転職活動の面接で「長所・短所」を質問されることがありますが、何をどのように答えたらいいのか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。そこで、企業が長所・短所を聞く目的、アピールにつながる内容の選び方と伝え方や回答例について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。また「長所・短所」と「強み・弱み」「自己PR」との違いも解説します。
目次
転職で企業が「長所・短所」を聞く背景とは?
転職の面接で企業が知りたいことは、大きく「応募者はどのような人物か」「どのような経験・スキルがあるのか」「入社したらどのような活躍をしてくれるのか」の3点です。そのために角度を変えて応募者にさまざまな質問をしますが「長所・短所」を聞くこともその一つです。
企業が長所・短所について質問するときは、主に次の点をチェックすることが多いようです。決して欠点や問題点を探すことが目的ではないので、必要以上に身構えず、自分という人間をアピールするチャンスだと考えましょう。
自分を客観視できているか
人は誰でも、長所と同時に短所も持っているものです。自分自身を客観視し、長所・短所をきちんと把握できることは、ビジネスパーソンとして成長する上でとても大切です。
長所だけでなく短所も整理・理解し、自身の問題として捉えていると伝えることで「長所を磨きながら短所の克服への努力もできる人」「入社後も成長しながら活躍できる人」という評価につながるでしょう。
社風や人材要件とマッチし、共に働くイメージが持てるか
採用担当者は、長所・短所から応募者の人物タイプや仕事に対する姿勢、自社との相性、募集する仕事への適性についても判断しています。社風や業務内容、人材要件にマッチしていれば、入社後に活躍してくれる可能性が高いからです。反対に、社風や現場との相性が良くない会社に入社してしまうと、ギャップが生じてしまい、双方にとって残念なことになってしまいます。企業にはこうしたミスマッチを避けたいという意図もあるのです。
面接で「長所・短所」はどのように質問されるか
面接では、社会人経験が浅い求職者に対しては、わかりやすく「長所・短所」という言葉を用いて尋ねられることもありますが、ビジネス経験が長い方やマネジメントクラスの方に対しては、ストレートに「長所(短所)は何ですか?」ではなく、「強み・弱み」「自己PR」といった別の言葉に置き換えて質問されることもあります。
「長所・短所」と「強み・弱み」や「自己PR」との違いは?
面接で、「長所・短所」を「強み・弱み」に置き換えて聞かれるケースがありますが、採用担当者は明確に使い分けていないことが多いようです。どちらも同じ意味だと受け止めて良いでしょう。
また、「あなたの長所は?」という質問と、「自己PRをしてください」という質問についても同様に、明確な線引きがされているわけではありません。ただ、面接の流れの中で両方を重ねて聞かれるケースもありますので、「長所」は主に人柄に関して、「自己PR」は主に仕事の成果(数値)に関して、それぞれの回答を準備しておくと安心でしょう。
長所(強み・自己PR)の質問例
「これまでの仕事の中で、どのような強みを発揮してこられましたか?」
「ここが自分の特徴である、独自性があると感じている点について教えてください」
「あなたの自己PRをしてください」
短所(弱み)の質問例
「仕事上の課題と思われていることについてお聞かせください」
「ご自身の中で、今後改善していきたいと考えていることはありますか?」
面接で「長所」を答えるときのポイント
面接で「長所」を答えるときのポイントについて解説します。
「結論→エピソード→どう活かすか」の順に話す
長所を聞かれたときは、以下のように「私の長所は〇〇です」「〇〇と評価されています」と、最初に結論を述べてから「具体的なエピソード→成果→どう活かせるか」の順で話すと、相手に伝わりやすくなります。実際は、採用担当者との会話のキャッチボールになることが多いですが、以下の流れで全体を1〜2分ほどで話せるように準備しておくと良いでしょう。
