株式会社リクルートは、企業で働く人事担当者 5,048 人(※)を対象に、人材マネジメントをテーマとしたアンケート調査を実施しました。管理職・ミドルマネジメントにおける具体的な取り組みや課題などを解説します。調査期間は 2023年3月29日(水)~2023年3 月31日(金)です。
(※)5,048人のうち、従業員規模30人以上の企業に勤める2,761人を集計対象としました。
目次
Executive summary
(1)従来の取り組みの見直しについて
■管理職・ミドルマネジメントに関する制度の変更や、従来のやり方を見直す必要性を感じている企業は44.3%。そのうち、実際にやり方の見直しが十分にできている企業は27.6%。
■見直しが必要と感じる理由として挙げられるのは「管理職のマネジメントスキルが低下しているため」「従来のマネジメントスキルややり方では成果が上がらなくなっているため」「従業員が多様化しているため」。
(2)企業が重要視しているものと実際の取り組みについて
■管理職のマネジメント行動として、企業が最も重要であると考えているものは「従業員の強みを本人に伝えること」、実際に取り組んでいる割合が最も高いのは「従業員の仕事の進捗の把握と状況に応じた支援」であった。
(3)管理職のマネジメント行動と生産性の関係について
■「目標設定と業務デザイン」「成長支援とフィードバック」「コミュニケーションとチームの協働」のそれぞれのカテゴリについて、取り組んでいる企業とそうでない企業の間では、労働生産性に差が出ている。
今回の調査から見えてきたのは、企業はこのテーマについて課題感はあるものの、なかなか対応が進んでいないという現実です。環境変化が激しい中でいかに成果を上げていくかというパフォーマンスマネジメントの観点と、多様化するメンバーマネジメントの観点。課題の背景には、現場のミドルマネジメントがこれらの観点で対応することが必要になっていることがあると考えられます。このような状況の中で、現代の管理職には従来のマネジメント手法の見直しが求められています。従来の画 一的な管理から、個とチームのエンパワーメントへ。管理職こそ、新たなマネジメントスキル獲得を目指したリスキリングが必要と言えるのではないでしょうか。今回のリリースでは、多様な個を生かし、そのエネルギーをチームのパフォーマンスにつなげるための具体的なマネジメント行動を3つに分類して紹介しています。また、管理職のこれらの行動が、組織の生産性向上に関係していることが見えてきましたのでご紹介します。マネジメントとは面白くてやりがいがある仕事です。管理職自身がそのように実感できる職場が増えていくように、皆さまのご参考になれば幸いです。
管理職について、制度を変えたり、従来のやり方を見直す必要性を感じていたりする企業は4割強
管理職に関して、企業の 44.3%が制度の変更や従来のやり方を見直す必要性を感じています(「強く感じている」が 12.6%、「やや感じている」が 31.7%)。「見直す必要性を感じている」と回答した企業のうち、50.2%の企業が制度の変更や、やり方の見直しを十分に進められていないことが明らかとなりました(「できていない」が 18.4%、「あまりできていない」が31.8%)。実際に制度の変更や、やり方の見直しができているのは 27.6%でした(「できている」が 4.0%、「ややできている」が 23.6%)。見直しの必要性を感じている企業の中で、取り組みの進捗には差があることが分かりました。
制度を変えたり、従来のやり方を見直す必要性を感じていたりする理由
管理職に関する制度を変えたり、従来のやり方を見直す必要性を感じていたりする理由について、フリーコメントから抜粋しました。内部の従業員の多様化や価値観の変化、外部環境の変化など、実際のミドルマネジメントの現場では、内外の変化が同時に起きている様子がうかがえます。
- 社会環境の変化により、会社の仕事も変わっていく。当然、管理職の役割も変わっている。そのため、制度を変更する必要がある。(50代、商社)
- 若手社員の離職率が高いため。(50代、商社)
- 従来のマネジメントは、トップダウン型の偏重や長時間労働を前提とした働き方に基づいており、働き方改革に対応できていない点などの問題点があるので。(40代、製造業)
- 多様化が進んでいる中で、管理職のマネジメントや関わり方が重要であり、対応できる力を身につける必要があるため。(30代、製造業)
