現在の中途採用市場において、特に人材ニーズが高まっているのが「デジタル化」を推進するポジションだ。コロナ禍を機に、あらゆる業種・規模の企業が業務のオンライン化の必要に迫られた。多くの企業が、特定業務や情報管理にデジタルツールを導入する「デジタイゼーション」、業務フロー全体をデジタル化して生産性アップを図る「デジタライゼーション」を進める中、先進的な企業では、ビジネスモデルや製品・サービスそのものをデジタルで変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を加速させている。業界トップクラスの企業によるDXは、社会の姿や人々のライフスタイルまで変え得る影響力を持つ。DXを推進するポジションは、まさに時代の転換期に立ち会い、社会への貢献を実感できるやりがいに満ちているといえるだろう。今回、フォーカスするのは「小売業のDX」。イオングループにおいてDXを担い、小売業の新たなスタイルの実現を目指す「イオンネクスト」の取り組みを紹介する。
イオングループにおけるDX戦略の一つが「次世代オンラインマーケットの稼働」。2021年に発表された中期経営計画で成長戦略の5柱の一つに掲げられた。2030年までに目指す「売上高6000億円」は、リアル店舗なら300~400の新規出店に該当する数字だという。グループ全体を変える存在になる可能性も秘めたイオンネクストでは、立ち上げを担うエンジニアを募集中。CTOの樽石将人氏とIT部長の駒場光徳氏に、イオンのDX領域で働く魅力、キャリアパスなどについてお話を伺った。
世界最先端のテクノロジーを導入し、オンラインマーケットの仕組みを一から構築
―― 樽石さんは、Googleや楽天のエンジニア、RettyのCTOとして上場までをけん引、IT企業数十社の技術顧問……と幅広い経験を積んでこられたそうですが、なぜ「イオンネクストのCTO」という道を選択されたのですか。
樽石:元々日本の、特に社会インパクトの大きな日本企業のDX推進について課題を感じていて、何か役に立てることはないか考えていました。そんな時にイオングループを引っ張っていらっしゃる方とお話しできる機会がありました。そこで、イオングループの目指していきたいDXの姿とその前提にある「お客さま第一」の理念、環境への取り組みに共感を抱き、最終的には「人」が入社の決め手となりました。
DXのビジョンを詳しく聞く中でやりがいを感じるようになり、小売業で豊富な経験を持つ優秀な人たちと私の経験を掛け合わせ、化学反応を起こしてみたいと考えたんです。
イオンが培ってきたノウハウを結集し、オンラインマーケットとして「あるべき姿」を1から組み立て直す。そして、グローバルで最先端のシステムを導入して、日本初の次世代オンラインマーケットを生み出す。そこに面白さを感じました。
―― イオンネクストが取り組む「次世代オンラインマーケット」についてお聞かせください。
駒場:これまでより多くのお客さまに、生鮮食品を含む膨大な商品を、お客様が希望するタイミングで届けられる。注文した商品の「欠品」もほぼ発生しない――そんなサービスを提供します。
従来型のネットスーパーは、店舗にある商品を店舗から出荷してお届けするものでした。次世代型オンラインマーケットの拠点となるのは、最新のAIアルゴリズムと、24時間稼動のピッキングロボットを駆使した最先端の大型自動倉庫です。「顧客フルフィルメントセンター(CFC)」と呼んでおり、千葉市誉田に建設中です。
一般的なスーパーの商品数は平均1万SKU(※)であるのに対し、CFCは5万SKUの対応を想定して設計。1000台以上のロボットがセンター内を動き回り、約6分で50点の商品のピッキングが可能です。
※SKU/Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略。受発注や在庫管理における最小の品目数の単位
CFCをハブとし、中継地点(スポーク)を設けて配送を行う「ハブ&スポーク」の体制で、配送も自社で行います。AIが天候から需要や道路の混雑状況などを予測し、配送プランを最適化します。
樽石:購入画面――ECサイトやアプリと配送システムがシームレスにつなげることが可能な点が、従来型からの大きな変化ですね。配送のキャパシティを把握することで、販売量をコントロールできます。そこから逆算すれば、商品の需要予測も可能になります。商品の調達からユーザー宅への配送までを一気通貫で、自社のサービスとして実現することにより、すべて「計画すること」が可能になる。それによりサービスの質が高まり、ユーザーの満足度向上につながります。
―― 次世代オンラインマーケットの実現に向け、海外から最先端のテクノロジーを導入されたとのこと。詳しくお聞かせください。
駒場:アメリカやヨーロッパなど世界中でオンラインマーケットのシステムを探索し、10種類近く挙がった候補の中から最も優れているものを選び、パートナーシップ契約を結びました。
それが、「Ocado(オカド)Smart Platform」(以下、OSP)です。イギリスで食品のECサービスを展開するOcado社が、自社のノウハウをパッケージとして開発・外販している、クラウドベースのソリューションです。すでに欧米諸国で、国を代表するようなトップリテーラーに活用されている実績があります。
樽石:OSPは完成されたパッケージではなく、進化し続けているところが大きな魅力ですね。さらなる生産性アップのために、研究開発を続けていて、私が今まで経験してきた外資系ITソリューションの開発スタイルと非常に似ています。さらにその過程で、提供先のグローバルリテーラーからもノウハウを吸収している。OSPを導入しているグローバルリテーラーからの要求に応じて機能がアップデートされ、それを自由に使うことができる…という好循環が生まれています。
駒場:グローバルのトレンドを取り込み、日本で初めて目にするような機能を体験できることに期待しています。なお、OSPのパートナーとなっている海外リテーラーと直接コミュニケーションをとる機会もあります。OSPの導入企業が参加する「OSP Club」でさまざまなテーマのフォーラムが用意されているほか、Ocadoのエンジニアリングチームとも各国のエンジニアが頻繁にディスカッションを行っており、最先端の学びを得ています。
「大企業の経営資源」×「スタートアップのカルチャー」の両方を備えた環境
―― イオンネクストで活躍できるエンジニアとは、どのような人たちでしょうか?
