退職前に有休消化するには?トラブルなく取得するための進め方や対処法【社労士監修】

カーテンを開いている人

転職先が決まって退職の手続きを進めるときは、残っている有給休暇(以下、有休)のことも気になるもの。もちろん、全ての日数を消化して退職したいところですが、「どのように調整すればいいのだろう」「退職前で気が引ける」など戸惑う方もいるかもしれません。そこで、有休に関するルールや、円満退職するための有休消化のポイント、トラブルになりがちなケースへの対処法などを、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

退職時に有休消化することはできるのか

「そもそも、退職前にまとめて有休を消化してもいいのだろうか」と心配する方もいますが、結論から言うと、何ら問題はありません。その理由を解説します。

退職時の有休の取得には制限があるのか

有休は、労働者に与えられた平等な権利です。退職を控えていても、取得する時期や理由には一切の制限はなく、労働者から有休の取得申請があった場合、基本的に会社は拒否することができません。

なお、企業側には「事業の正常な運営を妨げる」と判断される場合に、労働者が請求する有休取得日を変更できる権利「時季変更権」も認められています。しかし、退職前に有休を消化するケースでは、ほかに変更できる時期が残っていないため、この権利を行使できず、請求通りに有休を付与しなければなりません。

とはいえ、後任者への引き継ぎなどを全く考慮せずに有休消化を進めると、会社とのトラブルに発展することも十分に考えられます。円満退職を希望するなら、会社や上司と話し合いながら調整していくことをおすすめします。

退職時にどのくらいの有休を取得できるか

有休は、正式には「年次有給休暇」といい、付与される条件は、次の2つです。

  1. 雇い入れの日から6カ月経過していること
  2. その期間の全労働日の8割以上出勤していること

これら2つの条件を満たしている労働者には、10日の年次有給休暇が付与されます。
さらに、最初に年次有給休暇が付与された日(入社6カ月)から1年経過し、上の2.の条件を満たしていると、11日の年次有給休暇が付与されます。勤続期間による付与日数は次の表の通りです。

勤続期間6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月以上
休暇日数10日11日12日14日16日18日20日

また、年次有給休暇は、発生日から2年間で時効により消滅することが法律で定められています。従って、長期にわたって勤続している方でも、有休の保有日数は最大で40日間となります。

退職時の有休消化の方法

退職前に有休を消化する場合、一般的に「最終出社日の前」と「最終出社日の後」の2つのパターンがあります。有休の用途や過ごし方によって、消化する方法を考えましょう。

最終出社日の前に消化する

1つは、最終出社日の前に有休を消化するパターンです。引き継ぎや取引先への挨拶などを終えたら、いったん有休に入り、退職日にもう一度出社して、片付けや社内向けの挨拶などを行うのが一般的です。最終出社日と退職日が同じなので、貸与されたパソコンや携帯電話、名刺のほか、健康保険証など、会社に返さなければいけないものをまとめて返却できる点がメリットです(健康保険証は2024年12月2日に新規発行が停止されマイナンバーカード(マイナ保険証)と一体化します) 。

最終出社日の後に消化する

もう1つは、最終出社日後に有休を取得するパターンです。最終出社日に挨拶などをして有休消化に入り、有休が終わると同時に退職となります。気持ちの切り替えがしやすく、転職するにあたって引っ越しが必要な場合や、入社手続きなどに時間を使いたい場合などに向いています。ただし、健康保険証など退職日まで必要な書類は、退職後に郵送で返却するなどの対応が必要になります。

有休消化するためのスケジュールの立て方

有休を完全に消化するには、会社に退職を申し出る前にスケジュールを立てたうえで、計画的に勧めることが大切です。

有休の日数を確認する

まず、退職予定の日までに残されている有休の日数を確認しましょう。
会社に退職の意思を伝える時期は、有休の残日数によっても変わります。有休消化の日数が多ければ、それだけ早めに会社に相談して、スケジュールを組む必要があるからです。有休の保有日数は、給与明細や勤怠管理システムなどでも確認できます。分からなければ人事に聞いてもいいでしょう。

日数を確認する際は、有効期限にも注意しましょう。例えば、保有する有休のうち、退職日よりも前に期限を迎える有休が含まれている場合は、時効で消滅する前に消化しなければなりません。期限を迎える有休は先に消化し、残りを退職予定日の直前に充てるなどの工夫が必要になるでしょう。

退職希望日をいつにするか検討する

消化したい有休の日数と期限を確認したら、業務の引き継ぎにかかる期間と、転職先の入社予定日を考慮して、退職希望日を設定します。転職先がまだ決まっていない場合は、残っている有休の日数と引き継ぎ期間の合計から退職日を検討し、そこから逆算して退職の意思を申し出る時期を決め、スケジュールを組むようにするといいでしょう。

