建設・不動産業界の2023年度上半期の転職市場の求⼈・求職者の動きを、業界に精通した株式会社リクルートの人材領域で活躍するキャリアアドバイザーがレポートします。「2023年度上半期の転職市場や業界トレンドを知りたい」「納得感のある転職活動のために、採用動向を知っておきたい」という方はぜひご参考にしてください。
建設・不動産業界の2023年度上半期の転職市場の展望を一言でいうと
建設・不動産ともに、事業の多角化にあたり、異業界人材の迎え入れも。
求職者は「柔軟な働き方」を求める傾向。企業は「ABW」への取り組みが課題。
1.【建設・不動産業界】業界・企業側の動き
建設業界の求人は引き続き増加しています。近年の傾向として、DX推進人材のニーズが高く、BIM(※1)や施工管理経験者が採用ターゲットとなっています。
グリーン戦略に関する採用については、企業はまだ必要な人材要件を明確化しきれていないものの「サステナビリティ」を意識した採用は引き続き存在しています。
一方、最もニーズがひっ迫している「施工管理」は、大多数の企業が充足できていません。採用難易度が上がる中、固定観念を捨てて採用方針を変えている企業もあります。ある中堅ゼネコンでは、S造・RC造の施工管理求人において、木造しか経験がない30代の方の素養を評価して内定を出したという例もあります。
募集要件の緩和に関しては、大手建設コンサルタントでも事例が生まれています。従来は「土木学科卒・建設コンサルタントでの経験者」に限っていましたが、「建設業界での実務経験者または関連学科卒」へ要件を変更。結果、土木関連の経験を持つ化学学科卒技術者を迎え入れました。
新規事業案件では、異業界からの人材獲得にも動いています。採用実現のためには、本腰を入れて働き方改革の遅れを取り戻す必要があるでしょう。求職者側はコロナ禍以降、「世の中の働き方が変化した」と認識しています。実際、重工メーカーのプラントエンジニアから「フルリモートワークの求人はないか」という相談が寄せられたこともあります。そうした求職者の目線に合わせ、変革へ踏み出していく必要があると言えるでしょう。
デベロッパーに目を向けると、総合職の求人が増えています。背景にあるのは事業の多角化。例えば、「子ども・親子を支援する複合型施設」など、特性を打ち出した小規模開発に取り組んでいるところもあります。企業の不動産戦略を支援する「CRE(※2)」事業にも注力しています。多角化に際し、不動産業界に限らず多様な業界出身者に門戸を開放して、自社にない知見・スキルを持つ人材を異業界から迎えています。
2.【建設・不動産業界】求職者側の動き
「働き方の柔軟性」を重視する求職者が少しずつ増えています。最近では「ABW」というキーワードも上がってきました。「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略で、仕事内容に応じて働く場所・時間を自由に選択する働き方を意味します。他業界では、この概念を実行に移している企業は同業他社と比較して採用が好調です。建設業界では適用できる職種は限られるものの、ABW実現への取り組みが、採用における競合優位性を高める有効手段となり得るでしょう。
一方、建設業界ならではのやりがいを見いだし、異業界から入ってくる人もいます。DX推進担当としてゼネコンに採用されたあるITエンジニアは、「デジタル化が遅れている業界だからこそ白地が多く、より大きな介在価値を発揮できるところが面白い」と語っています。
近年、社会貢献への意識が高い求職者も増えています。サステナビリティの観点で、建設・不動産は社会インフラや環境の改善に大きな影響力を持つ業界のため、この業界でキャリアを積むことは、求職者にとって良い経験となるでしょう。企業としては、そのような側面も訴求していくことが重要ではないでしょうか。
※1 BIM:Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング) ビルの3次元デジタル表現と、その表現をビル、道路、橋などの建設プロジェクトに使用する一連のプロセス
※2 CRE:Corporate Real Estate(コーポレート・リアル・エステート) 企業が事業のために保有している不動産
2023年度上半期のそのほかの業界の動向について知りたい方は、こちらを参考にしてください。
【2023年度上半期】転職市場の動向|17業界コロナ禍後の中途採用・転職活動の最新状況を解説
平野 竜太郎
建設不動産領域専任シニアコンサルタント。ゼネコン・サブコン・組織設計事務所の建設技術者から、不動産デベロッパー・AM・PMなどの不動産専門職・不動産金融領域のハイキャリア層を中心に幅広い支援実績を持つキャリアアドバイザー。
箕輪 真人
建設・不動産領域においてサーチコンサルタント及びキャリアアドバイザーとして豊富な知識と実績を持つ。近年は建設業における女性活躍推進にも取り組み、労働環境改善を目的とする転職サポートに強みを持つ。