ビジネスシーンでよく耳にする「イシュー」とは、どのような意味があるのでしょうか。イシューの正確な意味、イシューを特定することのメリットやその方法について、株式会社日本総合研究所の吉田賢哉氏が解説します。
「イシュー」とは?
ビジネス用語としての「イシュー」について、正しく理解ができているでしょうか。ここでは、イシューの基本的な意味と、類似した意味を持つ用語「プロブレム」とイシューとの違いについても解説していきます。
イシューの意味
ビジネスシーンでの「イシュー(issue)」という言葉は、「問題」「課題」「論点」などの意味に加えて、「重要な問題」「問題の核心」といった意味合いも含みます。そのため、イシューは、解決することができれば改善や成長が見込まれ、取り組む価値のある根本的な問題であるともいえます。なかでも、特に優先度や重要度が高く、より本質的であると見なされるものは、「クリティカルイシュー」と呼ばれることもあります。
イシューについて語る際に、この言葉を有名にした書籍として、安宅和人氏の著書「イシューからはじめよ」(英治出版2010年)が挙げられます。同書では、イシューとは「今本当に答えを出すべき問題」(P34)であり、「『何に答えを出すべきなのか』についてブレることなく活動に取り組むこと」(P3)が重要であると述べています。イシューを特定し、それを考えていくことで、ビジネスシーンにおいてより適切な問題設定が可能となります。その問題を解決していくことで、高い生産性を実現しながら本当に価値のある答えを導き出すことに近づいていけるのです。
イシューとプロブレムの違い
イシューの類似語に「プロブレム」があります。プロブレムは、イシューと同様に「問題」「課題」などの意味を持ちますが、ビジネスシーンで使われる際は若干意味合いが異なります。プロブレムは、「自身の前に現れている、取り組まなければならない課題・状況」といった意味合いで使われることが多く、一般的にはイシューに比べて小さく短期的な課題といったニュアンスがあります。
対してイシューは、「自身を取り巻く様々な課題・状況の中から、重要で本質的なものを見極めて切り出したもの」であり、「考察・洞察を経て現れてくるもの」です。自分たちの意思で課題を設定し、それに取り組むことによって大きな成果や価値の獲得につなげていくものであるため、一般的にはプロブレムよりも大きく長期的に扱っていく課題といったニュアンスがあります。
イシューを特定するメリット
イシューを特定するメリットには、「生産性が高まる」「同じ方向に向かって議論が進められる」「新しいアイディアを発見することができる」「インパクトのある成果・価値が得られる」などがあります。
生産性が高まる
自身や組織を取り巻いている多くの課題に対して、ひとつずつ漫然と向き合って解決しようとすれば膨大な時間と労力を費やすことになります。イシューを特定して取り組めば、課題解決のプロセスが効率化され、生産性が高まって経営や事業を成功へと導く道筋が立てやすくなるでしょう。
同じ方向に向かって議論が進められる
集団で議論する際は、様々な論点が気になってしまって議論が拡散してしまったり、議論を重ねていく中で、当初議論しようとしていた目的や方向性を見失ってしまったりすることがあります。イシューを特定して共有することで同じ方向に向かって議論を進めれば、会議などをスムーズに進めることができるでしょう。
新しいアイディアを発見することができる
同じイシューで何度も議論して深掘りしていくうちに、別の視点から新たなアイディアが見つかることもあります。
インパクトのある成果・価値が得られる
イシューに振り向ける時間や労力を多くすることは、問題の本質をより深く多角的に検討することにつながり、問題に対する調査・分析、解決策の検討と実行、解決策が妥当であったかの検証、更なる改善策の検討といった各種時間を短縮することができます。結果、いわゆるPDCAサイクルを短期間で高速に回すことが可能となり、素早く、効率的にインパクトのある成果・価値にたどり着きやすいというメリットがあります。
イシューを特定する方法
イシューを特定する方法をいくつかご紹介します。
候補を立てて比較検討する
イシューを特定する方法のひとつに、様々なイシューの候補を立てて、それらを比較検討する方法が挙げられます。候補の中から、より重要で本質的であると思われるもの、解決が図られたときにインパクトが大きいと見込まれるものを見極めていきます。候補の検討に際しては、暗黙的な前提を排除し、業界の常識などにとらわれることなく、事実やデータ等を手掛かりに、客観的に問題を捉えるようにしましょう。思い込みや前提知識などにとらわれず、ゼロから物事を考える「ゼロベース思考」がよいイシューを特定するためのポイントです。
特定の条件にだけ注目してみる
イシューに関連する各種前提条件が複雑すぎる場合には、特定の条件だけに注目し、他の条件は考慮しない、あるいは条件を固定・仮置きして、検討してみる方法があります。例えば、マーケティング戦略を考える際に、商品に関しては現状のままとして顧客について議論してみる、顧客について特定の年代・性別の顧客層に注目して議論してみるといったことです。また、必要に応じて、極端な状況設定で考えてみるという方法もあります。例えば、顧客数が1/3になった場合、自社のシェアが3倍になった場合など、極端な状況設定で考えてみると思いがけなく重要な問題に気付ける場合があります。
「So What」を繰り返す
注目した問題(イシューの候補)について、深く掘り下げてみる方法があります。「So What(これが問題だとして、だから、何なのか?)」という考えを繰り返していくことで、表層的な問題から本質的な問題を発見できます。例えば、「20代女性の売上が落ちている」から始めて、「顧客層を意識して20代女性の最近のニーズに合致した商品を投入するべき」、「顧客層ごとに、変化する顧客ニーズ把握の仕組みと、それを新商品開発に活かす仕組みを、社内で整備するべき」というように深掘りしていくことで、より本質的な問題(イシュー)が特定されていきます。
可視化する
イシューや、イシューを特定するために利用した事実・データ等を、文字、グラフ化、図表等で可視化し、他者と共有して議論する方法もあります。必要に応じて複数の人の意見を取り入れるように努め、多角的な視点でイシューを特定していきます。
ロジックツリーの活用も可視化手段のひとつです。ロジックツリーとは、ロジカルシンキングの発想を用いてイシューを分解し、構造化し特定していく方法です。木の枝を広げるような形で展開していくことから「ロジックツリー」と呼ばれ、全体像を把握しやすく、各要素について深掘りしやすい特徴があります。ロジックツリーを活用する際は、あらゆる可能性を「漏れなく重複なく(MECE)」列挙することが大切です。収集したデータなどもグラフ化し、視覚的に認識して検討できるようにしておきます。
イシューは特定するだけでなく、解決することが大切
イシューは特定するだけで終わらせずに、実際に解決していきましょう。解決への道筋で、新たなイシュー候補が見つかった場合はイシューの再定義を検討してもいいでしょう。大切なことは、状況に合わせてイシューを正確に把握し、特定していくことです。
関連記事
以下のさまざまな用語に関する記事も是非参考にしてみてください。
吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了後、日本総合研究所に入社。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長や、産業振興・地域振興・地方創生などを幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな業界のビジネスチャンス・トレンドについて多角的・横断的な分析を実施。