スタートアップとは?ベンチャーとの違いと転職実現のポイント【社労士監修】

スタートアップ

「新たなチャレンジ」「スピード感がある環境」「裁量権の大きさ」などを求め、スタートアップを転職先として検討する方は少なくありません。スタートアップとは具体的にどのような企業を指し、どのような採用ニーズがあるのか、ベンチャーとの違い、働くメリットや注意点、転職実現のポイントなどについて、社会保険労務士の岡佳伸氏監修のもと、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

スタートアップの定義

どのような企業がスタートアップと呼ばれるのか、また、スタートアップの成長ステージについて説明します。 

スタートアップとは

「スタートアップ」とは一般的に、創業から日が浅く、新たなテクノロジーやビジネスモデルによって社会や人々の生活にイノベーションを起こすことを目指す企業を指します。 

スタートアップの成長ステージの分類 

スタートアップ企業は、何段階かに成長ステージが分類されています。 

シードステージ……創業前、あるいは商品・サービスのリリースまで至っていない時期
アーリーステージ……創業直後、あるいは商品・サービスをリリースしてしばらくの時期
ミドルステージ……ビジネスが軌道に乗り始め、成長の道筋が見えてきた時期
レイターステージ……事業が拡大し、安定してきた時期。IPOも視野に入る

スタートアップとベンチャーの違い

「ベンチャー」もまた、「新たなビジネスモデル創出に取り組む企業」です。 

スタートアップとベンチャーには、明確な違いを示す定義はありません。しかしながら、スタートアップにはIPOM&Aといった「出口戦略(EXIT)」を持って短期成長を目指す企業が多い一方、ベンチャーには中長期視点で安定成長を目指す企業も含まれるケースが多いです。 

また、設立から十年~数十年経っている企業でも、新たなチャレンジを続けていれば「ベンチャー」と見なされます。ベンチャーからスタートして大企業へ成長を遂げた企業は「メガベンチャー」とも呼ばれます。 

成長ステージ別の採用傾向

スタートアップは、成長ステージによって採用ポジションや求める人材像が異なります。各ステージの採用ニーズの傾向をご紹介します。 

シードステージ

資金面に余裕がないことが多く採用コストをかけられないため、友人・知人を通じた採用が主流です。シードステージでは、部門を立ち上げるにあたり、各専門分野のCxOや部門長クラスを求めます。専門スキルはもちろんのこと、「理念」への共感や創業者をはじめとする他の経営メンバーとの相性も重視される傾向にあります。

アーリーステージ

収益化を目指すステージであり、軌道に乗るかどうかの分岐点にあります。組織化・仕組み作りが進んでいく中、各部門のCxOや部門長クラスのニーズが生まれてきます。IPOを目指す企業では、CFOをはじめIPO経験を持つ管理部門人材を求める傾向にあります。すでに商品・サービスの提供が始まっているため、販路拡大や新規顧客開拓などの経験・スキルを持つマーケティング、セールス人材も必要とされるでしょう。この頃から自社ホームページ、求人サイト、転職エージェントなどを活用した採用活動を始める企業も見られます。 

ミドルステージ

事業が軌道に乗ってくると、組織の細分化が進みます。例えば営業部門であれば「大手企業向け」「中小企業向け」「○○業界向け」「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」など、管理部門であれば「人事・労務・採用」「経理・財務」「広報」といったように分かれていき、各部門のマネジャークラス、リーダークラスの拡充が図られます。急成長企業の場合は、メンバークラスの採用も強化される傾向にあります。

レイターステージ

一定の成長を遂げ、収益が安定してくると、第二・第三の収益柱をつくるため新規事業に投資する企業も見られます。新規事業開発やプロジェクトマネジャーなどのニーズが出てきます。ミドルステージで設置された組織の強化・拡大に向け、メンバークラスの採用も活発化。短期間で数十人単位の採用が行われることもあり、若手の育成にも力を入れ始めます。組織整備のため管理部門人材も増強。特にIPOを目指す企業では、上場企業での経験を持つ管理部門スペシャリストを求める傾向が見られます。 

スタートアップで働く魅力

スタートアップで働くことには、どのような魅力やメリットがあるのでしょうか。企業やポジションによっても異なりますが、一般的には次のような特徴が見られます。 

成長実感を得られる

まだまだ少人数で運営する中では、1人が複数の業務や役割を兼務することになります。新たな経験を積んでスキルを身につけることで、成長実感を得られるでしょう。裁量権も与えられるため、自身のアイデアをすぐに実行し、PDCAサイクルを高速で回していくことも可能。短期間でトライ&エラーを繰り返し、ノウハウを蓄積していくことができます。また、組織が拡大するに伴い、早い段階でマネジメント経験を積める可能性があります。 

