キャリア形成とは？考え方やキャリアプランを立てる方法を解説

「キャリア形成」「キャリア自律」といった言葉を耳にするようになりました。近年、自身のキャリアを会社任せにするのではなく、主体的に考えて行動していくことが求められています。キャリア形成が重視される背景、キャリア形成を考えるメリット、キャリアプランの立て方について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

キャリア形成とは

厚生労働省では、「キャリア」および「キャリア形成」について次のように定義しています。

※出典：厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書について

つまり、働く個々人が主体的に自身のキャリアを考え、自己実現に向けて、必要な経験・スキルを蓄積して職業能力を高めていくことが推奨されていることが分かります。従来の日本企業の多くは、企業が従業員のキャリア形成を主導してきましたが、近年はそれを個人に委ねる企業が見られるようになりました。「キャリア自律」という言葉も浸透しつつあるように、ビジネスパーソンは自身のキャリア形成を会社任せにするのではなく、一人ひとりが自身のキャリアに向き合うことが求められているでしょう。

キャリア形成が注目される理由

「キャリア形成」が注目されるようになった理由の一例として、以下が挙げられます。

グローバル化やITの進化によるニーズの変化

企業経営を取り巻く環境が大きく変化している中、企業が競争力を保って成長していくためには、「グローバル化」「IT化・DX（デジタルトランスフォーメーション）」といった変革への対応が急務となっていると考えられます。そのため、ビジネスパーソンに対しては、新たな知見・スキルをキャッチアップし、柔軟に変化に対応できる姿勢が求められるようになっているでしょう。そこで、個人も主体的・自律的にキャリアを考え、行動に移していく必要性が高まっていると考えられます。

雇用制度や働き方の変化

ビジネスモデルの変革やダイバーシティ（多様性）の推進に取り組んでいる企業もあります。こうした取り組みに際しては、組織の同質性が高い「新卒一括採用」など、従来の日本型雇用制度のみでは対応が難しいと考えられます。そこで、これまで新卒採用中心だった企業が中途採用を実施し、日本企業の多くが導入していた「メンバーシップ型」だけでなく、「ジョブ型」の雇用制度を取り入れる企業もあります。こうした企業の雇用方針の変化を受け、転職希望者数も増加していると考えられます（※）。

※出典：総務省統計局「資料4 直近の転職者及び転職等希望者の動向について」

このように雇用制度が変わり、1社に縛られない働き方も広がっていく中、一人ひとりが主体的にキャリア形成を考えることが重要となっています。

仕事に対する価値観の多様化

『LIFE SHIFT（ライフ・シフト）』の著者であるリンダ・グラットン氏が提唱した「人生100年時代」。これまでのキャリアの基本形は「教育→仕事→引退」が主流でしたが、今後は、「仕事→学び直し→仕事→休養→仕事」「仕事→複数の会社で仕事→フリーランスで仕事しながら世界旅行→仕事→学び直し」など、キャリアステップが多様化していくと考えられます。

「副業」「個人事業主」「フリーランス」や、地方に移住してのテレワークなど、働き方の選択肢も広がってきました。一人ひとりが「自分らしいキャリア」の在り方を模索しているのかもしれません。

キャリア形成を考えるメリット

キャリア形成を考えることには、さまざまなメリットがあります。最終的には「自分の理想とする○○な仕事・◯◯な働き方をする」という自己実現につながる可能性がありますが、そこに至る過程でのメリットをお伝えします。

自己理解が深まり、強みが分かる

キャリア形成を考えるに際して、まず「キャリアの棚卸し」を行います。これまでの経験や成果、身に付けたスキルを整理し、可視化するのです。そうした自己分析によって自身の「強み」を認識できれば、今後のキャリアでそれをどのように活かしていけば良いかも見えてくるでしょう。

目標や目指す方向が明確になる

これまでの経験を振り返り、自身の強みを明確化することで、今後のキャリアビジョンを描きやすくなります。目標や目指す方向が明確になれば、これから「やるべきこと」「やらなくて良いこと」の優先順位を判断しやすくなるでしょう。

目指す方向へ向かうために、これから身につけるべき経験・スキルを考え、状況によっては社内異動や転職を検討するなど、具体的なキャリアプランにも落とし込みやすくなります。

転職する場合、「自身のキャリアプランを実現できるか」という視点を持っていれば、活動の軸が定まり、納得感のある転職活動につながるでしょう。転職しない場合も、社内のキャリア面談などで自身のキャリアプランをしっかり伝えられれば、その実現に近づける職務やプロジェクトにアサインしてもらえる可能性が高まるでしょう。

