市場価値とは?自分の価値の測り方や高める方法を解説

アーキテクトとは

転職活動を進める上で、自身の市場価値を把握することは転職実現のカギになります。では、自身の市場価値をどう認識し、高めるにはどのようなことを行ったら良いのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

市場価値とは

市場価値とは、人材に対する「需要」と「供給」のバランスによって決まる指標のことを言います。特定の経験・スキルを持つ人材を求める企業が多い場合は、需要が高くなります。一方で、その経験・スキルを持つ求職者が少なければ、需要に対して供給が足りていない状況となり、市場価値は高くなります。

市場価値は、「企業のニーズ」×「保有する経験(実績を生み出した思考や行動)・スキル、その希少性、再現性」×「キャリア相応の期待値」を総合して、相対的にどれだけ多くの企業から求められるかで決まります。

ただし、こうした市場価値は相対的なものです。同じ経験・スキルを保有していても、その時々のビジネスのトレンドや社会情勢によって、その価値は常に変化します。

転職市場における市場価値

中途採用では、企業がすべてのポジションを常時募集しているわけではなく、その時その時で必要とする人材を募集し、採用が決まっていきます。そうした中で、求職者が希望通りの転職を実現できるかどうかは、転職時の「市場価値」によって左右されます。

例えばAという仕事に対して「Aが供給できる人材に対して、企業の需要が高まっている状況」「Aが提供できる人材の絶対数が少なく、供給が追いつかない状況」の場合、その人材は「転職市場での価値が高い」ということになります。

自分の市場価値を意識すべき理由

転職の市場価値は常に変化するものですが、自身の市場価値を確認しておくのは大切なことです。転職するかどうかに関わらず、自分の「強み」や「弱み」を客観的に理解しておくことは、自身のキャリアプランやキャリアビジョンを描くために不可欠だからです。

市場価値を把握できていれば、転職活動で経験・スキルや条件に合致した転職先を的確に探すことができ、希望のキャリアプランを叶えることに役立ちます。また、普段から「自分に足りないもの」を意識してスキルを磨いておけば、会社の事業が縮小される、リストラに遭うなどの不測の事態が起きたときも、キャリアの選択肢を広く持って働ける可能性が高まるでしょう。

自分の転職市場価値を知る方法

自分の転職の市場価値を知るためには、自身のキャリアの社外的な評価について把握することが必要です。そのための方法をご紹介します。

転職エージェントに相談し、フィードバックを受ける

転職エージェントは、企業の各求人に関する募集背景を含めて、転職市場のトレンドを把握しています。これまでの経歴や、希望する業界、年収などの情報を登録することで、多くの人材の転職支援をしてきた経験豊富なプロフェッショナルから、客観的な視点で話を聞くことができるでしょう。

例えば、「今の転職市場での評価はどうか」「保有する経験・スキルはどのような業界や企業から求められるか」「希望の業界へ進める可能性はどの位か」などについて、現実的な求人ベースでアドバイスを受けることができます。多角的な視点からアドバイスが欲しい場合は、複数社の転職エージェントに相談してみることも一案です。

転職サイトやビジネスSNS等の転職サービスに登録する

最近は無料の転職サービスが数多くあり、Web上で登録ができるものもあるため、手軽に情報収集を始めることができます。まず、転職サイトやビジネスSNSに掲載されている求人情報を読むことで、自身の経験・スキルにどれほどのニーズがあるかが把握できます。

さらに自身のキャリアや転職の希望条件を公開しておくと、興味を持った企業や転職エージェントからスカウトが届く、スカウトサービスも、新たな転職サービスとして注目されています。

届いたスカウトの件数や内容から、「可能性があるのはどのような求人や企業の募集なのか」「年収などの希望条件はどの程度実現しそうか」などが確認できるでしょう。

転職活動を行い、実際に企業に応募してみる

前述の方法と比較すると手間も時間もかかりますが、最もリアルに市場価値を把握できるのは、実際に企業に応募して転職活動を行うことです。

複数企業の面接を受けることで、「自分のどの経験が評価されるのか」「自分の年齢に求められる役割に足りていない経験・スキルは何か」「今後伸ばすべきスキルは何か」など、多くのことに気づかされるでしょう。

「転職することも選択肢の一つとして検討している」という段階であれば、自身の市場価値を知るためにも、企業に応募してみることは決して無駄ではありません。

副業など、他の企業等で働く経験を積んでみる

副業解禁の流れが加速しており、本業と両立しながら外での仕事を経験できるチャンスが広がってきています。これまでとは仕事の進め方や前提が異なるポジションで働くことによって、「自分には何ができる・何ができない」ということが明確に分かるようになってきました。

