ベンチャー企業への転職を実現させるのはどんな人?働くメリット・デメリットと、失敗しない企業の見極め方

「ベンチャー企業に転職して、よりスピード感と裁量のある仕事がしたい」「上場前にジョインして、事業拡大に貢献したい」。そんな気持ちはあっても、実際にベンチャー企業へ転職することに不安を感じる方は多いのではないでしょうか。そこで、ベンチャー企業の労働環境や年収、求める人材、活躍できる人の特徴などについて、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。

ベンチャー企業への転職が増加している背景

成長の伸びしろの大きいベンチャー企業。まだないマーケットの創造や、事業の拡大をすることに魅力を感じ、ベンチャー企業への転職を考える方は多いでしょう。実際に、ベンチャー企業への転職が増えている背景にはどのようなことがあるのでしょうか。

キャリアを主体的に構築したい人が増えた

かつては日本の大手企業の多くが終身雇用制度を採用してきましたが、昨今ではその風潮も少なくなってきました。大企業に入社しても自身のキャリアを考えて転職をする人が増えてきたことに加えて、外資系企業による買収、経営不振を理由とする大量人員削減など、かつては大企業に入社すれば一生安泰と言われていた状況が変わりつつあります。またグローバル化も進展する中、将来の市場をリードしていくITベンチャーなどが躍進しています。

こうしたことから、今現在の安定よりも「自分自身のキャリアにおいてどんなことができるのか」「より早く実力を身につけること」などを重視し、ベンチャー企業への転職を選ぶ方が増えてきていると考えられます。

資金調達が順調なベンチャー企業が人材に投資している

もうひとつは、資金調達が順調なベンチャー企業の間で、人材に投資する動きが盛んなことです。近年は、クラウドでソフトを提供するSaaS型ビジネスを展開するスタートアップや、ベンチャー企業が採用に意欲的です。

成長が著しいベンチャー企業では、CxOクラスやマネジャークラスをはじめ、エンジニア、マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、幅広いポジションへのニーズがあります。IPOを目指す企業では、CFOなどの管理部門人材の強化を図る動きがあります。このように、専門知識を持つ即戦力人材が強く求められていることも、ベンチャー企業への転職者が増えている一因と言えるでしょう。

ベンチャー企業で働くメリット・デメリット

ベンチャー企業で働くメリットとデメリットについて解説しましょう。

ベンチャー企業で働くメリット

まず、ベンチャー企業で働くことの一般的なメリットについてご紹介します。

スピード感を持って価値を発信できる

ベンチャー企業の強みは、大企業に比べて意思決定のスピードが速く、機を逃さずにビジネスを展開できる点です。新規事業の立ち上げなどを経験するチャンスが多く、「世の中に対して、新しい価値をできるだけ多く発信したい」という人には大きな魅力があると言えます。

裁量権を持って働ける

従業員数の少ないベンチャーでは、複数の役割や業務を1人で兼務することが多いため、短期間で幅広い経験を積むことができます。また、1人ひとりに与えられる裁量権が大きく、自身のアイデアや提案が会社の戦略に反映されやすいのもメリット。携わった事業の実績がそのまま自身の実績になることに、やりがいや成長を感じる方も多いでしょう。

一般的に昇進が早い傾向がある

成長中のベンチャー企業では、入社時にほぼ全員を将来のマネジャーや幹部候補とみることもあります。例えば「転職して1ヶ月で事業部長になった」という例も珍しくあります。組織の拡大・新設がされると、新しいポストがどんどん生まれます。大企業よりも昇進のチャンスが多い傾向があり、若くしてマネジメントポジションに就くチャンスもあるでしょう。

経営層と近い距離で仕事ができる

社長などの経営層と一般社員との距離が近いのも、ベンチャー企業の特徴です。大企業では役員と話す機会すらないことも多いですが、多くのベンチャー企業では、毎日のように経営層とのコミュニケーションが発生します。経営者の視点やノウハウを学ぶことができるので、昇進を考えている場合や、将来的に独立・企業を考えている方のメリットも大きいでしょう。

企業が成長することによって経済的メリットが得られる

短期的に急成長するベンチャー企業では、会社の業績が賞与に大きく反映される場合があります。また、自身への期待値などによって企業から付与されるストックオプションは、大きな魅力の1つ。付与されてから行使できるまで一定の時間がかかりますが、株価の成長によっては莫大な配当が得られる可能性があります。なお最近は、勤務条件等を達成した後、事後的に株式を付与する「RSU(譲渡制限付株式ユニット)」を導入する企業も増えてきました。

