人事や経理、法務や広報、総務や情報システム、内部統制などの管理部門(バックオフィス)の職種は「コーポレートスタッフ」と呼ばれています。企業におけるコーポレートスタッフの役割や求められる経験・スキル、将来的なキャリアパスについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
コーポレートスタッフとは
コーポレートスタッフとは、顧客やユーザーと直接的な接点を持たず、企業運営に必要な管理部門で働く職種を指します。コーポレートスタッフは、「バックオフィス」や「間接部門」と呼ばれることもあります。一般的に、人事や経理、法務や広報、総務や情報システム、IRや内部統制などの職種があります。
一方、顧客やユーザーと直接関わる営業や販売、開発や製造、マーケティングやカスタマーサポートなどは「フロントオフィス」や「直接部門」と呼ばれています。企業の売上は主に直接部門が担いますが、直接部門だけでは企業運営を行うことはできません。健全で安定した経営活動を行うために、コーポレートスタッフが企業を支えることで経営が成り立っています。
コーポレートスタッフの仕事内容
コーポレートスタッフのうち、代表的な7つの職種について仕事内容を解説します。ただし、企業によって職種ごとの仕事内容は異なりますので、参考にしてみてください。
人事
人事の代表的な業務に「採用」「人材開発」「人事企画」「労務」などがあります。採用は、新卒・中途などの採用活動、人材開発は入社した従業員の育成や研修などを行います。人事企画は制度設計や人事戦略の立案、労務は従業員の給与や社会保険などの手続きを行っています。近年は、従来の人材開発や採用業務に加えて、企業の経営戦略を実現するために人事の観点から提案・支援を行う「戦略人事」としての役割を求められる傾向が見られます。
経理
経理の代表的な業務は、日々の「伝票作成」や「経費精算」「支払処理」などに加えて、月次や四半期、年次での「決算書作成」などが挙げられます。企業規模や上場・非上場、グループ会社や海外子会社の有無によって経理の業務内容が異なります。上場している場合は、開示資料の作成が必要となり、海外展開している企業はIFRS(国際会計基準)の対応を行うこともあるでしょう。
法務
法務の代表的な業務に「契約法務」「訴訟対応」「法律相談」「コンプライアンス」などがあり、近年では「戦略法務」という役割が注目されています。戦略法務とは企業の経営戦略を支援する法務を指し、近年は新規事業やM&Aの活発化に伴いニーズが増加しています。契約法務は契約書の作成やレビューを担当し、訴訟対応は弁護士と連携しながら訴訟に対応します。法律相談は日常的に現場で発生するリーガル問題に対してさまざまな相談内容への対応、コンプライアンスは社内の仕組みづくりや知識のアップデートを行うことで、コンプライアンス違反を防ぐ役割を担います。
近年では自社にかかわるさまざまなリスクを識別・評価・管理することを目的とした「リスクマネジメント委員会」の事務局対応を法務組織で担うケースも出てきており、法務・コンプライアンス領域におけるリスクマネジメント業務なども担うことが出てきております。
広報
広報の業務は、プレスリリースの作成やメディア対応などの「社外広報」と、社内の情報共有を主とする「社内広報」の2つに分けられます。社外広報には、PR活動であるメディアリレーションやSNSなどを通じたブランディング活動が含まれます。商品・サービスのPRを積極的に行っている企業では、商品開発部門と協働して広報活動を行うこともあります。一方、社内広報は社内報やメルマガ、社内の掲示板などを活用して従業員への情報提供や社内コミュニケーションの活性化を行います。広報が主体となって社内イベントを実施するケースもあるようです。
総務
総務の代表的な業務に「ファシリティ管理」「購買」「株主総会/経営会議の運営」 「安全衛生」「社内行事」「各種申請」が挙げられます。ファシリティ管理とは、不動産契約なども含めたオフィス施設や備品などの管理、購買は経営に必要な物品の購入手続き、安全衛生は社内の安全管理や従業員の健康管理などを行っています。社内行事は、大規模な会議や社内イベントの運営、各種申請は行政機関への申請手続きなどを担います。例えば、プライバシーマークやISO、株式取扱規程などの対応も総務の業務のひとつです。
情報システム部門(情シス)
