自己都合退職で雇用保険の基本手当(失業保険)はいつもらえる?給付を早める方法や計算方法【社労士監修】

退職願

会社を退職してから転職活動をするときは、「失業保険はいつからもらえるか」「いくらぐらいもらえるか」が気になるものです。自己都合による退職と、会社都合退職の制度上の違いや、もらえる金額の概算方法、雇用保険の基本手当(失業保険)の手続き、そして、自己都合で退職した場合に少しでも早く給付を受けるための方法を、特定社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

「会社都合」「自己都合」などによる退職理由の違い 

一般的に言われる「失業保険」とは、正式には「雇用保険の基本手当」といい、求職者の失業中の生活の安定を図りながら、求職活動をサポートすることを目的とする給付金です。
雇用保険の基本手当(失業保険)は「自己都合」「会社都合」など退職した理由により、もらえる時期や期間などの扱いが異なります。まず退職理由による離職者の制度上の分類について解説しましょう。

1.一般の受給資格者=「自己都合」による退職者

「社風が合わない」「条件が良い仕事に就きたい」など、主に転職を目的とする「自己都合」で退職した場合は、「一般の受給資格者」となります。一般の受給資格者には、雇用保険の基本手当(失業保険)の給付制限期間が設けられているため、ほかの離職理由による退職者よりも給付が始まる時期が遅く、また給付される日数も制限されています。

2.特定受給資格者=「会社都合」や、「会社事情の正当な理由」による退職者

倒産や解雇などの会社都合によって、再就職の準備をする時間がないまま、離職を余儀なくされた人を「特定受給資格者」といいます。また、「事業所が移転して通勤できなくなった」「労働契約の内容と実際の労働条件が著しく違っていた」「賃金が85%未満に下がった」「月100時間を超える時間外労働があった」など、もっぱら会社側の事情でやむを得ず離職した人も、特定受給資格者とみなされます。

特定受給資格者は、自分の意思に反して会社を辞めざるを得なかったため、基本手当の給付日数が長くなる場合があり、給付が始まる時期も一般の受給資格者より早くなります。

3.特定理由離職者=「雇い止め」や「正当な理由の自己都合」による退職者

3年未満の期間の定めがある労働契約が満了したときに、本人が契約更新を希望したにもかかわらず合意に至らなかった場合、いわゆる「雇い止め」による離職者は「特定理由離職者」と見なされます。また、自己都合退職の中でも、病気や怪我、育児や介護、その他家庭の事情によって仕事を続けられなくなるなど、特定の理由で離職した場合も、特定理由離職者として認められることがあります。

特定理由離職者とみなされた場合、基本手当の給付が始まる時期は、上記の特定受給資格者と同じです。

4.懲戒解雇

一般的な懲戒解雇の場合、基本手当の給付開始時期や給付期間は会社都合退職と同じ扱いになります。一方、懲戒解雇の中でも、「刑法や法令に違反して処罰を受けた」「故意や重過失で会社に損害を与えた」など、労働者に責任がある重大な理由での解雇を「重責解雇」といいます。この場合は自己都合退職とみなされたうえ、一般の受給資格者よりも基本手当をもらえる時期が遅れる点で不利となります。

離職理由については離職票を確認する 

ハローワークで雇用保険の基本手当(失業保険)の申請をするときは、退職後に会社から送られてくる「離職票」を提出しますが、その際は事前に「離職理由」欄を必ず確認しましょう。

ハローワークは離職票に記載されている離職理由から、自己都合か会社都合かなどを判断します。失業保険の給付開始時期や給付期間は離職理由によって大きな違いが出てきます。もし会社都合であるにも関わらず、自己都合とされている場合などは、異議申し立てができます。前の会社に問い合わせても構いませんが、直接ハローワークに相談した方が、対応がスムーズに進むことが多いでしょう。
離職票の「離職者本人の判断」欄に「異議有り」と記載して提出すると、ハローワークが事実確認を行い、離職者と事業主に離職理由を聴取した後、最終的な判断をします。