樽石:今、積極的に募集しているのは「DevOpsエンジニア」。OSPとイオングループのリテーラーシステムを連携させる基盤の開発、運用を担うポジションです。複数のシステムをつなぐ開発を経験してきた方は、スキルが活かせると思います。
さらに、このシステムはリリース後も改良を重ねていく必要があり、大量のテストを繰り返すことになります。そのためDevOpsエンジニアを補完するエンジニアとして「SET(Software Engineer in Test)エンジニア」と呼ばれるテスト自動化のアーキテクトや、サービスの信頼性向上の専門家である「SRE(Site Reliability Engineer)」も求めています。
とはいえ、イオンネクストはまだまだ「スタートアップ」であり、組織も流動的。組織の中に人を組み込むのではなく、人が組織を作っていくフェーズにあります。上記のエンジニアでなくても、テストドリブンでシステムを作っていくような形で組織を作っていきたいという人は、非常に楽しめると思います。
―― エンジニアの方々にとって、イオンネクストでDXを手がける魅力とはどのような点にあると思われますか?
樽石:一つは、世界最先端の技術をいち早く学べること。これまでECサイトのシステムを作ったことがなくても、「最先端」に追いつくことができます。冒頭でも触れたとおり、オンラインマーケットのサービスを上流から下流まで全部作り直しているので、全工程で最先端のDXに携われる。また、ECサービスの構築に必要な業務を知り、具体的なシステムに落とし込んでいくプロセスを現場で体験できます。
こういったことを、このスケールで一から作り上げる取り組みは、過去に聞いたことがありませんし、今後もあるかどうかわかりません。ここ1年の立ち上げフェーズは非常に大きな学びのチャンスであり、自身を急カーブで成長させられると思います。
もちろん、これまで小売業界で経験を積んできて、その集大成としてフルセットを作り上げてみたいエンジニアにもお勧めです。
「イオンネクスト」という社名のとおり、私たちはイオンの「次」のあり方を示す役割を担っています。
イオンネクストでのDXの成果をイオン全体に広げていく。イオン全体に影響を与えれば、人々のライフスタイルにも大きなインパクトを与えることになるでしょう。社会的な影響や貢献に価値を感じる人にとっても、やりがいのある環境だと思います。
こういったマインドセットを持った企業はどちらかというとスタートアップに近い。
スタートアップは最近急速に注目が集まっている企業形態かと思いますが、一方で「スタートアップに飛び込んでみたいけれど不安がある」という方も多いと思います。その点、イオンネクストは、「大企業の経営資源」と「スタートアップのカルチャー」の両方を持ち合わせたハイブリッドな環境。もしスタートアップに興味のある方がいらっしゃったら、まずはここから大きな挑戦をしてみるのもいいのではないでしょうか。
▲「働き方の自由度は高く、働く場所も自由に設計できます」(樽石氏)
駒場:決まったものを作るのではなく、作るものを決めていく。システムを作りながらビジネスを作り、会社を作っている真っ最中にあります。そこに率先して関わることにモチベーションを持てる人に注目していただきたいですね。
「事業を作る」という経験はなかなかできるものではないと思います。その過程でもちろん失敗もあるでしょうが、失敗も成功も経験することで成長できるでしょう。
なお、創業から数百年の歴史を持つイオンはトラディショナルな会社ではありますが、イオンネクストはイオン出身者も新規入社者も入り混じった、ダイバーシティに富んだ組織です。
しかも設立が2019年末。本格稼働し始めた2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、テレワークとなったので、最初からコミュニケーションはリモート。そうした意味で、働き方の面でもDXが進んでいます。
樽石:まさに「オンラインネイティブカンパニー」ですよね。皆、自然にオンラインツールを使いこなし、そのカルチャーのまま現在に至っています。働き方の柔軟性も高いといえますね。
―― 「キャリアパス」という観点では、イオンでのDXを経験した先にはどのような可能性があるでしょうか?
