退職後の転職には貯金がいくら必要?お金の心配をせずに転職するためには

「仕事と転職活動との両立が難しい」「今の仕事をやり切って次を考えたい」などの理由で、退職してから転職活動をする場合は、収入のない期間を乗り切るための蓄えが必要です。転職活動中にはどのような支出があり、入ってくるお金はどのくらい見込めるでしょうか。余裕を持って転職活動をするためには、どのくらいの貯金が必要でしょうか。転職活動に伴うお金の話を、社会保険労務士とキャリアコンサルタントの2人の専門家に解説していただきました。

転職活動にかかるお金はどのくらい?

最初に、転職活動にどのくらいの資金が必要になるかを把握しておきましょう。

転職活動にかかる主なコスト

転職活動にかかる主な費用をご紹介します。応募件数や活動期間によってもトータルの金額は異なるので、自分の転職活動に当てはめて考えてみましょう。

証明写真代や履歴書の用紙代

証明写真の撮影代、応募書類の用紙購入費やプリント代など。インターネットから応募する場合も「履歴書への写真添付は不要」とされていない限り、写真は必要です。

応募書類の郵送費

応募書類を郵送する企業もあります。こまごまとした出費ですが、件数が多ければ意外にかさむことも。

面接のための交通費

応募企業が近隣でも、面接回数が多ければ交通費もかさみます。ただ、最近ではオンライン面接を実施する企業が増えているため、以前の転職活動に比べると交通費負担は軽くなる傾向があります。それに伴い、移動先で時間調整をする際の飲食代なども、以前よりは少なくなるでしょう。

携帯電話、インターネットなどの通信費

交通費負担が減るのに対して、携帯電話の通信費、ネット環境整備のための費用、面接に使うパソコン端末の購入費などが生じることもあります。

面接用のスーツや靴などの服飾費(購入する場合)

一次、二次はオンラインでも「最終面接は対面で」という企業も多いため、スーツや靴などを購入する場合はその費用も必要になります。

U・I・Jターン転職はさらに出費を見込んでおこう

Uターン・Iターン・Jターン転職をする場合は、遠隔地まで面接に出向く必要があり、時には宿泊費も必要です。企業によっては二次面接以降の交通費を負担してくれることもありますが、一次面接では自己負担がほとんどなので、出費を考えておく必要があるでしょう。

とはいえ、最近は地方の企業もオンラインで面接をするケースが増えています。複数の企業の選考を同時に進めて面接の日程をまとめるなど、計画的に調整すれば、交通費や宿泊費を安く抑えることも可能でしょう。

退職してから転職するには貯金がいくら必要?

退職後に転職活動をすると、在職中に比べて「自己分析や企業分析に十分な時間をかけられる」「面接などのスケジュール調整がしやすい」などのメリットがあります。しかし、その間に生活費が足りなくなれば、経済的な不安が膨らみ、落ち着いて転職活動に取り組むどころではなくなるかもしれません。では、どのくらいの金額が必要になるでしょうか。

最低でも3カ月分の生活費+αの貯金が目安

例えば3月末に会社を退職した人が、4月1日からハイペースで転職活動に取り組み、1カ月半で内定を獲得して6月1日に新しい会社に入社したと想定してみましょう。

3月末日 退職

4月1日 転職活動開始

4月初旬 前職から3月分の給与が振り込まれる
(月末締め、翌月払いの場合)

5月中旬 内定

6月1日 転職先企業へ入社

7月中旬 転職先から6月分の給与が振り込まれる
(月末締め、翌月払いの場合)

このように、かなりスムーズに転職できた場合でも、約2カ月の無収入期間が生じることがわかります。一般的に、転職活動を始めて入社するまでの期間は3〜6カ月と言われます。面接が進まず苦戦したり、納得できる転職先が見つからなかったりすれば、さらに期間が伸びることもあるでしょう。

こうしたことから「前職の退職金がある」「副業の収入がある」などの場合を除き、退職してから転職活動をするためには、最低でも「生活費3カ月分+α(転職活動の費用ほか予備のお金)」は貯金しておくことをお勧めします。

失業保険の受給には一定の期間がかかる

退職して転職活動をする場合に「もらえるお金」についても確認しておきましょう。

まず、雇用保険の加入期間が離職前の2年間に通算12カ月以上あれば、ハローワークで失業保険の手続きを行うことで、失業保険の「基本手当」を受給できます。基本手当日額は年収によって異なり、30〜44歳では7,510円が上限。所定給付日数は、雇用保険の加入期間によって90日〜150日となります(自己都合退職の場合)。

基本手当がもらえるまでの期間は、退職理由によって異なります。「会社都合退職」の場合は、受給資格の決定から約1カ月で初回の振込があるのに対し「自己都合退職」では2カ月の給付制限期間が設定されているため、約3カ月は見ておく必要があります(下記参照)。

●自己都合退職した人が基本手当を受給できるまでのモデルケース

3月末日 退職。会社がハローワークに離職票発行の手続きをする
▼(約10日間)
4月11日 前の会社から離職票を受け取りハローワークで受給手続き。受給資格決定
▼(7日間)
4月17日 7日間の待機期間終了

