働いているとよく見聞きする「昇進した」「昇格した」という言葉。社内での立場や評価が上がることを表す言葉ですが、それぞれ意味が異なるため、使用する際には注意が必要です。両者の意味の違いや、昇進と転職のタイミングの考え方などについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に、昇進・昇格と給与との関係について社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
目次
昇進とは、役職が上がること
昇進とは、社内での役職(職位)が上がることです。一般社員から主任、主任から係長や課長に、課長から部長になるなどが該当します。
昇格とは、等級が上がること
昇格とは、等級制度を導入している企業において、等級が上がることです。
等級制度とは、従業員を能力、職務、役割などによって「1級、2級…」などと等級付けし、等級に応じて業務遂行時の権限・責任や人員配置、給与などの処遇を決定する制度です。職能資格制度(個人の能力に応じて等級を設定する制度)、職務等級制度(職務ごとに業務内容や期待値を明確化し、それぞれに対応する給与テーブルを用意する等級制度)、役割等級制度(ミッショングレード制:役職と職務に応じた「役割」を定義し、その役割に応じて等級を設定する制度)などがあります。
昇進・昇格とも、その基準は企業によって異なり、各社が独自に定めた規定・制度に基づいて決定します。既定や制度によっては、「昇格したが役職(職位)は変わらない」「昇進したが等級は変わらない」など、昇格と昇進が連動しない場合もあります。
昇給とは、基本給が上がること
昇進、昇格に関連するものとして、「昇給」があります。昇給とは、基本給および基本給に類する給料(職能給など)が上がることです。等級制度をとっている企業においては、昇格すると企業が等級に応じて定めた給与テーブル(賃金表)に従って昇給するのが一般的です。
他方で、昇進の場合は、昇進とともに昇格した場合は基本給が上がりますが、昇格を伴わない場合、昇給が生じないケースもあります。役職手当が支給される企業の場合、役職に応じて手当が増額されることはあります。
なお、昇給には、昇格した際に昇給するほかに、人事考課を行い、考課査定に基づき昇給する「考課昇給」などがあります。人事考課の頻度は年1回または年2回としている企業が多く、査定結果によっては昇給しない場合もあります。また、企業の判断で従業員全員の基本給を一定の割合で一律に底上げする「ベースアップ」という形での給与増もあります。
転職するなら「昇進してから」「昇進前」どちらがベター?
転職活動を検討する際の悩みの一つとして聞かれるのが、「転職意向があるが、現職で昇進の可能性も見えている。昇進してから転職するか、昇進前に転職するか、どちらがいいのか?」という悩みです。
この場合、昇進してから転職した方が、転職活動時の市場価値が高まり、希望する役職や仕事、条件での転職が実現しやすい傾向にあります。ただし、昇進したことによって自己評価や希望条件が上がり、それに対して経験やスキル、実績が見合わず、納得できる転職が叶わないケースも散見されるため、良し悪しは一概に言えないところがあります。
次に紹介する「昇進してから転職」「昇進前に転職」それぞれのメリット・デメリットなどもふまえて、自身に適した選択を検討することをおすすめします。迷った場合は、転職エージェントやスカウトサービスの担当者に相談するのも一つの手です。
「昇進してから転職」のメリット・デメリット
昇進してから転職するメリット・デメリットとして、次の点が挙げられます。
「昇進してから転職」のメリット
昇進してから転職するメリットとして、次の3つが挙げられます。
昇進後の役職での転職がしやすくなり、年収やモチベーションを維持・向上しやすい
例えば、「部長」に昇進していれば、「現職で、一定程度評価されている人材だ」という客観的な情報になるため、部長クラスでの転職がしやすくなるでしょう。同等の役職への転職であれば年収の維持・向上や、モチベーション高く働けることも期待できるでしょう。逆に、もし昇進前の「課長」のままで部長クラスの募集に応募すると、「まだ課長経験のみのため、部長候補としては不足かもしれない」と応募先企業から見られる可能性があります。
