設立間もなく、社員5名で宇宙開発に挑んでいた北海道のベンチャーI社。社長の熱い思いと目指す未来に共感し、人材採用に苦戦するI社に伴走しながら、事業の要となるエンジニア採用を支援した北海道共創パートナーズの西尾早苗氏。北海道へのUターン転職を望んでいたエンジニアとのマッチングに成功。「GOOD AGENT AWARD 2022 特別賞」を受賞した、その並々ならぬ取り組みと成果を紹介する。
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社長の熱い思いに感銘し、宇宙旅行事業の実現を支える人材採用を支援
西尾氏がコンサルタントを務める北海道共創パートナーズは、北海道に拠点を置く北洋銀行の子会社。コンサルティングやM&A事業と連携した人材事業を展開している。
I氏は宇宙事業を目指して学生時代に起業しており、IPO（新規上場）に向けて、上場にあたり不可欠な人材確保に孤軍奮闘していた。
I氏と知り合ったのは、「研究開発エンジニアとCFOを採用したいが、自力での採用に限界を感じている」と北洋銀行に相談し、人材ならHKPへと紹介されたことがきっかけだったという。西尾氏は、I氏が初めて来社した日の印象をこう語っている。
「I氏が宇宙旅行事業の夢を熱く語る姿と、これまでの実験実績から実直に取り組んでいることが伝わってきました。北海道発で、世界を目指す企業だと感じ、私も心から応援したいという気持ちになりましたね」（西尾氏）
採用ノウハウがなく、リファラルや講演会等で採用の広報を行うなど、自力での母集団形成には限界を感じてHKPを訪問したI氏。エージェント利用も初めてだった。
西尾氏は「無名かつベンチャーで応募者から実態が見えないと感じられる」懸念を払しょくし、「当社ならではの唯一無二の魅力」を打ち出し、エージェントが介在する価値を発揮することで、採用は実現できると信じ取り組んだ。また、「北海道内にターゲット人材が少ない」ことから、「本州からのU・Iターン希望者に焦点をあてること」を提案した。
まず、開発者でもあるI氏に自社ならではの研究の仕方や開発環境を詳しくヒアリング。するとI社には３Dプリンターが社内に30台近くあり、実験装置も自分たちで作れるため、外注すると通常2～3週間かかる試作品や実験器具を迅速に試作・実証を行えることがわかった。
自分たちの手で「大学のゼミのようなものづくりの楽しさ」が実感できること。同時に、「上場参画の面白さも感じられる」環境であるという魅力を掘り起こすことができた。西尾氏はその独自性や技術力の高さを動画で紹介しようと考えた。
「文字だけではその面白さはわかりにくいため、I社の研究開発の様子や、ものづくりに没頭できる環境などを撮影し、働く環境ややりがいなどを伝える会社紹介動画の作成を依頼。I氏は快諾し、すぐに動画を作成してくださったのです。
また、社名非公開では実態が分からず、スカウト返信率も下がるだろうと考え、社長に社名公開でスカウトしようと提案。返信のあった求職者に動画を送ると、会社のイメージが沸いたのか、複数名の応募を獲得することができました」（西尾氏）
北海道に本社を構えるものづくり企業は数少ないため、道内在住者を集めるのは難しい。つまり、ターゲット人材が少ない。
この課題に関して西尾氏は、北海道UIターン希望者をターゲットに「数少ない北海道本社のメーカーであること」「ゼロからものづくりに携われる魅力ある職場は他にはないこと」という逆転の発想を繰り出す。本州から北海道に帰りたい、移住したい求職者にアプローチする戦略を考えたのだ。
「北海道へのUIターンを希望する研究開発エンジニアをターゲットに、スカウトメールを送りました。大手企業とは違うやりがいを伝えるために、顧客に合わせた納期やコスト管理がなく、図面作成・試作・設計・試験を全て自分たちの手で行い、ものづくりの楽しさが実感できること、幅広い裁量があり、自由で柔軟な研究開発を行うことができることを打ち出しました」（西尾氏）
道内は首都圏に比べて年収が低いマーケットである。この課題に対しては、I氏の了承を得てUIターンしやすいように、本州レベルに近い年収額に設定することができた。さらに、シード期で最大級の投資を受けている実績を持ち、ベンチャーながら安定した側面があること、ベンチャーキャピタルなどの資本投資を行う強力な投資者がいることを伝えて、企業の将来性に対する応募者の懸念や不安の払しょくを図った。
北海道にUIターン転職を望む研究開発者に、動画でI社の魅力を伝える
