職業紹介事業者とは、ハローワーク(公共職業安定所)や転職エージェント(人材紹介会社)など、求職者と企業などの求人事業者との仲介を行い、雇用機会を提供するための事業者を指します。職業紹介事業者の概要や利用するメリット・注意点などについて、社会保険労務士・岡佳伸氏監修のもと、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
職業紹介事業者とは
職業紹介事業は、職業安定法第4条において「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と定義されています。
以下図が示すように、求職者と求人事業者の雇用関係を紹介あっせんするのが職業紹介事業です。
出典:厚生労働省
求人事業者:報酬を支払って、自己のために他人の労働力の提供を求め、他人を雇用しようとする事業者(企業など)
求職者:報酬を得るために、自己の労働力を提供して職業に就くために他人に雇用されようとする人
紹介あっせん:求人者と求職事業者との間に入って、雇用関係が円滑に成立するように、第三者として仕事や人材を紹介すること
紹介事業者:求職者と求職事業者に対して紹介あっせんを行う事業者
有料職業紹介事業者と無料職業紹介事業者の違い
職業紹介事業は、法律上、「有料職業紹介事業」と「無料職業紹介事業」の2つの種類に分類されています。いずれも事業を営むためには、厚生労働大臣の許可もしくは届出が必要となります。
有料職業紹介事業者
有料職業紹介事業者とは、職業紹介を行う際に手数料や報酬などの対価を受ける職業紹介事業者を指します。民間企業が運営する転職エージェント(人材紹介会社)などが、有料職業紹介事業者に該当します。
一般的に、求職者と企業などの求人事業者との間で雇用契約が成立した場合に、求人事業者から紹介手数料や報酬などの対価を受けることが事業内容となっています。
有料職業紹介者の紹介手数料は、「届出制手数料」と「上限制手数料」の選択制となっており、いずれかの方式を採用するしくみとなっています。
上限制手数料は、厚生労働大臣に届け出た手数料を受け取る制度で、上限が定められています。法第32条により、手数料の最高額は支払われた賃金額の100分の11に相当する額となります。採用決定者の賃金額の10.8%が手数料の上限となりますが、6カ月を超えた雇用の場合は、6カ月間分賃金の10.8%となります。ただし、上限制手数料制を取っているところは、現在ほぼありません。
主な職業紹介事業者は、届出制手数料制を取っています。届出制手数料は、厚生労働大臣に届け出た手数料となります。料率は自由に設定可能ですが、新規の許可の場合原則50%以下に設定するように厚生労働省より指導されます。一般的には採用決定者の初年度想定年収の35%程度に設定されています。採用難易度によっては、25%から30%と低めに設定することもあります。
求職者側が求職事業者に対して手数料を支払うことは、法律に基づいて徴収が許された芸能家などの一部の職種以外には、基本的にありません。
また、「港湾運送業務に就く職業」「建設業務に就く職業」については、労働者の保護に支障を及ぼす可能性があることから、職業安定法第32条の11により、有料職業紹介事業者から求職者への紹介が禁止されています。
無料紹介職業事業者
無料職業紹介事業者とは、職業紹介に対して営利を目的とするか否かにかかわらず、いかなる名義でも、紹介手数料または報酬などの対価を受けないで行う職業紹介事業を指します。
無料職業紹介事業は厚生労働大臣に届出が必要であり、以下のような場合は、運営に関する規定が定められています。
- 学校教育法第1条の規定による学校、専修学校等の施設の長が行う場合(職業安定法第33条の2)
- 商工会議所法等特別の法律により設立された法人であり、厚生労働省令で定めるものが行う場合(職業安定法第33条の3)
- 地方公共団体が行う場合(職業安定法第33条の4)
有料・無料の職業紹介事業は、それぞれ各事業者で提供しているサービス・特徴・強みがあります。それらを検討の上、自身の目的や希望に合った事業者を利用するとよいでしょう。
職業紹介事業と人材派遣の違いは?
人材派遣は、派遣会社が企業(派遣先)の必要としている人材を必要な期間で派遣するサービスです。
大きな違いとしては、人材派遣は雇用主が派遣会社であり、就業先は派遣会社と派遣契約を結んでいる企業となります。一方、職業紹介事業は入社までの紹介支援なので、入社後は求職者と求人事業者が直接やり取りすることになります。
職業紹介事業者を利用するメリット
前述の通り、求職者は、職業紹介事業者に登録することで、無料で職業紹介のサービスを受けることができます。その他にも、職業紹介事業者を利用するメリットがあるので、上手に活用しながら転職活動を進めましょう。
効率よく転職活動ができる
職業紹介事業者は、採用活動を行う求人事業者と求職者の間に立ち、両者のマッチングをサポートします。求職者が望む仕事や希望の条件などを確認しながら、それらに適した企業の紹介を行います。
また、履歴書や職務経歴書といった応募書類の添削や面接対策など、求職者に対して適切なアドバイスを行ってくれたり、入社までのサポートを行ってもらえたりすることも期待できます。
職業紹介事業者によっては、非公開求人を紹介してもらえる可能性もあるので、個人で活動するよりも、より効率よく自分に適した求人情報を見つけることができるでしょう。
入社後のギャップが減らせる
職場の雰囲気や残業時間、給与交渉のアドバイスなど、面接では聞きにくいことについて情報を得ることができたり、企業の担当者に疑問や希望を伝えてくれたりするなどのサポートが期待できます。
入社後のギャップを減らすために、自分にとってのネガティブな情報を、職業紹介事業者を通じて、確認しておくことも可能です。
職業紹介事業者を利用する際の注意点
職業紹介事業者を利用する際には、注意すべき点もあります。ここでは、いくつかのチェックポイントをご紹介します。
職業紹介事業の許可を得ているか
基本的に職業紹介事業者の公式サイトには、有料職業紹介事業許可番号又は無料職業紹介事業者届出番号が記載されているので、まずはそれを確認しましょう。また、厚生労働省運営の人材サービス総合サイトで確認することも可能です。
求職者のニーズを理解しているか
職業紹介事業者の担当者が求職者の望む仕事や条件、経験やスキルなどの人材要件をきちんとヒアリングして、理解してくれているか。また、希望する企業の情報を適切に提供してくれるかなども重要です。
業界、専門分野、職種などの強みがあるか
転職を希望する業界や専門分野、職種に対して、該当する企業との取引があるかなど、直近の実績などを確認してみましょう。転職エージェントを利用する際は、自分の転職活動をサポートを担当するキャリアアドバイザーの経歴や専門分野が、自身の領域と合っているかなども、転職活動の大きなポイントになります。
転職支援実績や転職者の定着率があるか
転職先とのミスマッチなどで早期退職を防ぐために、職業紹介事業者の公式サイトやパンフレットなどに記載されている転職支援実績や転職者の定着率なども確認することも大切です。職業紹介事業者を利用した人の声や評判なども、情報を集めてみるのもいいでしょう。
自身の経験・スキルや希望する仕事・条件を明確に伝える
職業紹介事業者の担当者に、どのような企業への転職を希望しているのか、転職で強みになると考えている自身の経験やスキル、業務時間や休暇・勤務場所などの労働条件に要望があれば、それを明確に伝えるようにしましょう。明確に伝えることで、より自身に合う企業を紹介してもらいやすくなるはずです。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。