退職までの期間の目安は?円満退職のポイントやトラブル対策など解説

退職を申し出るタイミングは、希望退職日のどれくらい前が一般的なのでしょうか。退職までに要する期間の目安や、円満退職するためのポイント、退職時に起こりうるトラブルやその対策などについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。また、競業避止義務関連のトラブルについては、八雲法律事務所の弁護士 星野悠樹氏にお聞きしました。

退職の申し出をする前の確認事項

退職の申し出は、法的には退職日の2週間前までに行うこととされていますが、企業の多くは、1~2カ月前に申し出ることを就業規則に明記しているケースが一般的です。退職のタイミングによってはボーナスが支給されないケースもあるため、あらかじめ就業規則を確認することが重要です。

また、退職を申し出て退職交渉を行うことは、精神的にも物理的にもストレス負荷のかかることです。もし残留することになった場合、現職での評価やキャリアに影響が出る可能性も考えられます。自分は本当に退職したいのか、退職の意思はどのタイミングでどう伝えるのか、競業避止義務違反に該当することはないかなど、退職の申し出をする前にしっかり確認しておきましょう。

退職にかかる期間の目安と流れ

退職にはどれくらいの期間がかかるのでしょうか?目安の期間と流れを紹介します。

退職の申し出:2週間~2カ月前

退職の申し出は、退職日から最短で2週間前、一般的には1~2カ月前が目安です。就業規則に「○カ月前までに退職を申し出なければならない」と明記されていることも多いので、定められた期限の前に、直属の上司に申し出るようにしましょう。

社内承認:1週間以上

直属の上司に退職の申し出を行った後、部門長や人事といった社内の関係者の承認を得るまでに1週間以上かかることが一般的です。この段階で、上司や部門長、場合によっては役員クラスから引き留めにあうケースもあります。退職交渉が難航した場合は、数週間かかる可能性も考えられるでしょう。

引継ぎや手続きなど:2週間程度

正式に退職が決まった後は、退職に関する手続きや後任への引継ぎなどに2週間程度かかります。多くの担当を抱えている営業職や販売職などの場合は、取引先への挨拶回りなどにも時間を要します。また、プロジェクトの責任者や管理職なども、引継ぎ事項が多く1カ月程度かかることもあるでしょう。

有給休暇の消化

有給休暇が余っている場合は、最終出社日以降に、有給休暇を使って休むことになります。有給休暇の残日数が多いと、希望退職日までにすべて消化できないケースもあるようです。企業によっては有給休暇の買取り制度を設け、余った有給休暇を給与に上乗せして支給してくれるケースもあるので、自社の規定を確認してみましょう。

円満退職をするためのポイント

スムーズに円満退社をするために、確認しておきたいスケジュールについて解説します。

希望退職日と最終出社日を決めておく

就業規則をあらかじめ確認し、退職の申し出の規定、ボーナス支給の条件、残りの有給休暇日数などを調べたうえで、転職先の入社予定日も考慮して、自身にとって最も都合がいい希望退職日と最終出社日を事前に決めておきましょう。

引継ぎのための下準備を行う

正式に退職が決定した後は、後任者への業務の引継ぎを行う必要があります。引継ぎに要する日数、具体的なタスクなどを事前にリストアップして、やるべきことを整理しておきましょう。リストアップしてタスクを言語化、数値化しておくと、よりスムーズに引継ぎを行うことができ、結果として円満に退職することができるでしょう。

退職の申し出時に、社内承認フローも確認する

直属の上司に退職を申し出た時に、人事部や役員など、誰がどのような順番で承認を行うのか、社内の承認フローも確認しておきます。承認にかかる時間も大まかに聞いておくとよいでしょう。聞いていた日数よりも承認に時間がかかるようであれば、誰の承認待ちなのか、確認しましょう。

個人的な都合や考えだけを押し付けない

円満に退職するために、職場の負担を考える、引継ぎの時間を十分設ける、自分の都合だけで有給休暇消化をせず時期を調整する、などといった気遣いも大切です。個人的な都合や考えだけで退職すると、今後の転職時の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。

退職する際に起こりうるトラブルと対処法

退職する際に考えられるトラブルと対処法について解説します。

強い引き留めにあう

退職を申し出た際に、引き留めにあうことは決して珍しいことではありません。感情的になっていたり、退職する気持ちに迷いがあったりすると、退職交渉はうまくいきにくくなります。まずは落ち着いて面談にのぞむようにしましょう。退職交渉の際は、上司や人事から残るように説得をされたり、待遇面が退職理由の場合は待遇改善の提案をされたりすることもあります。一時の感情や雰囲気に流されたり、押し切られたりしないためにも、退職理由を自身の中で明確にしておくことが大切です。

退職の手続きを進めてもらえない

担当者の業務が多忙で処理が滞っているケース、辞められると困るから手続きを進めてもらえないケースなど、退職の手続きを進めてもらえないケースにはいろいろなパターンがあります。「○月◯日までに退職を確定したいです」のように期限を切り、プロジェクトを進める感覚で上司や人事部に交渉していきましょう。それでも進まない場合は、さらに上の上司と直接話すことも検討しましょう。