▲「こういうキャリアを積みたい」とアピールすれば、かなう可能性は十分にあります(駒場氏)。
駒場:キャリアデベロップメントの仕組みや制度などはまだないので、メンバーと一緒に設計していきます。ですから、「こういうキャリアを積みたい」とアピールすれば、かなう可能性は十分にあります。
もちろん、イオングループ全体の人事制度を活用することも可能です。300社のグループ企業があるので、イオンネクストで経験を積んだ後、志向に応じてグループ企業内を行き来する道もあるでしょう。
樽石:私としては、サクセッションプラン(後継者育成計画)を促進し、人材層を厚くしていきたいと考えています。
一つの業務を手がけたとして、いつまでもそれをやり続けない。後進を育て、育ったらその人に任せて自分はもっと新しいこと、大きなことに取り組んでいく。すべてのラインでサクセッションプランを動かし、イオングループで、もしくは外部で活躍できる人材を輩出していきたい。イオンネクストで人材を育て、送り出し、日本のDX人材を底上げすることにも貢献できればうれしいですね。
私自身、いつまでイオンネクストのCTOを務めるかわかりません。ですから、私の後継で「イオンネクストのCTOになりたい」という方にも、ぜひ応募していただきたいと思います。
立ち上げまでは私がやりますが、次のフェーズのCTOとして、最先端の技術を取り入れてアップデートしながら日本中のオンラインマーケットを刷新していくのも、きっと面白いと思いますよ。
―― 10年後20年後には、どのようなビジョンを描いていますか?
駒場:私は小売業が好きでこの業界に入り、20年以上働いてきました。20年の間、この業界は変わっているようで実はあまり変わっていません。しかし今、お客様のライフスタイルもだいぶ変わっていて、これに伴い店舗のあり方も変わっています。少子高齢化が進む中、10年後20年後には物を買うプロセス自体が更に大きく変わっていることでしょう。
いかにお客様のニーズに応えながらサービスを展開できるか、がこれからの課題。「オンラインマーケット」というDXを足掛かりに、「次世代の小売業」を創造していきたいと思います。
樽石:日本でも世界でもDXが進んでいきますが、デジタルを動かし続けるためにはエネルギーが必要。「脱炭素」が社会の大きな課題となっているように、気候変動に影響を及ぼさないエネルギーを積極的に活用し、DXと両立させる必要があると考えています。実際、CFCのロボットの稼働にも、再生可能エネルギーを活用しています。イオンとして「グリーンシフト」を推進し、未来の人に「地球と両立可能なデジタル社会の種を2020年代に作ってくれてありがとう」と言われるような仕組みを作っていきたいですね。
▲千葉県誉田に建設中の「顧客フルフィルメントセンター(CFC)」前で
イオンネクスト株式会社の概要
イオン株式会社の100%出資により設立されました。AIを活用したエンドツーエンドのソフトウェア、ロボットを搭載した独自のフルフィルメントセンター、最適化されたラストワンマイルソリューションなど、英国のOcado Solutions社の最新技術を活用した次世代型オンラインマーケット事業の立ち上げに向けて準備を進めています。
最新のデジタル技術と機能を活用し、オンラインでお客さまから幅広い生活必需品の注文を受け、独自のハブ&スポークモデルで商品を各ご家庭に宅配する予定です。
- 創業日:2019年12月20日
- 従業員数:約130名(2022年8月現在)
- 資本金:1億円(2021年2月末時点)
イオンネクスト株式会社 CTO 樽石 将人氏新卒でRedHat日本法人に入社後、Google、楽天を経て、RettyではCTOを務める。その後自身の個人会社、樽石デジタル技術研究所をベースに様々なIT企業の技術顧問、再生エネルギーソリューション導入など脱炭素化事業にも関わりつつ、現在はイオンネクストのCTOとして前例のないオンラインマーケットの実現に向け技術戦略を推進。
イオンネクスト株式会社 IT部長 駒場 光徳氏2000年にイオンに入社後、現場を経て物流システム、データ連携基盤等を担当。2016年からイオンのDX関連のプロジェクトに携わり現在はイオンネクストのIT部長として、イオンの次世代オンラインマーケット事業をリード。