社長など経営層への転職は難しい?経営層への転職事例と実現へのポイント

オフィスにてデスクトップパソコンを操作する人

今後のキャリアを考えた時に、「経営に携わりたい」、そして「より大きな裁量権を持ちたい」なら、目指すポジションとして「社長」や「CxO」が選択肢になる場合もあるでしょう。では、社長 や CxOの経験がなくても、これらのポジションに転職するチャンスはあるのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

社長やCxOとはどのようなポジションか

始めに、「社長」や「CxO」とはどのようなポジションかを解説します。

社長とは?社長の定義について

「社長」とは、会社法などで明確に定められた役職ではなく、商習慣上の「企業の最高責任者」を指す、一般的な呼称です。つまり、あくまでも各企業の内部で定義されているポジションと言えるでしょう。

一方、「代表取締役」とは、会社法で定められた株式会社の代表権を持つ取締役のことです。代表取締役は複数名選定することができますが、社長は会社のトップであることから、基本的には一つの企業に1名となります。

なお、経済産業省が作成した文書(※)では、「社長・CEO」の定義として「企業の経営のトップに立つ者を指す」とのみ記載されています。

(※)出典:「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」P10(用語の定義)https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/20200731_01.pdf?utm_source=chatgpt.com

CxOとは?どのようなポジションがあるのか

「CxO」は「Chief x Officer」を略した言葉で、企業内の特定分野の最高責任者を指し、「x」の部分には業務や機能を表す言葉が入ります。こちらも社長と同じように、法の定めがない一般的な呼称であり、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)などの役職を各社が独自に設けています。

中でもCEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)は、一般的に社長と同じ意味で使われることが多く、企業の全責任を持つとともに、事業方針や戦略などを決定する役割を担います。

社長やCxOへの転職は難しいのか

一般的に、社長やCxOの経験がない人が、「転職によってこれらのポジションに就く」ことは難易度が高いと言われています。それはなぜでしょうか。

第一の理由として、そもそも「部長」や「課長」などの管理職や、「営業」や「エンジニア」などの職種に比べて、社長やCxOのポジションが相対的に少ないことがあります。特に社長は、ほとんどが内部昇格で決まり、外部から採用するケース自体が多くはないからです。

仮に企業が社長を募集したとしても、「経営トップ」という役割に求められる経験・スキル、人物像、意欲、組織や経営陣との相性、投資家や株主の評価などいくつものハードルがあり、採用に至ることは容易ではないと言えるでしょう。

とはいえ、社長未経験者であっても、社長・CxOに転職できる可能性はゼロではありません。以下にそうしたケースを紹介していきます。

社長やCxOなど経営層の採用ニーズとは

社長やCxOへの転職を目指す場合、実際にどのようなチャンスが考えられるのでしょうか。昨今よく見られる社長やCxOの採用ニーズを紹介します。

企業ステージの変化に伴うニーズ

まず、企業が新たな成長ステージに移行する際には、CxOのニーズが生まれやすいと言えるでしょう。
例えば、スタートアップやベンチャー企業が成長を遂げ、IPO(新規株式公開)への準備にとりかかるフェーズでは、「CFO(最高財務責任者)」をはじめ、組織体制の整備を担うCxOのニーズが発生することがあります。監査法人でのパートナー経験者をCFOとして採用したり、金融機関での情報システム部長経験者をCISO(Chief Information Security Officer=最高情報セキュリティ責任者)として採用したりする事例がそれに当たります。

もちろん、IPO準備に伴うニーズだけに限りません。あるスタートアップは、売上拡大を図る際に、従来の直販だけでなくパートナーセールスの強化を目指し、パートナーセールスの分野で実績を持つ方を、CRO(Chief Revenue Officer=最高収益責任者)として採用したという事例もあります。

一方、老舗企業が「事業再生」「第二創業」に向かう際、事業変革を担う経営ボードを採用するケースもあります。ある中小規模の老舗印刷会社では、デジタル化を推進するため、電子書籍ビジネスの経験者をCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)として迎えた事例があります。

事業承継に伴うニーズ

事業承継時期を迎えた企業でも、新たな経営ボードを採用するケースがあり、主に次の2通りのパターンがあります。

一つは、社長が引退して子息などに事業承継するにあたり、経営陣も入れ替えるパターンです。次世代社長のパートナーとして、足りていない専門知識・スキルを補えるCxOの採用を行います。

もう一つは、承継者がいない企業を投資ファンドが買収し、ファンドが社長やCFOを採用して投資先企業に送り出すパターンです。

近年、地方企業でも事業承継に伴う経営幹部の採用が注目されています。地方には経営幹部候補となる人材が少ないため、首都圏で経営やマネジメントの経験を積んだ人材が、地方企業の経営幹部としてIターン転職や単身赴任をするケースも見られます。従って、社長やCxOへの転職を目指すなら、地方企業にも目を向けてみると、チャンスが広がるでしょう。

未経験でも社長やCxOになれる可能性がある

上記の事例からも見てとれるように、昨今は事業の変革や事業継承などによるさまざまなニーズがあり、社長やCxOの経験がなくても、これまでの経験・スキル、そして企業の考え方によっては、社長やCxOに転職できる可能性があります。