・最初に「結論」=「私の長所は〇〇です」と端的に伝える
・根拠となる具体的な「理由・背景・エピソード」を伝える
・それによりどのような「成果や実績」を残したか、具体的な数字などを交えて伝える
・この長所を活かしてどのような「貢献」をしたいか伝える「実績」「スキル」「専門性」に寄せても良い
一般的に長所というと、性格に関するものを指す場面も多くあります。しかし転職の面接では、仕事の実績そのものや、発揮してきたスキル、身につけてきた専門性を長所として述べる方法もあります。例えば、営業職なら「売上目標の達成率」、マネジメント経験者なら「若手の育成力」、資格関係なら「〇〇の資格取得による体系的な知識」などと回答しても良いでしょう。
特に経験が豊富な方の転職では、応募企業のニーズに合致する、より具体的なエピソードを提示することが採用の鍵となります。
例えば「リーダーシップ」が長所であれば「百名規模のマネジメントを通じて磨いた人心掌握力」などと伝えることで、相手はあなたがどのような場でどのようなリーダーシップを発揮していたのかイメージしやすくなります。さらに、それを裏付ける詳細なエピソードから「人の心を掴むことに長けていること」や「部下をフラットに評価できる視点」といった、性格特性や行動特性も、同時に伝えることができるでしょう。
伝えるポイントを絞る
長所・短所いずれも同じですが、回答のポイントは一つに絞ることが大切です。自分をアピールするために「専門性や企画力、コミュニケーション能力も強みで…」と関連性のない長所をいくつも挙げる方もいますが、それでは逆効果です。要点が絞れないために「結局、この人はどういう人なのだろう?」と採用担当者を混乱させてしまうだけでなく「自分を客観視できていないのではないか」という懸念を持たれる恐れがあります。
面接で「短所」を答えるときのポイント
面接で「短所」を答えるときのポイントについて解説します。
長所に関連付けて導き出すと納得感がある
面接という短い時間で「自分がどのような人間か」をアピールするには、長所や強みから「この面接を通じて伝えたいテーマ」を導き出し、そこから大きく外れない短所を選ぶことも、一つのポイントになります。短所はある意味、長所と表裏一体を成すもの。したがって、面接で伝えたい長所や強みを裏返して、短所や今後の課題に置き換えることで、面接全体を通じたアピールに一貫性を持たせることができます。
対策や改善への意志とセットで伝える
短所を聞かれると「マイナス評価になる?」と考えてしまい、答えるのを躊躇する方もいるかもしれません。しかし、誰にでも短所はあるものです。この質問で企業が知りたいのは、短所の中身よりも、本人が改善に取り組もうとするスタンスです。したがって、短所を答えるだけで終わるのではなく、その短所を改善しようとしている事実をセットで伝えることが大切です。改善への意欲や、具体的に実践していることを添えると良いでしょう。
「長所・短所」の表現を考えるときのヒント
「長所・短所」の表現を考える際のヒントをご紹介します。
【長所】一般的な表現に経験をプラスしてキャッチフレーズ化する
面接で長所を伝えるときに、言葉から探すとなかなか思いつかないことも多いものです。そんなときは、伝えたいエピソードから考えてみてはいかがでしょうか。一般的な表現に自分の経験やエピソードに基づく言い回しをプラスして、キャッチフレーズ化してみましょう。
例えば一般的な「リーダーシップがある」という表現も、具体的な経験を付け加えることで独自のものになります。以下で具体的な例を紹介します。
リーダーシップを伝える際の例
「自分が目立たずに、周囲の人間を活かすリーダーシップ」
「責任感を背中で示すリーダーシップ」
リーダーシップコミュニケーション力を伝える際の例を伝える際の例
「団結した組織を作り上げるコミュニーション力」
「信頼関係をマイナスからプラスに転じるコミュニケーション力」
分析力を伝える際の例
「業界の歴史に学ぶ分析力」
「異分野の事例を活かせる分析力」