雇用保険の基本手当(失業保険)の金額の計算方法

原則として、雇用保険への加入期間が離職前の2年間に12カ月以上あれば、ハローワークで手続きを行うことにより、雇用保険の基本手当(失業保険)が受給できます。基本手当が最大でいくらもらえるかは、「基本手当日額×所定給付日数」で計算することができます。

基本手当日額とは

雇用保険の基本手当(失業保険)で受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。基本手当日額は、離職した日の直前6カ月間に支払われた賃金を合計して、180で割った金額のおよそ45%〜80%となります。最低金額は1日当たり2196円で、離職時の年齢に応じて下記の上限額が設定されています(2023年8月1日現在)。

離職時の年齢29歳以下30〜44歳45〜59歳60〜64歳
上限額6945円7715円8490円7294円

基本手当日額の給付率や上限額については以下で確認することができます。

※出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ」

所定給付日数とは

所定給付日数とは、基本手当を受ける際の上限日数を定めたものです。雇用保険の加入期間や年齢、離職理由などによって90日〜330日の範囲で決められています。下の表でわかるように、自己都合退職よりも、会社都合や雇い止めによる退職は給付日数が手厚くなっています(障害者等就職困難者は150日~360日の範囲で決められています)。

雇用保険の加入期間10年未満10年以上20年未満20年以上
全年齢90日120日150日
雇用保険の加入期間1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
30歳未満90日90日120日180日
30歳以上35歳未満90日120日180日210日240日
35歳以上45歳未満90日150日180日240日270日
45歳以上60歳未満90日180日240日270日330日
60歳以上65歳未満90日150日180日210日240日

※出典:ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」

雇用保険の基本手当(失業保険)の申請手続きについて

雇用保険の基本手当(失業保険)を申請する際の手続きと、受給できるまでの流れを解説します。

1.退職後にハローワークに必要書類を持参する

基本手当を受給するためには、まず住所を管轄するハローワークで求職の申し込みをします。受給資格者として認定されるには、「働く意思と能力、環境があること」「求職活動をしていること」が前提となります。受給要件を満たしていることを確認した上で、受給資格を決定し、受給説明会の日時の指定を受けます。

2.受給説明会に参加する

指定日時に必ずハローワークに行き、雇用保険受給説明会に参加します。雇用保険受給資格者証や失業認定申請書を受け取り、失業認定の初回手続きを終了すると、失業者として認定されます。

3.待期期間(通算7日間)

受給資格の決定を受けた日から、失業状態が通算7日間経過するまでを「待期期間」といい、この間は基本手当の給付の対象になりません。

4.失業認定を受ける

最初に求職の申し込みをしてから3〜4週間後が、第1回目の失業認定日となります。以後は4週間に1度、ハローワークに行って失業の認定を受けることで、所定の給付日数に達するまで基本手当を受け取り続けることができます。

5.受給する

失業の認定を受けてから数日〜1週間後に、基本手当が指定口座に振り込まれます。

雇用保険の基本手当(失業保険)はいつからもらうことができる?

雇用保険の基本手当(失業保険)の概要を説明してきましたが、実際に基本手当の給付が開始される時期は、退職理由によってどのように異なるのかを見てみましょう。

自己都合は2〜3カ月の給付制限期間あり

自己都合退職による一般的な受給資格者の場合、雇用保険の基本手当(失業保険)の受給資格が決定した日から7日間の待期期間に加えて、2カ月間の「給付制限期間」があります。手続きや説明会に要する時間を加えると、基本手当の1回目の振込みは、最初にハローワークで申請をしてから約3カ月後になります。

なお、過去5年間で3回以上自己都合退職をしていると、3回目以降は給付制限期間が3カ月間となります。また、懲戒解雇のうち「重責解雇」とみなされる場合も、回数に関係なく3カ月間の給付制限期間が課されます。これらのケースでは初回の振込まで4カ月ほど待つことになるでしょう。

会社都合や「特定理由離職者」は給付制限期間がない

会社都合で退職した特定受給資格者と、雇い止めや正当な理由の自己都合がある特定理由離職者は、給付制限を受けることなく、7日間の待機期間が終了した後、すぐに基本手当の受給期間が始まります。この場合は、手続きや説明会に要した時間も含めて、ハローワークで申し込みをしてから約1カ月後に最初の振込みがあるでしょう。

自己都合退職で早く雇用保険の基本手当(失業保険)をもらうことはできる?

