管理職の転職は難しい?転職実現のためのポイント

管理職の転職は、キャリアアップの方法のひとつです。キャリアを重ねると管理職経験を求められるケースが増えてくるため、転職活動において管理職の経験は重要になります。ただし、管理職の求人は数が少ないため、管理職の転職ならではのハードルの高さや、後悔に繋がりやすいパターンについて知っておくことが大切です。組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に、管理職の転職はなぜ難しいと言われるのか、転職成功へのポイントについて伺いました。

管理職の転職が難しいと言われる3つの理由

一般的に、転職市場において「管理職の転職は難しい」と言われるのはなぜでしょうか。その理由を知っておきましょう。

ポストが少なく、求人自体が少ない

転職市場全体で、管理職を募集する求人が少ないことが大きな理由の一つです。一般的な会社組織では、そもそもメンバー・リーダークラスと比べて管理職の人数が少なく、また、通常は在籍している社員を管理職として登用することが多いため、必然的に管理職の中途採用を行うケースは限られてきます。管理職の転職希望者は、その限られた枠を狙うことになるのです。

さらに、同じ管理職といえども、業界や企業規模、組織のフェーズによってポストや年収の水準も違います。同じ課長職であっても、中小企業から大企業へ転職を目指す場合は、求められる経験・スキルの水準が今より上がるかもしれません。また、もともと年収水準が高い業界にいる場合、同等の条件で転職先を探すのが難しくなります。

管理職の求人自体が少ないことに加えて、「条件が合う」求人となるとさらに限られてしまうため、管理職の転職は難しいと言われています。

多くの求人が非公開になっている

転職サイトや、企業の採用ページに公開される管理職の求人は、募集している求人全体から見ればごく一部です。多くの場合は、転職エージェント経由やスカウトサービス経由で募集され、表には出されない「非公開求人」になっています。求人を公開しない背景として、「重要ポストの採用を知られて社内で不安や動揺が広がるのを避けたい」「社内の動向を競合他社に知られたくない」といった企業の事情から、水面下で採用活動が行われることが大半です。一般に求人が公開されていないので、管理職の求人を探したくてもなかなか見つからないのです。

求められる要件が多く、採用基準が高い

社会人経験の短い若手層の場合は、将来の成長も見込んだ「ポテンシャル採用」もありますが、管理職は経験・スキル、実績、人柄を持ってすぐに活躍することが求められる「即戦力採用」となります。したがって、企業はそのポジションに相応しい人材の条件を細かく設定します。業務に関する専門性やマネジメントスキルはもちろん、既存の組織にはない「+α」の知見や発想力にも期待するなど、転職希望者に求めるレベルは高く、それだけ選考の評価基準も高くなるといえます。

さらに、管理職は組織に与える影響が大きいため、カルチャーフィットをより慎重に検討される傾向があります。高い経験・スキルや実績があっても、企業の価値観や志向性と合わなければ管理職として機能せず、組織や事業が回らなくなるかもれません。採用に至るには、企業として「共に働きたい人物」であることがより重要なポイントになります。

管理職に求められるスキル

管理職には、部下の管理や育成を通じて、高い成果を出す組織を作ることが求められています。まず、組織の方針を伝えて部下を動かすには、物事を概念的に捉えて本質を見極める、「コンセプチュアルスキル」が必要となります。さらに、組織の目標を設定して管理・指導を行いますが、組織の目標を達成するために、「問題解決スキル」が必要です。部下だけでなく、関係部署やパートナー企業などと良好な関係を築き、時に根回しや交渉を行う「対人対応スキル」も重要です。

一方で、管理職に求められる役割は増加しています。組織や部下の管理だけが管理職の仕事ではなく、多くの企業で管理職にプレイヤーとしての役割を求める傾向があります。そのため、管理職にはマネジメントスキル以外に、営業部門であれば営業スキル、バックオフィスであれば経理や法務などに関する業務スキルなど、目標達成のための専門スキルを必要とされることが多くなっています。

管理職が転職するためのポイント

管理職が「後悔しない転職」「納得度の高い転職」をするためにはどうしたらいいのでしょうか。転職活動のポイントをご紹介します。

肩書きや年収に過度にこだわらない

前述のように、管理職の転職では、今の年収や肩書きを基準に考えすぎてしまうと、転職活動に苦戦してしまいます。年収の水準は、業界や企業の規模、その組織のフェーズによっても変動します。また、評価や報酬、等級・役職などの人事制度も企業によって千差万別であり、現職と横並びに比較しても意味がありません。

役職名はあくまでもその企業における役職でしかなく、大切なのは実際の業務内容や、組織における裁量権の方です。また、年収=自分の価値と捉えて「年収ダウンは絶対避けたい」と考える人もいますが、その結果、僅かな差額で自分にマッチした求人をみすみす逃してしまうかもしれません。

転職したときは年収やポストが下がったとしても、その後に活躍して評価されれば、比較的早く昇進や昇格、昇給を実現できるケースは多いものです。転職活動の際は、応募先企業の報酬や評価の仕組みも確認しておくと良いでしょう。ある程度「妥協してもいい」と思える範囲を決めておき、目先のことにとらわれず長い目で見るのが大切です。