例えば、事業会社で部門責任者などを務めた方や、投資銀行、コンサルティングファームで経験を積んだ方が、投資ファンドを通じて、投資先企業で社長やCxOに就任するケースがあります。また、大企業で事業部門責任者などを務めた方が、前職よりも規模の小さい会社やスタートアップ・ベンチャーにCxOとして迎えられ、組織整備や仕組み作りのプロジェクトを主導するケースも少なくありません。

「社長未経験」で社長やCxOに転職した事例

実際に、未経験から社長やCxOに転職することができた事例をご紹介します。

中小運輸会社・副社長 → 不動産会社・社長

中小規模の運輸会社で副社長を務めたことがあるAさん(40代)。オーナー企業で成果を出し、一社員から副社長にまで上り詰めたビジネススキルを買われて、不動産会社の社長候補として採用されました。その会社の社長もまだ40代でしたが、新規事業への意欲を燃やし、別会社の設立準備を進める中で「新規事業に集中したいので、既存の不動産事業は他の人に任せたい」と、Aさんを迎えたのです。Aさんは入社後まもなく社長に就任。「副社長で満足せず、企業のトップとして力を振るいたい」という希望を実現することができました。

大手外資系営業管理職→中堅英会話事業運営会社社長

大手外資系企業で営業の管理職として活躍していたBさん(40代)は、ファンドの推薦を得て中堅の英会話事業の運営会社の社長に就任しました。Bさんが在籍していた外資系企業はBtoCビジネスを展開しており、BtoC向けのマーケティングや営業ノウハウがあり、英会話事業のターゲットと年齢や年収、志向性などに共通点がありました。また、人材を含めた店舗管理や店舗展開にも豊富な経験があったため、「異業界であってもノウハウや経験を活かすことができる」と評価され、経営者としてのキャリアを歩み始めました。

ITコンサルティングファーム・ディレクター→ITスタートアップ企業・執行役員

ITエンジニアとしてキャリアを開始し、IT営業を経て、コンサルティングファームのディレクターとして活躍していたCさん(40代)。ITスタートアップ企業の事業拡大に伴う募集において、「コンサルでの経験を活かし、事業会社で組織の拡大成長を陣頭指揮したい」という本人の意向と、募集側の「技術的な素養と営業経験もある専門家」という人物像が合致して、営業部門の執行役員(CSO=Chief Sales Officer)として採用されました。

経営層への転職を実現するために

経営層への転職を目指しているのであれば、その実現に近づくための経験を現職で積んでおきましょう。以下にその一例をご紹介します。

「改善」「変革」のプロジェクトをリードする経験を積む

事業や組織に対して常に改善・変革(売上を伸ばしたい、事業を拡大したい、良い組織にしたい)を追求し、事業拡大を目指すことは、経営層の大切な役割の一つです。そこで、自社の事業や組織に対して、自分なりの着眼点で課題を見出し、主体的にアクションを起こすことも、重要な経験となるでしょう。例えば、業務の生産性改善、顧客数拡大、社員離職率の低下・定着率の向上などに取り組み、経験と実績(数字)を積み重ねることを意識しましょう。

より大きな裁量権を持って組織マネジメントを行う

決められたミッションで成果を出すことに留まらず、より大きな裁量権を持って動き、結果にも責任を負うことを意識しましょう。例えば「部門全体の業務改善プロジェクト立ち上げて、自分自身がそのオーナーになる」といった経験は、将来のポジションアップへの可能性を高めてくれるでしょう。
今の組織で裁量権を持ったマネジメントポジションに就くのが難しい場合、子会社や関連会社があれば、そちらに出向を申し出ることなどで、機会が得られるかもしれません。

新しい事業を生み出し、育てる経験を積む

規模の大小に関わらず、自社内で「ゼロから1を生む」チャレンジも有意義であると言えます。新規事業を立ち上げて収益化することに限らず、例えば他社が行っているサービスの派生版をつくる、あるいは既存の組織内に新たなチームを組成し、収益拡大などの新たな価値を生み出す取り組みを行う、といったことも考えられます。その経験から得たものは自身の財産になるでしょう。

上記のチャレンジを模索したものの、現職でチャンスがない場合は、これらの経験ができる企業に転職し、段階を踏んで経営ポジションに近づいていくというステップもあるでしょう。

経営層への転職を視野に入れるならスカウトサービスも有効

社長やCxOなどの経営層を視野に入れて転職活動をする場合は、スカウトサービスを活用してみてはいかがでしょうか。登録した経歴や経験・スキルによって、経営者候補・CxOのニーズがある企業や、ヘッドハンターからスカウトを受けられるかもしれません。エグゼクティブサーチやビジネスSNS経由の転職事例もあるため、普段からできるだけ人脈を広げておくことも大切です。

一方、経営層の転職支援に強みを持つ転職エージェントでも、M&Aや事業継承に関する案件を扱っているかもしれません。この先どのような経験を積んでいくのが有効か、経験を積むならどのような転職先の選択肢があるかなどを相談し、情報を得てはいかがでしょうか。

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アドバイザー

粟野友樹氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。