近年、会計監査法人のコンサルティング業務が拡大しています。会計監査法人での業務における、非監査証明業務の需要の増加が要因と言え、大手監査法人各社はアドバイザリー業務に注力する傾向にあります。そのため、監査法人のアドバイザリー職においては会計士の資格は必ずしも必要ではありませんし、コンサルティングファームから監査法人へのキャリアを辿る方もいます。この記事では、会計監査法人のコンサルタント(アドバイザリー職)の仕事内容や、求められるスキル、メリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
会計監査法人のコンサルタント(アドバイザリー職)の特徴と種類
会計監査法人のコンサルタント(アドバイザリー職)は、コンサルティングファームとは異なる職業です。
また、アドバイザリー職と一口に言っても戦略やコンプライアンス、ITなど様々な種類があります。
会計監査法人のコンサルタント(アドバイザリー職)の仕事内容や特徴・種類について詳しくみていきましょう。
会計監査法人のコンサルティング、アドバイザリー職とは
会計監査法人のコンサルティングにおけるアドバイザリー職とは、会社の基盤を作る「守りのコンサル」としての仕事がメインになります。
具体的には以下のような業務を担うことになります。
- リスクコンサルティング
- 内部統制
- 内部監査
企業が新規事業に参入したり、海外進出するための法規制の問題をクリアしたり、企業内部のガバナンス体制の構築、不祥事などを監査するための内部監査体制の構築などを行うのが主な仕事です。
会社の基礎的な部分を強化するのが、「監査法人のコンサルティング」です。
一方で、コンサルティングファームの仕事は事業戦略立案や運用、M&Aなどの企業の売上規模拡大のために行われることが多いので、監査法人のコンサルと対極であることを示すために「攻めのコンサル」と呼ばれます。
また、監査法人のコンサルティング業務で重要となるのは「法律やルールに則っているか」という「第三者目線での正しさ」です。
コンサルティングファームと監査法人の仕事の方向性は、一見正反対にあると思えるかもしれません。
しかし、クライアントに対する立場の違いが大きいというだけで、「クライアントのビジネスモデルを理解し、何が最適かを検討しアドバイスする」というベースの部分は変わりませんので、コンサルティングファームから監査法人への転職を臆することはありません。
会計監査法人のアドバイザリー職の種類
会計監査法人のアドバイザリー職の種類は主に3つあります。
- 戦略・経営
- コンプライアンス・ガバナンス
- IT・システム戦略
監査法人の決算書の監査業務に関しては公認会計士の資格が必要になりますが、コンサルティング業務において原則的に必要になる資格はありません。
会計士資格があれば応募する職種によってはもちろん有利に働きますが、資格と同等に財務や経理の実務経験を重視する場合や、コミュニケーションスキルを重視したポテンシャル採用を行っている場合もあります。
業務によっては必要な専門知識や資格について、業務ごとに解説していきます。
●戦略・経営
企業の戦略や経営面はどちらかといえばコンサルティングファームの業務に近い部門です。
ただし、監査法人のコンサルティングの場合には財務上・税務上の観点から経営戦略を練るので、財務や税務の知識は必須になり、公認会計士の資格を持っていると有利になるでしょう。
●コンプライアンス・ガバナンス
企業の内部統制や、法律遵守体制などについてコンサルティングをする業務です。
例えば、金融事業を展開する企業の場合、法律やガイドラインを満たしていないと、最悪の場合業務停止などによりビジネスが成り立たなくなる可能性があります。
コンプライアンス・ガバナンスでは法律の知識が求められるので公認会計士や社会保険労務士の資格が必要になることもありますし、資格がないとしても企業を取り巻く法律に関しては熟知していることが必須条件となります。
●IT・システム戦略
IT・システム戦略では、企業経営にとって効率的なIT・システム体制の構築を担う仕事ですので、専門的な知識がないとコンサルティングをすることは不可能です。
逆に言えば、あなたがITに特化した経験をお持ちであれば、ITの領域におけるリスクの回避を行うために、内部統制システムの整備にアドバイスを行ったりすることで、活躍することができるでしょう。
会計監査法人でコンサルタントとして働くメリット
会計監査法人でコンサルタントとして働くメリットはどんなものがあるでしょうか。
- グループ会社の会計監査の知見を活かすことができる
- 多様なバックグラウンドをもつメンバーと仕事ができる
- クライアントと長期間、安定して関わることができる