戦略性を伝える際の例
「リスク管理を徹底した上で発揮する戦略性」
「石橋を高速で叩いて成功率を高める戦略性」
【短所】長所を裏返して課題として受け取れる表現に言い換える
前述のように、短所は長所と関連付けて答えると、聞く側にとって一貫性のあるものになります。長所や強みを同時に述べることで「自分の強みでもあるが、この点は改善が必要」というニュアンスが伝わり、納得感が出るでしょう。ここで注意したいのは、応募する企業や職種が求める人材を把握して回答を準備すること。例えば、スピード感を求めている組織に対して「慎重になりすぎて決断が遅くなる」などと述べることは避けた方が良いでしょう。
意志を貫き通す→頑固
「場面ごとの臨機応変さが必要だと自覚している」
論理的→理詰めすぎる
「ロジック以外のコミュニケーションに苦労することがある」
決断力がある→何事も早く対応したい
「中長期の時間をかけて対応する必要がある案件に対し、苦手意識がある」
慎重に進めて成功率を上げる→心配性
「スピードを優先すべきときの見極めが弱い」
「長所・短所」が思いつかない時の対処法
長所と短所を見つける方法をご紹介します。
長所を見つける方法
長所を見つけるには、「上司や同僚、取引先などから評価されていること、得意なことを思い出してみる」「ストレングスファインダーやFFS理論など『自己分析ツール』を参考にする」「キャリアの棚卸しをして、良い成果を出せた背景や評価が高かった理由などを分析する」「短所があれば、それを言い換えて長所を導き出す(下表参照)」といった方法で対処してみましょう。
短所 | 言い換え例 | 長所 |
---|---|---|
心配性 | ←→ | 責任感が強い、慎重に物事を進める、計画性がある |
優柔不断 | ←→ | 周囲に配慮ができる、情報収集を怠らない |
マイペース | ←→ | おおらか、人の意見に流されない、常に冷静でいられる |
緊張しやすい | ←→ | 常に周到に準備する、物事に真剣に取り組む |
負けず嫌い | ←→ | 向上心が強い、目標に向かって人知れず努力できる |
せっかち | ←→ | 行動力がある、スピード感がある、ものごとへの対応が早い |
協調性が足りない | ←→ | 常に堂々と主張できる、信念を貫こうとする |
頑固 | ←→ | 信念を持っている、粘り強く取り組むことができる |
視野が狭い | ←→ | 集中力がある、得意なことを追求する、探究心が強い |
面倒がり | ←→ | 常に効率を考えて仕事をする、無駄を省くことが得意 |
短所を見つける方法
短所を見つけるには、「上司や同僚、取引先などから指摘されること、苦手なことを思い出してみる」「ストレングスファインダーやFFS理論などの『自己分析ツール』を参考にする」「キャリアの棚卸しをして、うまくできなかったことの背景や評価が低かった理由などを分析する」「改善の余地があると思っていることを書き出してみる」といった方法で対処してみましょう。
面接で「長所・短所」を聞かれた時の回答例
(1)営業・管理職:長所「情報収集・分析力を活かした組織作り」←→短所「細かく管理しすぎる」
NG回答例とOK回答例、それぞれのポイントについても解説します。
NG例文
例文
現場の声を頑張って集めるようにした結果、現職では組織成長と売上を伸ばすことに貢献できました。徹底した現場の情報収集による組織作りが私の強みです。
一方で、部下からは「マネジメントが厳しい」「もう少し管理を緩めてほしい」との要望があり、細かく管理しすぎるところが私の短所だと自覚しています。現場への権限移譲も大事であると考え、マネジメントスタイルを変えて対応しました。
ポイント
・どのように現場の声を集めたのか漠然としている
・ただ頑張るというだけの精神論に聞こえ、再現性が感じられない
・売上への貢献については数字の記載がなく具体性に欠けている
・部下との関係性に強権的でネガティブな印象が感じられ、マネジメントの改革内容も不明
・入社後の成長やフィット感に不安を感じる
OK例文
例文