ベンチャー企業で働くデメリット

ベンチャー企業で働くことにはデメリットもあります。外から見たイメージとのギャップでよく挙げられるものは下記です。

大企業と比較して組織が十分に整っていない可能性がある

規模にもよりますが、ベンチャーでは組織が整備されていないことが多々あります。社員10名以下のスタートアップなどの場合は組織がほぼ存在せず、個人事業主の集まりのような状態であるケースが少なくありません。11名~50名規模で組織(部署)や役割があっても、マネジャーとメンバーの線引きや、管理・指示系統が曖昧なことがあります。50人を超えると、ようやく組織と役割がはっきりしてくる傾向がありますが、成長が著しい企業は、人員が拡大するスピードに組織や制度の整備が追いつかないことが多いと考えた方が良いでしょう。

戦略が短いスパンで変わる

ベンチャー企業は内部環境の変化が早い上に、外部環境にも柔軟に対応していくため、戦略が次々と変わることがあります。誰が業務の責任を持っているかわからないことも多く、また社長の一声で180度方針が変わることも珍しくありません。これもスピード感があることの裏返しと言えるでしょう。
そのため、経営者と考えが合わないと仕事の進め方にストレスを感じることがあります。入社前には経営層と十分に話す機会を持つことが大切です。

年収が下がることがある

残念ながらベンチャー企業を希望する場合、年収維持または年収ダウンで転職するケースは少なくありません。特にスタートアップのベンチャーほど、その傾向は強いようです。ただストックオプションなどを付与されるケースもあるので、一時的な年収ではなく、生涯収入を意識して意思決定をすることをおすすめします。

分業されていないので、仕事の幅が広い

ベンチャー企業では、誰が責任を持ってリードするのか曖昧な仕事が多い傾向があります。また、部署横断でのプロジェクト案件も多くあります。お互いの仕事の仕方やバックグラウンドも分からないまま、前例のない、ゴールの見えない仕事がスタートします。分業体制も確立されていないため、残業や土日出社で対応するケースが少なくありません。

前職とのギャップが大きい

特に大企業からベンチャー企業に転職する方は、前職の組織風土や仕事の仕方とは全く異なるため、ギャップに耐えきれない人も少なくありません。ベンチャーに入るからには、過去の経験則は一旦リセットすることをおすすめします。会社に早く適応できないと、入社後の活躍が難しくなることもあるでしょう。

成長フェーズ別にベンチャー企業が求める人材

ここではベンチャーにおける成長フェーズと、各段階で一般的に求められる人材タイプについて解説します。その企業のフェーズにおいて、自分の強みが発揮できるかどうかを入社前にイメージしておきましょう。

シードステージ

創業者+数名の段階。事業アイデアはありますが、会社設立前のステージです。創業者と一緒に会社を作っていくフェーズであり、主に知り合いを通じて開発部門、ビジネス(営業)担当、管理部門など各部門のCxOや責任者を採用します。
創業者との相性や理念への共感、ビジネス・プライベート問わず相互の人間性理解を基に、担当領域の高い専門性や、事業成長への強いコミット、創業メンバーとして会社の全てを担っていく姿勢が求められるでしょう。

アーリーステージ

従業員数〜20名程度で、設立後のマネタイズ(収益化)前のステージです。自己資本で経営している会社としては、軌道に乗るかどうかの分水嶺とも言えます。徐々に組織化が進んでいく段階で、各部門のCxOや部長クラスのほか、IPOを目指す場合はCFO人材や、管理部門でのIPO経験者が求められます。この頃から、企業サイトや転職エージェントなどによる採用活動も始まります。
すでに特定の市場・顧客層にサービスを提供している状態なので、「再現性を持たせる」「事業を拡大させる」「市場を広げる」スキルを持つ人、例えば類似業務をリードした経験者や、その分野の専門性を持つ人材が求められます。しかし、変わらず担当業務の範囲は広いため、「経験がないからできない」ではなく、その時のベストを実行し続ける気概と体力が必要です。

ミドルステージ

従業員数50名前後。事業が本格的に成長し始めますが、まだ赤字で低収益が続くタイミングです。新しい社員の採用や設備投資などの資金が必要になり、コストは極力かけずにKPIを伸ばしていく、最も混沌とした時期でもあります。
この段階になると、営業・開発・管理の各部門の中に、複数の部署ができてきます。例えば営業部門は「大企業向け」「中小企業向け」「カスタマーサクセス」「インサイドセールス」、管理部門は「人事労務」「経理財務」「広報」などに分化され、各部署のマネジャー(課長クラス)やリーダークラスの採用も始まります。その企業の方針が「営業力重視」か「技術力重視」かによっても、採用のボリュームゾーンは変わってくるでしょう。