有給休暇の消化を拒否される

有給休暇の取得は労働者に与えられた権利であり、取得させることが会社の義務であると、労働基準法で定められています。そのため、有給休暇取得を拒否されるようなことがあれば、人事部や管轄の労働基準監督署に相談することになります。ただし、退職者が引継ぎを完了しないまま最終出社後に有給休暇を取得しようとするケースや、就業規則で定められている期間よりも後に退職を申し出たケースなど、有給休暇取得によって業務が回らなくなるなどの事由で、会社が有給休暇取得を拒否することがあります。現職に配慮をして引継ぎのスケジュールを組むなど、有給休暇を消化しやすい土台を自身で作っておくことも大切です。

後任者が決まらない

基本的に後任者の配属は会社が対応することなので、退職者が何かしなくてはならないことはありません。特に管理職や重要なポストについている場合は、更に後任者が決まりづらい傾向にあるので、後任者が決まったらすぐ引継げるように事前に資料を整えておくなど、できることを進めておくといいでしょう。現職と交渉の上で確定した退職日までに後任者が決まらない場合も、一度決まった転職先への入社日をずらすことはなかなか難しいため、事前に作っておいた引継ぎ資料を上司やメンバーに渡しておくようにします。

競業避止義務や機密情報保持に関するトラブル

企業は労働契約を結んだ従業員に対して、所属する企業の不利益となる競業行為を制限・禁止する「競業避止義務」を課すことができます。機密情報の漏えいは当然トラブルに直結しますから、避けなければなりません。退職者によって企業独自のやり方やノウハウが流出し、売上が大幅にダウンした場合、企業に不利益が生じたとして損害賠償請求されることがあります。退職者がその企業独自のやり方やノウハウを身に付けている場合、それは退職者の経験・キャリアでもあるので、そのすべてを使ってはいけないというわけではありませんが、同業他社へ転職する際は、自社で定められている「競業避止義務規定の有無」「退職時に署名する誓約書」を注意深く確認することが必要です。そのボーダーラインがわからない場合、不安を感じる場合は、弁護士に相談してみるのもひとつの手です。

避けた方が良い退職時期

スムーズな転職をするためには、退職時期を見極めることも大切です。避けた方が良い退職時期について解説していきます。

繁忙期

繁忙期は退職交渉が進みづらい上に、職場のメンバーに負担をかけてしまうなど心情的にも交渉を進めづらい状況が生まれるため避けた方がいいでしょう。ただし恒常的に繁忙期のような職場であれば、転職できないことになってしまいますから、できるだけ避けるくらいの気持ちで構いません。

また、自分がメインで動いているプロジェクトがある時も避けた方が良いでしょう。引継ぎに大きな負担がかかることが予想され、強い引き留めにあう可能性もあります。

昇進の直前

直前に昇進を控えている場合は、昇進してそのポジションを2〜3年経験してから転職活動を始めることも選択肢のひとつとして考えていいでしょう。昇進の実績は転職活動において有利な評価につながることがあるからです。今後のキャリアを見据えて、現職での昇進を選ぶか、転職を選ぶか、それぞれで得られることを比較検討して判断するといいでしょう。

ボーナスの直前

ボーナスの支給規程は企業によって異なりますが、「ボーナス支給日に在籍していなければ支給しない」規程としている企業が多く見られます。また、ボーナスの査定期間中に退職を申し出ると、評価に影響する可能性がないとも限りません。満額でボーナスを受給したい場合は、就業規則を確認した上で退職までのスケジュールを組むといいでしょう。ただし、ボーナスに固執しすぎて転職のチャンスを逃してしまわないよう注意も必要です。

重要なライフイベントがある時期

車や住宅の購入などで高額なローンを組む場合、勤続年数や企業規模がローンの審査に影響することがあります。家族の重要なライフイベントを控えている時期の転職は避けるのが無難でしょう。

管理職が円満退職する際のポイント

管理職が円満退職するにはいくつかのポイントがあります。

引継ぎ期間は長めに確保する

大勢の部下を抱えている管理職が退職する場合、多くの企業で「後任をどうするか」が大きな課題となります。特に部長以上のポジションでは、後任探しは難航することが予想されるでしょう。

社内で適任者が見つかったとしても、人事異動や組織変更などを行う必要があり、引継ぎの体制を整えるだけでもそれなりの時間がかかります。もし適任者が見つからなかった場合は、外部から同様の経験・スキルを持った部長クラスを採用することになりますが、適任者を採用できるまでに数カ月かかる可能性もあります。大きな責任が伴う重要な業務が多いだけに、後任への引継ぎも丁寧に行う必要があります。引継ぎに時間がかかることを想定して退職までの期間を考えるようにしましょう。

リファレンスチェックに備える

管理職・CxOなど上位の役職で転職するときは、採用企業側が「前職や現職への実績の確認(リファレンスチェック)」をすることがあります。特に上場企業やIPOを目指す企業に転職する場合は、求職者の評判を気にする採用担当者が少なくありません。将来のキャリア形成のためにも、現職での円満退職を目指しましょう。

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

星野 悠樹(ほしの ゆうき)氏

経営法曹会議会員。中央大学法学部卒、慶應義塾大学法科大学院中退。 主に会社法関係案件(会社支配権に関する各種紛争案件等)、使用者側の人事労務案件(解雇案件、ハラスメント案件等)の法律相談、訴訟対応等を取り扱う。

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