離職票は、退職後に雇用保険の基本手当(失業保険)を受給するために必要となる書類です。ここでは、離職票が発行されるまでの一連の流れや、離職票の記入の仕方、再発行したいときの対処法、混同しがちな「退職証明書」との違いなどについて、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
目次
離職票とは
離職票とは、勤務先の事業所を管轄するハローワークで発行されるもので、雇用保険の基本手当(失業保険)を受給するために必要となる書類です。離職したことを証明する公的な文書であり、基本的に企業が手続きを行い、ハローワークから企業に届けられたものを退職者へ渡します。
離職票には、雇用保険の資格喪失を通知する「雇用保険被保険者離職票―1」と、離職前の賃金の支払い状況と離職理由が記載された「雇用保険被保険者離職票―2」の2種類があります。
雇用保険被保険者離職票―1(離職票―1)
「雇用保険被保険者離職票―1(以下、離職票―1)」は、雇用保険の資格がなくなったことを被保険者(退職者)に通知するための書類です。雇用保険被保険者番号、資格取得年月日、離職年月日、氏名、性別、生年月日、喪失原因、事業所番号、事業所名称などが記載されています。
雇用保険被保険者離職票―2(離職票―2)
「雇用保険被保険者離職票―2(以下、離職票―2)」は、手書き書類がA3の複写用紙となっており、離職証明書(事業主控)、離職証明書(安定所提出用)がセットになっています。離職日以前の賃金支払状況と離職理由が記載されています。
離職票はどのようなときに必要か
離職票は、以下の手続きで必要となります。
- ハローワークで雇用保険の基本手当(失業保険)の受給申請をするとき
- 国民年金保険料を納めるのが困難な場合に、年金保険料の特例免除を申請するとき
- 国民健康保険への切り替えや、家族の健康保険の扶養に入る場合などに、離職したことの証明書が必要なとき
退職後すぐに働き始める場合は雇用保険の基本手当(失業保険)を受給することなく、年金や健康保険も転職先企業で新たに加入するため、前職の企業に離職票の発行を依頼する必要はありません。また、転職先の企業への提出も基本的に不要です。
雇用保険の基本手当(失業保険)の受給要件
雇用保険の基本手当(失業保険)を受給するには、次の1と2の両方にあてはまっていることが要件となります
- ハローワークに来所し、求職の申し込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12カ月以上あること(※)
(※)特定受給資格者(倒産・解雇等による離職の場合)と特定理由離職者(期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合やその他止むを得ない理由による離職の場合)は、離職の日以前1年間に、通算して6カ月以上ある場合でも可。
離職票は発行に手続きが必要なため、退職者の手元に届くまでには一定の期間を要します。退職者が希望しなければ発行しない企業もあるため、雇用保険の基本手当(失業保険)を受給する場合は、退職が決まったらすぐ離職票を発行してもらえるように、人事担当者に依頼しておきましょう。
離職票が発行されるまでの流れ
離職票は企業が手続きをした後に、ハローワークから発行されます。ここでは、退職者が離職票の発行を希望した際に、どのような流れで手元に届くのかをご紹介します。
1)企業に「離職票」の発行を依頼
退職することが決まったらすぐに、離職票の発行手続きをしてもらえるよう、人事担当者に依頼しましょう。
2)企業がハローワークに「離職証明書」を提出
企業が離職年月日や離職理由など証明事項を記入した「離職証明書」を準備します。退職者が記載された内容を確認し、原則署名または押印した後、企業から「雇用保険被保険者資格喪失届」とともにハローワークに提出します。提出方法は企業によって異なり、窓口で直接提出、郵送、電子申請の3つがあります。
3)ハローワークが「離職票」を発行
ハローワークで離職証明書の確認が行われて一連の手続きが完了すると、「離職票―1」「離職票―2」が発行されます。窓口提出であればその場で発行・受け取り、郵送の場合は企業に送付、電子申請は申請後2~3日程でPDFの離職票が企業宛てに送信されます。
4)企業から「離職票」を受け取る
企業が受け取った「離職票―1」「離職票―2」が退職者に郵送されます。電子申請の場合も企業が出力して自宅に郵送となりますが、急ぎの場合は企業から電子メールでPDFの離職票を送信してもらうことも可能です。その際は、自分でPDFを出力してハローワークで手続きをします。
企業がハローワークへ申請するまでに一定の時間を要することもありますが、もし退職から2週間程度経過しても離職票が送られてこない場合は、企業に確認を取りましょう。
5)雇用保険の基本手当(失業保険)の給付手続きを行う
ハローワークに「離職票―1」「離職票―2」を持参し、雇用保険の基本手当(失業保険)の受給手続きを行います。他に、マイナンバーカード、身分証明書、印鑑、写真、通帳なども必要です。事前にハローワークに確認しておきましょう。
離職票の書き方
ハローワークに離職票を提出する際は、退職者側で記入すべき項目がいくつかあります。
「離職票―1」の書き方
「離職票―1」で記入が必要となるのは、「求職者給付等払渡希望金融機関届」の欄です。給付金を受給する際、振込先に指定する金融機関の情報を記載してください。公金受取口座を登録している場合や、今までに雇用保険の給付を受給しており、以前と金融機関に変更がないときは、記載しなくても構いません。
「個人番号」は、ハローワークの窓口で記入するようにしましょう。
※厚生労働省職業安定局「ハローワークインターネットサービス」より
「離職票―2」の書き方
まず左側の「離職の日以前の賃金支払い状況等」を確認し、もし実際にもらっていた額よりも少なければ、給与明細を添えて、その旨をハローワークに申し出ます。