また、現職の業務では標準的なスキル・ノウハウなどが、他企業や異業界では非常に重宝されたというケースも少なくありません。

もし、副業先で自身の経験・スキルが活きる機会が多ければ、世の中で困っている人が多い分野であることの裏返しであり、自分にはそれを解決できる強みや専門性があると分かるでしょう。ただし、副業については現職の企業と副業先の企業の双方で就業規則等を確認する必要があります。事前に問題ないかどうかを把握してから進めるようにしましょう。

社外でのコミュニティに参加する

興味のある領域や技術などの社外のコミュニティに参加したり、社外の人と交流したりすることで、業界や専門領域の動向や知識が得やすくなります。自身の知識を高めることにつながったり、他社や業界内の人たちの話を聞くことで視野が広がったりすることもあるでしょう。勉強会やセミナーであれば気軽に参加できるものもあるので、参加してみることも一案です。

市場価値が高い人材の特徴

市場価値が高い人材には、共通する特徴がいくつかあります。市場価値が高く、企業からの需要が高い人材とはどのような人を指すのか以下で解説します。

スキルの専門性・希少性が高い

特定の業界・職種・分野において、専門性の高いテクニカルスキルを持っていることが挙げられます。その分野における最新の知見やスキルをアップデートし、深い専門知識を提供できる人材のニーズが高いといえるでしょう。

また、代替性が低く、希少価値のある専門スキルや資格を持つ人も、市場価値が高くなります。業界や分野によって異なりますが、近年では以下のような領域のスキルや経験の市場価値が高いようです。

  • AI(人工知能)
  • サイバーセキュリティ
  • クラウドコンピューティング
  • ブロックチェーン技術
  • ロボティクス

高い水準の汎用的スキルを持っている

コミュニケーションスキルやマネジメントスキル、問題解決力、論理的思考力など、業界・職種問わず、幅広く活用できるポータブルスキルを持っていることも、高い市場価値となります。代表的なスキルは、以下が挙げられます。

  • コミュニケーションスキル
  • マネジメントスキル
  • プロジェクト管理
  • 問題解決力
  • 論理的思考力
  • リーダーシップ

実務における経験値の高さがある

実務の高い経験値があることで、仕事を遂行する能力や信頼性を示し、市場価値を高める要因の一つとなります。理由としては、即戦力として活躍できること、豊富な業務知識・経験があること、場数を踏んでいるので何か問題が起こった際のリスク軽減が期待できること、業界内のネットワークがあることなどが挙げられます。

転職活動においては、仕事を通してどのようなことを実現したのか、企業に対しどのような貢献をしたのかをしめすことが、市場価値を高めるポイントとなるでしょう。

ビジネスでの高い実績を持つ

ビジネスでの高い実績を持っていることは、その人の能力・スキルを数値説明・可視化できるため、転職市場において市場価値が高くなるといえます。

業務で高い売上を出した実績、新しい事業を創った経験、組織を成長させたり、立て直したりした経験など、企業の売上・業績向上に貢献できるが具体的な数字で証明できるからです。

高い評価を受ける実績例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 営業職:売上増加や新規顧客獲得の成功事例
  • プロジェクトマネジャー:成功したプロジェクトの実績・成果
  • エンジニア:プロジェクトやシステムの設計・開発、効率改善の実績
  • マーケティング:新規顧客獲得数、ブランド認知向上率、デジタルマーケティングの成果

マネジメント経験がある

転職市場では、「マネジメント経験」も注目される経験・スキルの一つです。メンバーの育成と成長を支援した経験、リーダーシップを発揮してプロジェクトを率いた経験、プロジェクトの戦略的な意思決定や実行、メンバーとのコミュニケーションで問題解決や課題の解決に導いた経験などを示すことで、高い評価が得られるといえます。

例えば、以下のような経験・要素を伝えることで、マネジメント経験のアピールにつながるでしょう。

  • マネジメントした人数
  • 取り扱った予算、売上などの実績
  • プロジェクト目標に対する達成率

複数の経験・スキルを持っている

専門領域以外にも知見があり、客観的かつ柔軟なアイデアを発想できる「T字型人材(特定の分野に対する専門性を持ち、さらに幅広い分野についても知見を有する人材)」、複数の経験・スキルの掛け合わせができる「π型人材(異なる2つ以上の分野で専門性を有している人材)」 などのニーズも高まっています。専門性と業務経験で得られた知見やスキル、客観的かつ柔軟なアイデアの発想力などに期待する企業が増えているのです。