見直しが必要と感じている理由と、管理職についての課題
管理職やミドルマネジメントの見直しの必要があると感じている理由で最も割合が高かったものは、「管理職のマネジメントスキルが低下しているため」(56.5%)でした。次いで、「従来のマネジメントスキルややり方では成果が上がらなくなっているため」(46.6%)、「従業員が多様化しているため」(41.0%)と続きます。デジタル化やグローバル化が進む中で、ビジネス環境が変化しており、従来のやり方ではマネジメントが難しくなっている状況がうかがえます。
また、管理職についての課題を聞いたところ、最も割合が高かったものは、「部下の人材育成」(36.9%)でした。次いで、「部下のモチベーション向上」(35.6%)、「若手社員への指導・育成」(32.5%)と続きます。管理職の部下や若手社員の人材育成について、課題に感じている企業が多いことが分かりました。
管理職に関する制度について、重要視しているものと実際の取り組み状況
管理職に関する制度について「どれくらい重要であるか」「どれくらい行っているか」を聞きました。「重要である」と捉えている制度で最も割合が高かったものは、「管理職に登用する際は、その人のリーダーシップやマネジメントスキルの観点を重視している」(52.7%)、次いで、「部下による管理職に対する評価サーベイを行い、フィードバックしている」(49.1%)でした。
現場で実施している制度を見ると、最も割合が高かったものは、「管理職に登用する際は、その人のリーダーシップやマネジメントスキルの観点を重視している」(41.7%)、次いで「管理職に求める役割、期待、行動規範といったポリシーを明確に定めている」(41.1%)でした。
管理職のマネジメント行動について、重要視しているものと実際の取り組み状況
管理職のマネジメント行動について、「どれくらい重要であるか」、「どれくらい行っているか」を聞いたところ、「重要である」と捉えている取り組みで最も割合が高かったものは、「管理職は、従業員の強みや持ち味を伝えて、本人に気付かせるようにしている」(58.1%)でした。実際に行っている取り組みで最も割合が高かったものは、「管理職は、従業員の仕事の進捗を把握し、状況に応じて適切な支援を行っている」(47.8%)でした。企業では従業員の強みを本人に伝えることが重要視されているものの、実際に行われているマネジメント行動としては進捗の把握、サポートが多いことが分かります。
管理職のマネジメント行動と生産性の関係
次に、管理職のマネジメント行動が企業の生産性とどのような関係があるのかを確認しました。組織内での管理職の役割、機能をより分かりやすくするために、上記の管理職のマネジメント行動の項目を以下の3つのカテゴリに分類しました。
- 目標設定と業務のデザイン:管理職がどのようにして従業員の目標を明確に設定し、それを達成させつつ、成長と学びを促進できるような業務設計を行っているかというカテゴリです。
2. 成長支援とフィードバック:管理職がどのようにして従業員の専門的なスキルアップやキャリアを支援しているかというカテゴリです。
3. コミュニケーションとチームの協働:効果的なコミュニケーションが組織の活性化のために不可欠な中、管理職がどのようにして円滑なコミュニケーションを通しチーム内の協働を促進しているかというカテゴリです。
各項目は 5 件法で確認しており、カテゴリごとに算出した平均値によって、「取り組んでいない群」・「どちらでもない群」・「取り組んでいる群」という群分けをしました。
群別に生産性の変化を見たところ、以下のグラフのような結果になりました。全てのカテゴリでマネジメント行動に取り組んでいる群の方が生産性が向上している傾向にありました。
まず、目標設定と業務デザインに「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は 41.3%で、「取り組んでいない群」よりも 22.2 ポイント、「どちらでもない群」よりも 15.2 ポイント高い結果となりました。この結果から、管理職が明確な目標を設定し、業務を適切に設計することで、従業員が自身の役割を理解しやすく、チャレンジングな環境をつくり出すことができていると考えられます。
