日揮グループは、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」を策定。「エネルギートランジション」「高機能材」「資源循環」「産業・都市インフラ」「ヘルスケア・ライフサイエンス」領域において、「エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立」「資源利用に関する環境負荷の低減」「生活を支えるインフラ・サービスの構築」に挑むべく、新たに幅広い領域での人財採用・育成に注力している。日揮ホールディングス 専務執行役員CHRO 花田琢也氏、日揮コーポレートソリューションズ 執行役員 人財部部長の山下豊氏に、今後の人材採用・育成への取り組み、キャリア入社者への期待について話を伺った。
パーパスの実現と変革のために新たな人財ポートフォリオを策定
──今回、日揮グループでは、大きな人財戦略の変更をされたと伺っています。グループ全体の新たな人財採用・育成に向けた取り組みをお聞かせください
花田:日揮グループでは現在、戦略人事の重点プログラムを8つ掲げています。中でも、経営戦略と連動した人事戦略の最優先事項が「人財ポートフォリオ策定」です。現在のビジネスモデルを継承した事業継続、そして新たなビジネスモデルを創出する事業変革のために必要な人財のタイプを可視化。これを採用・育成など人財開発の基盤とします。
人財ポートフォリオには以下の4象限を設定しています。
1.経営・マネジメント人財
多様な組織をマネージし、リーダーシップを発揮することで組織の成果を最大化できる
2.イノベーション人財
ビジネス領域・モデルの開拓に向け、技術力を活かして事業化/黒字化を達成できる
3.遂行人財
技術力や専門性を活かし、変革に向けた着実な業務遂行ができる
4.高度専門人財
ある分野における社内外の第一人者として突き抜けた技術力・専門性を有し、組織の競争力向上に貢献できる
これまでの日揮グループのマジョリティは「遂行人財」でした。プロジェクト遂行を通じてエンジニアとしての基盤を築き、その上で「経営・マネジメント人財」としてプロジェクトマネジメント、組織マネジメントを担っていく。そのほか、「高度専門人財」「イノベーション人財」と、計4つのゾーンに分けて人財像を描いています。
「専門性を極めたい」方はもちろん、「幅広いスキルを身に付けたい」「マルチエンジニアになりたい」といった志向を持つ方々も、当社であれば早い段階でご自身が求める経験を積めるでしょう。
山下:今年度に策定する「キャリアデベロップメントプラン(CDP)」では、「将来はこんなキャリアを目指したい。そのためにこうした経験・スキルを身に付けたい」といった個人の志向をもとに上司と話し合います。一人ひとりの適性・志向性を可視化するタレントマネジメントプログラムなど、HRテックを活用してジョブアサインメント、ローテーションに反映していきます。
──日揮グループで幅広い経験を積んだマルチエンジニアの活躍が期待されているのは、どのような背景によるものなのでしょうか
花田:まず、私たちが戦略人事を推進する必要性を感じた社会的背景からお話ししましょう。世界中がサステナブル(持続可能)な社会の実現に向け、「脱炭素化・資源利用による環境負荷の低減」に取り組んでいます。一方で、ロシアのウクライナ侵攻の影響により「エネルギーの安定供給」の必要性も増してきた。そんな相反する課題に直面している状況です。
エンジニアリング業界は、長年にわたってエネルギー分野で蓄積した技術力を活かし、最適なソリューションを社会に提供する存在です。ものづくり企業の場合、自社で開発した製品をベースにビジネスを展開しますが、私たちの場合は「現在の環境におけるベストなソリューション」を統合して考えます。
それができるのは技術を持つ人財です。そこで、エンジニアリング業界をリードする日揮グループとしては、「人と地球の健やかな未来づくりに貢献する」ことを目指し、「Enhancing planetary health」をパーパスとして掲げました。(※図1)
具体的には、「エネルギートランジション」「ヘルスケア・ライフサイエンス」「高機能材」「資源循環」「産業・都市インフラ」の5つのビジネス領域において、「Planetary health」の向上に貢献していきます。
新たな取り組みの一例を挙げると、バイオケミカル領域にも注力しています。今年3月には、カネカ、バッカス・バイオイノベーション、島津製作所の3社と共同提案した「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」が、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業」に採択されました。
このように、日揮グループの事業領域は拡大しています。エンジニアリング領域の人財は、業界が変わってもその経験やスキルが活かせます。
例えば、土木であれば自動車工場のプラントであろうが病院の施設であろうが、要素技術は同じであり遂行技術も似ています。液化天然ガス(LNG)と医薬品の製造プロセスも要素技術は似ている。メカトロニクス領域は業界による特殊性もあるものの、エンジニアリングとしての特性は応用可能です。空間設計の技術も業界の枠を越えるでしょう。
私たちが2040年ビジョンに向けて挑むこの20年で、業界の垣根を越えていける人財が育っていくでしょう。つまり、志向に応じて「マルチエンジニアを目指せる」わけです。専門性を極める道を進みながら、別の軸でも活躍領域を広げていきたい方は、今の日揮の環境に合っているといえるでしょう。ぜひ、そういう方に来ていただきたいですね。
エンジニアリングとエンジニアの「あるべき姿」は変化していく
──日揮グループが「変革」を目指した背景には、どのような課題があったのでしょうか
花田:私が2021年に日揮グローバル エンジニアリングソリューションズセンターのプレジデントを務めていた頃、ある課題に向き合っていました。
「デジタル技術が進化していくと、現在、私たちならではのバリューを持って提供しているエンジニアリングの一部は間違いなくコモディティ化する」
