
在職中の場合は転職を決意したものの、退職交渉を始めるにあたり「辞める理由をどのように伝えれば良いだろう」「強く引き留められるのではないか」と不安を抱く人は多いようです。引き留めを回避しやすくなる退職理由の伝え方、スムーズに退職するためのポイントについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。「不満」をそのまま伝えず、前向きに言い換える例文もご紹介しているので参考にしてみましょう。
仕事を辞める理由は?転職理由ランキング
株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ)が1年以内に転職した方を対象に行ったアンケート調査(2024年実施)によると、「転職のきっかけ」について、「労働時間・環境への不満」「給与が低い」といった労働条件での不満が上位を占めました。
トップ10全体では、「会社の将来性」「会社のビジョンや方向性」など会社に対する不安や疑問、「仕事内容」に対する不満、「同僚・先輩・後輩」との人間関係の不和、「働き方の見直し」なども挙げられています。
「転職のきっかけ」ランキング

出典:「年代別転職理由の本音」(株式会社リクルート:現・株式会社インディードリクルートパートナーズ)
引き留められにくい退職理由の伝え方のポイント
現職に退職を申し出た場合、引き留められることも多いものです。引き留められたときに迷いを見せると、さらに強く引き留められ、退職交渉が進まなくなることもあります。スムーズに円満退職に至るために、「引き留めるのは難しそうだ」と思われる可能性が高い退職理由を伝えると良いでしょう。以下のポイントを心がけてみてください。
自社で叶えられない理由を伝える
「○○の仕事がしたい」とだけ伝えると「異動させるから辞めないでほしい」などと引き留められる可能性があります。「異業種で経験を積みたい」「海外事業に携わりたい」など、伝え方を工夫するようにしましょう。伝え方を工夫し、自社では実現できないことが伝われば、引き留めを回避できる可能性が高まるでしょう。
前向きな内容を心がける
辞める決意をしたきっかけが「不満」であったとしても、上司に退職を申し出る際に不満をそのままぶつけると、相手の気分を害してしまう可能性があります。上司が感情的になってしまい、退職交渉が進みにくくなるかもしれません。また、「不満の解消を図るので、考え直してほしい」と引き留められるケースもあります。
不満が退職のきっかけの一つであったとしても、それだけが退職理由のすべてとは限らないでしょう。転職を考えた前向きな理由やチャレンジ意欲なども伝えるようにして、快く送り出してもらえるように受け取り手の気持ちを汲み取ることも一案です。
やむを得ない理由の場合は正直に伝える
育児や家族の介護、配偶者の転勤など、やむを得ない理由がある場合は、正直に伝えましょう。家庭の事情などであれば、会社として対応することに限界があるため受け入れられやすいでしょう。
感謝の気持ちを交える
不満があって辞める決断をした場合も、上司に申し出る際には、これまでお世話になったことへの感謝の気持ちを伝えることをおすすめします。上司のネガティブな気持ちが緩和され、「応援してあげたい」と思ってもらえれば、退職交渉もスムーズに進みやすくなるかもしれません。
仕事を辞める理由の言い換え例
不満がきっかけで辞める決断をした場合も、上司に申し出る際にはなるべく前向きな表現を使いましょう。先ほど触れた「転職のきっかけ」ランキングの上位の理由について、言い換えの一例をご紹介します。
労働時間・環境が不満
「仕事内容やチームメンバーには恵まれていると感じていますが、育児をする中で、もっと家族と過ごす時間を大切にしたいと考えるようになりました。今後は仕事とプライベートの時間のバランスがとれる働き方をしたいと考えています」
給与が低い
「幅広い経験を積むことができ、成長機会を与えていただいたことに感謝しています。しかし、家庭を持ち、教育資金や住宅ローンを考えると、さらに収入を上げる必要があると感じています。仕事にしっかりと集中するためにも、経済面での不安を解消したいと考え、退職を決意しました」
上司・経営者と仕事の仕方が合わない
「当社は個人での判断や行動を推奨し、個人での業績を評価する方針です。主体性を尊重すると言う点で良いカルチャーだと思いますが、私自身としては、さまざまな強みを持つメンバーが連携し、お客様に提供できる価値の最大化を目指す働き方がしたいと考えております。チームワークを重視する風土の企業が自分には合っていると感じ、退職を決意しました」
年収を上げたい
「当社の商品には愛着を持っていますが、10年先・20年先に自分がビジネスパーソンとしてどうなっていたいかを想像したとき、今から○○の経験を積んでおきたいと考えました。自分を成長させ、より市場価値が高い人材になりたいという思いが強くなったので、新たなチャレンジを決意しました」
会社の将来に不安を感じた
「これまでお客様の課題を解決する仕事にやりがいを感じながら働いてきました。今、時代が大きく変わっていく中で、お客様から求められることも変化していると感じます。そのニーズに応えたいと言う思いが強くなったため、当社にはないサービスを扱える環境に移りたいと考えました」
スムーズに退職するための進め方
退職を決意したら、次のポイントを意識して行動することで、スムーズな退職につながる可能性があります。
退職スケジュールを立てる
現職に退職を申し出る時期は、一般的には就業規則において「退職希望日の○カ月前まで」などと定められています。まずは就業規則を確認し、退職を申し出てから実際に退職するまでどれくらいの期間がかかるかを把握しておきましょう
その上で、担当業務の繁忙期、プロジェクトの進捗状況などを踏まえ、退職しやすいタイミングをはかりましょう。引き継ぎにどの程度の期間がかかるか、有給休暇の消化に何日かかるかなども計算しておくと、退職までのスケジュールを立てやすくなるかもしれません。
退職理由を整理して上司に伝える
退職を申し出る際には、必ず理由を問われるでしょう。このとき「一身上の都合により」「家庭の事情により」「個人的な事情により」などと伝えるだけでは納得されず、さらに踏み込んで理由を聞かれる可能性があります。
その場であいまいな受け答えをすると、「まだ残ってくれる可能性があるかもしれない」と思われ、退職交渉が難航するかもしれません。また、不満が理由であった場合はお互いに感情的になり、退職日までぎくしゃくした雰囲気になってしまうこともあります。
そうした事態を避けるため、退職理由はしっかりと整理し、先述のように前向きな表現で伝えられるよう、準備しておきましょう。
引き継ぎ資料をまとめる
退職を申し出たとき、上司が不安を抱くことの一つが「後任者の手配と引き継ぎ」です。引き継ぎの準備をしっかりとしておくことで上司は多少なりとも安心し、退職交渉が進みやすくなる可能性があります。また、退職への明確な意思を示すこともでき、引き留められにくくなるかもしれません。
引き継ぐ業務について、以下の項目を資料にまとめておくと良いでしょう。また、業務に使用するマニュアルや資料なども整えておくと良いでしょう。
- 通常の業務内容
- 業務発生の頻度・時期
- 工数
- 所要時間
- イレギュラー業務の内容
粟野友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。