最低でも3年に一度。「キャリアの棚卸し」は、なぜ必要なのか?
転職活動で重要な要素の一つに、「キャリアの売り時」という観点があります。自分のキャリアをできる限り希望に近い形で形成していくためには、自分自身の市場価値と、その運用の仕方に大きなカギがあります。リアルタイムで変化していく転職市場の動向と、自分自身の市場価値を適正に把握して、ハンドリングしていく必要があります。
ベーシックな転職市場動向は、ほぼ景況感にリンクしています。景気がいいと人手不足になり、供給に対して需要が高くなって有効求人倍率が上昇します。逆に、不況になると供給過多となり、需要は減少します。当然ながら、ファンダメンタルが強い時期の転職は、選択肢も多く、年収などの条件も高くなりやすい傾向にあり、転職をする側にとってはいい時期だといえるでしょう。5年とか10年とかの長期スパンで変化する景況感の波をどう読むのか?というのが、タイミングを推し量るうえで最初に重要な観点です。
次に年齢の観点があります。転職可能性が減少し始める30代後半からは、定期的にキャリアの棚卸しをしていく必要があります。実際に転職活動を始めるかどうかにかかわらず、最低でも3年に1度はじっくり今後のキャリアを考える時間を取っていただきたいと思います。人間ドックのように毎年、決まった時期に考えてみるという方法もおすすめです。年齢による市場価値の目減りを自分の中で織り込んでおかなければ、想定外の苦戦を強いられるということになりかねません。
仕事がうまくいっている時にこそ、転職を検討するべき理由
転職を考え始めるきっかけは、倒産やリストラ、人間関係の悪化や左遷・降格・評価の低下など、勤務先でマイナスな事象=「不」が発生したことが起点になることが圧倒的に多い状況です。「うまくいっている時は転職を考える必要がない」というのはその通りなのですが、「不」が起点の転職活動には多くのデメリットがあります。自分にとってマイナスな状況があり、そこから脱却したいという必然があるため、どうしても転職活動そのものが受動的になってしまい、時間的にも、交渉力的にも、不利な状況を強いられやすくなるのです。
必要に迫られて転職活動を行うのと、自らのキャリア設計にのっとって、能動的に転職活動を始めるのとでは、心理状態や選択肢はもちろん、余裕の有無が生む微妙な態度の差異によって合格可能性までもがまったく変わってしまいます。自分が主導権を持って、能動的にキャリアに向き合っていけるように常に準備しておくことは、人生全体の満足度を高めるために不可欠です。
できれば、自分自身の仕事が順調で、組織からも必要とされ、貢献感を発揮できている時にこそ、自分のキャリアを考えて、市場価値を確認するアクションを起こしてみていただきたいと思います。転職活動をする、という認識ではなく、あくまでも“自分自身の能力を現在よりもっと磨ける場所、活かせる場所がないかをリサーチするため”の活動と考えていただければと思います。
現職よりも自分にとってプラスになりそうな企業やポジションがあったとして、自分の経験やスキルが、本当にそこで求められ、オファーを受けるところまでたどり着くのかどうか、実感値を知っておくことは、いざというときのためにとても役に立ちます。
健康維持のための適度な運動や定期的な健康診断とまったく同じです。症状が出てから治療を行うのと、病気を予防したり早めに察知することでは、健康維持コストはまったく異なります。ぜひ「遅すぎず」「早すぎない」自分自身のキャリアの棚卸しをすることをお勧めします。長い仕事人生をより楽しく、意味あるものにするために、頭の中で選択肢を常に広げ続けてください。
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役
黒田 真行(くろだ まさゆき)
日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」など。