転職活動においても必要と言われる「企業研究」ですが、応募する企業についてくまなく調べていくと、時間も労力も膨大にかかってしまいます。そこで、企業研究の目的と、転職活動の選考プロセスに対応した効率の良い進め方について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に話を聞きました。
目次
転職活動における企業研究の目的とは
転職活動における企業研究の目的は、大きく分けてふたつあります。一つは選考を通過するため。そしてもう一つはミスマッチを防ぐためです。
中途採用では、社会人歴やポジションが上がるほど、企業側が応募者に求める経験やスキルが明確になっていく傾向があります。そこで応募者が採用に至るためには、応募企業のビジョンや事業内容、置かれている市場環境や成長フェーズなどを十分理解し、面接での志望動機や自己PRにつなげていくことが重要になります。
また、企業風土や企業理念に対する理解が十分でないまま採用されてしまうと、入社後にミスマッチが起きる可能性があります。特に管理職やリーダーといったポジションの場合、ほかの社員と価値観が共有できなければ、力を発揮するのが難しくなるでしょう。
したがって、転職活動で企業研究をする際は「自分の経験・スキルが、企業の求めるものとマッチするか」「任される仕事やポジションに対して貢献できそうか」「自分のキャリアプランと合っているか」といった観点で進めることが大切です。
企業研究は選考プロセスに合わせて進めるのが効率的
しかしながら転職活動では、キャリアの棚卸しや自己分析、書類作成、応募、選考の日程調整、面接対策など、多くのことをこなさなくてはなりません。特に在職中の場合は、仕事の合間にこれらを進める必要があるため、企業研究にばかり時間を使うわけにはいかないものです。
また、応募前の段階で企業研究を丁寧にしすぎると、求人に応募するタイミングを逃してしまうかもしれませんし、書類選考に通らなければ、時間の無駄になってしまう可能性があります。さらに、実際に企業とコンタクトする前の段階で多くを調べすぎても、不確実な情報や、自分にとって必要のない情報に左右されてしまうかもしれません。
したがって企業研究は、応募や面接という選考プロセスごとに必要な情報を押さえ「わからなかったことは面接で直接聞く」というスタンスで進めるのが効率的でしょう。面接も企業研究の一環と考えて、選考の進行と共に企業理解も深めていくことを考えましょう。
企業研究で活用できる情報源
転職の企業研究に活用できる情報には「公開情報」と「非公開情報」の2種類に分けられます。それぞれにアプローチするいくつかの情報源と特徴についてご紹介します。
公開情報
公開情報には以下のような情報源があげられます。
求人情報
企業が求めている経験・スキルを理解する上で、最も基本的な情報源です。その求人において任される職種やポジション、事業の特徴や将来性などが網羅され、他社との比較検討にも利用できます。
企業ホームページ
企業理念や製品・サービス概要のほか、経営陣や社員のインタビューなども掲載され、企業のカラーを知る上で参考になります。また、自社の求人募集を掲載していることもあります。
転職フェア・会社説明会などのイベント
複数の企業が出展し、担当者が転職に特化した最新情報を提供するイベントで、オンラインで参加できるものもあります。企業のホームページや求人にはない情報を得られることもあり、転職活動のタイミングで参加できれば有益な情報源となるでしょう。また、企業によっては転職者向けに会社説明会を実施しているケースもあります。こちらも転職フェア同様に、企業の担当者から直接「生の情報」を聞くことができます。
新聞・業界紙・四季報など
企業が公式に発信するもの以外にも、さまざまなメディアから情報を得ることができます。新聞や雑誌では、業界のトレンドや企業の最新ニュースをチェック。四季報は就職活動でなじみのあるものですが、転職活動でも有効です。会社概要や業界内シェア、業績や社員の平均年収などのデータがわかるほか、将来性や業界内のポジションを確認するのに役立ちます。
非公開の情報
非公開情報には以下のような情報源があげられます。
転職エージェント
転職エージェントでは、企業の人事担当者から直接募集背景などを聞いていたり、業界に精通しているからこそ知り得る転職市場のトレンドを掴んでいたりすることがあります。保有している求人と自分の経験・スキルとのマッチングや、カルチャーフィットにも第三者視点でアドバイスをもらえるでしょう。
知人・友人
転職先候補の企業で働いている人のほか、選考を受けたことがある人や、競合する企業に勤めている人が周りにいれば、社内の雰囲気、仕事の進め方、業界の動向などを聞くことができます。ただし、話者の主観的な情報でもあるため、あくまでも参考として考えましょう。
選考の面接・面談・応募前のカジュアル面談
事前に企業研究をしてもわからなかった疑問点は、選考の面接や面談で質問すると良いでしょう。実際に採用担当者と話すことで、初めてクリアになることもたくさんあります。また、企業が求職者との接点を増やすために、応募前の「カジュアル面談」を用意している場合もあります。職場の雰囲気を知ることができる機会なので、活用してみても良いでしょう。
【選考プロセス別】企業研究のやり方と活かし方のポイント
転職活動の選考プロセスに沿って効率よく企業研究を進める方法と、活かし方のポイントをご紹介します。
【応募前】業界と求人情報を中心に把握
求人に応募する前の企業研究は、自分の目指すキャリアや希望条件と、転職先候補となる業界・企業との間にズレがないかを確認することに重点を置きましょう。
業界については、新聞や業界紙などで最新の動向や成長性などについて把握します。さらに転職先候補となる企業の求人情報や中途採用ページなどの記載内容を読んで、自分の経験・スキルが要件を満たしているか、自分の転職理由が実現できるか、年収・勤務地などの希望条件は合っているかなどを確認します。これらの情報を元にして転職先候補の企業に優先順位をつけ、実際に応募する企業を絞り込んでいきましょう。なお、応募の時点では候補を絞りすぎず、可能性のある選択肢をなるべく残しておくことをおすすめします。また企業研究で得た情報は、応募書類に記入する志望動機や自己PRを考える際にも役立てられます。
