【社労士監修】転職・退職時の保険証切り替え手続きとは?

受付で会話する人たち

転職の際に必要となるのが「健康保険証」の切り替え手続きです。「どのような手続きをしなくてはならないのか」「転職先の保険証が届くまでにどれくらいの期間がかかるのか」などの不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。手続き方法に迷うことなくスムーズに切り替えが行えるよう、健康保険証の切り替えの基本的な流れと、「転職先が決まっている場合」「決まっていない場合」のそれぞれの対処法について、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

健康保険とは?

健康保険とは、業務外で病気やけがをしたときや、休業、出産、死亡といった事態に備える公的な医療保険制度のことです。公的医療保険制度には、自営業やフリーランスなどが加入する「国民健康保険」、民間企業や公務員が加入する「被用者保険」、高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」があります。加入者が保険料を支払い、それを財源とすることにより、必要に応じて医療や各種手当を受けられる仕組みとなっています。

転職に伴う健康保険証の切り替えの流れ

現在使っている健康保険証は、退職日翌日から使用できなくなります。退職する会社に、自身と扶養家族の保険証すべてを退職日までに返却する必要があります。もし不注意で返却し忘れてしまった時は、会社に連絡し、郵送などですみやかに返却するようにしましょう。
以降で、健康保険証の切り替え手続きの進め方や方法をご紹介します。

切り替え手続きの進め方

健康保険証の切り替え手続きの進め方は、以下の2つに大きく分かれます。

転職先が決まっている場合

転職先の会社で新しい健康保険証の発行手続きを取ります。会社の担当者の指示に従い、必要な書類や情報を揃えることになります。

転職先が決まっていない場合

新たな会社に就職するまで間が空く場合には、後述する3つの選択肢のいずれかを選ぶことになります。個々の状況に応じて取りうる選択肢が変わるため、自身の状況を事前に把握しておくことが大切です。

なお、扶養家族がいる場合、退職と共に家族分もあわせて使用できなくなるので要注意です。家族全員分の保険証を返却する必要がありますので、退職日までに準備しておいてください。退職日当日も使用したい場合には、あらかじめ勤務先に相談し、郵送で返却するといった対応が可能かどうか確認しておくようにしましょう。

転職先が決まっている場合の手続き方法

すでに転職先が決まっている場合には、転職先の会社で発行手続きを行います。ただし、実際の保険証が手元に届くまでには、時間を要することが多いです。協会けんぽまたは健康保険組合から会社宛てに健康保険証が届きますが、最短で1週間ほど、長い時には3週間前後かかることもあります。特に社員の出入りが激しい年度初めは、保険証発行業務が集中するため、いつも以上に時間がかかる可能性があります。

健康保険証が届く前に医療機関を利用したい場合には、「健康保険被保険者資格証明書」を転職先の会社に依頼して年金事務所に発行してもらうか(協会けんぽ加入企業に限る)、もしくは全額立替払いを行ったうえで、後日返金を受ける形になります。
また、現在は医療機関・薬局などで、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになりました。マイナンバーに保険加入情報を引き継ぐ切り替え手続きが終了している場合は、そのままマイナンバーカードを利用できるので、転職先の会社に確認してみるのも良いでしょう。ただし、マイナンバーカードに対応している医療機関・薬局以外では利用できないので、事前に利用できるかどうか確認することも大事です。

なお、すでに転職先が決まっているものの、退職日から入社日までに一定の空白期間が生じる場合には、その期間中は健康保険の適用ができなくなります。国民健康保険に加入するか、前職で加入していた健康保険の任意継続を利用することが必要となります。

転職先が決まっていない場合の手続き方法

次に、転職先が決まっていない場合の手続きの流れを解説します。退職後に休職期間も取りつつ転職活動を行うなど、ブランクができることが想定される場合は、こちらの流れを参考にしてください。

転職先が決まっていない時の手続きには主に3つのパターンがあり、個々の状況に応じていずれかを選択することになります。以降でそれぞれについてくわしく解説します。

国民健康保険に加入する

退職日の翌日から14日以内に、市区町村の担当窓口に出向き、国民健康保険の加入手続きを行います。この時に必要となるのが、前職の会社を退職したことがわかる書類です。退職時に勤務先の会社や健康保険組合に依頼することで、健康保険の資格喪失連絡票を発行してもらえます。企業に発行の義務はありませんが、発行可能な場合はそちらを提出すると良いでしょう。そのほかには、世帯主と加入者全員のマイナンバーが確認できるもの、届出者の本人確認ができるものなどが必要になります。

なお、企業や団体の健康保険とは異なり、国民健康保険には扶養の概念がありません。家族もすべて加入者となり、その分の保険料を支払うことになります。

任意継続を選択する

任意継続とは、前職の会社で加入していた保険を最長2年間継続できる制度のことです。加入には、「退職日以前に継続して2カ月以上の被保険者期間があること」「退職日の翌日から20日以内に手続きすること」という2つの条件を満たす必要があります。現職で加入している健康保険組合に、任意継続の手続き方法を確認しておきましょう。