情報システム部門の代表的な業務に、自社の「システム企画」「社内システム開発・運用」「インフラ構築・運用」「ヘルプデスク」 が挙げられます。システム企画はシステムの予算作成・管理、経営・事業戦略に沿ったシステムの企画・提案、社内システム開発・運用は新規や既存の業務・基幹システムの設計開発や運用を行います。インフラ構築・運用は、サーバーやネットワークといったインフラ環境の構築・運用、ヘルプデスクはシステムやネットワークにトラブルが生じた場合の問い合わせ対応を行います。情報システム部門の仕事は、自社の社員だけでなく、外部ベンダーやコンサルタント、パートナー企業と連携しながら進めることが多いです。
内部統制
企業における内部統制の仕事は、目的の達成のための計画を立て、整備・運用することが基本となります。内部監査の計画立案や報告書の作成、現場のフォローなどを行い、コンプライアンス意識を高めガバナンスの徹底を目指します。
コーポレートスタッフに今後期待されると考えられること
社会の変化に伴い、コーポレートスタッフへの期待値は変わりつつあります。今後、コーポレートスタッフに期待されると考えられることを解説します。
DX化による生産性の向上や効果改善
政府は、AIやIoTなどのデジタル技術を活用してビジネスを変革し、企業の課題解決や生産性の向上を図る「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を推進しています。経済産業省では「DX銘柄」や「DX認定制度」なども進めており、企業もDXへの対応を迫られています。コーポレートスタッフにおいても、紙で行っていた手続きを電子化する、システムへの入力を自動化するなど、デジタル化による生産性の向上や効果改善などへの対応が求められるでしょう。
戦略的に仕事を進め経営に貢献する
コーポレートスタッフは、営業や販売のように業務が直接売上に反映しないため、業務評価や目標は「ミスをゼロにする」といった減点方式を採用するケースが一般的でした。確実に業務を遂行するために保守的な仕事の進め方を選択する傾向がありましたが、技術の進化が早くグローバル化も進んでおり、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。先の読めない時代においても企業が成長するために、コーポレートスタッフ一人ひとりが経営視点を持ち、戦略的に取り組む姿勢が求められるでしょう。
自社ビジネスや現場理解を深める
コーポレートスタッフは、顧客やユーザーとの接点が少ないため、フロントオフィスのように日々の業務でビジネスを実感する機会は限られています。積極的に自社ビジネスや現場理解を深める姿勢を持たないと、現場の意識や仕事の進め方とのすれ違いが生じ、コーポレートスタッフが決めた目標や戦略が思うように遂行できなくなる可能性があります。バックオフィスは、フロントオフィスが健全な環境で成果を出せるように制度設計や運用・管理、サポートを行う役割を担います。現場の活動や事業運営について理解を深めることで、戦略的な働きかけができるようになるでしょう。
各領域の専門性を高める
経理なら税法、人事なら労働法など、バックオフィスは仕事に関する法律や政府の方針を理解し、法改正や社会変化に対応しなければなりません。また、グローバル化に伴い、国による法律や商習慣の違いなどを理解し、経営方針や社内ルールの策定に携わる機会もあるかもしれません。コーポレートスタッフは、外部の有識者などとも連携し、企業内のスペシャリストとして専門性を高める必要があるでしょう。
コーポレートスタッフのキャリアパス
コーポレートスタッフは、経歴によってさまざまなキャリアパスが考えられます。キャリアパスの一例をご紹介します。
人事
- 管理部門長やCHRO(最高人事責任者)として、全社の人事戦略の立案や経営層への提言などを行う。
- 採用や教育研修、制度設計、労務などの人事業務全般を経験、または特定領域に詳しい人事の専門家として、上場企業やIPO準備会社、ベンチャー企業やグローバル企業などで活躍する。
- 人事の深い知識・経験を活かして人材領域のコンサルタントとして企業や求職者をサポートする。
- 人事労務全般を対象としたBPO企業で提案や運用を行う。
- 社会保険労務士やキャリアコンサルタントなどの資格を取得し、コンサルタントや研修講師などで独立・起業する。
