サイバーエージェント法務の流儀 〜「攻め」と「守り」の両輪で支える事業推進〜

リクルートダイレクトスカウトは、株式会社サイバーエージェントの法務・コンプライアンス部の舩嶋貴史氏をお招きし、ビジネスセミナーを開催しました。同社独自の「攻めの法務」と「守りの法務」の考え方について語っていただきました。

登壇者

舩嶋貴史氏

ロースクール卒業後、司法試験に合格し、都内法律事務所で勤務。
その後、株式会社サイバーエージェントの法務部門に転職し、広告代理店担当やメディア部門マネージャーを経験。現在はAbemaTVなどのメディア事業の担当を中心に、株主総会周りの業務にも従事している。

サイバーエージェント法務イベント風景

今のサイバーエージェントを法務として支えてきた!わたしの職務経歴書

株式会社サイバーエージェントの法務・コンプライアンス部の法務室長として、約20名のメンバーのマネジメントとともに、契約書への指摘や新規事業のエスカレーション先として様々な相談を受けています。インターネットTVの「ABEMA」では、コンテンツの調達やドラマなどの制作をしていますが、複雑な契約書の最終承認や前例がない事業ないし契約などで、自分も法務の一員として関わっています。法務・コンプライアンス部は経営本部の中にあり、経営を推進する一要素という位置づけなので、素早く経営判断ができるように意識して動いています。

私はインターネット系のサービスに従事していた父親の背中を見て育ったので、弁護士になる前からインターネット系のビジネスをしたいという漠然とした思いがありました。その後、自分の身の回りでトラブルが起こったことをきっかけに、弁護士を目指すようになりました。司法試験合格後は法律事務所に勤務していたのですが、法律事務所に届く相談は「起こってしまったトラブルの解決」が大半です。一方、同じ法律を扱う仕事でも、企業法務は「トラブルを起こさずにどのように事業を推進するか」という目的になります。どちらも法に対する悩みと想いを持った方をサポートするという意味で根幹は同じですが、ビジネスサイドで頑張っている方を応援したいという気持ちが大きくなり、キャリアチェンジをしようと思いました。

転職にあたりサイバーエージェントを選択した理由は、弁護士を目指すきっかけになったトラブル体験からです。当時、トラブルを目の当たりにして「一度崩れてしまったものを元に戻すのは難しい」と痛感しました。トラブルを未然に防ぐための法務を「予防法務」と呼びますが、インターネットビジネスの最大手で予防法務の仕事ができる企業を探したところ、サイバーエージェントに出会いました。サイバーエージェントは数多くの事業を展開しているので、「予防法務」という観点で活躍できそうな場所がたくさんありました。また、自分が好きなスポーツに親和性がある企業という軸もあったのですが、スポーツ系で様々なチャレンジをしている点も魅力でした。最後に決め手になったのは、現在の私の部長と面接した際に、父親のような親近感を抱いたことです。サイバーエージェントはチャレンジ精神が旺盛な分、どのようなことも前向きに受け入れる企業文化があります。その包容力に魅力を感じたのかもしれませんね。

非連続な成長を支える流儀!「攻めの法務」と「守りの法務」の両輪推進

「守りの法務」である予防法務をやりたいと考えて入社しましたが、サイバーエージェントでは「攻めの法務」も同時に推進しています。私の考える「攻めの法務」とは、「ビジネス上の機械損失を防ぐ」こと。法務への相談に対して法的な観点をチェックした上で、経営判断や社会の動きなどを見て「ここまでであればアクセルを踏んでもいいのでは」と、少し背中を押すイメージです。