一方、転職先と入社日がすでに決まっている場合は、退職の申し出から退職までの日数も限られているため、保有している有休を全て消化しきれない可能性があります。どうしても有休を消化したい場合は、理由を添えて転職先に相談し、入社日の調整をしてもらうことも一案です。ただし、転職先の状況によっては、入社日の変更が難しいケースもあります。そのような場合は、自身で有休を消化するかどうかを判断するようにしましょう。

なお、スケジュールを立てるときに気をつけたいのは、就業規則で定められている通常の休日は有休には含まれないことです。例えば、完全週休二日制で働いている方の場合、月の営業日は20日前後なので、20日間の有休を消化しようとすれば1カ月以上の期間が必要です。退職交渉や引き継ぎに2カ月かかるとすれば、遅くとも退職予定日の3カ月前には、会社に退職の意思を伝える必要があります。

スムーズに有休消化するための進め方

希望するスケジュール通りに退職準備を進め、しっかり有休消化するためには、どのように行動するといいでしょうか。気をつけたいポイントをご紹介します。

退職の決断をしたら早めに意思を伝える

多くの企業では、就業規則により1〜2カ月ほど前に退職の申し出をすればいいことになっていますが、規定に関わらず、退職の意思を固めたらできるだけ早く直属の上司に伝えることが大切です。その際には、有休の取得や引き継ぎのスケジュールについても合わせて相談しておくといいでしょう。
早めに申し出ることによって、会社は余裕を持って、後任の手配や引き継ぎのスケジュールを組むことができます。円満退職のためにも、会社の都合も聞きながら、お互いに納得できる方法で、有休の取得ができるようにするといいでしょう。

引き継ぎの準備を前倒しで進めておく

転職活動中で内定が出ていないため、退職の申し出ができない時期は、引き継ぎの準備だけでも進めておくことをおすすめします。自分が担当している業務を洗い出す、マニュアルを作成しておく、業務の整理を行っておくなど、後任者が見つかったらすぐに引き継ぎができるように、事前にできることがあれば着手しておきます。紙の書類の処分やファイリング、会社に置いてある私物の整理なども少しずつ進めておくといいでしょう。

まとめてではなく分けて取る選択肢も考える

有休消化に伴う長期休暇の機会を、旅行や引っ越し、新しい会社の入社準備などに使いたい方も多いでしょう。そのためにも、有休はできるだけ最終出社日の前後にまとめて取得したいもの。しかし、どうしても途中で出社が必要な日がある、期間の面で引き継ぎに無理がある、といった理由があれば、有休を細切れに取るという選択肢も検討してみましょう。例えば、後任の着任前に一部を取得し、引き継ぎを終えたら残りを取得する、半日単位、時間単位で取得できる職場であれば、半休や時間有休を取って消化していく、などの方法があります。

有休消化ができないときのケース別対処法

退職時に希望する有休を取得させてもらえない場合や、退職までの日数が足りずに消化できない場合のケース別対処法をご紹介します。

上司が有休消化を認めてくれない

2019年4月より労働基準法が改正され、企業は年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、年5日の有休を確実に取得させることが義務付けられました。また、付与された年次有給休暇は本来、すべて取得されるべきものです。そのため、年次有給休暇が付与されているにもかかわらず取得を認めてもらえないのは、法令違反となります。 

それでも現場レベルでは、直属の上司が「うちの部では前例がない」などと理由をつけて、有休消化を認めないケースも見られるようです。そうした場合は上司ではなく、人事部に相談するといいでしょう。通常は上司の対応が違法であると判断し、間に入って調整してくれるでしょう。
人事部との交渉もうまくいかず、会社として有休の取得を認めないと判断された場合は、労働基準監督署に相談しましょう。事実確認に動いてもらえれば、会社の態度も軟化する可能性があります。

消化できなかった有休を買い取ってほしい

後任者への引き継ぎなどの関係で、希望する日数の有休がどうしても取得できない場合、労働者が有休の買い取りを希望するケースがあります。
有休の目的は、労働者が心身を休めることであるため、原則として在籍中の有休の買い取りは労働基準法で禁止されています。ただ、退職のために権利を失う有休の買い取りまでは禁止されていないため、中には買い取りに応じる会社もあるようです。とは言え、「買い取りしてくれるか」「いくらで買い取ってくれるか」はあくまでケースバイケース。まずは人事や労務などに相談してみましょう。

有休消化中に転職先で働き始めたい

在籍している企業と転職先企業の両方が二重就労(兼業)を禁止しておらず、在籍期間が重なることの了承を得られれば、有休消化中に働くことは可能です。どちらかの就業規則に兼業禁止があれば、違反行為となってしまうため、有休消化中に働き始める希望がある場合は、必ず双方の企業に確認しましょう。
その際に注意したいのは、雇用保険の手続きです。健康保険や厚生年金は二重に加入できますが、雇用保険はどちらか一社でしか加入できません。そのため、在籍企業に雇用保険の資格喪失日を転職先企業の入社前日としてもらうか、転職先企業の雇用保険取得日を、退職日の翌日に変更してもらう必要があります。

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監修

岡 佳伸氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。