西尾氏が送ったスカウトメールに興味を示し、I社に応募したのがB氏である。自動車部品メーカーで先行研究開発経験があり、大手電機メーカーで量産にも関わるエンジニアだった。北海道にUターン転職を希望していたが、北海道にメーカーが少なく、提示年収も低いことから、1年以上転職活動に苦戦していたという。
「I社の動画を見て、ゼロから研究開発に携われることに『とてもワクワクする』と話されていました。そして、勤務地、年収、仕事内容も希望通りなので、ぜひ応募したいというご連絡をもらったのです」（西尾氏）
B氏に対して西尾氏は、約1時間近くかけて候補者の興味関心・キャリア・能力・強み・価値観についてヒアリングを行った。天文学に興味があったこと、ゼミで使う実験器具は自分たちの手で作ってやりがいを感じていたこと、機械工学科出身でCADを用いてゼロからものを作るスキルがあること、論理的にコミュニケーションがとれる人物であることなどを推薦状に書き、I社に直接プレゼンした。
また、採用活動の経験が少ないI社をサポートすべく、面接に同席。企業説明や候補者への質問が少なかった際は、企業の魅力を引き出す質問を投げかけ、候補者の強みを語ってもらえるように試みた。
「面接後、企業と候補者側にすぐ連絡を取り、お互いが好感を持っていることを共有。最終面接の前に、交通費支給の確認と職場や実験場所の見学を依頼しました。年収も前職から大きく下がらないように、道内の平均年収より高い金額を交渉するなど、候補者が意思決定できるようにサポートしました」（西尾氏）
採用戦略・定着支援に加えて、総合的な人事業務もサポート
面接・選考はトントン拍子で進み、社長のI氏に候補者であるB氏を推薦した日から、6日後には内定、10日後には入社意思決定。約2カ月で入社する運びとなった。
「入社されたB氏は、有人宇宙旅行の実現に向けた実験をメインでご担当されることになり、開発は一気に動き出しました。Ｂ氏は自分が主導して企画し、自分たちの手で作ったものが空を飛んでいくやりがいを感じているそうです」（西尾氏）
B氏は「自分の頑張りが経営に反映される実感がある」とも語っている。実際、B氏の入社で開発体制が確立し、開発と経営を兼務していた社長のI氏が経営に集中できるようになった。
西尾氏は研究開発エンジニアだけではなく、経理財務部長、総務法務部長、工場総務、経理、人事総務、広報など、7名の人材を紹介。アライアンス先からの人材紹介も含めて合計1４名の採用を成功に導いた。
「I社の魅力や働くやりがいについて、熱量を込めて説明していたら、7名の方々に入社を決めていただくことができました」（西尾氏）
I氏から信頼を得た西尾氏は、社内のキャリア面談も託され、中途入社者を含む全社員がパフォーマンスを発揮できるようサポート。さらに現在では、人事評価制度の導入や評価者会議などにも参加し、社外人事的なポジションで携わっている。
「I社ならではの企業風土やビジョンを見える化し、エージェントが介在して伝えること、また、採用ターゲットの絞り方など、全力でサポートさせていただきました。今後も北海道の企業を盛り上げる一助を続けていきたいと思います」（西尾氏）
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
北洋銀行の顧客基盤を活かし、北海道全域の中小・中堅企業への管理職としてご紹介が可能です。北海道へのUIターン、北海道の地域経済活性化にご興味がある管理職の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【企業様へ】
北海道の経済を盛り上げるべく、御社の事業成長に必要な人材をマッチング致します。
事業の要となる経営人材採用の実現を目指し全力で伴走します！
西尾早苗氏
株式会社北海道共創パートナーズ マネージャー 国家資格キャリアコンサルタント
京都女子大学を卒業後、2001年、ギャップジャパン株式会社に入社。2006年、リクルートエージェント（現：株式会社リクルート）に入社。キャリアアドバイザーとして年間500人以上の多様な業界・職種の転職面談・求人紹介。新規事業プロフェッショナルサービス事業部に召集され、課長職以上の転職希望者と採用企業の双方を対象とした両手型エージェント業を経験。2011年、京都ジョブパークのキャリアカウンセラーに転身。その後フリーランスとして人材紹介や研修講師などに関わり、北海道に移住。2020年4月に北海道共創パートナーズに入社。管理職・経営人材の転職支援を担当。経歴など外的キャリアだけでなく、その人ならではの強み・やりがい・価値観などを大切に企業とマッチングさせることを得意とする。
