求人に記載されている「社会保険完備(社保完備)」には、どのような意味があるのでしょうか。社会保険完備の際の内訳や加入条件、社会保険完備の会社に転職するメリットなどについて、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
「社会保険完備(社保完備)」とは
「社会保険完備(社保完備)」と求人に記載がある場合、狭義では「健康保険」と「厚生年金保険」の2つを完備していること、広義では労働保険である「雇用保険」と「労災保険(労働者災害補償保険)」を含んだ4つを完備していることを指します。健康保険には「介護保険」も含まれているため、健康保険が完備されている場合は介護保険へも自動加入となります。
社会保険とは、病気、けが、出産、死亡、老齢、障害、失業などの生活に困難をもたらすいろいろな事故(保険事故)に遭遇した場合に、一定の給付を行い、生活の安定を図ることを目的とした強制加入の保険制度のことを言います。国や公的機関が保険者として運営し、被保険者である会社員や公務員が不測の事態に陥った際に給付が行われます。企業は基本的には社会保険への加入が義務付けられていて、本社・支店・工場など事業所単位での加入が原則です。社会保険の適用対象となる事業所のことを「適用事業所」といいます。
ただし、従業員が5人未満の個人事業所や理美容業、飲食業などのサービス業、従業員が5人以上でも農林漁業を担う個人事業所は、適用事業所とはなりません。従業員の半数以上が適用事業所になることを同意した上で、事業主が申請して認可が下りれば、社会保険に加入することができますが、この場合「任意適用事業所」といいます。
社会保険の種類と加入条件
前述した通り、社会保険には「健康保険(介護保険も含む」」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」があります。社会保険の適用事業所で常時雇用されている人は被保険者となります。それぞれの詳細と加入条件、加入できない場合についても解説していきます。
健康保険
健康保険は、業務外で病気やけがをした際、通院・入院・手術などの医療費の一部が保障される保険制度です。保険料は会社と従業員とで折半して負担します。病院などで社員が支払う医療費の割合額は、年齢によって異なりますが原則的には3割負担です。残りの7割は全国健康保険協会または健康保険組合などの保険者が負担します。
健康保険の加入条件は、社会保険の「適用事業所」に勤務する74歳未満の正社員、契約社員(1週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上又は労働日数1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上の者)および一定の要件を満たす短時間労働者(パートタイマー・アルバイト)です。健康保険の要件を満たしていない場合は、市区町村が保険者となる国民健康保険に加入することになります。
なお、短時間労働者が下記の要件を満たす場合は健康保険に加入することができます。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 1か月あたりの賃金が88,000円以上であること
- 雇用期間の見込みが2か月以上であること
- 学生でないこと
- 従業員が101人以上の企業で働いていること(2024年10月から従業員が51人以上の企業に適用拡大されます)
介護保険
介護保険は、65歳以上の方と、40歳から64歳までの医療保険加入者に分けられます。
65歳以上の方は、原因を問わずに要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることが可能です。また40歳から64歳までの医療保険加入者の場合は、 加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因で要介護(要支援)認定を受けた際に介護サービスを受けることができます。介護保険は健康保険に含まれているため、加入条件などは健康保険に準じます。
厚生年金保険
厚生年金保険は、高齢のため働けなくなった場合、身体に障害を負った場合、死亡した場合などに、被保険者(労働者本人や法人の役員など)、被保険者であった者または遺族に対して必要な給付を行う公的年金です。保険料は会社と社員とで折半して負担します。20歳以上の国民全員が加入義務のある国民年金の保険料は、厚生年金保険料の中に含まれています。原則65歳になると、老齢厚生年金として国民年金と併せて給付されます。受け取り開始時期は60歳や75歳に変更することも可能です。
厚生年金の加入条件は、社会保険の「適用事業所」に勤務する70歳未満で、その他は健康保険と同様です。
雇用保険
雇用保険は、失業や出産・育児・介護などによって一時期会社を離れた労働者に対し、職場に復帰することができるよう必要な給付を行う保険で、主体的な能力開発を図る場合の教育訓練に給付が行われることもあります。一般的には「失業保険」と呼ばれることもあります。保険料は会社と社員とで折半して負担します。
雇用保険の加入条件は、主に「勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがあること」「1週間の労働時間が20時間を超えていること」「学生ではないこと」が原則です。
労災保険(労働者災害補償保険)
労災保険は、業務中や通勤中に発生した災害によってケガをしたり病気にかかったりした労働者に対し、必要な給付を行う保険です。パート・アルバイトを含む「すべての労働者」に適用されます。保険料は全額会社が負担します。
社会保険完備の会社に転職するメリット
社会保険は労働者を守るための制度ですから、きちんと完備されているということは、法人としてコンプライアンスが重視されている証とも言えるでしょう。また、健康保険・厚生年金保険・雇用保険は会社側が半額を負担し、労災保険に至っては会社が全額を負担します。社会保険完備の会社に転職することで得られるメリットには、会社としての安心感に加え、社員の経済的な負担が少ないことも一つとして考えられるでしょう。
さらに、業務外の事由による病気やけがの療養で会社を休んだ時(連続する3日間を含む4日以上)に支給される「傷病手当金」、被保険者本人が出産で休職し、その期間中に給与の支払いを受けなかった場合に支給される「出産手当金」、被保険者または被扶養者が出産した際に支給される「出産育児一時金・家族出産育児一時金」など、健康保険の加入によって受けられる保障もあります。さらには、協会けんぽや各健康保険組合では生活習慣病予防健診、人間ドックの補助などの検診や保健指導を行っています。また、国民年金で支給される基礎年金に加え、厚生年金も受け取ることができるため、将来もらえる年金受給額が増えるというメリットもあるでしょう。
岡 佳伸氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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