【最新調査】地方部と都市圏の転職動向|地方部の異業種・異職種転職事例も紹介

地方転職調査

地方部と都市圏の転職動向について、転職支援サービス『リクルートエージェント』のデータを分析し、解説します。「働く個人の転職」「企業の中途採用」に関して、地方部においては都市圏よりも抵抗があるのでは、という声に対し、実際の動向を明らかにすることで、地方部での新たな機会創出を目指しています。

【各グラフの見方】
・都市圏は一都三県・大阪府・愛知県、地方部はそれ以外の道府県を示します。
・「都市圏の転職」とは勤務地が都市圏にある企業への転職、「地方部の転職」とは勤務地が地方部にある企業への転職を示します。

トピックス

1.地方部の転職者数は、2015 年度-2022 年度の 7 年で 3.32 倍と増加傾向にある。都市圏の 2.06 倍よりも増加幅が大きい
2.2015 年度-2022 年度にかけて、異業種・異職種への転職は、地方部で 4.43 倍に増加しており、都市圏の2.50 倍と比べても大きく増えている
3.異業種・異職種への転職者数が全体の何割を占めているかを見ると、2015 年度:33.6%→2022 年度:44.0%(10.4 ポイント増加)

同業種・同職種の転職は 2015 年度:23.3%→2022 年度:16.4%(6.9 ポイント減少)であり、全ての転職の中での異業種・異職種への転職の機会が広がっていると言える

転職者推移

地方部の転職が拡大。異業種・異職種への転職はこの 7年で 4.5 倍に増加 

構造的な人材不足が叫ばれる中、特に地方部では都市圏よりも、人材不足は深刻な状況です。そうした中で、地方部と都市圏の転職の実態は、どうなっているのでしょうか。今回、『リクルートエージェント』のデータから、二つのエリアの転職・求人動向の差異を分析しました。 

明らかになったのは、以下のポイントです。 

  1. 地方部への転職者数は、都市圏へのそれより増加幅が大きい(7 年で地方部 3.32 倍、都市圏 2.06 倍)
  2. 未経験で応募が可能な求人件数は、地方部の方が都市圏より増加幅が大きい(7 年で地方部 19.08 倍、都市圏 8.43 倍)
  3. 地方部への異業種・異職種転職は、都市圏へのそれより増加幅が大きい(7 年で地方部 4.43 倍、都市圏 2.50倍)
  4. 地方部と都市圏の企業の賃上げや柔軟な働き方への取り組みについては、賃上げの実施率に違いはなく、「在宅勤務・リモートワーク制度」の実施率は、地方部より都市圏の企業の方が他項目と比べて特に高かった(地方部 34.9% 、都市圏 48.1%)

都市圏との人材争奪戦が激化する中、地方部の企業は、採用ターゲットを異業種・異職種に広げ、賃上げを行い、働き方の柔軟性を高め、人材を求心していることが分かります。一方で、「在宅勤務・リモートワーク制度」などの働き手のニーズに合った柔軟な働き方においては、都市圏の企業に劣後している状況も見られました。 

今後は、働く個人が住む場所に関わらず、イキイキと働ける活躍の場をいかに整備できるかが、キャリア採用成功のカギとなります。会社を中心にしたワークデザインと、個人を中心にしたライフデザインをいかに組み合わせられるか。地域や業種を越える人材の求心力は、リデザイン力にかかっています。 

1~4のポイントについては、以下で詳しく解説します。 

地方部と都市圏の転職者数の推移 

転職者数推移

都市圏:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府・愛知県
地方部:都市圏以外の道府県
出所:リクルート『リクルートエージェント』転職者数の分析

地方部と都市圏の転職者数の推移地方部の企業への転職者数は、この7年で 3.32 倍と増加傾向にあります。都市圏の企業への転職者数 2.06 倍よりも増加幅が大きくなりました。地方部への転職者数の増加の背景には、未経験でも応募可能な求人の増加や異業種・異職種への転職の増加、賃上げや柔軟な働き方に関する取り組みが進んでいることなどがあると考えられます。 

未経験での応募が可能な求人件数と、異業種・異職種への転職者数の増加 

この 7年で未経験での応募が可能な求人(『リクルートエージェント』の求人の「仕事の内容」に、未経験という単語が含まれる求人)件数は地方部で 19.08 倍となりました。都市圏でも 8.43 倍と増えていますが、地方部の方が大きく増えています。未経験者の受け入れに躊躇もありましたが、人材不足を実感している地方部の企業に中途採用が浸透してきていることが背景にあると考えられます。 