T字型人材の例としては、エンジニアリングの専門知識とデザインスキルを組み合わせて、製品やシステムのデザインと開発を行う「デザインエンジニア」、統計学やプログラミングのスキルとドメイン知識(対象業界や事業に関する知識など)を持つ「データサイエンティスト」などが挙げられます。

π型人材は、生命科学と情報科学の知識を合わせ持つ「バイオインフォマティシャン」、エネルギー政策と環境に関する知識を持つ「エネルギー政策コンサルタント」など、新たなスペシャリストとして注目されています。

採用ニーズの高い分野領域の経験・スキルを持つ

経済産業省が2022年5月に発表した「未来人材ビジョン」では、成長産業や先進領域など採用ニーズの高い分野領域が示されています。

職種では、専門的・技術的職業従事者、開発・製造技術者、産業では、医療福祉、教育学習支援、製造業、運輸業、情報通信業などが挙げられています。

主な「職種」ごとの、必要となる労働者数の相対的変化
主な「産業」ごとの、必要となる労働者数の相対的変化

※(注) 労働需要の増減と、各産業・職種の付加価値の増減は連動しない点に留意。
※(出所)労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計-労働力需給モデル(2018年度版)」、 「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、 World Economic Forum “The future of jobs report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills: Employment in 2030”、内閣府 「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給マッ チング状況調査」(2019年)、文部科学省 科学技術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等を基に経済産業省が推計。
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

キャリアビジョン・キャリアプランが明確である

将来実現したいことや働き方の未来像を描いた「キャリアビジョン」、今後の具体的な戦略性・計画性などを持って「キャリアプラン」を明確にし、自身のキャリアを歩んでいることも、市場価値の高い人に共通している特徴の一つです。
仕事に関する信念や価値観・パーパス・ビジョンが明確で、仕事に対する意欲が高いとも言えます。企業からは「継続性や一貫性があり、信頼がおける」「意欲的に仕事に取り組んでくれそう」「成果を出してくれそう」「今後も軸を持って成長してくれそう」など、ビジネスパーソンとして信頼してもらえる要因にもなるでしょう。

転職市場価値を高める方法

将来を見据え、自身の市場価値を高めていくためのコツをご紹介します。

キャリアの棚卸しをして市場価値を把握する

まずはこれまでの職務内容を振り返り、キャリアの棚卸をすることで、自身が培ってきた経験・スキルを言語化します。自分の「強み・弱み」を明確にした上で、現在の市場価値を正しく把握しましょう。

転職市場全体から自身の現在地を俯瞰することで、今後どのようなキャリアを積んでいくか、どのように軌道修正を図るかなどの方向性も検討しやすくなります。

また、社内外を問わずロールモデルになる人がいれば、その人とのギャップを把握することでも自分の立ち位置が確認できます。キャリアについて相談してみるのもいいでしょう。

現職で経験・スキルを積む

自身の市場価値を確実に上げるための方法は、まず現職で経験・スキルを積み、結果を出していくことです。例えば、マネジメントの経験を積む、新事業の立ち上げを主導する、業務改善に取り組む、新たな部署の組織作りを担うなど、職務経歴書に明記できる実績を重ねることを考えましょう。

企業は、経験によって培った思考力や行動力を入社時に再現して欲しいと期待し、それを評価します。従って、転職で次のステップに進む際に、市場価値を上げやすくなると言えるでしょう。

社内外で新たなことに取り組む

キャリアプランの実現のために「プラスアルファすべきことは何か」を考え、新たな経験を取りに行くことも大切です。例えば、活かせる資格の勉強をする、経験を積む土台を作るために社内の研修制度を使う、社内公募のプロジェクトに手を上げる、スキルを磨くために副業をするなど、さまざまな方法があるでしょう。

もしも、目指す姿に向けて、必要な専門性を身につけるのが社内では難しいのであれば、「経験を取りに行くために転職する」という考え方もあります。キャリア構築のために、今の自分にはどのようなアクションが必要かを考えてみましょう。

転職市場の情報を積極的に収集する

転職市場に関する情報を積極的に取りに行くことも有効です。転職エージェントを利用している場合は、担当のキャリアアドバイザーと定期的に面談をしましょう。

その時々に出ている求人をベースに、自身の市場価値の確認、転職市場のトレンドの確認をすることによって、キャリアの方向性を修正したり、転職市場の相場観を見極めた上でベストな転職タイミングを把握したりすることもできるでしょう。

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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。