第三者のプロだからこそ、本当に相性の良い組み合わせが分かる。松本氏には、50代経営層人材のKさんとメーカーL社は「最高の相性」に見えた。ただ困ったことに、Kさんには先に内定が決まりつつある別の会社があった。松本氏は、最後まで可能性を消さないという選択肢を取ることで、結局はKさんに「キャリア集大成のポスト」を紹介することに成功する。いったいどのような経緯があったのか。GOOD AGENT AWARD 2021 特別賞を受賞したマッチングを紹介したい。
生産部門統括のポジションは高難度で候補者が見つからなかった
Kさんは、松本氏が過去にコンタクトを取ったことのある方だった。50代経営層人材で、複数部門の本部長クラスや子会社トップなどの要職を歴任し、20年以上在籍した前職ではほぼやりきった状態だった。「Kさんは、キャリアの集大成として、心機一転新たなチャレンジをしたいという想いを持って転職先を探しているところでした」(松本氏)。
ただ、Kさんには1つ悩みがあった。本人は「生産部門のトップに就きたい」という希望を持っていたのだが、生産部門から5年も離れていたために、生産部門のポジションをなかなか紹介してもらえなかったのだ。松本氏が2度目のコンタクトを取ったときは、ようやく1社内定が出つつある状況にあった。
松本氏は、そんなKさんにある案件を紹介する。それがメーカーL社の「生産部門統括」のポストだった。L社はすでに一定の成功を収めているが、PEファンドM社からの出資を受け、さらなる成長を目指した事業改革を進めていた。最優先の改革事項は生産体制の再構築であり、そのために生産部門統括のポジションを新設することになったのだ。しかし、相当の高難度業務で条件を満たす候補者は社内外のどちらにも見つからなかった。「私もM社から相談を受けて探索しましたが、条件を完璧にクリアする人は見つかりませんでした」(松本氏)。ちなみに、松本氏をはじめ、プロフェッショナルバンクはPEファンドとの結びつきが強い。「M社にはこれまでも多くの求職者を紹介しており、お互いに深い信頼関係がありました」(松本氏)。
書類上の懸念を覆し、一度の面接で採用がほぼ決まった
そんなとき、松本氏の頭に思い浮かんだのが、Kさんだった。「Kさんは、生産現場から5年離れていること以外は、M社の求める人物像にピッタリ当てはまっていたのです」。松本氏は再度Kさんにコンタクトを取り、詳しく話を伺った。するとKさんは、確かに5年ほど生産部門に所属していなかったものの、現職では生産部門と密にコミュニケーションを取っており、さらに子会社トップ時代にも生産部門に力を入れていた、と語ってくれた。その上、KさんはL社の扱う商材と同ジャンルの製品を扱った経験があり、商材の専門性もあったのだ。
この時点で、松本氏はKさんが最適だと確信した。「KさんとL社は最高に相性が良いと感じました。私はコンサルタントをはじめて8年になりますが、自分のキャリアの中でも最上のマッチ度に見えました」。松本氏の確信は当たっていた。ファンドM社は、製造経験から直近離れている点を気にしていたものの、一度の面接でその懸念は吹き飛んだ。「このレベルになると、企業と求職者のどちら側も、一度話せば80%は相手がOKかNGかを決めることができます。最初の面談の後、M社担当者はKさんを採用したいと明確に意思表示しました。これ以上の人材はいない、とすぐに感じたようでした」(松本氏)。
Kさんも思いは同じで、L社のポストに強く惹かれていた。しかし、1つ大きな問題があった。「先に内定が出た会社があり、KさんはL社は気に入ったけれど、やはりそちらに入社するというのです。すでに心を決めていたわけです」(松本氏)。
普通なら、話はこの時点で流れるが、松本氏とM社はここで異例の決断をする。
「私でなくてはできない介在価値を発揮したい」と強く思う案件だった
「M社とよく話し合って、Kさんの今後を見守ることに決めました。なぜなら、私はKさんが入社した会社のことを知っており、その会社とKさんはそれほど相性が良くないと感じていたからです。早期に退職する可能性が十分にあると思っていました。しかし、そのことをKさんに直接話しても、Kさんは、私がM社の案件を決めたいからそんなことを言うのだ、と思うでしょう。ですから、Kさん自身に決めていただくために、最後まで可能性を消さずに、あえて待ちつづけるという判断をしたのです」(松本氏)。
松本氏の見立てどおり、入社1カ月ほど後にKさんから連絡が入った。「入社前の想定と違い、歯がゆい思いをしていると言うのです。そこで、M社担当者とともにKさんが働いていた地域まで直接出向き、改めて説得しました」。三者との話し合いにより、Kさんの気持ちは決まった。その1カ月後、KさんはL社に入社した。
Kさんは入社後すぐに八面六臂の活躍を見せ、あっという間に昇進し、現在はL社の経営の一角を担っている。ファンドのM社とタッグを組んでプロ経営者になる道も開けつつあるようだ。「私の願いは、求職者と企業だけでは決して見出だせない選択肢を両者に提示して、コンサルタントとしての介在価値を発揮することです。今回は、第三者の私だからこそ、最高の相性だと見抜けた案件だと思います。あえて退職を待ちつづけるようなことは、骨折り損になる可能性も高く、普通なら決してしません。しかし私には、KさんはL社に入るのが最適だという確信がありました。私でなくてはできない介在価値を発揮したい、と強く思う案件だったのです。その気持ちを実現できて嬉しく思います」(松本氏)。
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
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株式会社プロフェッショナルバンク
松本和晃氏
理系の大学院にて博士号を取得後、東証一部上場の技術系人材サービス会社に入社。化学、製薬、食品、自動車、機械、エネルギー業界のメーカーや研究機関を対象に、人材派遣・人材紹介サービスの営業担当として活動。福岡県と高知県で勤務経験あり、高知では新規支店の立ち上げに関わり、県内全域の取引基盤拡大に努めた。より介在価値が高く社会に大きなインパクトを与える仕事をしたいと考え、プロフェッショナルバンクに参画。製造業界を中心に採用支援・転職支援を行っている。