4月18日 2カ月間の給付制限期間開始

5月9日 1回目の失業認定日

6月17日 2カ月の給付制限期間終了

7月4日 2回目の失業認定日
▼(約1週間)
7月11日 1回目の基本手当振込(6月18日〜7月3日分。以後4週間おき)

早期に転職できれば「再就職手当」が受け取れる

「再就職手当」とは、雇用保険の受給資格のある人が早期に再就職すると、一定の条件のもとに支給される手当です。次のように、再就職が早く決まるほど支給額も多くなります。

  • 所定給付日数を3分の2以上残して再就職した場合…支給残日数の70%
  • 所定給付日数を3分の1以上残して再就職した場合…支給残日数の60%

例えば所定給付日数が90日の場合、支給残日数が60日以上残っていれば支給率70%、30日以上残っていれば60%となります。基本手当日額は年収によって異なりますので、次のケースで再就職手当の額を計算してみましょう。

●自己都合で退職後、2カ月の給付制限期間内に再就職した場合

所定給付日数:90日、支給残日数:90日、基本手当日額5,000円として
90日×70%×5,000円=31万5,000円…再就職手当は満額の31万5,000円となります。

再就職手当の受給条件と手続き

ただし、再就職手当を受給するには下記の条件を満たす必要があります。

  • 就職日前日までの支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること
  • 7日間の待機期間満了後の就職であること
  • 自己都合退職の場合、給付制限期間の最初の1カ月は、ハローワークか人材紹介事業者の紹介で就職すること。上記モデルケースで4月18日〜6月17日が制限期間である場合、5月17日までの就職はハローワークなどの紹介が条件となる。5月18日以降は、求人広告や知人紹介などで決めた就職も対象になる
  • 就職日前の3年以内の就職について、再就職手当の支給を受けていないこと
  • 就職先に1年を超えて雇用される見込みがあること
  • 原則として、雇用保険の被保険者となること

再就職手当を受けるには、ハローワークから「再就職手当支給申請書」を受け取り、再就職先に所定欄を記入してもらった上で、就職後1カ月以内にハローワークに提出します。内容に問題がなければ1カ月以内には支給となるでしょう。

社会保険や税金の支払いについても忘れずに

会社員の時は、給与から天引きされているお金をあまり意識しないものですが、退職すると自分で社会保険の保険料や税金を納める必要があります。離職期間中の生活費を見積もる際には、これらの支出も考えておきましょう。

健康保険料

退職日の翌日から無保険となるため、下のいずれかの方法で健康保険の加入手続きをし、自分で保険料を納めます。

1)国民健康保険に加入する
住所地の各市区町村役所で退職の翌日から14日に以内に手続きを行います。

2)健康保険の「任意継続被保険者」になる
今まで加入していた健康保険の任意継続被保険者として、そのまま加入する方法です。退職の翌日から20日以内に申請書を提出する必要があります。

国民健康保険の保険料は市区町村によって違い、また扶養家族の概念がなく、加入人数によって保険料が決まります。一方、任意継続被保険者として個人が負担する保険料は、在職時の約2倍になります(今まで会社が負担していた分も支払うため)。退職日までに市区町村と会社の双方に保険料を確認し、自身の条件でより有利な方法を選ぶと良いでしょう。

年金保険料

20歳以上60歳未満の人は公的年金制度への加入が義務であり、退職して14日以内に国民年金の第1号被保険者への切り替えが必要です。通常は住所地の役所から自動的に書類が送られてくるので、それで手続きをします。経済的に保険料を支払うのが難しい場合は、離職票を持参して市町村役所か年金事務所で免除申請を行い、認められれば保険料の支払いが免除になります。

住民税

住民税は前年1月~12月の所得により決まった金額を、翌年の6月〜翌々年5月にかけて都道府県と市区町村に納めます。後払いのため、退職して収入がない間も前年の所得に対する住民税の支払いが生じます。前出のように3月末に退職した場合、基本的に5月分までの住民税が退職月の給与から一括で徴収され、6月分以降は自分で納めることになります。

在職中の転職の方が余裕をもって活動できる場合もある

ここまで、退職後の転職活動にまつわるお金についてご紹介してきましたが、実際には転職者の6〜7割が、仕事を続けながら転職活動をすると言われています。

在職中に転職活動をするメリットとデメリットなどは、以下の記事でも紹介しています。より自分に合った選択をしましょう。

難しくて時間がなければ転職エージェントの利用を

「仕事が忙しくて、在職中に転職活動をするのが難しい」という方は、退職を検討する前に転職エージェントに相談してみてはいかがでしょうか。転職エージェントには次のようなメリットがあります。

  • 希望条件を伝えておけば、合致する求人が出てきた時に情報を提供してもらえるため、自分で求人情報をチェックする時間が省ける
  • 応募書類でアピールするべきことや、応募先企業が面接で重視しているポイントなどのアドバイスが受けられるので、選考対策を効率的に行える
  • 企業への応募から面接日程の調整、内定前後の条件交渉まで、転職活動の中で生じる応募企業との面倒なやりとりを代行してもらえる

このようにさまざまなサポートを受けることで、1人で取り組むよりも効率良く転職活動を進めることができるでしょう。

【アドバイザー】

組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

【監修】

社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。

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