経理
- 経営企画やIRなどを経験し、管理部門長やCFO(最高財務責任者)として財務戦略の立案や経営層へ提言などを行う。
- グローバルに展開する海外子会社で役員として統括を担当する。
- 経理のスペシャリストとして、上場企業やIPOを目指すベンチャー企業などで活躍 する。
- 財務経験を積んで、財務企画や財務アドバイザリー、監査法人、会計事務所、VCやPEファンドなどで活躍する。
- 経理のアウトソーシング企業で管理職として活躍する。
- 税理士、公認会計士などの資格を取得し、外部から会計監査に携わる。
法務
- 総務、人事、内部統制、経営企画などの経験を経て、管理部門長、CLO(最高法務責任者)として活躍する。
- リスクコンプライアンス軸に、非財務領域のリスクマネジメントの専門家として、全社横断のリスクマネジメントに挑戦する。
- 法務やコンプライアンスの経験を積み、内部統制や内部監査として活躍する。
- 法務のスペシャリストとして経験を積み、上場企業やベンチャー企業、グローバル企業などで活躍する。
広報
- 管理部門長やマーケティング職の経験も持ち合わせている場合はCMO(最高マーケティング責任者)として、全社の広報戦略の立案や経営層への提言などを行う。
- 社外広報、社内広報の業務全般を経験、または特定領域に詳しい広報の専門家として、上場企業やIPO準備会社、ベンチャー企業やグローバル企業などで活躍。
- 広報の経験を活かして、代理店やPR会社、イベント会社、サステナビリティ分野などで活躍する。
- 広報やPR、マーケターやイベントプランナーとして独立・起業する。
総務
- 管理部門長として、総務・経理・人事の領域をマネジメントし経営層への提言を行う。
- 総務全般を経験、または特定領域に詳しい総務の専門家として、上場企業やIPO準備会社、ベンチャー企業やグローバル企業などで活躍する。
- 人事、経理、経営企画などを経て、経験・スキルの幅を広げる。
情報システム部門(情シス)
- CIO(最高情報責任者)やCISO(最高情報セキュリティ責任者)、CTO(最高技術責任者)を務める。
- 情報システム部門全般を経験、または特定領域に詳しいITの専門家として、上場企業やIPO準備会社、ベンチャー企業やグローバル企業などで活躍する。
- ITコンサルタントやサイバーセキュリティ、ISMS、Pマークなどのセキュリティ関連コンサルタントとして活躍する。
- システムと内部統制の知識・経験を活かして監査法人でシステム監査や内部統制を担当する。
- ITコンサルタントやITエンジニアとして独立・起業する。
内部統制
- 内部統制の経験を積み、管理部門長として活躍する。
- 内部統制や法務、コンプライアンスなどを経験し、上場企業やIPO準備会社、ベンチャー企業やグローバル企業などで活躍する。
- 上場基準を満たした企業の内部統制経験やIPO経験を活かしてベンチャー・スタートアップ企業で内部統制の構築を担う。
コーポレートスタッフ職の転職にリクルートダイレクトスカウト
コーポレートスタッフ職は、所属している企業の規模や業種、担当領域によって大きく経験・スキルが異なります。もし転職に興味がある場合は、マッチする求人を探すだけでなく、スカウトサービスを活用して自身のキャリアや得意分野にマッチするオファーを待つという方法もあります。
リクルートダイレクトスカウトは、経験・スキルや希望条件を選ぶだけで簡単にレジュメが作成できます。完成したレジュメや求人情報を分析し、企業や転職エージェントにお勧めします。気になるスカウトが届いたら、企業や転職エージェントの担当者に詳しく聞いてみましょう。
コーポレートスタッフ向けのイベント開催予定
2024年10月より、『リクルートダイレクトスカウト』は、キャリアの新たな選択を後押しするWebサイト「働くをひらくDAYS!」をオープンしました。順次さまざまなテーマのコンテンツを公開します。またリアルでも企業のエグゼクティブやロールモデルとなるトップランナーによるセミナーや、トップキャリアアドバイザーへ直接キャリア相談できる機会などを提供していきます。
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粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。