サイバーエージェントに限らず、インターネット業界などの新しい分野全体に言えることですが、前例がないために法令が追いついていない部分があります。法令が追いついていないからといって守りに入ってしまうと、インターネットビジネスの移り変わりはとても速いので、1歩でも遅れるといきなりレッドオーシャンになっていることも珍しくありません。先駆者として誰も知らない世界に飛び込んで、ビジネスチャンスを掴む楽しみを得られるのが攻めの法務の魅力です。ビジネスで成功すれば会社の利益になりますし、万が一失敗したとしても、サイバーエージェントは失敗に寛容な企業でもあります。失敗した経験自体が知見となり、次のチャレンジにつながっていくので、攻める意義があると考えています。

もちろん、変化が激しく前例や法律がないために判断ができないこともあります。法務としては、法律で禁止を明示されていれば法をルールにして意見を伝えやすいのですが、どのような法律や業界ガイドラインも、ある程度のバッファがあり、世の中のトレンドで解釈が変わることもあります。サイバーエージェントの経営方針に沿う範囲で、法的な観点や社会の目なども含めて総合的に判断するのが1番難しいところです。類似の法令や過去の事例などを参考にしていますが、世間が評価する部分もあるので、機敏にキャッチできるように日頃からニュースを見て、記事や雑誌も購読しながら日々アップデートしています。時にはストップすることもありますが、経営に近いところでバックアップできるのがサイバーエージェントの法務の面白さです。

また、組織として「攻めの法務」を実現するために、「話しやすさ」を意識しています。部署が違うとどうしても距離を感じますし、聞くのをためらってしまう時もあるでしょう。小さな心理的距離感をきっかけにして「言うのは後にしようかな」「言わなくてもいいかも」とどんどんためらいが積み上がって、最終的に大きな問題に発展するかもしれません。インターネット業界特有かもしれませんが、サイバーエージェントはPDCAのスピードが速く、好奇心旺盛で柔軟に対応できるチャレンジ精神を持つ方が多い企業です。法務も柔軟性やチャレンジ精神を持って、「この人だから話せた」「話してくれたおかげで大事に至らなかった」「新たなチャレンジの機会が作れた」といったコミュニケーションを生み出せるように、できるだけ気軽に話せるようなチームや雰囲気づくりを意識しています。

話しやすさの他にも、相談のしやすさを意識しています。「攻めの法務」でも、止めることもあります。この時の止め方が重要で、相手に納得してもらわないと不快感がたまります。他の部署に比べると、法務は事業の案件を止める機会が多いので、人間の心理として頑張ってきたことを納得できる理由もなく止められたら、相談がしにくくなります。これまで頑張ってきた想いをできる限り汲んで、理由を説明して納得してもらってから止めるようにしています。

一方、「守りの法務」では、法令をきちんと追いかけるといった当たり前のことはもちろん、サイバーエージェントのバックオフィス全体として、DX化・システム化に注力しています。経営判断のサポートをするにはファクトが重要になりますが、法務は取引の入口である与信や契約書などのまとまったファクトを持っています。これらをDX化し、経営情報化という形で整理することで役員の経営判断が早くなり、次の手が打ちやすくなっています。守りの法務では、攻めにつなげるためのDX化を意識しています。

参加者からのQA|サイバーエージェント法務部門の風土や魅力は?

サイバーエージェント法務のイベント風景

Q.サイバーエージェントという会社の文化の中で、法務部門における独自の文化や風土はありますか。

契約書ひとつにしても、経理や税務、労務など他の部署をまたぐことが多いので、様々な業務知識が必要になります。定例でも「簿記の知識は持っておこう」という会話が出るなど、他部署を理解することを意識しています。もちろん専門分野は専門家に任せた方が良いのですが、業務を理解することで気づきにつながることもあります。また、他部署を理解しているとコミュニケーションもしやすくなるので、連携や相談の機会が増えて、結果的にサイバーエージェントのガバナンスに寄与していると思っています。気になることは組織の垣根を超えて自分でキャッチアップしに行くメンバーも多く、フットワークの軽さはサイバーエージェントの法務の文化かもしれません。