次に、成長支援とフィードバックに「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は 39.9%で、「取り組んでいない群」よりも 20.2 ポイント、「どちらでもない群」よりも 14.3 ポイント高い結果となりました。この結果から、管理職が従業員の専門的なスキルアップやキャリア支援を積極的に行うことで、従業員の能力が最大限に発揮され、組織全体の生産性が向上していると考えられます。
最後に、コミュニケーションとチームの協働に「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は、「取り組んでいない群」よりも 15.5 ポイント、「どちらでもない群」よりも 15.1 ポイント高い結果となりました。この結果から、管理職が効果的なコミュニケーションを通して、チーム内の協働を促進することで、組織内の調和と効率性が高まっていると考えられます。
以上の結果から、これら 3 つのカテゴリのマネジメント行動は、組織の生産性向上においていずれも重要であることが示唆されました。より高い生産性を実現するためには、目標設定だけをしっかり行えば良いというわけではなく、一連のマネジメントプロセスの中で意識すべきポイントがいくつもあることが分かりました。
【転職市場の管理職関連求人動向】社内外の人材活用で課題解決
今回の調査では、企業人事が感じる社内の管理職マネジメントに関する課題を明らかにしました。解説で述べた通り、内部労働市場の改善は生産性を上げるためにも非常に重要な要素と言えます。一方で、企業は内部だけでなく外部労働市場にも目を向けなければ、適切な内部労働市場の改善は難しいでしょう。外部ではどのような動きがあるのか、どのような施策があるのか、どのような待遇を用意しているのか、といった情報なしに改革を進めても、外部労働市場の方が条件的に優位であれば人材の流出にもつながりかねません。
具体的な外部労働市場の動きについては、リクルートは 2023 年7月 19 日に「管理職求人の動向」についての調査結果を発表しました。
管理職求人は増加傾向(2022 年度は、2016 年度の 3.67 倍)であり、業界別の伸び率では、IT 通信業界が最も高い一方、日本型雇用の傾向が強い製造業でも伸びが見られました。求人の増加に伴い、管理職での転職も増加傾向。自らキャリアアップのために転職するケースも見られています。
特徴的なのは、従来年功序列を前提とした管理職の登用をしてきた製造業においても、日本型雇用が着実に変化してきている兆しがあることです。企業の中には、多様化する社員や働き方の要望に応えるためにも管理職をあえて外部採用しているといった声もあります。
管理職の登用やリスキリングに関する課題は、社内の人事管理だけで解決できることではありません。場合によっては外部からの人材登用もあり得ます。内部労働市場と外部労働市場の両方に目を配りながら、社内の改革を進めていくことが求められるでしょう。
津田 郁
金融機関を経て、2011 年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経験し 2021 年より現職。現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。専門領域は人的
資本経営、リーダーシップ、人材マネジメントなどの組織論全般。経営学修士。
久米光仁
大学院修士課程(経営学)で人事労務管理を専攻。女性労働・ワークライフバランスに関する研究を行う。その後、クオンツ・アナリストとして金融業界でマーケット分析を担当。2022 年に株式会社リクルート入社。現在は労働市場や転職市場といった HR 領域におけるリサーチコンテンツの企画立案、社内外への発信に関する業務を行う。
調査概要
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の人事業務関与者(担当業務 2 年以上)
有効回答数:5,048 人 ※ただし、従業員規模 30 人以上の企業に勤める 2,761 人を集計対象とした。
(従業員規模 30~99 人:753 人、100~299 人:605 人、300~999 人:540 人、1,000 人以上:863 人)
調査実施期間:2023 年 3 月 29 日(水)~2023 年 3 月 31 日(金)
調査機関:インターネットリサーチ会社