次に、右側の「離職理由」「離職者記入欄」の該当部分に〇を付けます。この時、事業主側が〇を付けた離職理由や、その下の「具体的事情記載欄(事業主用)」の内容に相違がないかを確認しましょう。
「具体的事情記載欄(事業主用)」には、自己都合や契約期間満了、解雇など、企業側が把握している離職理由が記載されています。問題がなければ、その下にある「具体的事情記載欄(離職者用)」に「同上」と記載すればOKですが、もし食い違う場合は、事業主用とは異なる具体的な離職理由を書くことで、異議を申し立てることができます。
「会社都合退職」は、主に普通解雇や事業所廃止、倒産、退職勧奨などによる退職を指しますが、「賃金の遅配」「離職の直前に月100時間を超える時間外労働」など、会社の都合や状況によって、労働者が辞めざるを得ないと判断したケースも含まれます。
一方、労働者側の事情による「自己都合退職」の中でも、体調不良や怪我、配偶者の転勤、家族の介護などが理由で仕事を続けられずに退職した場合は、「やむを得ない正当な理由がある退職者」として見なされます。
こうした離職理由は、雇用保険の基本手当(失業保険)の支給期間や金額に関わる大切なものです。もし企業側が記載した理由に納得がいかない場合は、異議申し立てのうえ、ハローワークに相談しましょう。 その際には、賃金の遅配を示す預金通帳や、医師の診断書など、退職した理由を証明する証拠を添えるようにします。
※厚生労働省職業安定局「ハローワークインターネットサービス」より
離職票と類似の書類との違いについて
離職票以外にも、退職の手続きに使用する書類がいくつかあります。ここでは離職票と混同しがちな「離職証明書」「雇用保険被保険者離職証明書」「雇用保険被保険者資格喪失届」「退職証明書」の違いについて、説明します。
離職証明書
離職証明書は、企業が退職者に離職票を発行するために、ハローワークに提出する書類です。「雇用保険被保険者離職証明書」の略称であり、在籍した最終月の給与6カ月分と、12カ月分の被保険者期間を確認するものです。
離職証明書は基本的に、退職日の翌日から10日以内に企業が作成し、ハローワークに提出することが義務付けられています。事業主控・ハローワーク提出用・雇用保険被保険者離職票の3枚複写となっており、そのうち1枚が退職者に渡す「離職票―2」として手元に送られてきます。
雇用保険被保険者資格喪失届
雇用保険被保険者資格喪失届は、企業が退職者を雇用保険の被保険者から外す手続きに使用される書類です。離職証明書と同様に、企業が作成してハローワークに提出し、退職者には「被保険者資格喪失確認通知書」という書類が発行されます。 なお、退職者が離職票を希望した場合は、「離職票―1」が被保険者資格喪失確認通知書を兼ねるため、発行されることはありません。
退職証明書
退職証明書は、企業が社員の退職を証明するために発行する書類です。公的な文書ではなく、特に決まったフォーマットなどもありません。企業ごとに書式や記載内容は異なります。
退職証明書は、労働基準法第22条で企業に発行義務が定められており、退職者から希望があった場合には、企業はその発行を拒むことはできません。記載する内容は、使用期間、業務の種類、地位・役職、賃金、退職理由などで、退職者が請求していない事柄を記載してはいけないことが定められています。記載してほしい項目、してほしくない項目があれば、発行を依頼する際に伝えておくようにしましょう。
退職証明書を使用するのは、退職したことを証明する必要がある時です。転職先企業から提出を求められる場合がありますので、必要かどうかを確認しておきましょう。また転職先が決まっていない場合など、国民健康保険や国民年金への切り替えを申請する際に、離職票が届いていなければ代用することもできます。
離職票を発行する際に確認しておきたいQ&A
離職票に関して、よくある質問を以下にまとめました。ぜひ参考にしてください。
離職票が届かない場合はどうしたらいい?
企業は、退職した翌日から10日以内に離職証明書を提出することが雇用保険法で定められています。もし退職後2週間以上経っても離職票が届かない場合、まずは前職の企業に確認してみましょう。
企業に催促しても届かない場合は、ハローワークに相談しましょう。身分証明書や退職証明書などを持参し、雇用保険の加入歴を調査してもらいます。受給資格があることが確認されれば、ハローワークの判断で仮決定を受けることができます。後日、企業から送られてきた離職票を持参して本決定を行いましょう。
また、企業から離職票が送られてこない場合は、企業を管轄するハローワークに離職票発行の手続きを行うよう勧告してもらうことも可能です。
前職の記入ミスや、雇い止め・解雇などにもかかわらず「自己都合退職」とされた場合、会社都合退職に変更できる?
会社都合である退職であるにも関わらず、離職票に「自己都合退職」と書かれた場合は、ハローワークに異議を申し立てます。その際は、雇い止めであれば最後の契約書、退職勧奨であればそれを通知された書類など、会社都合による退職を証明できるものを持参して相談してみましょう。
離職票を紛失してしまった場合はどうしたらいい?再発行の方法は?
離職票を紛失してしまった場合は、再発行が可能です。企業に再発行を依頼する方法と、ハローワークで再発行の手続きを行う方法があります。
企業がハローワークに電子申請して発行された離職票をなくしてしまった場合、原本はPDFで作成されているため、企業に再印刷して郵送してもらうか、メールで送付してもらえないかを確認してみましょう。
ハローワークで再発行の手続きをする場合は、「雇用保険被保険者離職票再交付申請書」に必要事項を記載し、運転免許証や住民票など、本人確認ができる書類のコピーを持参して窓口で申請するか、電子申請サービス「e-Gov」でオンライン申請しましょう。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。