「転職理由」を明確にする

管理職に限らず、まずは転職で自分が何を実現したいのかという「転職理由」を明確にすることは非常に重要です。前述のように「もっと自分の経験・スキルが求められる現場に行きたい」「管理職としてスキルアップしたい」といったこともあるかもしれません。そうした転職理由を元に、職務内容、組織における裁量権、年収、勤務地などの希望条件を導き出し、それらの優先順位や妥協ポイントを決めていくことで、企業やポストを選ぶ際の基準が明確になることでしょう。

その場合、最初はどうしても求人などから客観的に判断できる「外的条件」にばかり目が行きがちですが、管理職の転職では、企業風土のマッチングも非常に重要です。入社してすぐに重要なミッションを与えられ、リーダーとして組織を引っ張る管理職にとって、「価値観が合うか」「共に働きたい人がいるか」といったことはパフォーマンスに直結しやすいからです。

例えば同じ業界・業種の企業であっても、経営陣の考え方や発揮する強みによって、何を大切にするかという理念も異なります。実際に、企業のミッションやビジョンへの共感も含めて選択をした人は、比較的スムーズに転職を実現し、活躍できる傾向があるようです。

求められる人材を見極め、経験・スキルを整理する

企業が管理職人材を募集する場合、一般的には「組織の業績改善」「人材開発」「プロジェクトの立ち上げ・実行」など、案件ごとに目的が明確に示されています。まずは求人情報や、転職サイトから提供される情報を利用して、企業がどのような領域を得意とする管理職を求めているのか、どのようなレベルの経験・スキルが必要かを確認しましょう。

その上で、自分の経験・スキルとのギャップがないかを見極めるのがポイントです。例えば、その企業に転職したと仮定して、「最初の100日間で、土台を固めることができるだろうか?」とイメージしてみると、判断しやすいかもしれません。また、経験を積んだ管理職ほど、職務経歴のボリュームは大きくなるものです。しかし、単純に経験・スキルが多ければ良いという訳ではなく、企業が求めているものとは違う能力を強調してもアピールにはなりません。

転職活動をする際はキャリアの棚卸しを行い、過去に自分がどのようなマネジメントをしてきたかを洗い出してみましょう。そのうえで、企業が求める能力に紐づく経験・スキルを取り出し、深掘りすることがポイントです。当時の状況を詳しく振り返り、そのときの課題や、解決に向けて何を考え、実行し、どのような成果に繋がったかを整理し、客観的な数字やエピソードを交えて伝えられるようにしましょう。

管理職の転職を成功させるためのポイント

管理職として転職する場合の、求人探しやアピール方法など、転職活動のポイントをご紹介します。

「管理職候補」の求人も選択肢に入れる

管理職、かつ自分の条件に合致した求人は思っている以上に少ないものです。そのため、条件を緩和して、「管理職候補」の求人を含めることで、選択肢が大きく広がります。求人のタイトルだけでなく、本文に記載されているケースもあるので、しっかりチェックしておきましょう。また、管理職候補の求人に応募する場合は、必要な経験・能力や具体的な業務内容を確認し、どのような成果を出せば管理職を目指せるのかを、面接で質問するという方法も有効です。

プレイングマネジャーに注目する

管理職の転職は、マネジメントのみを任される求人ばかりではありません。前述した通り、管理職にプレイヤーの役割を求める企業も多いため、あえてプレイヤーとしての役割を求められる求人に注目して、成果を出せることをアピールするという方法もあります。特に、ベンチャーやスタートアップなどでは、部下のマネジメントを行いながら、自分で手を動かすことができる管理職を求める傾向があります。プレイング部分でこれまでの経験・スキルを活かすことができるので、マネジメントのみのポジションよりも入社後の見通しがつきやすいでしょう。

マネジメントのスタイルも確認しておく

部下の不安を取り除く、心理的安全性の高いサーバント型の組織や、強いリーダーシップで部下を牽引するトップダウン型の組織など、企業によって管理職に求めるタイプやマネジメントのスタイルは異なります。自分がイキイキと働くことができるのは、どのようなマネジメントスタイルの企業なのかを明らかにしておきましょう。また、マネジメントのスタイルは求人に記載されていないケースが多いので、入社後にギャップが生じないように、応募する企業が求める管理職像を面接で確認しておきましょう。

管理職未経験の場合は、現職でマネジメント経験を積んでから転職する

もともと求人数が少ない管理職ポジション。マネジメント未経験で転職するのは難易度が高いため、管理職経験がない場合は、現職でマネジメント、またはマネジメントに近い経験を積んでから転職するという方法もあります。もし、現職にマネジメント経験を積むチャンスがあるのであれば、現職で管理職への道を探りながら、並行して管理職、または管理職候補への転職活動を進めて、双方の実現可能性を見極めるようにしましょう。

管理職の転職はスカウトサービスや転職エージェントも活用を

管理職の転職活動では、ハイクラス・エグゼクティブ層向けの転職エージェントサービスや、企業や転職エージェントからスカウトを受け取ることができるスカウトサービスの活用がお勧めです。ハイクラス向けに特化した案件を保有し、個別企業の募集背景など、重要な情報を入手しながら転職活動を進めることができます。

粟野友樹氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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