入社を決める前に聞いておくべきことは?内定承諾前のチェックポイント

転職活動がうまく進んで志望企業から内定が出た場合、喜びに浸りたい気分になるものです。そんな時だからこそ、内定承諾時に確認しておきたいのが、「労働条件通知書」に記載されている労働条件です。場合によっては面接で話していた内容と異なっていたり、自身が思っていた条件と食い違っていたりするケースも考えられます。ここでは、入社を決める前に聞いておくべこと、内定承諾時にチェックしておきたいポイントについて、社会保険労務士の岡佳伸氏と、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

内定時に労働条件を提示するのが企業の義務

採用内定によって労働契約が成立する場合、企業は求職者(労働者)に対して労働条件を明示することが労働基準法で定められています。企業によって労働条件を明示する書面の名称は異なり、「労働条件通知書」、「内定通知書兼労働条件通知書」、「雇入通知書」、「内定通知書」、「採用通知書」などと呼ばれています。いずれの名称の書類だとしても、労働基準法第15条第1項に規定されている以下の5項目は、原則書面の交付により明示しなければならないとされています。ただし、求職者(労働者)が希望する場合は、書面以外のメールなどでも良いとされています。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

特に注意しておきたいのが、知人などの紹介で転職先を決めたケースです。労働条件を書面で確認せずに口頭で承諾し、その後、双方の認識に食い違いがあることが発覚するといった、想定外のトラブルに発展する可能性があるので十分気を付けてください。どのようないきさつで転職するとしても、労働条件はきちんと書面で提示してもらうようにしましょう。

内定承諾時のチェックポイント

内定を承諾する際に、どのような点に注意すればいいのでしょうか。内定承諾時に押さえておきたいチェックポイントをご紹介します。以下の点を確認したうえで、最終的な判断をするようにしましょう。

入社日

働きながら転職活動をする方は、入社日を必ず確認しておきましょう。退職交渉を進めた結果、入社日に間に合わないケースも考えられるからです。現在の業務を後任に引き継ぐ期間なども考慮し、提示された入社日までに本当に入社できるかどうかを慎重に検討するようにしましょう。

勤務地

本社のみの場合は勤務地が変わることはありませんが、支店などが多い企業では、遠方の配属になる可能性もあるので、しっかりと確認しておきましょう。なお、テレワークを導入している企業も増えています。通勤への負担を明らかにするために、テレワークの頻度も確認しておきましょう。今後勤務地の変更の可能性があるかどうかを聞くことも重要です。(2024年4月から新しく労働条件の明示事項に加わりました)

勤務時間

規定の勤務時間を確認するだけでなく、残業の目安なども確認しておきましょう。企業によっては、休日出社などが発生するケースもあります。休日出勤があるのかどうか、その際の振替休日の取得についてもあらかじめ確認しておくと安心です。

給与

入社直後の基本給だけでなく、インセンティブや賞与、給与に影響する評価制度なども確認します。例えば、役職や等級(グレード)はどのように設定されているのか、基本給以外のインセンティブはどのような条件で発生するのか、ボーナスの支給状況、昇給などの評価制度についても細かく確認しておくと、認識の違いを防ぐことができるでしょう。

働き方

働き方は、内定承諾書には記載されていない可能性があります。例えば、「上司が誰なのか」、「何名の部下を持つのか」など、配属先の組織体制や、入社時点の役職や等級(グレード)なども聞いておくと、承諾するかどうかの判断をしやすくなるでしょう。

退職に関して

入社前の段階から、退職に関する質問をするのは「気が引ける」という方もいるかもしれませんが、やむを得ず早期の退職を決断したり、会社側から解雇を言い渡されたりするケースも考えられます。退職に関して気になることがあれば、内定承諾時に遠慮なく質問するようにしてください。

内定承諾前の注意点

内定承諾前に心掛けておきたいのは、「何事も曖昧なままにしない」ということです。疑問を抱えたまま入社を決断した結果、のちに想定外の事実が発覚し、転職を後悔するようなことは避けたいものです。気になることがあれば、内定承諾前に確認し、十分に納得したうえで入社を決めましょう。

一方で、内定が出た時点で条件面に食い違いがあることが分かっても、労働条件通知書の内容を変更してもらうのは難しい可能性があります。特に給与や勤務地については、その内容を加味したうえで内定を出しているケースが高いからです。そのため、給与額や勤務地に譲れない希望がある場合は、内定が出てから伝えても遅い可能性があるので、選考の段階で伝えるようにしましょう。

内定を承諾したら、入社前に聞いておくべきこと

内定を承諾した後、改めて確認しておくべきことは何でしょうか。ここでは、内定承諾後に聞いておきたいことについて解説します。

入社までに必要な書類について

入社までに様々な書類を準備する必要があります。なかには前職(現職)企業に発行を依頼したり、役所などに出向いたりしなければならない書類もあります。取得までに時間を要する可能性もあるので、早めに確認しておきましょう。

書類以外に、入社までに準備しておくこと

例えば、業務遂行に必要な知識を事前に勉強しておく、参考図書を教わるなど、書類以外で、入社日までに準備しておくことを、事前に転職先に確認をしておきましょう。入社前の不安を払拭し、その後の業務をスムーズに進めるためにも、事前の準備をしっかりしておくことが大切です。

入社当日の連絡先やスケジュール

入社当日のスケジュールや訪問先についても確認が必要です。勤務地以外の会場で研修が行われるケースや、オンラインの可能性もあるからです。また、採用担当者や配属先担当者の連絡先についても確認しておきましょう。

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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。