
忙しい社会人の転職活動において、業界研究になかなか時間を割けないことがあるかもしれません。他方で、業界研究をすることで、キャリアの選択肢が広がったり、ミスマッチを減らしたりすることも期待できます。そこで、目的別の業界研究の進め方や業界研究に活用できる情報源について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
転職活動で業界研究をする意義
転職活動で業界研究をする意義には、主に次の3つがあります。それぞれの意義・目的に合った観点・情報源から業界研究を進めていくと、納得できる転職に近づくことができるでしょう。
転職先やキャリアの選択肢を広げることができる
あまり詳しくなかった業界について調べることで、興味が湧いてきたり、応募したい企業や目指したいキャリアの方向性が見つかったりすることがあるでしょう。
ミスマッチを減らす・防ぐことができる
その業界の平均的な労働条件や市場規模、将来性、今後の動向などを把握することで、転職にあたって自身が希望する条件や目指すキャリアとのマッチ度合いを判断しやすくなるでしょう。
選考に活かすことができる
応募企業の業界動向や事業競合などについて調べ、分析することで、「何を魅力と考えてその企業に応募するのか」(志望動機)、「自身のどのような経験・スキルを活かせると考えるか」(自己PR)、「どのようなキャリア・仕事を目指すのか」(転職理由、キャリアの方向性)などを応募書類や面接で伝える際に説得力が増す可能性があります。
【目的別】業界研究の進め方とポイント
前述した業界研究の意義をふまえると、「転職先やキャリアの選択肢を広げたい」「現職とは異なる業界が転職先の選択肢に入るか検討したい」「応募書類や面接で伝える内容に説得力を持たせたい」「入社企業を決定する際の判断材料にしたい」といったときに、業界研究が有効と言えるでしょう。それぞれ、どのような観点と情報源から業界研究を進めると良いか、目的別に解説します。
転職先やキャリアの選択肢を広げたい場合
十分に知らない業界についても知って選択肢を広げたり、他にあり得る選択肢を考えたりしたいといった場合、公開情報を中心に各業界の概略をつかんでいきましょう。「そもそもどのような業界があるのか」「各業界の特徴や動向、将来性はどうなっているか」「各業界の転職市場の動向はどうなっているか」などの観点で情報収集し、自身のスキルや経験を活かして働くことができるか判断していけると良いでしょう。
公開情報として参考にしやすいのは、様々な業界について網羅的に解説されている書籍や記事、動画などです。例えば、各社が発刊している業界地図や、新聞・ビジネス誌・就職情報サイト・転職支援サービスなどの業界解説記事、転職フェアでの業界解説などが活用できます。また、非公開情報では、転職エージェントのキャリアアドバイザーや、その業界で働く知人・友人からの情報などを参考にすることもできるでしょう。
別の業界が選択肢に入るかどうか検討したい場合
未経験の業界なども含めて漠然とでも転職先として想定している業界がいくつかあり、自身とマッチしているかどうかを検討したいといった場合、公開情報を中心に、転職先として有力だと考えている業界については非公開情報(転職エージェントのキャリアアドバイザーや、その業界で働く知人・友人からの情報など)もプラスして情報収集すると良いでしょう。
情報収集・分析の際は、「その業界の特徴や市場規模、最新動向、将来性はどうなっているか/それらは他業界や現職の業界と比較してどうか」「その業界の主要プレーヤーにはどんな企業があるか」「自身が希望する労働条件やキャリアに合っているか」などの観点で見ていきます。
公開情報として参考にしやすいのは、業界単位の情報・分析がある程度詳細にまとまっている記事や、異業種間で比較・検討しやすい形になっている記事などです。例えば、各社が発刊している業界地図や、転職フェアでの業界解説、新聞・ビジネス誌・就職情報サイト・転職支援サービスなどの業界解説記事のほか、官公庁の統計データ(離職率や業種別の給与など)も参考になるでしょう。
応募書類や面接の内容に説得力を持たせたい場合
応募書類や面接で伝える志望動機や自己PR、転職理由などに説得力を持たせたいといった場合、公開情報・非公開情報をもとに応募企業や選考中の企業情報と同業他社の情報を比較・検討して差異を見出したり、応募企業と自身との接点を見出したりしましょう。それらが、志望動機や自己PR、転職理由などを補強する情報になり得ます。
入社企業の判断材料にしたい場合
「選考が進み好感触である」「内定を得た」など、入社企業を決める・選ぶ場面において、改めて応募企業とその業界に関する情報を整理することで、転職先として本当に自分に合っているかどうかを判断する材料にできる場合があります。
具体的な方法としては、これまでの業界研究によって収集した情報と、面談や面接を通じて得たリアルな情報を突き合わせ、自身の希望する条件や目指すキャリアなどと合致しているかどうかを改めて検討します。入社を具体的に検討している業界・企業の情報と、現職や同業他社の情報を改めて比較・検討することも有効でしょう。
業界研究に活かせる情報源
先述した情報源のほか、業界研究に活かすことのできる情報源として次のものが挙げられます。
●経済産業省 経済解析室による分析記事:各業界の最新情報を得られます。
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/keizaikaiseki_toppage.html
●各種調査機関、信用調査会社、経済・ビジネス関連のメディアなどが公表している業界動向に関するレポート:各業界の大まかな展望などについての情報を得られます。
転職エージェントやスカウトサービスからも業界情報を入手できる
転職エージェントには、業界に精通したキャリアアドバイザーがいる場合があるため、業界研究の方法に迷ったときや詳しい情報を知りたいときなどに相談するのも一案です。また、スカウトサービスに登録し、自身の経験職種や希望する職種にはどのような業界の募集があるか検索して調べたり、届くスカウトメールの求人情報から業界の動向や人材ニーズなどを把握したりすることもできるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。