主体的・意欲的に仕事に取り組める

仕事にやりがいや充実感を持てないときは、「何のためにこの仕事をするのか」といった仕事の目的や意義が見えていないこともあるものです。しかし、目の前の仕事が、目指すキャリアのために必要・重要であることを意識できていれば、その経験やスキル習得に対して前向きな気持ちで向き合えるでしょう。

主体性と意欲を持って仕事に取り組むことで、成果が上がりやすく、成長にもつながるでしょう。成果や成長を周囲から評価されれば、さらにモチベーションが高まる……という好循環を生み出せることが期待できます。

市場価値が高まり、選択肢が広がる

キャリア形成を意識しながら経験を積み重ね、前述のように成果を上げ成長していく好循環が生まれると、人材としての「市場価値」も高まりやすくなるでしょう。将来、転職や働き方を変えようとした場合に、多くの選択肢を持つことができ、希望する仕事や働き方を実現できる可能性が高まるかもしれません。

キャリア形成には「リスキリング」も重要になる

経済産業省は「持続的な企業価値と人的資本に関する研究会」の報告書の中で、人材戦略に求められる要素の一つとして、「リスキル・学び直し」を挙げています。

事業環境の急速な変化、個人の価値観の多様化に対応するためにも、個人のリスキル・スキルシフトの促進、専門性の向上が必要となると考えられています。今後、仕事の在り方が変化していく中で、自らの専門性や強みの転用可能性を高めていくためにも、IT リテラシーやスキルの向上が求められるでしょう。同時に、IT やAI では代替されない人間らしさや、付加価値の創出につながる創造性やデザインなどのスキルもより重要となる、と提言されています。

自身が決めたキャリアプランを実践していきながらも、外部環境の変化をとらえ、柔軟にリスキリングを図っていくことも求められるでしょう。

※出典：経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ～ 人材版伊藤レポート ～」

キャリアプランの立て方

キャリアプランを立てるために、どのようなステップを踏んで進めていけば良いのかをご紹介します。

1：これまでのキャリアを振り返る

まずは、これまで経験してきた業務やプロジェクトなどをすべて書き出し、「キャリアの棚卸し」を行います。担当した業務内容をはじめ、チーム内で担った役割、成功体験、失敗体験なども洗い出しましょう。

2：強みやスキル、仕事への価値観を整理する

「1」で経験した業務の中から、自身が「強み」を発揮したこと、身に付けたスキルなどをピックアップして整理します。また、「日々心がけていたこと」「取り組み姿勢」なども振り返り、自身が仕事において大切にしたい価値観を見つめてみましょう。

なお、ステップ1・2を実践する際には、厚生労働省が提供している「ジョブ・カード（※）」を活用してみるのもいいでしょう。考えが整理しやすくなります。

※厚生労働省「ジョブ・カード活用ガイド」

3：「目指したい姿」を明らかにする

自身の強みや仕事に対する価値観を踏まえ、「将来、こうなっていたい」と思う姿をイメージしてみましょう。具体的でなくても、「マネジメントのポジションに就いていたい」「スペシャリストとして特定分野を極めていたい」「多くの人と協業し、大規模プロジェクトを手がけたい」「独立起業して、理想のワーク・ライフ・バランスを実現したい」など、漠然とした姿であっても中長期視点で考えることが大切です。

4：必要な経験を考えプランを立てる

将来、目指す姿を実現するために、現時点で不足している経験・スキルを考えてみましょう。さらに、それらの経験・スキルを獲得できる業種・職種・ポジション・企業などをイメージしてみます。スキル習得にどれくらいの期間が必要か、時間軸でも考えましょう。

自身が必要とする経験・スキルを現職で獲得できそうであれば、上司や人事担当者などに相談し、場合によっては部門異動や職種転換の希望を伝えるのも一つの方法です。それが叶わない場合、転職を検討してもいいかもしれません。

キャリアコンサルティングを受ける方法も

ここでご紹介したステップを踏んでみても、キャリア形成のイメージがつかない場合は、キャリアコンサルティングを受けてみる方法もあります。

厚生労働省では「キャリア形成・リスキリング推進事業」を行っており、全国47都道府県の各支援センター・ハローワークに相談コーナーが併設されています。仕事やキャリアの悩み、リスキリングについて専門家に無料で相談ができます。

厚生労働省「キャリア形成・リスキリング相談コーナー」

転職エージェントでもキャリア形成に関するアドバイスを受けられます。転職する意思がまだ固まっていない状態であっても、キャリアの相談に応じてもらえるか聞いてみましょう。なお、スカウトサービスに登録した場合は、スカウトを受けた転職エージェントに相談してみてもいいでしょう。