などがメリットの一例として挙げられます。
グループ会社の会計監査の知見を活かせる
前述したように、監査法人のコンサルティングはリスク管理など「守りのコンサル」です。
監査法人の監査部門が蓄積した会計監査の知見を活かすことで、クライアントに対して実務に基づいた精度の高いリスク管理を提供することができます。
多様なバックグラウンドをもったメンバーとの仕事
監査法人のコンサルタントは、公認会計士ばかりが集まっているわけではありません。
コンサルタントやSE出身のメンバーもいれば、外国人の社員も多いため、様々なバッググラウンドのあるメンバーと関わる機会があります。様々な個性のあるメンバーと共に業務に取り組む中で、高い問題解決スキルを身に付けることができます。
さらに、日本の4大監査法人は世界の4大会計事務所(デロイト、PwC、EY、KPMG)と業務提携を行なっています。
現地法人への出向のチャンスを得られる可能性もありますし、将来的に海外で働きたいと考えている人にも魅力的な仕事です。
クライアントとの長期間・安定した関わり
コンサルタントとして、クライアントと長期間にわたって安定して関わることもメリットの一つです。
監査法人のコンサルティング業務はガバナンス・リスク分析など上級管理部門がメインです。
会社の根幹に関わる、内部統制の不備や監査上の重要課題の解決のために、密に情報・意見交換をする必要がありますので、クライアントと長期間信頼関係を醸成し、クライアントの懐に入っていくことが重要になります。
そのため、経営者目線でアドバイザリー経験を積みやすいので、将来的にはCISOとしてクライアントの役員としてキャリアアップできる可能性もあります。
会計監査法人でコンサルタントとして働くデメリット
会計監査法人でコンサルタントとして働くことにはデメリットもあります。
特にコンサルティングファームで働いていた人からすると、以下のような点をデメリットとして感じることが多いようです。
- 人材不足による業務遅滞・長時間労働
- 監査法人ならではの意思決定の遅さや柔軟性のなさ
- 監査法人との競合禁止による不都合
自由で独創的な発想ができたコンサルティングファームよりも監査法人の方が固く、仕事の効率性が悪いと感じる人も多いようです。
会計監査法人でコンサルタントとして働くデメリットについて詳しく見ていきましょう。
人材不足による業務の遅れ・労働時間の長さ
会計監査法人は深刻な人手不足になっています。会計士資格を持っていないコンサルタントの人手も足りていません。
そのため、業務が繁忙になり長時間労働になってしまうことがあります。
とはいえ、企画立案から運用まで行うコンサルティングファームよりは、業務が細分化されて、より専門的な要素の強い監査法人の方が長時間労働にはなりにくいと言われています。
監査法人ならではの意思決定の遅さや柔軟性のなさも
一般的に監査法人の組織の中では、会計士が所属する監査を行う部署、業務プロセスのレビューを通し監査の支援を行う部署、加えてアドバイザリー職と呼ばれるコンサルティング業務を行う部署があります。
監査のラインとアドバイザリーのラインは異なることが多く、一緒に業務を進めることはほとんどありません。それぞれの業務が独立しているため、求めているタイミングで柔軟に情報共有ができなかったりと、内部での意思決定において時間を要する場合があるのは、デメリットです。
監査法人との競業禁止による制限
公認会計士法の第34条の14第2項に規定する「社員の競業の禁止」において、「監査法人の社員は、他の監査法人の社員となつてはならない。」とされています。
平成26年に、監査法人の社員が在職中に、社外において監査業務及び会計指導業務を行ったことで処分を受けた例に言える通り、公認会計士法によって「監査法人業務」における制限が設けられていますので、活躍の場が限られてしまうのはデメリットと言えます。
参考:https://www.fsa.go.jp/news/25/sonota/20140618-4.html
まとめ
会計監査法人のコンサルティングは以下のような人に向いています。
- 専門的なコンサルティングスキルを早く身に付けたい
- クライアントと長期間関わりたい
- 大手監査法人のグローバルネットワークの一員として高いスキルと人脈を身に付けたい
- リスク管理の観点からコンサルティング業務を身に付けたい
「守りのコンサル」である会計監査法人のコンサルタントは、リスク管理やコンプライアンス管理などのスキルを身に付けながら、監査法人の国際ネットワークに関わることができ、大手企業の経営者視点を学ぶことができます。
コンサルタントとしての働きがいだけでなく、将来的なスキルアップのためにも有益な仕事であると言えるでしょう。