なお、任意継続は最長2年しか継続できず、任意継続中は原則、国民健康保険に切り替えたり、家族の扶養に入ったりすることができません。保険料は会社負担分も支払うことになるため、在職時の原則2倍程度に上がりますが、扶養者が多い場合には国民健康保険に加入するより割安になるケースがあります。国民健康保険に加入した場合と十分比較したうえで加入を検討しましょう。

家族の扶養に入る

家族が働いており、勤務先の健康保険に加入している場合は、その扶養に入ることも選択肢の一つです。その際は、国民健康保険への切り替えと同様に、前職の会社を退職した事実がわかるものとして資格喪失連絡票などを提出する必要があります。
ただし、被扶養者になるためには厳しい条件があります。所得などを証明するための公的な書類を揃えて申請し、審査を通過しなければ扶養者として認められません。退職後、家族の扶養に入ることを検討しているのであれば、家族の勤務先の担当者に相談するなど、事前に条件をしっかり確認しておくようにしましょう。

また、家族が個人事業主やフリーランスの場合は、国民健康保険に加入しているため、扶養に入ることはできず、自身で国民健康保険に加入する必要があります。

国民健康保険への切り替え手続きに必要な書類

国民健康保険への切り替えには、以下の書類が必要となります。

  • 健康保険の資格喪失が分かる証明書(健康保険被保険者喪失証明書、退職証明書、離職票のうちどれか1通)
  • 各市区町村で定められた届出書
  • マイナンバー(個人番号)がわかるもの
  • 身分証明書
  • 印鑑(署名でも可)

ただし、各市区町村によって異なるケースもあるので、役所の国民健康保険担当窓口で事前に確認すると良いでしょう。

健康保険・保険証についてのよくあるQ&A

健康保険や保険証の切り替えなどにかかわるよくあるQ&Aをご紹介します。

転職先の健康保険の給付内容について確認したほうがいいことは?

「付加給付」の有無について確認すると良いでしょう。健康保険の給付には、法律で定められた「法定給付」と、法定給付に上乗せされる「付加給付」があります。法定給付は、70歳未満の人が医療機関を利用した際に医療費の7割が健康保険で給付される仕組みです。一方、付加給付がある健康保険の場合は「支給額が増える」「支給期間が延長される」などの違いがあります。
付加給付によって支給額が増える例としては、出産時に1児につき40.8万円(産科医療補償制度に加入している医療機関での出産の場合は42万円、2023年度からは50万円に増額予定)が支給される「出産育児一時金」が挙げられます。また、このほかにも支給される金額が上乗せされたり、休業補償として手当が支給されたりするケースがあります。一方、支給期間が延長される例としては、業務外での病気やケガで会社を休んだ際に給与がもらえない場合に支給される「傷病手当金」が挙げられます。法定給付では直近1年間の月収平均の3分の2程度の金額が1年6カ月間は支給されますが、付加給付がある場合は最長3年まで期間が延びることがあります。

健康保険証を紛失した場合の対処法は?

病院にかかることが少ない方の場合は、保険証を返却する際、紛失していることに気づくケースもあります。探しても見つからない場合は、なるべく早く現職(前職)の会社に連絡してください。自宅以外で紛失した可能性がある場合は、警察にも紛失を届け出る必要があるので忘れないようにしましょう。
また、退職日まで日数がある場合は、現在の会社に健康保険証を再発行してもらうこともできるので、万一に備えて再発行を依頼するほうが安心できます。健康保険証を再発行した場合でも、退職時に返却することが必要なのでしっかり管理することが大事です。
一方、退職日まで日数がない場合は、健康保険証の再発行が難しい可能性があります。会社の指示に従いましょう。

国民健康保険の切り替え手続きが退職後14日を過ぎてしまったら?

多くの自治体において、国民健康保険の加入手続きは資格喪失から14日以内に行うこととされており、手続きを行う前に医療機関にかかった場合は、一時、医療費を全額自己負担することになります。加入手続き後、医療機関に健康保険証を提示することで保険給付に相当する金額を返金してもらえるケースもありますが、それができない場合でも、住まいの市区町村に申請すれば「療養費」として償還払いしてもらえます。ただし、2年以内に手続きを行わない場合は、時効によって権利が消滅するので注意しましょう。

失業中に病気やケガをした場合、保険はおりる?

離職後、国民健康保険への切り替えを行うことで健康保険を利用できます。また、失業後に雇用保険の受給資格決定手続きを行った後で、基本手当を受給中に病気・けがなどで働くことができなくなった場合は、雇用保険の傷病手当を活用することができます。これは雇用保険の受給中に15日以上働くことができない場合に支給されます。受給期間は、基本手当の所定給付日数から、すでに基本手当が支給された日数を差し引いた日数となります。

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社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。