【書類通過後】応募企業と自分との接点を分析
書類選考の通過後、面接対策の企業研究に進みます。応募企業の事業内容を分析し、自分の経験・スキルとの「接点」を見つけて、面接で伝える志望動機や自己PRにつなげるのが目的です。
事業分析の方法の一つである「3C分析」というフレームワークは、企業研究にも応用ができます。3C分析では、一つの企業を下の3つの観点で分析します。求人や企業ホームページ、インターネットなどを利用し、可能な範囲で調べてみましょう。
- 自社(Company)…この企業はどのようにして売上を上げているのか
観点:企業理念、事業内容、ビジネスモデルなど - 顧客・市場(Customer)…この企業はどのような顧客になぜ選ばれているのか
観点:顧客、市場規模、顧客ニーズなど - 競合(Competitor)…競合他社の特徴と強みは何か
観点:競合他社、競合他社の特徴、異業種競合先(他業界で同じ顧客に対して、代替できる商材を持つ企業とその商品)
このようにして、応募企業の強みや業界における立ち位置を整理したら、これまでの自分の経験と、応募企業で求められている業務との接点を探しましょう。双方を「いつ」「どこで」「だれと」「何を」「どのように」と5W1Hで整理すると見つけやすくなります。
例えば営業の管理職の場合では、業界や扱う商材が違っても「営業スタイルが近い」「顧客の性質が似ている」「商品の価格帯が近い」などの共通点が見つかることがあります。あるいは、自らの経験・スキルにも応募企業との共通点を見いだすことができます。管理職として組織を大きくした経験があれば、成長フェーズの企業へ応募する上では強みになるでしょう。
そうした接点を見つけることで「強みとしてきた〇〇が共通するので、その経験を活かして御社でも活躍できます」というアピールにつなげていきましょう。
また、面接当日までに新聞記事などで、業界のトレンドや企業の最新ニュースに目を通しておくと良いでしょう。
【面接】これまでの企業研究でわからなかったことを確認
これまでの企業研究でわからなかったことや疑問に感じたことは、面接の場で確認しましょう。採用担当者が現場の人であれば、仕事の流れやスケジュール感などのリアルな話が聞くことができますし、人事担当者であれば「入社後に期待することは何か」といった情報を得ることもできるでしょう。面接で直接企業とコンタクトすると、求人に書かれていない募集背景やミッションについて、より解像度の高い情報が得られることもあります。その情報から自分の志望と企業とのミスマッチに気づくことがあるかもしれません。
次の面接に進む際には、一次面接で得られた情報を元に企業情報やニュースをさらに詳しく調べ、志望動機や自己PRのブラッシュアップをしていきましょう。また、例えば「私はこう仮説を立てていますが、今後の事業の展開については具体的にどうなりますか?」といった逆質問に役立てると、採用担当者には事前に準備をしているという意欲も伝わります。
【最終面接前後】選考が進んだら環境や雰囲気をチェック
最終面接前後では、職場の環境や雰囲気を確認することをおすすめします。応募企業の人事担当者に相談して社内を見学したり、同僚や部下になる人たちと面談をさせてもらったりするのも良いでしょう。場合によっては、社内のミーティングやイベントに参加させてもらえるケースもあります。例えば、「入社を前向きに考えていますが、職場の雰囲気についてもう少し詳しく教えてください」などと交渉すれば、応じてもらえる可能性が高いでしょう。
特に管理職やハイクラス人材の転職では、入社後の早い段階で成果が求められるケースが多いため、社風とのマッチングや、一緒に働くメンバーとの相性がとても重要になります。入社後にどのようなスケジュール感でどの程度の成果を求められるのか、社内でのコミュニケーション手法はどうなっているのか、仕事とプライベートのバランスはとれそうか、給与と労働条件に満足できるかなど、具体的にイメージできるよう一歩踏み込んだ情報収集を行って自分の転職軸と照合します。最終的な意思決定をする際には、自分自身が体験したリアルな「一次情報」を大切にしましょう。
【内定承諾前】複数社内定した際の企業選びのポイント
複数社から内定を獲得して企業選びに迷った場合は、これまでに集めた情報の良い点悪い点を企業ごとに「◯」「△」「×」もしくは点数に置き換え、評価表にまとめます。志望度を可視化することで、比較検討しやすくなります。
内定に対してはそれぞれの企業ごとに入社意向の回答期限が設けられています。追加でリサーチする時間も限られていますが、不明点はそのままにしないことが入社後のミスマッチを防ぐポイントです。不明点はすぐに確認をして、自分なりに納得した上で入社の最終判断をしましょう。
転職エージェントやスカウトサービスではピンポイントな企業情報も入手できる
転職エージェントサービスやスカウトサービスを利用することで、担当者から求人や企業のホームページには載っていない情報を入手することもできます。
例えば、求人に「新しいサービスを立ち上げるための人材を募集」とだけ記載されている場合、求職者は入社後にどのような業務を担うのか求人からは詳細を読み取ることができません。しかし場合によっては、転職エージェントやスカウトサービスの担当者が「口頭でのみ開示」を条件に情報を把握していて、開示できる範囲で求職者に教えてくれることもあります。
また、保有する求人について、実際に転職した人の情報を聞いたり、「有給消化率」や「離職率」など、企業に直接質問しにくいことを代わりに確認してもらったりすることも可能です。密度の濃い企業研究のためにも、ぜひ登録してはいかがでしょうか。
粟野友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
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