未経験求人件数推移

出所:リクルート『リクルートエージェント』求人件数の分析

この 7 年で異業種・異職種への転職者数は、地方部で 4.43 倍に増加しており、都市圏の 2.50 倍と比べても大きく増えています。 

異業種・異職種への転職者推移

出所:リクルート『リクルートエージェント』転職者数の分析

異業種・異職種への転職が地方部の転職全体の何割を占めているかを見ると、2015 年度の 33.6%から、2022 年度には 44.0%と 10.4 ポイント増加しています。同業種・同職種の転職は 2015 年度の 23.3%から、2022 年度には 16.4%と 6.9 ポイント減少しています。未経験でも応募可能な求人が増えているだけでなく、実際に全ての転職の中での異業種・異職種への転職の機会が広がっていると言えます。 

地方部における転職者の業種・職種の異同状況

出所:リクルート『リクルートエージェント』転職者数の分析

【地方部転職事例】異業種・異職種への転職決定者 

前項で、異業種・異職種への転職が増えているとお伝えしましたが、実際の事例を2つご紹介します。 

事例1:暮らしと仕事のそれぞれの理想を追求(30代半ば、新潟県) 

  • 転職前:新潟市内の食品メーカーで生産管理
  • 転職後:地縁のない妙高市へ移住、機械部品製造会社の生産管理に
  • 転職を決めた理由:縁もゆかりもない妙高市での暮らしに不安はあったが、そばやお酒など趣味の昼飲みを楽しめそうだという期待が強かった。異業種ではあるが、面接後に感じた会社の雰囲気の良さから、長く働けそうだと考えた
  • 企業側の変化:未経験での応募ではあったが、工場見学中に仕事内容をはじめ、妙高市の積雪時の状態など生活についても具体的に質問され、仕事はもちろんのこと、ここで暮らす人生をちゃんと考えていただいていると感じ、一緒に働きたいという気持ちが芽生えてきた 

事例2:未経験かつ子育て中で異業種・異職種への転職にチャレンジ(20代後半、秋田県) 

  • 転職前:士業の法人で監査業務のアシスタント。主に申告業務を担っていた
  • 転職後:IT 企業で正社員として経理に
  • 転職を決めた理由:現在の居住地で暮らし続けることができ、子育てとの両立のイメージもできた。これまでの経験も生かせそうだった
  • 企業側の変化:時短勤務希望での応募だったため、正社員ではない雇用形態を想定していた。前職での数値と関わる業務への慣れ、業務効率化に取り組んでいた経験などを魅力に感じた上で、しばらくの間は時短だが、将来的にはフルタイムでの勤務を希望している旨を知り、正社員としての採用を決めた

賃上げや柔軟な働き方に関する取り組みの地方部・都市圏比較

企業に「従業員の賃上げを 2022 年度から 2023 年度にかけて行ったか」を尋ねたところ、「行った」と答えた割合は、地方部が 60.8%、都市圏が 62.0%だった。地方部と都市圏の間で賃上げの実施率に違いはないと言えます。 

授業員の賃上げを2022年度から2023年度にかけて行ったか

出所:リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査 2023」を基に作成

企業に柔軟な働き方に関する取り組みの実施状況を尋ねたところ、「在宅勤務・リモートワーク制度」の実施率が地方部で 34.9%、都市圏で 48.1%と、13.2 ポイント差であり、他項目と比べて最も差が大きい結果となりました。 

柔軟な働き方に関する取り組みの実施状況

出所:リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査 2023」を基に作成

これらのデータから、地方部と都市圏で賃上げの実施率に大きな違いは見られませんが、柔軟な働き方に関する取り組みについては地方部が劣後している状況であることが分かりました。働く個人が住む場所に関わらず、イキイキと働ける活躍の場をいかに整備できるかが、地方部の人材活躍のカギを握るようです。 

解説

藤井 薫(ふじい・かおる)

1988年、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。以来、人と組織、テクノロジーと事業、今と未来の編集に従事。『B-ing』、『TECH B-ing』、『Digital B-ing(現『リクナビNEXT』)』、『Works』、『Tech総研』の編集、商品企画を担当。『TECH B-ing』編集長、『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長・ゼネラルマネジャーを歴任。
2016年、『リクナビNEXT』編集長に就任(現職)、2019年にはHR統括編集長を兼任(現職)。
(※)HR=Human Resources(人的資源・人材)

調査概要

調査方法:『リクルートエージェント』求人データ・転職決定データ分析
調査対象:『リクルートエージェント』求人データ・転職決定データ
調査実施期間:2015 年度~2022 年度
調査機関:リクルート

●企業の人材マネジメントに関する調査 2023

調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の人事業務関与者(担当業務 2 年以上)
有効回答数:5,048 人 ※ただし、従業員規模 30 人以上の企業に勤める 2,761 人を集計対象とした。
(従業員規模 30~99 人:753 人、100~299 人:605 人、300~999 人:540 人、1,000 人以上:863 人)
調査実施期間:2023 年 3 月 29 日(水)~2023 年 3 月 31 日(金)
調査機関:インターネットリサーチ会社