レイターステージ

従業員数100名前後~。事業が拡大し始め、IPO(上場)が視野に入ってくる時期です。黒字化して、倒産のリスクはなくなり、新しい収益の柱を生み出すべく新規事業に投資をします。既存サービスの仕組み化や改善が進み、ミドルステージで形成された組織の強化・拡大のために、各部署でメンバー層の採用も活発に行われるようになります。短期間で組織人員が数十人単位で急増することも多く、未経験者や若手人材のポテンシャル採用も盛んになります。IPOを目指す場合は、管理部門の専門人材(経理、財務、法務、人事、労務、リスク管理など)の確保が求められるでしょう。

ベンチャー企業で活躍できる人の特徴

ベンチャー企業に転職して活躍できる方の特徴についてお伝えします。

不確実なことへの耐性がある

ベンチャーでは不確実なことが多く、事業も業務もはっきりと先が見通せません。その代わり、事業の成長を信じて前進し続ければ、市場が大きくなり大きな利益が得られる可能性があります。困難に直面したときも、「あらゆる手段を使ってやりきる」という姿勢で臨むことができる人は、ベンチャーに向いていると言えるでしょう。

スピード感・行動力がある

会社設立の初期段階では、行動量がすべてになる状況や場面もあります。わからないこと、納得がいかないことが多数あると思いますが、答えのない問いに対して、スピード感を持って挑戦を続けられる人、「走りながら考える」タイプの人は、ベンチャー企業で活躍できる可能性が高いでしょう。

環境適応力がある

ベンチャー企業は、外部環境が凄まじいスピードで変化します。クライアントやユーザーからの要望も常に変化するので、既存のサービス内容や提案方法に固執していると淘汰されてしまいます。いい意味でプライドは捨てて、柔軟に自分を変えていける柔軟性は、ベンチャーで働くために必要不可欠なマインドになります。

ベンチャー企業に転職する際のチェックポイント

最後に、ベンチャー企業に転職する際の選び方、見極め方をお伝えします。

企業のビジョンや事業に共感できるか

ベンチャー企業への転職において、もっとも重要な判断軸は「理念や事業に共感できるか」でしょう。ベンチャーはサービス内容が方向転換したり、戦略が大きく変わったりします。部署が廃止になったり、突然異動を命じられたりすることも起こり得ます。そのためビジョンに共感できないと、経営層とのコミュニケーションも難しくなってきます。

自分の強みが活かせるか

ベンチャー企業では、「尖った人材」が活躍しやすい傾向にあります。尖った人材の特徴は「強み」が突出していて、自分がその強みを理解していることです。言い換えると、短所や弱みは強みでカバーできます。

従って、自分の強みが発揮できる環境が、転職先の会社にあるのかがポイントになります。その場合は、上述した「企業の成長フェーズ」と自分の強みが合っているかどうかを見極めることも大切。自分のこれまでの経験とスキルが発揮できず、0から学ぶつもりで転職すると危険です。転職者はベンチャーにおいて即戦力を期待されるので、期待値を大きく下回ってしまう可能性が高いと言えるでしょう。

成長可能性があるか

ベンチャー企業の将来性を予測することは簡単ではありません。現時点では好調でも、新たなテクノロジーやビジネスモデルの登場によって、あっという間にシェアを奪われるケースが少なくないからです。

とはいえ、現段階での経営が健全かどうか、成長の可能性があるかどうかは、いくつかの指標で把握できます。例えば、公表されている「財務諸表」や「資金調達の状況」で、売上や利益の伸び、どのような企業がどこに出資しているかをチェックしてみましょう。また、ユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える、創業10年以内の未上場のスタートアップ企業)がどの分野に出るかでも、将来有望な事業を見極める目安になります。ベンチャー企業に詳しい転職エージェントやスカウト型サービスに登録して、サービスの担当者から情報収集をするのもおすすめです。

ベンチャー企業への転職には主体的な意思決定が大事

「ベンチャー企業への転職は、実際のところはどうなの?」という疑問を持つ方向けに、メリットとデメリット、活躍できる人の特徴などをお伝えしてきました。ベンチャー企業で働く意義と目的が自分の中で腹落ちしていれば、入社後のギャップが少なく済みます。何よりも「自分がやりたくて決めた道だ」という主体的な意思決定が大事です。ベンチャー企業への転職は、今の仕事よりも大きなやりがいと報酬が得られる可能性もある、魅力的な選択肢です。メリット、デメリット双方を理解したうえで、転職を検討してはいかがでしょうか?

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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