の代わりに物を支給する「物品報酬」、高い実績をあげた社員に休暇込みで支給する「インセンティブ旅行」、高い実績をあげた社員のスキルアップをサポートする「インセンティブ研修」などがあります。

また、希望する部署への異動を支援する制度や、社会への貢献度に関する評価など社員の意欲を向上させるための意識付け、キャリア形成を奨励する人事制度なども、金銭以外のインセンティブの一環とされています。

「インセンティブ制」のメリット・デメリット

インセンティブ制には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

メリット

評価面:勤続年数や年齢、役職などに関係なく、成果が透明性高く、公正に評価される傾向があります。年功序列などによって生じがちな不満も、インセンティブ制によって解消できることが多いようです。

収入面:自分の実力を発揮して成果を出したり、実績をあげたりすることで、収入を増やせる可能性があります。

モチベーション面:「収入が増える」「賞賛を得られる」「健全な競争がある」ことによって、仕事に対してモチベーション高く取り組むことが期待できます。

デメリット

評価面:インセンティブ支給の基準となるような成果や評価は、顧客や経済情勢などの外部環境、突発的なトラブルなどにも左右されるため、「長期に渡って努力する」「経験を積む」「スキルを磨く」といった意欲的な姿勢で仕事に取り組みにくくなる傾向があるでしょう。

収入面:思うような成果が出せない場合、期待どおりの収入増が実現できない可能性もあります。特に収入に占めるインセンティブの割合が高く、固定給が低く設定されている場合は、要注意です。

モチベーション面:「短期的な成果にとらわれ、長期的なキャリアプランを描けにくくなる」「顧客満足度や仕事の内容・プロセスよりも目標達成を重視する仕事の仕方になる」「自分の成果だけを追求する姿勢になる」「社内競争が過熱する」といったケースが見受けられます。

「インセンティブ」を重視して転職先を選ぶ場合の注意点

インセンティブ制度があることを重要視して転職先を選ぶ場合は、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

収入面

インセンティブ制を導入していることをアピールする求人では、高い実績を上げている社員のケースをモデル賃金などとして提示していることが多く見られます。高い年収額が提示されていても、自分も同じくらいの年収が得られるとは限りません。

現実的な収入額の見込みをつけるには、選考中の面接・面談や転職エージェントなどを通じて、詳細を確認することが必要です。「インセンティブが金銭の場合は、金額の平均値や中央値」「インセンティブ支給の基準や設定額」「インセンティブ制度がどのくらい継続しているのか」「インセンティブ制度が今後も継続するかどうか」「支給基準の達成状況や難易度」などを確認しておくと安心でしょう。

また、ストックオプションによるインセンティブ支給を導入している企業への転職を検討する場合は、ストックオプションの種類によって、課税のタイミングや回数が異なるため、詳細については選考時に、面接・面談や転職エージェントを通じて確認すると良いでしょう。

ただし、多くの企業が採用している「信託型ストックオプション」については、従来の「譲渡時のみ譲渡所得がかかる」という解釈に反して、「権利行使時に給与所得として課税される」との見解を国税庁が示しています(2023年4月1日通達)。その場合は、権利行使時の源泉徴収によって手取り額が減るため、注意が必要です。

人事制度面

まず、成果にフォーカスして評価される人事制度が、そもそも自分に合っているかどうかを見極めましょう。特に、これまで「年功序列」の要素が強い企業にいた場合、企業カルチャーのギャップが大きいことで、思ったようなパフォーマンスが発揮できなかったり、収入面や仕事の進め方など、今までとの違いにとまどいを感じたりすることもあるかもしれません。

インセンティブ制を採り入れている企業の場合、転職直後から目標達成について厳しく評価されるケースは少なくありません。そのため、「まだ転職1年目だから」「環境に慣れるまで時間がかかっているから」といった事情は斟酌(しんしゃく)されずに、転職直後から成果を求められがちです。

また、成果重視の職場の場合、「年下の上司と年上の部下」といった関係性が生じることで、コミュニケーションや関係構築に工夫が必要となるケースも見られます。

社風面

インセンティブ制を導入している企業は、社員個々人の成果や、売上高などの数字を重視する傾向が見られるため、基準が明解で透明性が高い反面、数値化できない定性面やプロセスなどの要素が評価されづらい雰囲気もあるでしょう。そのため、「仕事の質が高い」「仕事の進め方が上手い」「時間がかかるが高い成長が見込まれる」「顧客満足度が高い」「仕事のノウハウ共有の点で組織に貢献している」といった点で優れていても、成果が出せない場合は組織内評価が低くなってしまいがちです。「組織全体の最適化に取り組みたい」「中長期での顧客満足度を重視したい」といった志向が自身にあるようであれば、インセンティブ制を導入している企業の社風には、合っていない可能性もあるでしょう。

志向との合致度を見極め、詳細を確認しよう

インセンティブ制に注目して転職先を検討する際には、インセンティブ制が自分の志向に合っているかどうかを見極めたうえで、詳細についての確認が必要です。転職エージェントを利用している場合は、転職エージェントを通じて企業に確認することも可能です。自分が聞きづらいことも、転職エージェントが代わりに確認してくれるので、気になることがあればぜひ活用してみましょう。

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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

監修

岡 佳伸氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。