デジタル技術の進化に伴い、エンジニアリングやエンジニアのあるべき姿は必ず変わっていく。それについて徹底的に議論した結果、たどりついた2つのキーワードが「バーサータイリスト(多能化)」と「スペシャリスト(専門化)」です。
スペシャリストはこれまでと同様ですが、バーサータイリスト(多能化)とは「ゼネラリスト」とは異なり、複数領域のスキルを併せ持つエンジニアです。例えば「建築×メカニカル」「プロセス×メカニカル×空間設計」「プラントエンジニアリング×英語」など。バーサータイリストが、これからの時代にバリューを持つエンジニアになっていくであろうと結論づけました。
私たちはそのような人財を育てていくことために、まず組織の大改造を行いました。部門長機能を「部門の将来像を描く」「人財を育成する」「プロジェクトにアサインする」の三権分立体制とし、エンジニアリングセンターに人財育成部門を設置しました。
山下:エンジニアの多能化に向けて、新たな育成制度も設けました。「Baysix(ベイシックス)制度」です。ベイは日揮が本社を構える「横浜ベイ」を指していて、Basic(基礎)を6年で身に着けてほしいという想いを込めています。これまでのように「10年かけて一人前のエンジニアを育てる」から「6年間で2つ以上の軸を持つエンジニアを育てる」ことを目指す制度です。
これまでのやり方がコモディティ化されるのは、今すぐの話ではありません。5年10年といったスパンで徐々にDXが進んでいくでしょう。そうした未来に向け、例えば「3年間で建築のスペシャリスト、3年間でプロセスのスペシャリスト」といったように、計6年で多能人財の育成を図ります。
プロジェクトにおいては、「多能人財になりたい」という志向を持つ若手、そしてこれまでスペシャリストとしてキャリアを積んできた40代以上のベテランを最適な形でマッチングし、フォーメーションを組み立てていきます。
花田:これまで「スペシャリスト型」として育ってきた社員にとっては、「多能型へのシフト」と言われてもすぐに変わるのは難しいでしょう。しかし、これまでの延長線上のエンジニアのままでいていいわけではありません。今まさにエンジニアは変わらなければいけないでしょう。
戦略人事を推進するCHRO(最高人事責任者)は、日揮グループの9割を占めるエンジニアたちと語り合いながら、「エンジニアが将来どんな姿になっていくのか」をプランニングしていく立場です。エンジニアである私がCHROの役割を担う意義はそこにこそあると考えています。
また、「体質改善」は目先の処方箋だけでできるものではなく、やはり自社組織の濃淡を理解している人間が手がけるべきだと思います。私の日揮での40年の経験、そしてトヨタ自動車への出向やNTTとの協業で経験して得た視点なども活かし、変革を成し遂げたいですね。
なお、重点プログラムには、グローバル人財を対象とする「グローバル人事制度」の策定もあります。海外のEPC(Engineering・Procurement・Construction:設計・調達・建設)事業においても、働き方改革が実装フェーズに突入しています。
私たちのプロジェクト遂行実績は、現時点で世界80カ国・2万件以上に及びます。これまでは「その国・地域の産業発展に寄与する」という志を何よりも重要なものとして掲げてきました。
しかし、今後は新たな価値観に応じた変革が必要だと考えています。キーワードは「Winlife (Work in Life)」。「海外での現場経験を積み、グローバルトップのビジネス人財になる」ことも、これからの時代のテーマとなります。例えば、海外駐在中にMBAを取得するといったケースも増えるでしょう。
出身業界に関係なく、「Why」を持つ人財を迎えたい
──これからの変革を実現するために、どのようなマインドを持つ方が必要でしょうか?
花田:私が好きな言葉に、「知識は入れるもの、知恵は出すもの」があります。知識とはさまざまな情報をインプットするものですが、私たちは「知識を知恵に変える」ことをバリューとしています。
自分の知識を知恵に変えて社会に貢献する。それによって企業に経済価値をもたらし、最終的には自分自身の経済価値の向上につながる。出身業界にかかわらず、そんなマインドを持つ方であれば、あっという間に花を咲かせるのではないかと思います。すでに建築系の意匠設計者、自動車メーカーの開発者の方々が弊社にキャリア入社されて活躍しています。
「経験」以上に「志」が大切。エンジニアリングを行うことを目的とするのではなく、「国や地域、社会の発展に寄与したい」といった「Why」を語れる方であれば、日揮グループに向いていると思います。自身の中に「Why」を持ち、エンジニアリングを通じてそれを実現していきたいと考える方を歓迎します。
花田 琢也氏(写真左)
横浜国立大学工学部を卒業後、日揮(現・日揮ホールディングス)入社。石油・ガス分野のエンジニアとして海外プロジェクトに従事。その後、トヨタ自動車に出向。NTTとトライアンフ21を設立。JGCアルジェリアCEOなどを経て、2018年に日揮グループCDO。2022年より現職。
山下 豊氏(写真右)
早稲田大学社会科学部を卒業後、日揮(現・日揮ホールディングス)入社。一貫して人事・国内外プロジェクトのアドミニストレーション業務を担当し、2008年にベトナムの現地法人設立をリード。2019年グループ人財・組織開発部(人事部)の部長、2023年より現職。
日揮グループの企業概要
日揮ホールディングスの傘下に世界80数社を擁する企業グループ。EPC(Engineering、Procurement、Construction; 設計・調達・建設)プロジェクトの遂行を通じ、顧客の事業活動を支える各種プラント・施設を実現。プロジェクト遂行実績は世界80か国2万件以上。総合エンジニアリング事業、機能材製造事業、エネルギー・環境コンサルティング事業を主要事業とし、幅広い事業を遂行している。
設立:1928年10月25日
従業員数(連結):7,275名(2022年3月31日現在)
資本金:236億7,278万円(2022年3月31日現在)
売上高(連結):4,284億円(2022年3月31日現在)