経験・スキルが増すことで、転職の選択肢を増やせる可能性がある
昇進後、どのくらいのタイミングで転職するかにもよりますが、昇進後の役職で経験・スキル・実績を積むことで、転職活動の選択肢が広がる可能性があります。例えば、部長に昇進して経験・実績を積むことでCxOへの転職の選択肢が見えてくるといった場合があります。
現時点では想定していない、新たなキャリアの選択肢を得られる可能性がある
昇進後の仕事にやりがいなどを見出し、邁進することができれば、転職だけでなく現職内での新たなキャリアパスが選択肢に挙がってくるかもしれません。例えば、営業課長から営業部長に昇進して仕事がさらに面白くなり成果も出した結果、全社戦略を担う仕事に興味を持ち、事業企画部署に部長職として異動するといった選択などです。そこからさらに転職する場合、「営業×事業企画×管理職人材」として市場価値が上がる可能性もあります。
「昇進してから転職」のデメリット
昇進してから転職するデメリットとしては、次の3つが挙げられます。
転職活動の選択肢が減る可能性
昇進したことにより役職や年収に対してこだわりが生じて、転職活動の選択肢が減る場合があります。例えば、部長に昇進した人が「仕事内容が魅力的でも、課長待遇での転職はできない」「最低でも年収は〇万円ないとキャリアダウンしてしまう」などと考えるケースです。また、採用する企業側も、応募者の現職での役職が高いほど期待する役割や求めるものが高くなるため、採用のハードルが上がる可能性があります。
昇進後の仕事で成果を出すまでに時間がかかる/昇進後の仕事が合わない可能性
例えば、プレイングマネジャーの課長として高評価を得て部長に昇進したものの、組織全体のかじ取りや仕組みの構築、計画策定などが不得手であることがわかった場合、評価が下がり、転職活動の際に部長職としてアピールできるものが減り、思うように転職活動が進まない可能性があります。
転職のタイミングを逃す可能性
昇進後の役職・役割に対する自身の責任感や昇進に伴う業務負荷の高まりから、転職活動に着手できなかったり、スムーズに進められなかったりして希望する求人への応募機会を逃す可能性があります。また、会社からの期待により、内定を得た際に強い引き止めにあう可能性も考えられます。
「昇進する前に転職」のメリット・デメリット
昇進する前に転職するメリット・デメリットは、昇進してから転職する場合の裏返しになりますが、次の点が挙げられます。
「昇進する前に転職」のメリット
昇進する前に転職するメリットとして、次の2つが挙げられます。
転職先に求める条件を幅広く見ることができる
「昇進後のより高い役職」ではなく、現在の役職をもとに転職先を検討することになるので、役職や年収などについて必要以上に高くを求めず、広く見ることができます。
現在のスキル・経験・実績をもとに活動できる
昇進後に一定の期間をかけてさらに経験・スキル・実績を積む必要がなく、現在のポジションで培ってきた経験やスキル、実績をもとに転職活動を進めることができます。また、昇進後の役職での責任や会社からの期待、退職交渉時の引き止めの強さなども鑑みると、現在のポジションの方が、より自分の都合で転職のタイミングを選べる可能性が高いでしょう。
「昇進する前に転職」のデメリット
昇進する前に転職するデメリットとしては、次の2つが挙げられます。
昇進後の役職クラスでの転職・年収を狙う難度が上がる
現在の役職・ポジションで培った経験・スキル・実績が現時点での自身の市場価値となるため、昇進するはずだった役職での転職や、その役職相当の年収を得ることが難しくなります。
将来の転職の選択肢が減る可能性
現職で昇進した場合と同等の経験・スキルなどを転職先で得られるかどうか、また、転職先で順調に昇進できるかどうかが不透明なため、中長期的に見た際に転職の選択肢が狭まる可能性があります。
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社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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