私の強みは、徹底した現場の情報収集による組織作りです。
「神は細部に宿る」を信条とし、部下の行動や表情の変化も含めた現場の生の情報を、定量的・定性的に逐一集めて組織を作ってきました。その結果として筋肉質な組織に成長し、〇年で売上を〇〇%伸ばす成果を上げることができました。この経験を活かし、御社でも生産性の高い組織を作ることに貢献できると考えています。
一方で、課題としては、ときに部下の取り組みの経過を管理しすぎることだと自覚しています。理由は、私の組織から異動した社員の中で、残念ながら少数ですが、業務内容の変化に能動的に対応しきれていない人材がおり、必ずしも成長につながっていないこともあるからです。現在は最低限のルールを決めて「結果」のみを管理するようにし、それ以外は皆が個々で考え、行動する環境づくりを心掛けています。
ポイント
・信条も合わせて伝えることで、何を大事にして組織作りを行っているかが伝わりやすい
・数字を用いて成果を伝えているため具体性がある
・「生産性の高い組織」という表現から入社後の貢献がイメージできる
・自身の課題が客観視できている
・状況に合わせて変化し成長できる人材であることをアピールできている
(2)商品企画・管理職:【長所】成功率を上げる企画立案力←→【短所】慎重
NG回答例とOK回答例、それぞれのポイントについても解説します。
NG例文
例文
現職で評価されているのは、プロジェクトの成功率を上げる企画立案力です。
商品開発にあたって、緻密な計画作りを徹底しシミュレーションを何度も行うなど、力を入れて企画立案に取り組んでいる自負があります。御社でも重要なプロジェクトにおいて確実に成果を出せるよう取り組んでいくつもりです。
弱みはスピード感に欠けるところがあることです。いくつかのプロジェクトでは慎重に計画しすぎたあまりタイミングを逸してしまい、部下やプロジェクトメンバーのモチベーションが下がり、プロジェクトそのものが頓挫してしまった事例もありました。
ポイント
・実績に数値などの具体例がないことで説得力に欠け、実態が伴わないのでは?との懸念を持たれる可能性がある
・必要以上に弱みが目立ち過ぎて、「責任者を任せて大丈夫か?」「プロジェクトの成功率は本当に高いのか?」「緻密な計画というよりも、柔軟性がなく、まわりの意見を聞かない人なのでは?」「コミュニケーション能力が低いのでは」など、企業側に余計な不安や懸念を生じさせてしまう恐れがある
・弱みに対する改善行動や努力する意志が述べられていない
OK例文
例文
現職で評価されているのは、プロジェクトの成功率を上げる企画立案力です。
商品開発にあたっては、緻密な計画と徹底したシミュレーションを行い、力を入れて企画立案に取り組んでいるという自負があります。結果として、担当したプロジェクトの成功率は高く、〇割が目標を達成しています。特に企画に携わった〇〇〇(商品名)は〇年間で売上〇〇〇〇万円を達成いたしました。御社でも、重要なプロジェクトにおいて確実に成果を出せるよう取り組んでいくつもりです。
弱みとしては、慎重に取り組むあまり、ときとしてスピード感に欠けることがあると感じています。プロジェクトによってはもっと粗い計画の段階で走り出した方が、効率も周囲のモチベーションも上がった可能性があります。しかし、過去のプロジェクトでは私の決断が慎重すぎて、部下やプロジェクトメンバーにストレスを与えていたこともありました。こういった経験や反省も活かし、スピード感も大切にしながら、メリハリをつけて業務に取り組んで行きたいと考えています。
ポイント
・実績を具体的な数字で示しているため、客観的で説得力が高い
・事例に数値や固有名詞が入っていることで具体性と説得力がある
・自分の弱みや改善点が客観的に認識できている
・視野の広さと柔軟性がうかがえて、今後の伸びしろを感じさせる
粟野友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
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