企業経営に関わることができる

CxOなどのポジションで経営に関われること、また、それより下のポジションであっても経営陣との距離が近い分、間近で経営を見て学ぶことができます。自身の働きによって経営にインパクトを与え、貢献を感じられることも、大手企業では得られにくいやりがいといえるでしょう。 

SO(ストックオプション)で報酬を得られる可能性がある

SOストックオプションを付与されると、上場により大きな報酬を手にすることができる可能性があります。近年は、勤務条件などを達成した後、株式を付与する「RSU(譲渡制限付株式ユニット)」を導入する企業も増えています。 
 
ただし、税制適格型のSO(ストックオプション)ない場合は、権利行使時に譲渡所得(税率20%)ではなく、給与所得(最大税率55%として取扱いを受ける可能性があります。付与されるSO(ストックオプション)が税制適格かどうかの確認も必要です。また、税制適格型のSOストックオプションについては、令和5年度税制改正によって、設立より5年未満の未上場企業においては、権利行使期間を「付与決議日後2年後を経過した日から15年(改正前は10年)を経過する日まで」に延長されました 

スタートアップへの転職実現のポイント

スタートアップへの転職を実現させるためには、次のような活動を意識するといいでしょう。

求人が少ないため主体的に探す

ステージが浅いほど、求人を公開していないスタートアップが多くなります。そのため、求人サイトなどで検索してもなかなか見つからないでしょう。リファラル採用(社員が友人・知人を自社に紹介する採用手法)が中心になるので、SNSなど友人・知人のネットワークを活用しましょう。 

また、起業家が集まるSNSを見て情報を得る、ビジネススクールで人脈を築く、ピッチイベント(投資家などに向け事業アイデアをプレゼンするイベント)への参加企業を調べて直接アプローチするなど、主体的に動いてチャンスを探りましょう。 

転職エージェントを活用する

転職エージェントによってスタートアップの非公開求人を保有しています。投資ファンドと連携して、シード~アーリーステージの人材採用を支援している転職エージェントもありますスタートアップへの転職支援実績のある転職エージェントに相談し希望条件を伝え、求人案件の紹介を受けるといいでしょう。 

副業・兼業などの方法からアプローチする 

まだ軌道に乗っていないスタートアップでは、資金面などから正社員採用が難しいため、業務委託で副業人材やフリーランスを活用しているケースが多く見られます。副業・業務委託の求人案件を探し、まずは「お手伝い」から始めてみるのも一つの手です内部から経営実態を見ることができるので、いきなり転職するよりも不安が軽減されます。手応えを得て入社意欲が高まれば、経営陣に正規雇用を申し出てみることも一案です 

スタートアップへの転職の注意点

スタートアップへの転職では、想定外の困難に遭遇する可能性もあります。注意すべき点を理解しておきましょう。 

仕事がハードになりやすい 

先にも述べたとおり、1人が複数の業務・役割を兼務するケースが多数です。「経験の幅を広げられる」というメリットがある一方で、大きな負荷がかかり疲弊してしまう恐れもあります。人員が足りず労務管理体制も整備されていない状況では、労働時間が長くなったり、休暇を取りづらかったりすることもあるかもしれません。 

事業や業務内容の変化が大きい 

スタートアップは、外部環境に応じて柔軟に戦略を転換、軌道修正していきます。それはメリットとも言えますが、従業員の立場では進めていた仕事で突然方向転換を強いられたり、担当業務の変更を命じられたりと、ストレスを感じることもあります。 

事業撤退やM&Aなどの可能性がある 

事業が軌道に乗っていない状況での撤退や縮小、あるいは成長軌道に乗り始めた頃に他社に買収されるなど、突然の変化に見舞われることもあります。場合によっては退職せざるを得ないかもしれませんが、たとえそうなった場合も「次の企業で活かせる経験・スキルを得られるか」という観点で企業を選ぶことが重要です。 

タートアップへの転職は慎重に検討しよう 

メディアの記事やSNSなどで勢いのあるスタートアップを目にすると、ワクワク感を抱いて飛び込みたくなることもあるでしょう。確かに新たな刺激が多い環境ですが、注意しておきたいこともあります。 

多方面から情報収集を行い、自分マッチしているか、キャリア形成にプラスになるかを慎重に判断しましょう。転職エージェントが持つ情報もぜひ活用してはいかがでしょうか。 

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監修

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。