Q.法務知識のアップデートはどのようなことを意識して取り組まれていますか。

常に「想定外のところから相談が来るかもしれない」と身構えています。情報収集は常に自分事化するようにして、基本的に毎日新聞を読み、法改正のニュースがあったら少なくとも頭の片隅には入れておきます。あとは日々、法律雑誌を含めて様々な雑誌に目を通すようにはしています。

例えば、欧米のニュースが出た時に、「2~3年後に日本でもこのテーマの相談が来るかもしれない」と想像して情報のアップデートをしておくと、いざ相談が来た時にアンテナが引っかかりやすくなるように思います。

Q.攻めの判断にいつも悩みます。前例のないことに対して、「リスクが顕在化し問題が発生したときに自分では責任を負いきれない」という懸念があって思い切れません。

私自身もサイバーエージェントに入社した頃は、法律以外にも「この数字の規模感は妥当なのだろうか?」など、色々なところで分からないことがありました。ただ、サイバーエージェントの場合は法務部が経営本部の中にあり、事業責任者の方が「やる・やらない」の線引きをしてくれているので、我々は経営判断するためのリスクを伝える役割です。縦と横のラインで連携し、決裁フローを整えたり上司などを巻き込んだりして、自分ひとりで抱え込まないようにしていました。

私は仕事を進める中で、どのようなことも個人の問題ではなく『会社ゴト化すること』を意識しています。具体的には一定の規模の案件であれば、一定の決済やリスクヘッジができていないといけないといったある程度のルールを整理し、それを運用していく。それを何度も実施すれば、結果的にノウハウもたまっていくので、会社として強くなっていくと思っています。そうすることで、個人の判断ではなく会社の判断という形で、本来あるべき適切な判断になると思っていますし、その裏返しとして不条理な個人の責任ということもなくしていけるのではないかと考えてます。

Q.定量的に自身や他者を評価しにくい領域が法務だと思いますが、部下の方に対してどのような観点で評価されているのでしょうか。

私も評価をする立場になって、難しいことを実感しています。例えば、話しやすさのスキルを発揮して未然に問題を解決した場合、私のところまで話が届きません。知らないうちに活躍している方がたくさんいるのに、評価につなげられないことにもどかしさを感じたため、話しやすい雰囲気づくりを心掛けて、「自分がやっていることをオープンにしてほしい」と伝えました。

リスクを考慮して事業を止めた場合、止めなかったことによる損失は測れません。一方で、事業を進めたとしても、うまくいったかどうかの判断はしにくいところがあります。野球の守備と同じで、1回でも失敗すると目立ってしまいますが、その裏にはたくさんの良いプレーがあります。法務はどうしても、評価のしにくさがありますね。

Q.法律的な知識以外に、ビジネスの知識はどのような分野が必要でしょうか。また、 必要になった場面があれば教えてください

個人的な話で恐縮ですが、サイバーエージェントにプロレス関連の会社があり、役員の方ももちろんプロレス好きで、上司も私も好きだったので、話に花が咲く機会がありました。正直なところ、出会った人や職場で興味関心が変わるので、何が活きるか分からないのがビジネスだと思います。できるだけ好き嫌いをしないようにして、会話をする時は、相手の好きな話に合わせられるだけの材料を準備しようと考えています。雑談が結果的に仕事につながることもありますし、相手との距離が縮まると「他にもリスクはないかな?」といった相談がしやすくなります。アンテナを張って、色んなことを知っておいて損はないと思いますよ。

サイバーエージェント法務のイベント風景

リクルートダイレクトスカウトでは、さまざまなコンテンツを公開予定

2024年10月より、『リクルートダイレクトスカウト』は、キャリアの新たな選択を後押しするWebサイト「働くをひらくDAYS!」をオープンしました。順次さまざまなテーマのコンテンツを公開します。またリアルでも企業のエグゼクティブやロールモデルとなるトップランナーによるセミナーや、トップキャリアアドバイザーへ直接キャリア相談できる機会などを提供していきます。

「働くをひらくDAYS」のサイトはこちらから↓
https://career.directscout.recruit.co.jp/event

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