自己都合で退職したケースでも、正当な離職理由を証明することや、早期に職業訓練を受けることで給付制限がなくなり、雇用保険の基本手当(失業保険)を早く受け取れることがあります。その方法について解説します。

正当な離職理由がある証拠を提出する

書類上で自己都合退職と処理されていても、辞めざるを得なかった正当な退職理由があれば、それを証明する証拠を添えて、ハローワークに申し出ましょう。たとえば次のようなケースで、特定受給資格者や特定理由離職者であることが認められれば、給付制限なしで早く基本手当を受け取ることができます。

  • 退職までの6カ月間の残業時間が「月100時間を超える」「連続する2カ月の平均が80時間超」「3カ月間で連続45時間超」……タイムカードなど勤務状態を証明する書類
  • 給料の遅配、85%未満への減給……労働条件の変更通知書、振込記録や、預金通帳の控え
  • 親の介護が始まり夜勤のある会社で働けなくなった……介護の状況がわかる書類
  • 怪我のため立ち仕事ができなくなった……ハローワークから交付される就労可能証明書等医師の証明書
  • 夫の転勤などの事情で通勤が困難になった……夫の転勤辞令や住民票や現住所を証明する書類
  • 上司のパワハラのために退職せざるを得なかった……日記やメモ、録音データ、メールのログなど

どのようなケースが該当するかは、下の資料で確認できます。

※出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

早期に職業訓練を受ける

一般的な自己都合退職者でも、公共職業訓練や求職者支援訓練を利用すれば、その時点で給付制限期間が免除され、早期に雇用保険の基本手当(失業保険)の受給資格を得ることができます。費用は無料で、しかも訓練期間中は、所定の給付日数を過ぎても基本手当を受給することができます。たとえば半年間の職業訓練を受ける場合は、所定給付日数が120日であっても、半年分の基本手当をもらえることになります。

訓練開始日にもよりますが、最短で訓練開始の翌月から受給できる場合もあります。退職後に職業訓練を希望する場合は、求職の申し込み前でも構いませんので、事前にハローワークに相談するといいでしょう。

将来的にリスキリングで給付制限期間が免除される可能性も

新聞報道によると、政府は2023年9月現在、自己都合退職の場合の給付制限期間の短縮や退職前1年以内にリスキリングを行った離職者の給付制限を免除し、自己都合でも会社都合と同じ扱いとすることを検討しています。在職中に教育訓練を受けることが条件になりますが、雇用保険の基本手当(失業保険)が早くもらえるようになれば、より転職に踏み切りやすくなるでしょう。

転職先が決まったらもらえる再就職手当とは

一般的な自己都合退職では雇用保険の基本手当(失業保険)の給付制限期間が2カ月あるため、「1度も受給せずに転職先が決まってしまった」というケースもあるでしょう。そんなときは「再就職手当」が受け取れることがあります。再就職手当とは、基本手当の受給資格のある人が早期に再就職すると、一定の条件のもとに給付される手当です。次のように再就職が早く決まるほど、もらえる金額も多くなります。

所定給付日数を3分の2以上残して再就職した場合…給付残日数の70%
所定給付日数を3分の1以上残して再就職した場合…給付残日数の60%

たとえば、所定給付日数が90日の場合、給付残日数が60日以上残っていれば給付率70%、30日以上残っていれば60%となります。基本手当日額は年収によって異なりますので、次のケースで再就職手当の額を計算してみましょう。

自己都合で退職後、2カ月の給付制限期間内に再就職した場合

所定給付日数:90日、給付残日数:90日、基本手当日額6,000円として
90日×70%×6,000円=37万8,000円…再就職手当は満額の37万8,000円となります。

ただし再就職手当を受給するには「給付制限期間の最初の1カ月は、ハローワークか人材紹介事業者の紹介で就職する」「就職先に1年を超えて雇用される見込みがある」などの条件を満たす必要があります。
受給を希望する場合はハローワークに詳細を確認しましょう。

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監修

岡 佳伸氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。